文献情報
文献番号
201224007A
報告書区分
総括
研究課題名
重度肢体不自由者用ロボットアームのコスト・ベネフィット評価
課題番号
H22-身体・知的-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
井上 剛伸(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究分担者(所属機関)
- 木之瀬 隆(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
- 荻山 泰地(日本医療科学大学 保健医療学部)
- 前野 崇(国立精神・神経医療研究センター 病院)
- 中山 剛(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
- 我澤 賢之(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
4,603,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
先端福祉機器の利活用には、市場規模の問題や給付制度の問題など、多くの課題が存在する。本研究では、技術的には実用レベルに達したにもかかわらず利活用に至らない先端福祉機器として、肢体不自由者用ロボットアームを取り上げ、その課題解決の方策の一つとして、コスト・ベネフィット評価を行うことで、その糸口を探ることとする。肢体不自由者用ロボットアームは頸髄損傷や神経・筋疾患などによる四肢まひ者においては、介助無しでできることを格段に増加させることが期待されており、ニーズが高い機器である。しかし、社会コストをふまえたトータルでの検討無しには、普及がなかなか進まないのも現実である。本研究では、重度肢体不自由者用のロボットアームの在宅利用における利用効果および導入による社会コストの増減について、臨床評価を通して明らかにすることを目的とする。
研究方法
本研究の目的を達成するために、1.ロボットアームの評価プロトコルの構築、2.頸髄損傷者による有効性の検証、3.神経・筋疾患者による有効性の検証、4.ロボットアーム導入による社会コストの導出、5.ロボットアーム普及に向けた提案の5つの達成目標を設定する。平成23年度までに、1に関してロボットアームの短期評価プロトコルおよび長期評価プロトコルを構築し、2、3に関して、短期評価プロトコルに従った有効性の検証を行った。また、4に関してコスト・ベネフィット推計に必要となる基礎データの収集を行った。平成24年度は、2、3に関して、短期評価の追加および長期評価を実施し、4に関して長期評価の結果と基礎データの結果を基に社会コストを導出した。さらに5について、ステークホルダーによるワークショップを実施し、その結果をふまえて普及に向けた提案をまとめる。2、3では肢体不自由者用ロボットアームとして、オランダのExact Dynamics社製iARMおよび、カナダのKinova社製JACO armを使用した。これらの機種は国内で市販されているロボットアームである。平成24年度は短期評価として高位頸髄損傷者2名、筋ジストロフィー患者7名、脳性まひ者4名、頭部外傷後遺症者1名にて実施した。長期評価は日常生活での試用期間を約3か月間とし、頸髄損傷者3名(2名は実施中)、筋ジストロフィー患者1名(実施中)において実施した。4についてはiARMを対象としコスト評価としては購入金額やメンテナンス費用などの諸費用を算出し、ベネフィット評価としては長期評価においてロボットアームを生活環境で試用した者を対象に調査を行い、機器の主観的評価額と介助時間への影響の2つの面から評価を行った。
結果と考察
平成24年度は、重度肢体不自由者用ロボットアームの短期評価、長期評価、コスト・ベネフィット評価を実施した。その結果、ロボットアームの利用により、一人でできることが増えることが示され、その価値は認められることが示された。心理的評価についても、やや効果が認められるという結果が得られた。コスト・ベネフィットの評価結果からは、介助時間を尺度とした対象機器に対するユーザーの主観評価結果より、機器の価値が機器導入価格に見合うとするユーザーがいる可能性が示された。ただしその一方で、ロボットアームの導入により、現在の介助サービスの利用時間を減らすことができるかについては、否定的な意見を示した被験者・障害者もいた。金額を尺度とした主観評価結果ではロボットアームの推定導入費用以上の評価をした被験者はいなかった。このことは、ロボットアームの入手手段が現在の市場価格のもとでの私費購入に限られる場合、普及が進まないことを示唆している。また、タイムスタディの結果から、ロボットアーム導入によりその導入費用に見合う介助に要する実時間が短縮するかどうかについて検討したところ、一概に介助時間が短縮するとは言えない結果が得られた。明確な結論を得るためには、今後データの蓄積を進める必要がある。
結論
高額・高機能な福祉機器は自費での購入が難しく、普及には公的給付の影響が大きい。ステークホルダーによるワークショップにおける議論でもその点は指摘されたが、一方で介助時間を削減することに対する当事者の反対意見も多く出された。一概にコストのみで判断することの難しさが示されたといえる。これらの議論をふまえて、当事者がその福祉機器の利用価値を的確に判断するための機会が少ないことが問題点としてあげられた。その解決策として、臨床評価や試用の充実や、レンタルサービスを広めることも重要である。利用する機会が増え、自分でできることが増えることを実感し、利用者がその価値を認め、その上で再度コストの議論をすることも必要である。時間がかかるプロセスではあるが、着実な進め方といえる。
公開日・更新日
公開日
2013-06-04
更新日
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