日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究

文献情報

文献番号
201222023A
報告書区分
総括
研究課題名
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
課題番号
H22-循環器等(生習)-指定-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
徳留 信寛(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木 敏(東京大学大学院 医学系研究科 公共健康医学専攻)
  • 吉池 信男(青森県立保健大学 健康科学部)
  • 森田 明美(甲子園大学 栄養学部 栄養学科)
  • 吉田 英世(東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 木戸 康博(京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 応用生命科学専攻)
  • 柴田 克己(滋賀県立大学 人間文化学部)
  • 上西 一弘(女子栄養大学 栄養学部)
  • 石田 裕美(女子栄養大学 栄養学部)
  • 坪田 恵(宇津木 恵)(国立健康・栄養研究所 栄養疫学研究部)
  • 笠岡(坪山) 宜代(国立健康・栄養研究所 栄養疫学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本人の食事摂取基準の次期改定に資するエビデンスの構築と活用に関する検討を行った。
研究方法
エビデンスが不足している以下の項目について研究を行った。
1.妊婦・授乳婦のビタミン・ミネラルの栄養素摂取状況
2.指標アミノ酸酸化(IAAO)法によるたんぱく質必要量の推定
3.70歳以上高齢者の栄養摂取・身体状況調査
4.食事摂取基準の活用に関する情報収集、およびアセスメント方法についての検討
5.その他
結果と考察
1-1. 妊婦における葉酸とビタミンB6の付加量の検討を行った。
葉酸220~260 μg/日を摂取している妊婦では、葉酸の平衡状態が維持されていることを明らかにした。ビタミンB6は、妊娠中期以降に血中濃度が低下したが、0.8~0.9mg/日を摂取している妊婦では、ビタミンB6欠乏に起因する障害は認められなかった。
1-2. 妊婦におけるカルシウムおよび鉄
カルシウム栄養状態として、踵骨骨量(スティフネス値)を検討した。骨量は妊娠期に低下、分娩時に最低値となるが、産後上昇し、産後3~6か月で回復していた。鉄の栄養状態を示すヘモグロビン、フェリチン値は妊娠とともに低下するが、ヘモグロビンは出産後1か月で回復し、フェリチンも回復傾向にあった。
2. 新しい方法である指標アミノ酸酸化法(IAAO法)を用いて、日本人成人女性のたんぱく質代謝要求量測定を行った結果、0.87 g/kg 体重/日と算出された。
3. 前期・後期高齢者における栄養素摂取量を推計し、その分布について比較を行った。男性は、脂質、n-6系脂肪酸、女性ではナイアシンにおいて、前期高齢者の摂取量が後期高齢者よりも多かったが、いずれもほぼ現行の食事摂取基準(2010年版)を満たしていた。
4.-1. 小児期における食事摂取基準の活用に関する検討
A県の約440の保育所を対象に、教育的介入を実施した。介入後の調査では、給与栄養目標量設定に反映させている事項として、年齢差、身長・体重、体重変化を挙げ、身長・体重データの定期的見直しを行う施設割合が上昇した。
4.-2. 給食施設(高齢者施設)における食事摂取量について
3食を提供する給食施設において食事摂取量を把握し、食事計画にどのように反映できるかを検討した。給食の提供量は、食べ残しや自由な間食摂取があったものの、摂取量との有意な関係が示された。PDCAサイクルを回すことは可能であったが、微量栄養素においては、食事摂取基準と摂取量の比較が中心となり、栄養状態の評価は困難であることが示された。
4.-3. 食事調査法の検討
食事記録、食事摂取頻度調査法で測定した場合の栄養素分布から、それぞれの調査法の限界について明らかにした。
4.-4. 日本人若年女性におけるエネルギーの過少・過大報告に関連する諸要因
過少申告要因は、過体重または肥満、太り過ぎまたはやせ過ぎという自己認識、食事への関心が低いこと、身体活動が高いこと、家族との同居、都市での居住であり、過大申告要因は身体活動が低いことであった。
4.-5. 食事摂取基準活用状況
国レベルでの食事摂取基準活用状況を明らかにするために、食生活指針や食事バランスガイド等を調査した。多くは食事摂取基準をベースに作成されていたが、依然として古い基準(一部は栄養所要量)を利用している指針等も存在し、策定のタイムラグが生じていた。
5-1. 食事摂取基準の策定の現状と課題の抽出
「日本人の食事摂取基準 2010年版」報告書の記載内容・引用文献から、(a)策定の考え方、(b)基準値策定について体系的分類を行い、策定における課題を明らかにした。
5-2. 次期「日本人の食事摂取基準 2015年版」策定に向けた検討
策定におけるエビデンスレビュー作業を標準化させることを目的として、WHO等の国内外の研究機関のガイドライン作成のための公開資料を対象に、レビューシステムを検討、次期「日本人の食事摂取基準 2015年版」策定システムの素案を作成した。
結論
平成23年度は3年計画の最終年度であり、当初の研究計画に沿い、実験研究、疫学研究による基礎的検討、ならびに活用と、多方面からのアプローチを用い、最終解析を行うほか、次期策定を目指したエビデンスの構築・レビューを着実に進めた。
また、現行の食事摂取基準の策定で使用された参考文献をもとに、策定の現状と課題の抽出を行った結果、策定の考え方にバラツキがあることが明らかとなった。これらの結果および諸外国の動向を踏まえ、今後、策定方法を標準化させる目的として、次期「日本人の食事摂取基準 2015年版」策定システムの素案を作成、厚生労働省に提言をした。

公開日・更新日

公開日
2013-07-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201222023B
報告書区分
総合
研究課題名
日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究
課題番号
H22-循環器等(生習)-指定-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
徳留 信寛(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木 敏(東京大学大学院 医学系研究科 公共健康医学専攻)
  • 吉池 信男(青森県立保健大学 健康科学部)
  • 森田 明美(甲子園大学 栄養学部 栄養学科)
  • 吉田 英世(東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 木戸 康博(京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 応用生命科学専攻)
  • 柴田 克己(滋賀県立大学 人間文化学部)
  • 上西 一弘(女子栄養大学 栄養学部)
  • 石田 裕美(女子栄養大学 栄養学部)
  • 坪田 恵(宇津木 恵)(国立健康・栄養研究所 栄養疫学研究部)
  • 笠岡(坪山) 宜代(国立健康・栄養研究所 栄養疫学研究部)
  • 江崎 治(平成23年度)(国立健康・栄養研究所 基礎栄養研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、「日本人の食事摂取基準」に焦点を当て、わが国における策定の現状と課題に対応するため、科学的・合理的な基準値策定のための整理と検討を行い、食事摂取基準の改定と活用に資するエビデンスの構築を目的に総合的研究を実施した。
研究方法
本研究では、以下の課題について調査・研究を実施した。
1.生活習慣病の予防や有病者での食事摂取基準利用の検討とエビデンス分析評価システムの考案
1-1.既存エビデンスの分析評価 食事摂取基準の策定の現状と課題の抽出
1-2.次期「日本人の食事摂取基準 2015年版」策定システムの素案の作成
1-3.生活習慣病の予防や有病者での食事摂取基準利用の検討 日本人の肥満予防のために適正な脂肪/炭水化物摂取比率に関するレビュー
2.同位体を用いた必要量決定のための実験研究と目標量設定のための疫学研究(たんぱく質、カルシウム)
3.各ライフステージに注目した栄養摂取の把握および必要量の検討(妊婦・授乳婦、高齢者)
4.実際の現場での活用に関する情報等の収集および実行可能なアセスメント方法についての検討
4-1.小児期における食事摂取基準の活用に関する検討
4-2.給食施設における「日本人の食事摂取基準」の活用の現状と課題
4-3.日本人における習慣的摂取量把握の現状と課題
4-4.日本人成人におけるエネルギーならびに栄養素摂取量における個人内・個人間変動
4-5.日本人若年女性におけるエネルギーの過少・過大申告に関連する諸要因
4-6. 活用の体系化に関する研究
結果と考察
本研究班の成果から、「日本人の食事摂取基準」は政府が作成する食生活指針等のベースとして位置づけられており重要であることが明らかとなった。しかしながら、現行の2010年版食事摂取基準においても課題が残されており、①策定システムが発展途上であること、②日本人のエビデンスが極端に不足している栄養素、およびライフステージが存在することが分かった。策定作業を標準化させる目的として、栄養に関連するガイドラインを作成するためのガイダンスが公開されている国内外の研究機関(WHO等)におけるレビューシステムの調査を行い、次期2015年版策定システムの案を作成した。
実際に基準値を策定する際には、諸外国のエビデンスを参照できる栄養素もあるが、日本人特有の食文化、食生活を背景とした日本人データを用いて策定すべき栄養素が存在する。本研究班の成果から、諸外国に比べ摂取量が少ないカルシウムや、摂取量が多いヨウ素について、次期2015年版策定の際の根拠となる有用なデータが得られた。また、妊婦については、葉酸、ビタミンB6、鉄、カルシウムの妊娠期の栄養状態に関するエビデンスを創出し、このデータを踏まえて、次期以降の妊娠付加量策定の検討を行う必要がある。将来的に必要となる国際的な考え方との整合性に向けた準備も行い、新たな分析方法である指標アミノ酸酸化(IAAO)法によるたんぱく質代謝要求量について、日本人成人男女のエビデンスを創出した。
結論
今回、現行の食事摂取基準策定の課題を抽出し、各栄養素摂取基準値の策定に資する日本人エビデンスを創出したことで、次期改定作業がより科学的・合理的・効率的に実施されることが期待できる。
今後の食事摂取基準の策定においては、本研究で提案した策定システム等を参考にし、標準化に向けた検討を重点的に行うこと、国民健康・栄養調査を含むより大規模な集団における調査結果を利用した基準値策定を目指す必要がある。これにより、科学的・合理的な基準値策定が可能となると考える。

公開日・更新日

公開日
2013-07-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201222023C

成果

専門的・学術的観点からの成果
現行の食事摂取基準策定の課題を抽出し、日本人データを用い各栄養素摂取基準値の策定に資するエビデンスを創出した。このことで、次期改定作業がより科学的・合理的・効率的に実施されることが期待される。今後の食事摂取基準の策定においては、本研究で提案した策定システム等を参考にし、標準化に向けた検討を重点的に行うこと、国民健康・栄養調査を含むより大規模な集団における調査結果に基づいた基準値策定を目指す必要がある。これにより、科学的・合理的な基準値策定が可能となると考える。
臨床的観点からの成果
諸外国に比べ摂取量が少ないカルシウムや、摂取量が多いヨウ素について、次期2015年版策定の際の根拠となる有用なデータが得られた。また、妊婦については、葉酸、ビタミンB6、鉄、カルシウムの妊娠期の栄養状態に関するエビデンスを創出した。この結果を踏まえて、次期以降の妊娠付加量策定の検討を行うことが望まれる。将来的に必要となる国際的な考え方との整合性に向けた準備も行い、新たな分析方法である指標アミノ酸酸化(IAAO)法によるたんぱく質代謝要求量に関する日本人成人男女のエビデンスを創出した。
ガイドライン等の開発
災害時の食事の基準として、東日本大震災の被災地に向け厚生労働省が発出した「避難所における食事提供の計画・評価のために当面の目標とする栄養の参照量(発災1-3ヶ月)」、「避難所における食事提供の評価・計画のための栄養の参照量(発災3ヶ月~)」の策定に全面協力した。被災地での活用に向け、栄養参照量に対応した食品構成および食品具体例を作成し公表した。
その他行政的観点からの成果
本研究班の成果から、「日本人の食事摂取基準」は政府が作成する食生活指針等のベースとして重要な位置を占めることが明らかとなった。しかし、現行の2010年版食事摂取基準においては、①策定システムが発展途上であること、②日本人のエビデンスが極端に不足している栄養素、およびライフステージが存在するといった課題が残されていた。それらの現状を受けて、次期の策定作業の標準化に資することを目的として、WHO等国内外の研究機関が公開しているレビューシステムの調査を行い、次期2015年版策定システム案を作成した。
その他のインパクト
講演:
①「日本人の食事摂取基準」の活用と今後の展望
日時:2010年9月20日(日、祝)
於:東京都墨田区
②ビタミン生まれて100年
日時:2010年12月11日(土)
於:滋賀県大津市
③「日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究」班 研究成果発表会
日時:2011年10月10日(月、祝)
於:国立健康・栄養研究所 共用第一会議室
http://www.linkdediet.org/dri/modules/dri_download/index.php?cid=5

発表件数

原著論文(和文)
16件
原著論文(英文等)
26件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
17件
学会発表(国内学会)
24件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
①避難所における食事提供の計画・評価のために当面の目標とする栄養の参照量 ②避難所における食事提供の評価・計画のための栄養の参照量 
その他成果(普及・啓発活動)
3件
①日本人の食事摂取基準」の活用と今後の展望 講演 ②ビタミン生まれて100年 講演 ③「日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究」班 研究成果発表会

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nagae A, Kuwabara A, Tanaka K, et al.
Enteral nutrition and antibiotic use increase the risk for vitamin K deficiency in patients with severe motor and intellectual disabilities.
e-SPEN Journal , 8 (2) , 31-36  (2013)
http://dx.doi.org/10.1016/j.clnme.2012.12.002
原著論文2
Ezaki O.
The optimal dietary fat to carbohydrate ratio to prevent obesity in Japanese population: a review of the epidemiological, physiological and molecular evidence.
J Nutr Sci Vitaminol , 57 (6) , 383-393  (2011)
http://dx.doi.org/10.3177/jnsv.57.383
原著論文3
Ogawa A, Naruse Y, Kido Y, et al.
An evaluation of protein intake for metabolic demands and the quality of dietary protein in rats using an indicator amino acid oxidation method.
J Nutr Sci Vitaminol , 57 , 418-425  (2011)
http://dx.doi.org/10.3177/jnsv.57.418
原著論文4
Yoshida M, Ogi N, Iwashita Y.
Estimation of Mineral and Trace Element Intake in Vegans Living in Japan by Chemical Analysis of Duplicate Diets.
Health , 3 (11) , 672-676  (2011)
10.4236/health.2011.311113
原著論文5
Nakano T, Tsugawa N, Tanaka K, et al.
High prevalence of hypovitaminosis D and K in patients with hip fracture.
Asia Pac J Clin Nutr , 20 , 56-61  (2011)
原著論文6
Kuwabara A, Himeno M, Tanaka K, et al.
Hypovitaminosis D and K are highly prevalent and independent of overall malnutrition in the institutionalized elderly.
Asia Pac J Clin Nutr , 19 , 49-56  (2010)
原著論文7
渡辺優奈, 善方裕美, 石田裕美, 他
妊婦の鉄摂取量と鉄栄養状態の縦断的検討
栄養学雑誌 Supplement1 , 71 (1) , 26-38  (2013)
http://dx.doi.org/10.5264/eiyogakuzashi.71.S26
原著論文8
小林奈穂, 村山伸子, 稲村雪子, 他.
給食施設における「日本人の食事摂取基準」の活用の現状 (第1報)
栄養学雑誌 Supplement1 , 71 (1) , 39-45  (2013)
http://dx.doi.org/10.5264/eiyogakuzashi.71.S39
原著論文9
小林奈穂, 村山伸子, 稲村雪子, 他.
給食施設における「日本人の食事摂取基準」の活用の現状 (第2報)
栄養学雑誌 Supplement1 , 71 (1) , 46-55  (2013)
http://dx.doi.org/10.5264/eiyogakuzashi.71.S46
原著論文10
孫田みなみ, 笠岡(坪山)宜代, 瀧沢あす香, 他.
政府が策定する食事指針・ガイドにおける食事摂取基準の活用状況
栄養学雑誌 Supplement1 , 71 (1) , 56-63  (2013)
http://dx.doi.org/10.5264/eiyogakuzashi.71.S56
原著論文11
神田知子, 高橋孝子, 久保田恵, 他.
栄養管理報告書を用いた特定給食施設における食事摂取基準の活用に関する調査
栄養学雑誌 , 70 (2) , 140-151  (2012)
http://dx.doi.org/10.5264/eiyogakuzashi.70.140
原著論文12
吉田宗弘、児島未希奈、三由亜耶, 他.
病院および介護施設の食事からの微量ミネラル摂取量の計算値と実測値との比較
微量栄養素研究 , 28 , 27-31  (2011)
原著論文13
吉田宗弘, 野崎詩乃, 乾由衣子.
市販離乳食からのヨウ素とクロムの摂取量の推定.
微量栄養素研究 , 28 , 79-83  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2016-06-09

収支報告書

文献番号
201222023Z