既存統計資料に基づくがん対策進捗の評価手法に関する実証的研究

文献情報

文献番号
201221010A
報告書区分
総括
研究課題名
既存統計資料に基づくがん対策進捗の評価手法に関する実証的研究
課題番号
H22-がん臨床-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
津熊 秀明(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター がん予防情報センター)
研究分担者(所属機関)
  • 井岡 亜希子(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター がん予防情報センター )
  • 田淵 貴大(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター がん予防情報センター )
  • 伊藤 ゆり(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター がん予防情報センター )
  • 山崎 秀男(財団法人大阪がん予防検診センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
10,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん対策の進捗状況を把握し、その評価及び検証を行うための手法を開発することが本研究の最終目標である。最終となる本年度は、これまでの成果を総括し、府県ががんの現状と課題をどのように把握・評価し、とりわけがん死亡率の減少に注目した時に、対策によってどの程度減少させ、その減少目標をどのようにして達成するのか、またその際の中間目標となる指標は何か、それを企画するための手順を「がん死亡率減少のアクションプラン作成の手引き」として取りまとめる。
研究方法
1)評価指標・評価手法の確立:「手引き案」を作成し、他府県研究協力者に、その妥当性と応用可能性について吟味・検証を求め、それを踏まえて、各府県に情報提供する。府内各医療圏・市区町村データの可視化に伴い、自治体担当者がこれを適切に解釈し、活用できるよう、「手引き」を加筆・修正し、「第2版」として関係機関に提供する。
2)指標の可視化:研究班で内容と仕様を定め、システム設計とウェブ構築を地域がん登録の「標準データベースシステム」を担当している外部機関に委託する。近隣府県のがん対策・がん登録所管課とも連携し、当研究班での取り組み・成果を啓発・普及し、各県の地域レベルの指標の整備と可視化が促進されるよう働きかける。
3)生存率の動向と変化の要因:累積相対生存率曲線が平坦になるところで治癒割合を推定し、残りの非治癒患者が50%生存する期間MSTを算出する。主要部位・診断時期別に、治癒割合とMSTの推移を、Verdecchia が提唱する4パターンに分類することにより、生存率向上の要因を解明する。
4)無料クーポンの効果:2007年および2010年の国民生活基礎調査から無料クーポンの導入前後で、年齢によって識別した介入群と非介入群におけるがん検診受診率を比較する。社会経済要因別にも分析し、事業が格差縮小に寄与したかどうかを明らかにする。
結果と考察
1)「手引き」の第1章、第2章は、死亡率減少を全体目標とした設定、分野別施策と中間目標の設定、行動計画の策定、計画の見直し、の4つの視点で構成し、各府県が、がんの実態と対策の進捗状況を踏まえ、行動計画を策定できる内容とした。府県の計画を受け、医療圏・市町村毎の対応が必要な事項については、「手引き・第2版」として第3章(医療圏・市区町村におけるがん関連統計とその評価)を追加し、内容を補強した。
2)大阪府・11医療圏・67市区町村について、がんの罹患と死亡、生存率に関する統計値、及び、がん検診の受診率や精度管理指標を作表し、年次推移やマップとして描いたり、ランキングできるサイトを構築した。本研究による指標可視化のノウハウは他府県でも導入でき、波及効果が高い。
3)食道、胆嚢・胆管、肺(全期間を通じて)、胃、大腸、膵臓、卵巣、前立腺(1980年代後半まで)は、治癒割合とMSTがともに向上するGeneral improvementに該当した。治癒割合は向上するが、MSTは短縮するSelective improvementには、胃(1980年代後半~90年代後半)、乳房、子宮(1970年代後半~80年代前半)が該当した。治癒割合に変化無く、MSTのみ延長するProlonged survival time/Effect of lead-timeには、肝臓(全期間通じて)、胃、大腸、卵巣、膵臓(1990年代~2000年代)が該当した。MSTに変化なく、治癒割合のみ向上するOver-diagnosisには前立腺(1990~2000年代)と膀胱(1970 ~80年代)が該当した。今回の手法では、従来明らかにし得なかった、診断時期の前進(Lead-time)や過剰診断に由来する生存率の見かけの向上を把握できた。
4)無料クーポンによりPapスメアでは13.8、マンモでは9.8%ポイントの受診率上昇を認めた。マンモでは社会経済格差の縮小が、Papスメアでは格差の拡大が認められた。国が投じた費用は、がん検診受診者を1人増やすのに平均13,400円と試算した。無料クーポン事業ががん検診受診率の向上に寄与したとする報告は、これまでも散発的にあったが、全国レベルで、交絡要因の影響も加味した報告はなかった。
結論
1)府県ががん対策の現状を評価し、がん対策を見直し、次期計画に生かすための手順、さらには、各医療圏・市区町村の課題を明らかにし、がん対策に重点的題に取り組むための「手引き」をまとめた。2)がんの実態や対策の進捗状況に関する指標を可視化するサイトを構築した。3)長期間の生存率データに数学モデルを当てはめ、部位別・時代別に治癒割合とMSTを推定し、生存率上昇の要因をがん種別に明らかにした。4)乳がん及び子宮頸がん検診の無料クーポン事業が受診率向上に一定寄与したことを示した。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201221010B
報告書区分
総合
研究課題名
既存統計資料に基づくがん対策進捗の評価手法に関する実証的研究
課題番号
H22-がん臨床-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
津熊 秀明(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター がん予防情報センター)
研究分担者(所属機関)
  • 井岡 亜希子(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター がん予防情報センター)
  • 田中 政宏(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター がん予防情報センター)
  • 宮代 勲(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター がん予防情報センター)
  • 田淵 貴大(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター がん予防情報センター)
  • 伊藤 ゆり(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター がん予防情報センター)
  • 山崎 秀男(財団法人大阪がん循環器病予防センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん対策推進計画に沿って実施されているがん対策の進捗状況を把握し、その評価および検証を行うための手法を開発することが本研究の最終目標である。大阪府をモデルに実証的に研究を進める。
研究方法
平成22年度には、がんの罹患率・生存率・死亡率の年次推移からがんの最新の動向を明らかにした上で、「10年でがん死亡20%減少」を達成するための4分野の行動計画に関して、ストラクチャー、プロセス、アウトカムの各指標となる項目を整理する。既存の統計資料や行政目的で実施した調査資料に基づき施策の進捗状況を4分野別に把握し、評価を試みる。平成23年度には、死亡率減少目標の妥当性の検討、がん検診やがん医療水準均てん化の新たな評価手法、がん対策の企画・評価における国民生活基礎調査の個別データ活用の有用性等について研究を進めるとともに、他府県研究者にも協力を求め、他府県での応用可能性を吟味する。平成24年度には、成果を総括し、府県ががんの現状と課題をどのように把握・評価し、とりわけがん死亡率の減少に注目した時に、対策によってどの程度減少させ、その減少目標をどのようにして達成するのか、またその際の中間目標となる指標は何か、それを企画するための手順を「がん死亡率減少のアクションプラン作成の手引き」として取りまとめる。
結果と考察
1)がん対策の進捗状況の把握・評価:近年の全がん死亡率減少傾向は、肝、胃、肺、大腸などの罹患率減少に起因し、一部を除けば、がん対策やがん医療の直接の成果とはみなせなかった。たばこに関する知識の普及、禁煙支援プログラムの充実、環境・制度面の支援は、いずれもなお不十分であった。成人喫煙率を含め、たばこ対策の現状と動向を国・自治体単位でタイムリーにモニターする制度の確立が喫緊の課題である。肝炎対策については現状を殆ど把握できなかった。唯一把握できた検診の精検受診率は約3割であり、肝炎ウイルス検診が所期の成果を上げるためには、事業評価のサーベイランスを含む検診制度の再構築が必要である。検診受診率が低く、精検受診率についても大腸がんで特に低かった。検診受診率を一挙に高めることは非現実的で、精度管理を含む検診の提供体制の確立を優先することが合理的である。”受療の望ましい”医療機関での初回治療割合は、胃、大腸、乳腺を除き、40-60%の低い値に留まった。
2)死亡率減少目標の妥当性・新たな評価手法の検討:がん対策推進計画策定時には1990年から2005年にかけ75歳未満の全がん年齢調整死亡率が年1%の減少傾向にあったことから、今後10年で10%はそのままで減が見込め、対策によりさらに10%の減を実現し、計20%の減を目標とした。しかし、より当てはまりの良い1995年を起点として得た回帰式の傾きは大きく、計画当初のがん死亡率自然減の見積もりが過小であったと判断した。がん検診の精度管理指標として、要精検率、精検受診率、陽性的中率、等が一般に使われるが、自治体の人口規模が大きく異なり、これら指標の点推定値の大小を持って評価することは困難である。これら課題を避け得るFunnel plot法を大阪府43市町村の精度管理指標に応用し、その有用性を確認した。がん対策推進基本計画では、検診受診率50%を前期5年の目標値としているが、検診受診率は分母が不明確であり、受診者の固定化の影響も受ける等の欠陥がある。がん登録で把握される診断時の「限局」割合を指標とするべきで、これをがん登録の整備された6府県データで確認した。がん医療水準の均てん化とは、がん拠点病院の進行度別生存率が地域全体に行き渡った場合と考えられるので、その際に期待される生存率を地域全体の5年相対生存率と比較することにより、均てん化の課題の大きさを示す指標とした。また、期待値の医療圏間での差異は、早期診断の地域格差の指標になると考え、大阪府11医療圏のデータで確認した。
3) がん死亡率減少のアクションプラン作成の手引き:以上を総括し、「手引き(「第1章.がん対策推進計画策定のポイント」、「第2章.がん対策推進計画策定の実際」)」を作成し、府県関係者に提供した。大阪府・11医療圏・67市区町村のがんの死亡と罹患に関する各種統計値を可視化した。がん検診の受診率や精度管理指標を含め、各医療圏や市町村の担当者が、これら指標をどの様に統合・解釈し、対策に活用すればよいのかを解説するため、「手引き」を補強した(「第3章.医療圏・市区町村におけるがん関連統計とその評価」)。
結論
既存の統計資料を用いて、がん対策推進計画に沿って実施されているがん対策の進捗状況の把握、その効果の評価および検証を行うためのモデルを提示した。これは、がん対策推進計画の見直しにあたり、その根拠と方向性を示し、厚生労働行政の施策に寄与する。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201221010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
国民生活基礎調査の個票データを解析して、喫煙習慣やがん検診受診率が、社会経済指標(学歴・医療保険の種別)と密接に関連していることを示した。また、がん検診の無料クーポンの効果に関する検証を行い、Papスメアでは13.8、マンモでは9.8%ポイントの受診率上昇を認めたが、社会経済格差の観点からは、マンモでは格差の縮小が、Papスメアでは格差の拡大が認められた。わが国でも社会経済格差を考慮したがん対策の重要性を示す社会疫学分野での重要な知見となった。
臨床的観点からの成果
大阪府がん登録に基づく長期間の生存率データに、数学モデルを当てはめ、部位別・時代別に治癒割合と非治癒患者のメディアンサバイバルを推定した。その結果をVerdecchiaらが提唱した4パターンに分類し、生存率上昇の要因をがん種別に評価した。また、大規模人口・長期間をカバーする大阪府のがん罹患データから、重複がんの発生リスク(初発がんと2次がんとの関連、診断からの期間別にみた一般人口における期待罹患数と実測罹患数の比、2次がん罹患リスクの推計、他)に関する包括的解析を行った。
ガイドライン等の開発
がんの罹患率、生存率、進行度分布、さらには死亡率の推移を総合的に解析することにより、近年のがん年齢調整死亡率の低下の主要因が、胃及び肝がん罹患率の低下にあり、さらに、両がんの罹患率低下は、がん対策の直接の効果を反映しているとは言えないことが明らかになった。これらの知見は、わが国の第2期がん計画における死亡率減少目標の妥当性の議論に一石を投じた。結論として、国の「10年後に20%減」という当初目標が踏襲されたが、府県計画では、大阪府を始め、より高い死亡率減少目標値を設定する自治体も現れた。
その他行政的観点からの成果
研究成果を総括し、がん対策の企画と評価の手順を「がん死亡率減少のアクションプラン作成の手引き」として取りまとめた。日本対がん協会との共催で研修会を開催し、また、厚生労働省主催の都道府県がん対策担当者向け研修で「手引き」の解説を行った。さらに、各県がん対策所管課に印刷媒体として提供する他、大阪府のがん拠点病院及び保健所・市町村のがん対策関連事業の担当者に提供した。
その他のインパクト
がんの実態やがん対策の進捗状況が、一般市民・医療機関関係者・自治体の行政担当者等にも分かるように、大阪府・11医療圏・66市区町村のがんの死亡と罹患に関する各種統計値を、検診受診率や精度管理指標とともに可視化し、年次推移やマップとして描いたり、ランキングできるサイトを構築した。他府県のがん対策・がん登録所管課とも協議・連携を密にし、当研究班での取り組み・成果を啓発・普及し、各県においてよりきめ細かな指標の整備と可視化が促進されるよう働きかけ、大きな反響があった。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
http://www.ccstat.jp/osaka/index.html

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tabuchi T, Ito Y, Ioka A, et al
Incidence of metachronous second primary cancers in Osaka, Japan: update of analyses using population-based cancer registry data.
Cancer Sci. , 103 (6) , 1111-1120  (2012)
原著論文2
Ito Y, Ioka A, Nakayama T, et al
Comparison of the trends in cancer incidence and mortality in Osaka, Japan, using an age-period-cohort model.
Asian Pac J Cancer Prev , 12 (4) , 879-888  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201221010Z