骨髄異形成症候群におけるエピゲノム修飾分子異常の解明

文献情報

文献番号
201220055A
報告書区分
総括
研究課題名
骨髄異形成症候群におけるエピゲノム修飾分子異常の解明
課題番号
H23-3次がん-若手-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
真田 昌(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エピゲノム修飾による遺伝子の翻訳制御は、発生・細胞分化の過程において重要な分子機構である。エピゲノム修飾の異常は、遺伝子発現の異常を来たし、様々ながん種において、発がんに関わっていると考えられている。更には、近年の遺伝子解析技術の進歩に伴い、非常に広範な腫瘍において、エピゲノム修飾分子の遺伝子変異が生じていることが明らかとなっている。エピゲノム修飾分子に生じたゲノム異常が、エピゲノム異常を生じ、遺伝子の発現異常が細胞の腫瘍化を招くと推測されるが、明らかではない。MDSは高齢者に多い造血器腫瘍であるが、古くからメチル化異常に関する報告がされてきた。造血幹細胞移植以外に治癒が期待できる治療法はないが、脱メチル化剤が生命予後を改善することが明らかとなり、移植が困難な高齢者を含め広く使用されつつある。昨年度の研究にて遺伝子変異プロファイルが明らかとしたMDS検体を用いて、エピゲノム修飾解析を行うことにより、両者の関連を明らかとすることを目指す。
研究方法
昨年度、遺伝子変異解析を行った192例(低リスクMDS 145例、 高リスクMDS 47例)のMDS検体について、イルミナ社のHuman Methylation 450 BeadChipを用いて、網羅的なDNAメチル化解析を行った。遺伝子発現調整に関わっていると推測され、かつ正常末梢血に比し、強くメチル化されているプローブを解析対象とした。メチル化データは、教師なし階層クラスタリング解析を行い、メチル化修飾に関わる遺伝子を中心に変異とメチル化パターンの関連を解析した。
本研究で実施される遺伝子解析研究は、原則として体細胞突然変異を扱うものであるが、「ヒトゲノム・遺伝子研究に関する倫理指針」を遵守し、事前に東京大学ならびに検体提供施設の倫理委員会の承認を得た。また、研究対象者からは文書による同意を得て行った。
結果と考察
昨年度、変異解析を行った192例のMDSについてイルミナ社のHumanMethylation 450 BeadChipを用いて、DNAのシトシンのメチル化状態を解析した。正常末梢血に比しメチル化を受けている傾向にある4000遺伝子に絞り込んだ後に、教師なし階層クラスタリング解析を行い、メチル化パターンの異なる、いくつかのサブクラスに階層化された。192例において変異頻度が高いエピゲノム修飾関連遺伝子、TET2(35%)、ASXL1(20%)、DNMT3A(12%)、IDH1/2(6%)およびEZH2(5%)について変異の有無(内は192例での変異頻度)、および臨床情報とクラスタリング結果を比較検討した。骨髄芽球の増加を伴うRAEB-1および2と診断されている症例は、増加を伴わない病型に比し、解析した遺伝子群においてはメチル化されている傾向が高かった。DNAメチルトランスフェラーゼとしてシトシンのメチル化に直接的に関わるDNMT3A遺伝子においては、変異の有無とクラスタリング結果には関連は認められなかったが、脱メチル化過程で重要な働きを有することが明らかとなりつつあるTET2およびIDH変異例は、特徴的なメチル化パターンを示すクラスター群に集中する傾向が認められ、ゲノムレベルでの変異がエピゲノム異常に関わっていることが示唆された。
今後、脱メチル化剤投与前後の検体の解析を行うことで、脱メチル化剤投与によるメチル化の変化、有効例と無効例における変化の違いを解析することで、脱メチル化剤の作用機序を明らかとし、治療反応性を事前に予測する臨床上有用なバイオマーカーの確立も望まれる。
MDSにおけるエピゲノム修飾関連遺伝子の変異は、TET2とIDH1/2の変異の重複例は既報の通りに少ないものの、TET2変異とASXL1変異など、しばしば重複して観察をされ、アレル頻度からも、同一の細胞に変異が生じていると推測される。すなわち、遺伝子異常が、エピゲノム修飾全体そして遺伝子発現に与える影響は単純ではないことが推測をされる。今後、遺伝子発現解析やヒストン修飾の解析も含めた、より多層的な解析が必要であると思われる。
結論
多数例のMDS検体を用いた網羅的な変異解析により、RNAスプライシング分子変異と並んで、エピゲノム修飾分子の異常は、最も頻度の高いゲノム異常であり、更に網羅的なメチル化解析を行うことによりゲノムレベルの異常であるTET2やIDH1/2変異が、メチル化異常に強く関わっていることを示唆する所見が得られた。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201220055B
報告書区分
総合
研究課題名
骨髄異形成症候群におけるエピゲノム修飾分子異常の解明
課題番号
H23-3次がん-若手-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
真田 昌(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エピゲノム修飾は遺伝子の発現調整に寄与し、発生・分化の過程において重要な分子機構である。エピゲノム修飾の異常は、遺伝子発現の異常を来たし、様々ながん種において、発がんに関わっていると考えられている。更には、近年の遺伝子解析技術の進歩に伴い、非常に広範な腫瘍において、エピゲノム修飾分子の遺伝子変異が生じていることが明らかとなっている。単純には、エピゲノム修飾分子に生じたゲノム異常が、エピゲノム異常を生じ、遺伝子の発現異常が細胞の腫瘍化を招くと想定されるが、明らかではない。MDSは高齢者に多い造血器腫瘍であるが、古くからメチル化異常に関する報告がされてきた。造血幹細胞移植以外に治癒が期待できる治療法はないが、脱メチル化剤が生命予後を改善することが明らかとなり、移植が困難な高齢者を含め広く使用されつつある。また、MDSにおいて、TET2やEZH2、ASXL1など、エピゲノム修飾分子に関わる遺伝子に変異が、しばしば生じていることが明らかとなっている。そこで、本研究では、MDSの臨床検体を用いて、ゲノム異常とエピゲノム異常の関連について明らかとする。
研究方法
49例のMDS検体について、次世代シーケンサーを用いた全エクソーム解析を行い、MDSクローンに生じた体細胞変異を網羅的に同定した。また192例(低リスクMDS 145例、 高リスクMDS 47例)のMDS検体について、エクソーム解析で複数例に同定された遺伝子やMDSなど骨髄系腫瘍で報告のある遺伝子を中心に、アジレント社のSure Selectを用いたTarget-captureシーケンスを行った。既存およびin houseデータベースを用いてSNPを除外し、更にアリル頻度からSNPと推測されるSNVは除外した後に、遺伝子変異を明らかとした。同症例についてイルミナ社のHuman Methylation 450 BeadChipを用いて、網羅的なDNAメチル化解析を行った。メチル化データは、教師なし階層クラスタリング解析を行い、メチル化修飾に関わる遺伝子を中心に変異とメチル化パターンの関連を解析した。
本研究で実施される遺伝子解析研究は、原則として体細胞突然変異を扱うものであるが、「ヒトゲノム・遺伝子研究に関する倫理指針」を遵守し、事前に東京大学ならびに検体提供施設の倫理委員会の承認を得た。また、研究対象者からは文書による同意を得て、実施した。
結果と考察
49例のMDSの全エクソン・シーケンスにおいて、12例でTET2変異を認めた他、EZH2、ASXL1、DNMT3Aなど半数近い症例でエピゲノム修飾に関わる遺伝子群に変異が観察された。192例のMDS検体においてエピゲノム修飾関連遺伝子を含むMDS関連遺伝子の変異解析を行い、TET2(35%)、ASXL1(20%)、DNMT3A(12%)、IDH1/2(6%)およびEZH2(5%)について変異の有無(内は192例での変異頻度)を明らかとした。また、EZH2とともにPRC2複合体を形成するEED遺伝子に、MDSにおいて変異が認められることを新たに見出した。EED変異により、PRC2複合体形成が障害され、PRC2の機能低下を招き、EZH2変異と同様の分子病態を示すと推測された(Leukemia 2012)。
変異解析を行った192例について、網羅的にDNAのメチル化状態を解析した。本アレイ上には、17,990遺伝子、480万箇所のプローブが搭載をされているが、遺伝子の発現調整領域に存在するプローブに限って解析を行った。正常末梢血における各プローブのシグナルと比較したメチル化の程度から3段階にスコア化し、MDSにおいてメチル化傾向にある4000遺伝子について、教師なしクラスタリング解析を行い、いくつかのサブクラスに階層化された。変異頻度が高いエピゲノム修飾関連遺伝子、TET2、ASXL1、DNMT3A、IDH1/2およびEZH2について変異の有無と臨床情報とクラスタリング結果を比較検討した。DNAメチルトランスフェラーゼとしてシトシンのメチル化に直接的に関わるDNMT3A遺伝子においては、変異の有無とクラスタリング結果には関連は認められなかったが、脱メチル化過程で重要な働きを有することが明らかとなりつつあるTET2およびIDH変異例は、強くメチル化された遺伝子を多く含むクラスター群に集中する傾向が認められ、ゲノムレベルでの変異がエピゲノム異常に関わっていることが示唆された。
結論
多数例のMDS検体を用いた網羅的な変異解析により、RNAスプライシング分子変異と並んで、エピゲノム修飾分子の異常は、最も頻度の高いゲノム異常であった。網羅的なメチル化解析を行うことによりゲノムレベルの異常であるTET2やIDH1/2変異が、メチル化異常に強く関わっていることを示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201220055C

成果

専門的・学術的観点からの成果
エピゲノム修飾異常が重要な発がんメカニズムであることは広く認識され、近年の研究により、幅広いがん種でエピゲノム修飾関連分子に変異が生じていることが明らかとなってきたが、直接的に両者を結びつける知見は乏しかった。本研究においてTET2またはIDH1/2に変異を有するMDS症例においては、メチル化修飾に差異が認められ、ゲノム異常がエピゲノム修飾の異常を招いていることが示唆されたことは、エピゲノム修飾を介した発がん研究において重要な知見であると考える。
臨床的観点からの成果
MDSにおいて生命予後の改善が期待できる治療法は、非常に限られており、メチル化阻害剤は重要な薬剤として位置づけられている。しかし、有効性は症例により異なり、有効例においても、経過中に治療抵抗性となる症例もしばしば観察され、治療効果予測が可能なマーカーが求められている。今回の解析検体においては、メチル化阻害剤の有効性を含めた検討はできなかったが、本アプローチと組み合わせることにより、臨床上、有用な分子マーカーが確立されることが期待される。
ガイドライン等の開発
本研究期間内にガイドラインとして発表するに足るエビデンスのある解析結果は得られなかったが、主要な遺伝子変異のプロファイルを明らかにすることは、各症例において最適な治療法を選択するうえで、重要な因子と考えられている。本研究成果からはエピゲノム修飾異常もゲノム異常の有無で評価が可能であることが期待された。遺伝子変異解析が臨床検査として認可され、種々の遺伝子変異の有無に基づく、最適な治療法選択のガイドラインが実用化されることが期待される。
その他行政的観点からの成果
MDSは加齢とともに発症頻度が増加し、また抗腫瘍剤の投与歴を有する者に治療関連腫瘍として発症することから、近年、患者数は増加の一途にある。治癒が期待できる唯一の治療法である造血幹細胞移植は、高齢者では適応となることは少なく、輸血などの対症療法とともに医療依存度の高い状況での療養を強いられている。この状況は、輸血行政や医療経済の観点からも解決すべき課題である。遺伝子変異に基づき、有効性が事前に推測できることは、副作用が重篤となりやすい高齢者の治療においては重要である。
その他のインパクト
本研究成果の一部は、日本癌学会学術総会のシンポジウムで発表を行った。解析結果の一部については論文化したが、現在、論文発表へ向けて、準備中である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yoshida K, Sanada M, Shiraishi Y, et al.
Frequent pathway mutations of splicing machinery in myelodysplasia
Nature , 478 (7367) , 64-69  (2011)
原著論文2
Ueda T, Sanada M, Matsui H, et al.
EED mutants impair polycomb repressive complex 2 in myelodysplastic syndrome and related neoplasms
Leukemia , 26 (12) , 2557-2560  (2012)
原著論文3
Haferlach T, Nagata Y, Sanada M, et al.
Landscape of genetic lesions in 944 patients with myelodysplastic syndromes.
Leukemia , 28 (2) , 241-247  (2014)
原著論文4
Muto T, Sashida G, Sanada M, et al.
Concurrent loss of Ezh2 and Tet2 cooperates in the pathogenesis of myelodysplastic disorders.
J Exp Med. , 210 (12) , 2627-2639  (2013)
原著論文5
Lin TL, Nagata Y, Sanada M, et al.
Clonal leukemic evolution in myelodysplastic syndromes with TET2 and IDH1/2 mutations.
Haematologica , 99 (1) , 28-36  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2015-09-02

収支報告書

文献番号
201220055Z