都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応

文献情報

文献番号
201218011A
報告書区分
総括
研究課題名
都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応
課題番号
H23-認知症-指定-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
朝田 隆(筑波大学 医学医療系臨床医学域)
研究分担者(所属機関)
  • 泰羅 雅登(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 石合 純夫(札幌医科大学 医学部)
  • 清原 裕(九州大学 大学院医学研究院)
  • 池田 学(熊本大学 大学院生命科学研究部)
  • 諏訪 さゆり(千葉大学 大学院看護学研究科)
  • 角間 辰之(久留米大学 バイオ統計センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
32,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)認知症有病率
65歳以上の高齢者について「専門医による医学的判定」に基づき、全国規模での認知症有病率および有病者数、認知症前駆状態である軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment,以下MCI)の推定を試みる。同時に認知症者における介護保険によるサービスの利用実態を明らかにする。
2)認知症の生活機能障害
認知症による障害のなかでも生活行為・動作における障害すなわち生活障害も基本的で持続的な問題となる。認知症の人が日々豊かな生活を営むには、これに対する科学的評価と 対応法の開発が必要である。ここで目指すのは、介護者が行う介護の質ではなく、当事者が為す行為のパフォーマンスを上げることである。15種類の生活行為に注目して、それぞれのステージ(病期)ごとに見られがちな障害を整理した上で個々の障害に対して有効な対応法の実例を示す。
研究方法
1)認知症有病率
平成22年度に全国の各地域で疫学調査の結果に鑑み、高齢者人口の少なさに注目して、つくば市、福岡県久山町、大牟田市の中心部で調査した。いずれの地域でも無作為抽出により調査対象を選び、平成23年10月以降に、今日の世界的な認知症診断基準に則った評価と診察を行い、これに基づいて認知機能レベルを判定した。3段階からなる調査のうち、第1段階は事前調査員の家庭訪問による家族への聞き取りと、自宅または会場での調査員による対象者本人への面接調査である。第2段階は医師の面接調査、第3段階はMRI撮像と血液検査等である。用いるテストは今日の世界的スタンダード(Alzheimer Disease Neuroimaging Initiative: ADNIで用いられているテスト、また 精神状態短時間検査-日本版Mini Mental State Exam-Japanese : MMSE-J)で統一した。
2)認知症の生活機能障害
昨年度、認知症の生活障害の実態を把握するためにWHOのICFに準拠して調査票を開発した。これを多くのケアスタッフに理解してもらうために、漫画化・アニメ化した。そして認知症ケアに精通しているケアスタッフ(以下、協力者)に調査票の記載を依頼して、生活障害の詳細な状態像と協力者がこれまで実践してきた効果的なケア方法を把握した。さらに協力者が一堂に会してのフォーカスグループインタビューを実施した。これらにより生活障害の状態像と効果的なケア方法について映像によるデータを作成した。具体的には、協力者は検討対象としてアルツハイマー病(AD)を選び、ReisbergによるFASTのステージに準拠して病期を5期(FAST3-7)に分け、自施設における経験に基づいて15の生活行為について個々の病期でみられがちな障害を列挙する。同時に仲間のケアスタッフと話し合い情報と技術を交換しあう中から、有効な対応法の実例を抽出する。これらを研究実施者同士による評価・討議の場である全体会議に持ち寄る。そして参加者が順番に、個々の障害に対して有効な対応法の実例を示して皆が合議することで初期案を洗練した。
結果と考察
1)認知症有病率
今回の3地区の結果は前回の調査と基本的に同じ傾向を示した。すなわち都鄙によらず人口ピラミッドを補正したとき、認知症有病率は15%と推定された。この数値は、従来わが国で推定されてきた認知症の有病率10%程度に比べて高値である。その背景については、高齢者人口とくに後期高齢者人口の伸びと、全地域で統一された調査方法を用いる、自宅不在者も入院・入所先にて調査する、介護保険情報を活用する、といった取り組みによる診断率の向上があると考えられた。
2)認知症の生活機能障害
以下に要約する。脳の障害については、記憶のみならず注意と遂行機能、作動記憶の障害が重要と思われる。こうした能力低下を反映してか、感情・性格・意欲の変化にも気付かれるようになる。ストレス対処がうまくゆかず、不安やうつになりがちで、家族等への依存傾向がでてきやすい。意欲の低下は概して社会交流の減少として観察される。
結論
1)認知症有病率
全国の65歳以上の高齢者における認知症有病率は15%と推定され、推定有病者数は平成22年時点で約439万人、平成24年時点で462万人と算出された。従来予想よりも多いが、そこには急激な高齢者人口の増加、平均寿命の伸びと診断方法の相違が寄与していると思われる。
2)認知症の生活機能障害
今回用いたグッドプラクティスの現場を動画として撮影したものを研究者同士で鑑賞することでその介助の特長を抽出し皆で共有するという方法は、スタッフの介護研修方法として有効なものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-07-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201218011B
報告書区分
総合
研究課題名
都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応
課題番号
H23-認知症-指定-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
朝田 隆(筑波大学 医学医療系臨床医学域)
研究分担者(所属機関)
  • 泰羅 雅登(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 石合 純夫(札幌医科大学 医学部)
  • 清原 裕(九州大学 大学院医学研究院)
  • 池田 学(熊本大学 大学院生命科学研究部)
  • 諏訪 さゆり(千葉大学 大学院看護学研究科)
  • 角間 辰之(久留米大学 バイオ統計センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)認知症有病率
65歳以上の高齢者について「専門医による医学的判定」に基づき、全国規模での認知症有病率および有病者数、認知症の前駆状態である軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment,以下MCI)の推定を試みる。
2)認知症の生活機能障害
認知症による障害は3次元に分けられる。記憶障害に代表される認知機能障害、行動と心理学的障害、それに生活行為・動作における障害すなわち生活障害である。認知症の人が生きる上では、この生活障害が最も基本的で持続的な課題となる。認知症の人が日々豊かな生活を営むには、これに対する科学的評価と対応法の開発が必要である。ここで目指すのは、介護者が行う介護の質ではなく、当事者が為す行為のパフォーマンスを上げることである。15種類の生活行為に注目して、それぞれのステージ(病期)ごとに見られがちな障害を整理した上で個々の障害に対して有効な対応法の実例を示す。
研究方法
1)認知症有病率
茨城県つくば市、福岡県久山町、大牟田市の中心部で調査した。いずれの地域でも無作為抽出により調査対象を選び、平成23年10月以降に、今日の世界的な認知症診断基準に則った評価と診察を行い、これに基づいて認知機能レベルを判定した。3段階からなる調査のうち、第1段階は事前調査員の家庭訪問による家族への聞き取りと、自宅または会場での調査員による対象者本人への面接調査である。第2段階は医師の面接調査、第3段階はMRI撮像と血液検査等である。用いるテストは今日の世界的スタンダード(Alzheimer Disease Neuroimaging Initiative: ADNIで用いられているテスト、また精神状態短時間検査-日本版Mini Mental State Exam-Japanese : MMSE-J)で統一した。
2)認知症の生活機能障害
15種類の生活行為に注目して、それぞれのステージ(病期)ごとに見られがちな障害を整理する。個々の障害に対して有効な対応法の実例を示し、これを認知症介護に熟達したスタッフが合議することで洗練し、精度と確実性の高い技術として高める。また介護のグッドプラクティスの現場を動画として撮影し、これを研究者同士で共有する。
結果と考察
1)認知症有病率
今回の3地区の結果に併せて前回の調査結果も考慮して、全国の認知症有病率は15%と推定された。よって推定有病者数は平成22年時点で約439万人、平成24年時点で462万人と算出された。また全国のMCI有病者数は平成22年時点で約380万人、平成24年時点で約400万人と推定された。
従来わが国で推定されてきた認知症の有病率10%程度に比べて高値である。その背景については、高齢者人口とくに後期高齢者人口の伸びと、全地域で統一された調査方法を用いる、自宅不在者も入院・入所先にて調査する、介護保険情報を活用する、といった取り組みによる診断率の向上があると考えられた。
2)認知症の生活機能障害
日常性の高い15の生活行為を選択した。それぞれの行為を遂行するために必要な個々の動作を順番に並べるとともに、 そこに求められる意欲や概念についてもリストアップした。これを基本として個々の動作を漫画化し、全体をアニメー ション様に仕立てた。
今回用いたグッドプラクティスの現場を動画 として撮影したものを研究者同士で鑑賞することでその介助の特長を抽出し皆で共有するという方法は、スタッフの介護研修方法として有効なものと考えられる。
結論
1)認知症有病率
全国の65歳以上の高齢者における認知症有病率は15%と推定され、推定有病者数は平成22年時点で約439万人、平成24年時点で462万人と算出された。従来予想よりも多いが、そこには急激な高齢者人口の増加、平均寿命の伸びと診断方法の相違が寄与していると思われる。
2)認知症の生活機能障害
少なくとも初期の認知症患者には学習能力が残されているので、そこに注目した介護が求められる。家族介護者に対する疾患教育によって介護上の不安が軽減され得る。介護のグッドプラクティスを動画として皆で鑑賞するという方法は、スタッフの介護研修方法として有効である。

公開日・更新日

公開日
2013-07-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201218011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
認知症患者数が従来の予想値の倍にも上ることが示されたことは、政策的対応の基盤となる数字が明確 化されたという点で意義深い。また認知症者の大多数は介護保険によってカバーされているという実態 も示された。これは介護保険制度が十分に浸透していることを示したものである。さらに、本制度の一層の充実とアンメットニーズの探索が求められる段階に来ていることを示唆している。一方で本研究は、認知症者の生活障害の実態を明らかにした上で、介護スタッフがケア技術を学ぶ新たな方法を提示し得た点でも意義をもつ。
臨床的観点からの成果
今日の世界的な認知症診断の方法を用いて、全国的な規模による疫学調査を実施したことで、診断の精度・技術が統一された。その上でどの地域でも疫学的に一貫し、類似した結果が得られたことは今後の認知症疫学研究の発展にとっても有意義なことと考える。次に、生活障害のケアはこれまではあくまで、経験と勘頼みというところがあったが、本研究による系統的なアプローチによりこれが体系化されつつあることには大きな臨床的意義がある。
ガイドライン等の開発
現時点では考えていない。
その他行政的観点からの成果
今後も認知症患者数が増加する傾向は数十年間に亘って続くと予想されている。それだけに全国の自治体が独自に疫学調査を行うことも大いに考えられる。そのような調査に於て、今回用いた尺度や調査方法を採ることは有用と考えられる。
その他のインパクト
高齢化社会に於て認知症の問題は不可避である。数の多さだけで社会的重要性やインパクトは計れない。しかし本研究に対するメディア、マスコミからの注目の大きさは、当事者のスティグマという観点も含めた認知症という問題を社会レベルで論じて行く上で役立つことと思われる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-11-17
更新日
-

収支報告書

文献番号
201218011Z