支援機器を用いた認知症者の自立支援手法の開発

文献情報

文献番号
201218002A
報告書区分
総括
研究課題名
支援機器を用いた認知症者の自立支援手法の開発
課題番号
H22-認知症-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
井上 剛伸(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所福祉機器開発部)
研究分担者(所属機関)
  • 石渡 利奈(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所福祉機器開発部)
  • 上村 智子(信州大学医学部保健学科)
  • 関川 伸哉(東北福祉大学総合福祉学部)
  • 種村 留美(神戸大学大学院保健学研究科)
  • 永田 久美子(認知症介護研究・研修東京センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
4,841,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、認知症者の地域での暮らしの継続を支援するため、機器による認知症者の自立支援手法のモデルを確立することである。このため、包括的ケアの中で支援が不足している基本的ADLと家事以外の生活活動(服薬管理、コミュニケーションと娯楽、家庭用品管理、日時把握)に着目し、1)適合技術の開発、2)本人本位のケアにおける支援手法の適用と評価、3)早期に実用化が必要な支援機器の開発を行うことを目標とした。
研究方法
今年度は、上記の目標毎に以下の研究を実施した。
1)服薬支援機器、簡易テレビリモコン、探し物発見器、電子カレンダーに関する介入評価の追加データ収集、結果の分析を行い、これらに基づいて、家族、支援者を対象とした自立支援機器の利活用支援マニュアルを作成した。
2)支援・評価のための共通シートパックと支援・評価ガイド試案を用いた試行調査を通常のケア業務の一環として行い、有効性の検証を行った。
3)電子カレンダーの製品化に向けて、タブレットPC版電子カレンダーについて、カスタマイズ機能に重点をおいた改良を行うとともに、タブレット版の電子カレンダーの仕様を提案した。
以上を基に、機器を用いた自立支援手法を提案した。
結果と考察
1)機器ごとに以下の結果が得られた。服薬支援機器:高血圧/糖尿病患者各1名を対象に「アラーム付き薬入れを用いた服薬管理プログラム」の効果を調べた結果、服薬アドヒアランスは95~100%に向上し、血圧や血糖値のコントロールも改善した。簡易テレビリモコン:14名のデータ分析の結果、認知機能低下者では、操作ボタン数を減らし、順送りでチャンネルを変える方式の簡易テレビリモコンが操作しやすいことが明らかになった。探し物発見器:3名の介入評価の結果、導入6ヶ月後には、生活全般の探し物の回数が減っており、発見器導入による生活支援の有効性が示唆された。また、発見器の利点は、「安心できる」点が特に評価され、心理的な負担軽減の効果が示唆された。電子カレンダー:LED版/タブレットPC版を用いた7/9名のデータ分析の結果、介入1ヶ月後で71%/77%の自立度が向上し、日時把握の困難度の軽減、介護負担の軽減にも役立つことが示唆された。以上の結果に基づいて、家族、支援者を対象とした自立支援機器の利活用支援マニュアルを作成した。
2)試行調査の結果、8名に安定して過ごす時間の増加、自立した行動の増加、一人で楽しむ時間の増加などの直接的な効果が確認された。またケア職員による本人の時間に関するニーズへの気づきや日常的支援への向上、ケアチーム内での支援の方針や支援策が改善される等などの間接的な効果がみられた。ケア職員は資格や経験年数によらず、試行前段階では本人の時間に関する支援機器のニーズを把握しておらず、共通シートパックおよび支援ガイドが支援機器利活用支援に関するOJTとして有効であり業務の中での利用が可能であることが確認された。
3)昨年度の臨床評価結果より、表示、通知される情報の理解に個人差があったため、カスタマイズ機能に重点をおくソフトウェアの改良を行った。具体的には、「明後日」などの表現を「2日後」などに置きかえられるようにしたり、「明日の予定」などを表示しないなどのオプション設定を設けた。また、タブレット版電子カレンダーについては、デフォルトの出力画面の情報呈示内容を「日付、曜日、時間帯、予定1件」とすることとした。
結論
以上より、今年度は、以下の結論を得た。
1)適合技術の開発
機器の介入評価により、自立支援における機器の有効性を明かにするとともに、支援手法に関して、適切な介入方法等の知見を得た。
家族、支援者に、自立支援機器の利活用支援マニュアルを作成した。
2)本人本位のケアにおける支援手法の適用と評価
支援・評価のための共通シートパックと支援・評価ガイド試案の試行調査の結果、本人の自立した行動の増加などの効果が確認された。また、ケア職員についても、ケアチーム内での支援方針や支援策が改善されるなどの効果が確認された。
3)早期に実用化が必要な支援機器の開発
電子カレンダーについて、カスタマイズに重点をおいたタブレットPC版の改良を行うとともに、製品化に向けて、より安価なタブレット版電子カレンダーの仕様を提案した。
以上を基に、機器を用いた自立支援手法として、地域で暮らす認知症者に対し、従来のケアで用いられていたアセスメントシートを使って機器のニーズを抽出し、本研究で開発した支援ガイド、自立支援機器の利活用支援マニュアルを参考に、ニーズに合った機器を選択、適合して支援を行い、生活活動の自立を図る支援モデルを提案した。

公開日・更新日

公開日
2013-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201218002B
報告書区分
総合
研究課題名
支援機器を用いた認知症者の自立支援手法の開発
課題番号
H22-認知症-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
井上 剛伸(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所福祉機器開発部)
研究分担者(所属機関)
  • 石渡 利奈(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所福祉機器開発部)
  • 上村 智子(信州大学医学部保健学科)
  • 関川 伸哉(東北福祉大学総合福祉学部)
  • 種村 留美(神戸大学大学院保健学研究科)
  • 永田 久美子(認知症介護研究・研修東京センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
認知症者の地域での暮らしの継続を支援するため、機器による認知症者の自立支援手法のモデルを確立することを目的とする。このため、包括的ケアの中で支援が不足している基本的ADLと家事以外の生活活動(服薬管理、コミュニケーションと娯楽、家庭用品管理、日時把握)に着目し、1)適合技術の開発、2)本人本位のケアにおける支援手法の適用と評価、3)早期に実用化が必要な支援機器の開発を行うことを目標とした。
研究方法
1)CDR0.5-2の認知症者を対象とし、服薬支援機器(19名)、電子カレンダー(16名)、探し物発見器(8名)、簡易テレビリモコン(14名)を用いた介入評価を行った。介入前後で質問紙調査(自立度や介護負担)、インタビュー調査(機器の利用状況、利点、問題点)、認知機能検査(MMSE、CDR)を行った。介入結果より、機器の効果、適用範囲、適切な介入方法を明らかにし、支援者を対象とする自立支援機器の利活用支援マニュアルを作成した。
2)軽度~中等度のアルツハイマー型認知症者6名を対象に、センター方式を用いたアセスメントから支援機器のニーズを抽出した。また、本人の機器の利活用を支援するための情報や評価のあり方に関するケア関係者のヒアリング調査を実施し、支援・評価のための共通シートパックと支援ガイド試案を作成した。10名を対象に試行調査を行い、ガイド試案を改良した。最後に、10名を対象に、改良版の6か月間の試行調査を実施し、有効性を評価した。
3)服薬支援機器:海外製品の課題および国内の認知症者のニーズ分析を行い、日本の認知症高齢者に対応した機器の概念設計を行った。
電子カレンダー:タブレットPCを用いたプロトタイプを開発し、MCI、軽度認知症者を対象に、臨床評価を実施、製品化に向けた改良を行った。
以上を基に、機器を用いた自立支援手法を提案した。
結果と考察
1)服薬支援機器:適切な介入のための「記憶補助具を用いた服薬支援プログラム」を開発した。プログラムの成果として、1ヶ月後に16名(84%)の服薬の自立度が向上し、内14名は、3ヶ月後もその状態を維持した。
電子カレンダー:LED版電子カレンダーの使用により、介入1ヶ月後に7名中5名(71%)、3ヶ月後に6名(85%)の自立度が向上した。また、タブレットPC版電子カレンダーの使用により、介入1ヶ月後に9名中7名(77%)、3ヶ月後に5名(33%)の自立度が向上した。
探し物発見器:介入後、生活全般の探し物の回数が減り、機器活用による支援の有効性が示唆された。また、機器の利点は、探し物が見つかること以上に「安心できる」点が評価されており、心理的な負担軽減の効果が期待された。
簡易テレビリモコン:認知機能低下者では、操作ボタン数を減らし、順送りでチャンネルを変える方式のリモコンが操作しやすいことが明らかになった。このことから、認知機能低下者に、操作を単純にした簡易家電製品が役立つ可能性が示唆された。
以上の結果に基づいて、自立支援機器の利活用支援マニュアルを作成した。
2)共通シートパックや支援ガイドをケア関係者が活用することで、本人の居住の場やサービス種別を問わず、支援機器利活用・支援のニーズを具体的に明らかにすることが可能となり、支援プランの作成・支援の実際・モニタリング・評価の一連のプロセスを日常業務の中で実施可能であることが確認された。
3)服薬支援機器:日本の認知症高齢者に対応した機器のコンセプトを提案した。
電子カレンダー:タブレットPCを用い、日付、曜日、時間帯、予定を表示するプロトタイプを製作し、カスタマイズ機能に重点をおいた改良を行った。
結論
1)
・機器の介入評価により、自立支援における機器の有効性を明らかにし、適切な介入方法等の知見を得た。
・家族、支援者を対象とした自立支援機器の利活用支援マニュアルを作成した。
2)
・支援・評価のための共通シートパックと支援ガイド試案を作成した。
・共通シートパック、支援ガイド試案を用いた試行調査の結果、本人の自立した行動の増加などの効果が確認され、本手法により、通常のケア業務の中で、本人のニーズを抽出し、機器を用いた支援が可能であることが確かめられた。
3)
・日本の認知症高齢者に対応した服薬支援機器のコンセプトを提案した。
・カスタマイズ可能な電子カレンダーの実用版プロトタイプを開発した。

以上を基に、機器を用いた自立支援手法として、地域で暮らす認知症者に対し、従来のケアで用いられていたアセスメントシートを使って機器のニーズを抽出し、本研究で開発した支援ガイド、自立支援機器の利活用支援マニュアルを参考に、ニーズに合った機器を選択、適合して支援を行い、生活活動の自立を図る支援モデルを提案した。

公開日・更新日

公開日
2013-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201218002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
認知症者を対象とした機器の有効性評価は、対象者の特性や背景の多様性、倫理的観点などから対照群を作ることが難しく、これまでは、事例報告段階の研究がほとんどであった。本研究では、自身を対照とする前後比較デザインを用いた評価を行い、服薬支援機器の評価では、19名を対象とした評価結果を海外誌に発表した。本研究で用いた手法や成果は、今後、認知症者の支援機器研究の推進を図る上で、貴重な知見になると考えられる。平成26年度日本認知症ケア学会石崎賞受賞。
臨床的観点からの成果
認知症者のケアは、従来人的支援を中心に行われてきたが、近年、海外では、機器を用いた支援が取り組まれるようになった。本研究では、国内での機器を用いた自立支援を実現するため、臨床評価を元に、機器の効果、適用範囲、適切な介入方法を明らかにし、現場で実践可能な自立支援手法を提案した。本研究で開発した支援ガイド、支援マニュアルは、臨床での支援に直接資する支援ツールであり、機器を用いた支援への社会的関心も高まっていることから、今後の活用が期待される。
ガイドライン等の開発
本研究では、本人の機器の利活用を支援者が支援するための「支援ガイド」、および以下4つの「自立支援機器の利活用支援マニュアル」を開発した。
平成26年度介護保険福祉用具・住宅改修検討会にて、種目見直しの資料となった。
その他行政的観点からの成果
認知症高齢者数は、2015年に250万人に達すると推計される。本研究による機器を用いた手法の提案は、少子高齢化による介護力不足の対処にも役立つ。社会的な背景からも、機器を用いた支援への要請は高まっており、本研究は、認知症者が住み慣れた地域で住み続けられるための支援を検討することを目的とした認知症支援機器ワークショップの立ち上げにも貢献している。
その他のインパクト
第7回認知症のある人の福祉機器シンポジウム―機器が拓く認知症のある人の地域での暮らし―を開催した。
NHKニュース7 2013年3月17日19:00-19:30日本語版、英語版、NHKニュース 2013年3月17日20:45-21:00の中で、同シンポジウムの内容が報道された。
また、読売新聞の連載記事「医療ルネサンス」で、研究内容が2013年5月22日~5回に渡り紹介された。
その他、一般紙誌「地域ケアリング」、「認知症ケア最前線」、「地域リハビリテーション」等で研究内容が紹介された。
また、2014年5月31日、第15回日本認知症ケア学会での自主企画に採用され、「軽度認知症高齢者の暮らしを支える機器と活用事例」の報告を行い、学会参加者およそ300名に適合マニュアルを配布した。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
14件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tomoko Kamimura,Rina Ishiwata,Takenobu Inoue
Medication Reminder Device for the Elderly Patients With Mild Cognitive Impairment
American Journal of Alzheimer’s Disease & Other Dementias , 27 (4) , 238-242  (2012)
原著論文2
石渡利奈,井上剛伸,鎌田実他
発話・行動分析に基づく認知症者を対象としたスケジュール呈示機器の有効性長期評価
バイオメカニズム学会誌 , 37 (1) , 58-64  (2013)
原著論文3
関川伸哉,石渡利奈,上村智子他
探し物発見器を用いた生活支援に関する研究―認知症介護の課題と機器の臨床評価について―
POアカデミージャーナル , 20 (2) , 109-113  (2012)
原著論文4
上村 智子
記憶障害のある独居高齢者の服薬自己管理のための支援 アラーム付き薬入れを用いて
作業療法 , 30 (3) , 363-368  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
2016-06-29

収支報告書

文献番号
201218002Z