視線行動に着眼した転倒・骨折予防プログラム(MTSトレーニング)の開発

文献情報

文献番号
201217014A
報告書区分
総括
研究課題名
視線行動に着眼した転倒・骨折予防プログラム(MTSトレーニング)の開発
課題番号
H23-長寿-若手-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
山田 実(京都大学医学研究科 人間健康科学系専攻)
研究分担者(所属機関)
  • 青山 朋樹(京都大学医学研究科 人間健康科学系専攻 )
  • 市橋 則明(京都大学医学研究科 人間健康科学系専攻 )
  • 土井 剛彦(国立長寿医療研究センター)
  • 浅井 剛(神戸学院大学 )
  • 竹内 一馬(京都精華大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
1,819,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々はこれまでの研究によって、歩行時の足元に対する注意要求課題を課した際(Multi-Target Stepping Test; MTST)、転倒リスクの高い高齢者ではエラーが多くみられることを確認した。また、MTST遂行中の視線行動を計測したところ、転倒者では足元に近い箇所に視線が集中していたのに対して、非転倒者では数歩先に視線が集中しているという特徴を捉えた。このようなことから、MTS遂行能力を強化するようなプログラム(MTSプログラム)を実施することで、視線行動やMTS遂行能力が向上し転倒予防に有用であるのかを検証した【課題A】。さらに、MTSトレーニングの汎用性を検証する目的で、MTSトレーニング開始後どのくらいの時期から転倒予防効果が現れ始めるのかを検証した【課題B】。
研究方法
【課題A】研究デザインは無作為化比較対照試験であり、要支援高齢者264名をMTS群とコントロール群の2群に分類した。両群ともに有酸素運動、レジスタンストレーニング、ストレッチ等の30分の標準的な介入を週に2回の頻度で24週間実施した。加えて、MTS群にはMTSプログラムを、コントロール群には単純な歩行プログラムを実施した。MTSプログラムは10mのMTSマットを利用して、週に2回、1回につき4回実施するものである。視線等に対して特別な指示は与えず、エラーがなく適切に行えているのかどうかのフィードバックのみ行うようにした。主要なアウトカムは介入期間終了後1年間に発生した転倒数および骨折数とし、副次アウトカムを運動機能とした。なお、両群ともランダムに視線行動計測対象者を10名ずつ抽出し、介入前後に視線解析装置を用いてMTST遂行中の視線行動を計測した。
【課題B】研究デザインは非無作為化比較対象試験である。8つのデイサービスセンターのうち、MTSトレーニングのみを実施する4施設をMTS群270名(78.8±9.5)、残りの4施設をコントロール群405名(79.2±9.0)とした。MTS群には6ヶ月間の介入期間を設け、週に2回の頻度でMTSトレーニングを実施し、コントロール群には特に何も実施しない。トレーニング開始時からの転倒発生を記録し、介入終了の6ヶ月までの転倒発生とその発生日より生存分析を行った。
結果と考察
【課題A】両群ともに脱落者が発生したため、MTS群112名(76.2±8.5歳)、コントロール群118名(77.2±7.6歳)を解析対象とした。ベースライン時の測定値を共変量とした二元配置共分散分析によって運動機能の向上効果を検証したところ、10m歩行時間とTUG、それにMTSテストにおいて有意な交互作用を認めMTS群で改善していた(P<0.05)。視線行動解析の結果でも有意な交互作用を認め、MTS群では介入後に視線が前方に推移していた(P<0.05)。転倒発生ではMTS群で13名(11.6%)が転倒したのに対して、コントロール群は39名(33.0%)であり、MTS群で有意に転倒数を抑制することが可能であった(IRRs = 0.35, 95% CI = 0.19&#8211;0.66)。また骨折発生でもMTS群で3名(2.6%)が骨折したのに対して、コントロール群は13名(11.0%)であり、MTS群で有意に骨折数を抑制することが可能であった(IRRs = 0.24, 95% CI = 0.09&#8211;0.85)。これらの結果より、週2回24週間のMTSトレーニングには、視線行動を最適化させることで足元に対する注意要求課題への対応能力を向上させたことに加えて、移動能力を向上させることで、転倒・骨折の予防に有用であったと言える。
【課題B】MTS群では42名(15.5%)の転倒発生であったのに対して、コントロール群では123名(30.4%)の転倒発生となった。年齢、性別、要介護度で調整したCox比例ハザード分析より、MTSトレーニングはハザード比0.488(95%CI: 0.344-0.693)と有意に転倒発生を抑制していた。さらにKaplan-Meier曲線を描いたところ、MTSトレーニング開始60日目以降より徐々に効果が現れ始めることが分かった。
結論
課題AよりMTSトレーニングには視線行動を最適化させることで足元に対する注意要求課題への対応能力を向上させたことに加えて、移動能力を向上させることで、転倒・骨折の予防に有用であった。さらに、課題BよりMTSトレーニングは標準的なトレーニングがなくとも明確な転倒予防効果が認められること、およびトレーニング開始60日目以降より効果が現れ始めることが示唆された。MTSトレーニングの指導には特別な能力は不要であり、どのような指導者でも統一した指導を行うことができる。

公開日・更新日

公開日
2013-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201217014B
報告書区分
総合
研究課題名
視線行動に着眼した転倒・骨折予防プログラム(MTSトレーニング)の開発
課題番号
H23-長寿-若手-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
山田 実(京都大学医学研究科 人間健康科学系専攻)
研究分担者(所属機関)
  • 青山 朋樹(京都大学医学研究科 人間健康科学系専攻)
  • 市橋 則明(京都大学医学研究科 人間健康科学系専攻)
  • 土井 剛彦(国立長寿医療研究センター)
  • 浅井 剛(神戸学院大学)
  • 竹内 一馬(京都精華大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々はこれまでの研究によって、歩行時の足元に対する注意要求課題を課した際(Multi-Target Stepping Test; MTST)、転倒リスクの高い高齢者ではエラーが多くみられることを確認した。また、MTST遂行中の視線行動を計測したところ、転倒者では足元に近い箇所に視線が集中していたのに対して、非転倒者では数歩先に視線が集中しているという特徴を捉えた。このようなことから、MTS遂行能力を強化するようなプログラム(MTSプログラム)が簡便に実施できるトレーニング用マットを作成し【課題A】、そのMTSプログラムを実施することで、視線行動やMTS遂行能力が向上し転倒予防に有用であるのかを検証した【課題B】。さらに、MTSトレーニングの汎用性を検証する目的で、MTSトレーニング開始後どのくらいの時期から転倒予防効果が現れ始めるのかを検証した【課題C】。
研究方法
【課題B】研究デザインは無作為化比較対照試験であり、要支援高齢者264名をMTS群とコントロール群の2群に分類した。両群ともに30分間の標準的な介入を週に2回の頻度で24週間実施した。加えて、MTS群にはMTSプログラムを、コントロール群には単純な歩行プログラムを実施した。MTSプログラムは10mのMTSマットを利用して、週に2回、1回につき4回実施するものである。視線等に対して特別な指示は与えず、エラーがなく適切に行えているのかどうかのフィードバックのみ行うようにした。主要なアウトカムは介入期間終了後1年間に発生した転倒数および骨折数とし、副次アウトカムを運動機能とした。なお、両群ともランダムに視線行動計測対象者を10名ずつ抽出し、介入前後に視線解析装置を用いてMTST遂行中の視線行動を計測した。
【課題C】研究デザインは非無作為化比較対象試験である。8つのデイサービスセンターのうち、MTSトレーニングのみを実施する4施設をMTS群270名(78.8±9.5)、残りの4施設をコントロール群405名(79.2±9.0)とした。MTS群には6ヶ月間の介入期間を設け、週に2回の頻度でMTSトレーニングを実施し、コントロール群には特に何も実施しない。トレーニング開始時からの転倒発生を記録し、介入終了の6ヶ月までの転倒発生とその発生日より生存分析を行った。
結果と考察
【課題B】両群ともに脱落者が発生したため、MTS群112名(76.2±8.5歳)、コントロール群118名(77.2±7.6歳)を解析対象とした。ベースライン時の測定値を共変量とした二元配置共分散分析によって運動機能の向上効果を検証したところ、10m歩行時間とTUG、それにMTSテストにおいて有意な交互作用を認めMTS群で改善していた(P<0.05)。視線行動解析の結果でも有意な交互作用を認め、MTS群では介入後に視線が前方に推移していた(P<0.05)。転倒発生ではMTS群で13名(11.6%)が転倒したのに対して、コントロール群は39名(33.0%)であり、MTS群で有意に転倒数を抑制することが可能であった(IRRs = 0.35, 95% CI = 0.19&#8211;0.66)。また骨折発生でもMTS群で3名(2.6%)が骨折したのに対して、コントロール群は13名(11.0%)であり、MTS群で有意に骨折数を抑制することが可能であった(IRRs = 0.24, 95% CI = 0.09&#8211;0.85)。これらの結果より、週2回24週間のMTSトレーニングには、視線行動を最適化させることで足元に対する注意要求課題への対応能力を向上させたことに加えて、移動能力を向上させることで、転倒・骨折の予防に有用であったと言える。
【課題C】MTS群では42名(15.5%)の転倒発生であったのに対して、コントロール群では123名(30.4%)の転倒発生となった。年齢、性別、要介護度で調整したCox比例ハザード分析より、MTSトレーニングはハザード比0.488(95%CI: 0.344-0.693)と有意に転倒発生を抑制していた。さらにKaplan-Meier曲線を描いたところ、MTSトレーニング開始60日目以降より徐々に効果が現れ始めることが分かった。
結論
課題BよりMTSトレーニングには視線行動を最適化させることで足元に対する注意要求課題への対応能力を向上させたことに加えて、移動能力を向上させることで、転倒・骨折の予防に有用であった。さらに、課題CよりMTSトレーニングは標準的なトレーニングがなくとも明確な転倒予防効果が認められること、およびトレーニング開始60日目以降より効果が現れ始めることが示唆された。MTSトレーニングの指導には特別な能力は不要であり、どのような指導者でも統一した指導を行うことができる。

公開日・更新日

公開日
2013-08-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201217014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
視線行動を最適化させることで足元に対する注意要求課題への対応能力を向上させることによって、転倒予防効果が認められたという点は新規性があり、新たな転倒予防の概念を提唱したといえる。また、トレーニング開始より60日目以降に効果が認められることを確認している点で、高い汎用性も期待できる。
臨床的観点からの成果
MTSトレーニングは、特に専門的な知識を有していなくても指導を行うことが可能であり、各自治体が実施している介護予防事業やデイサービスなど様々な領域での利用が可能である。このように、高い専門性を必要とせずに、広く汎用できるトレーニングを開発できた点は意義深い。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
MTSトレーニングは、その新規性、有用性、それに高い汎用性からマスコミにも取り上げられた(新聞、テレビ)。また、日本健康支援学会のワークショップをはじめ幾つかの学会やセミナーにて、MTSトレーニングを紹介した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
38件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-10-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
201217014Z