粘膜型マスト細胞特異的抗体ライブラリを用いたアレルギー・炎症性疾患の早期診断・治療法の開発

文献情報

文献番号
201212016A
報告書区分
総括
研究課題名
粘膜型マスト細胞特異的抗体ライブラリを用いたアレルギー・炎症性疾患の早期診断・治療法の開発
課題番号
H23-医療機器-若手-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
國澤 純(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年患者数が爆発的に増加しているアレルギー炎症性疾患においてマスト細胞が主要エフェクター細胞の一つとして知られている。本研究では、マスト細胞特異的抗体を用いた新規予防・診断・治療戦略の確立を目指した研究を遂行している。
最近の研究から、免疫学的機能の異なるマスト細胞サブセットの存在が示唆されているが、その特異的分子や分化経路についてはほとんど解明されていない。このような背景のもと、これまでに研究代表者は病態形成に関わるマスト細胞を特異的に識別できる抗体の樹立を試み、現在までに6種類のマスト細胞特異的抗体を樹立することに成功している。本事業においては研究代表者が世界に先駆け独自に樹立した粘膜型マスト細胞特異的抗体の認識分子の同定を進めていくと同時に、食物アレルギーや炎症性腸疾患モデルを用い、治療や予防、診断への応用を進める。これにより、粘膜型マスト細胞の特異性に立脚した早期診断技術と粘膜型マスト細胞を標的とした抗体療法の確立を目指す。
研究方法
野生型もしくはP2X7欠損マウス由来の骨髄細胞よりマスト細胞(BMMC)を誘導し、ATP(0.5mM)で刺激した。一部の実験では刺激する際にclone 1F11抗体で処理を行った。刺激後のCD63分子の発現率をフローサイトメトリー法で定量した。
さらにin vivoにおけるマスト細胞上のP2X7の役割を検討する目的で、上記の方法により誘導したBMMCを、マスト細胞欠損マウスに投与しマスト細胞を再構築した。投与3ヶ月後にトリニトロベンゼンスルホン酸の直腸投与による炎症性腸疾患モデルを適用し、マウスの体重変化を測定した。さらにトリニトロベンゼンスルホン酸投与4日後に大腸マスト細胞の活性化を細胞表面でのCD63分子の発現を指標にフローサイトメトリーにて測定した。
健常人、クローン病、潰瘍性大腸炎の腸管組織切片を用い、抗ヒトP2X7抗体と抗マスト細胞抗体による組織染色を行った。
結果と考察
本事業における昨年度の研究から得られた知見をもとに、本年度はclone 1F11の作用機序の解明、ならびにclone 1F11の認識分子であるP2X7の役割について解析を進めた。骨髄由来マスト細胞を用いたin vitroの解析から、clone 1F11で前処理したマスト細胞では、細胞外ATPの刺激による活性化が抑制されること、同様に P2X7欠損マウス由来マスト細胞も細胞外ATPによる活性化が起こらないことを示した。このことから、細胞外ATPはP2X7依存的にマスト細胞を活性化させること、活性化に伴う炎症性サイトカインや脂質メディエーターの産生が、マスト細胞による腸炎増悪化に関与している可能性が示された。
またin vivoにおけるマスト細胞とP2X7の関与を検討する目的で、マスト細胞欠損マウスに野生型もしくはP2X7欠損マスト細胞を再構築した。これらのマウスにTNBS誘導性の炎症性腸疾患モデルを適用したところ、野生型マスト細胞で再構築した群では腸炎の増悪化が観察されたのに対し、P2X7欠損マスト細胞で再構築した群においては腸炎の発症が有意に抑制されていた。さらに、P2X7欠損マスト細胞再構築群において、マスト細胞の活性化率が低下していることも確認した。P2X7はマスト細胞以外にも樹状細胞やT細胞にも発現しているが、今回の結果からマスト細胞を介したATP-P2X7依存的な活性化が炎症性腸疾患の発症における重要な経路であることが示された。
これらの知見をもとに炎症性腸疾患の方の大腸組織でのマスト細胞上のP2X7の発現を確認したところ、クローン病患者の大腸においてマスト細胞のP2X7の発現が増強していた。一方、もう一つの代表的炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎においては、健常人と同様、マスト細胞上にP2X7の発現が認められなかった。このことは少なくともクローン病の発症においてP2X7が関与していること、またマスト細胞上のP2X7の発現を指標にした診断が可能であることを示唆する結果であると考える。マウスのマスト細胞においては、恒常的なP2X7の発現が見られるのに対し、ヒトにおいてはP2X7を発現しないのがデフォルトとなっている。今後、マウスとヒトにおける発現機序の違いを認識しながら、発現制御メカニズムを解明することで、炎症性腸疾患に対する新たな治療戦略が提唱できるものと期待される。
結論
マスト細胞特異的抗体ライブラリを用いた検証から、腸管マスト細胞に強く発現するP2X7が炎症性腸疾患の発症に深く関わっていること、またヒトクローン病においても、マスト細胞でのP2X7の発現が認められたことから、マスト細胞上のP2X7の発現がクローン病における診断や治療標的として有効である可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2013-09-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201212016B
報告書区分
総合
研究課題名
粘膜型マスト細胞特異的抗体ライブラリを用いたアレルギー・炎症性疾患の早期診断・治療法の開発
課題番号
H23-医療機器-若手-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
國澤 純(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年患者数が爆発的に増加しているアレルギー炎症疾患においてマスト細胞が主要エフェクター細胞の一つとして知られている。本研究では、研究代表者が樹立したマスト細胞特異的抗体を用い、アレルギー炎症性疾患の主要発症部位である粘膜組織に存在するマスト細胞を標的とした新規予防・診断・治療戦略の確立を目指した研究を進める。
研究方法
1. 食物アレルギーや炎症性腸疾患に対する抗体の効果を検証する目的で、OVA誘導性食物アレルギーモデルやトリニトロベンゼンスルホン酸投与による炎症性腸疾患モデルを用いた。これらの疾患を誘導する過程において、樹立抗体を尾静脈ならびに腹腔へ投与し病態形成を解析した。
2. 効果が得られた抗体については、マスト細胞溶解液からの免疫沈降サンプルを用い、質量分析法により認識分子の同定を行った。
3. 野生型もしくはP2X7欠損マウスから骨髄由来マスト細胞を誘導し、ATP(0.5mM)で刺激した。一部の実験では刺激する際にclone 1F11抗体で処理を行った。刺激後のマスト細胞の活性化を検証した。
4. in vivoにおけるマスト細胞上のP2X7の役割を検討する目的で、マスト細胞欠損マウスに上記の方法により誘導した骨髄由来マスト細胞を再構築した。マスト細胞再構築マウスにトリニトロベンゼンスルホン酸投与による炎症性腸疾患を誘導し、病態形成を解析した。
5. 健常人、クローン病、潰瘍性大腸炎の腸管組織切片を用い、抗ヒトP2X7抗体と抗マスト細胞抗体による組織染色を行った。
結果と考察
各種マウス疾患モデルを用いた解析から、樹立した抗体のうち、clone 1F11は炎症性腸疾患モデルにおいて病態形成を抑制できることが判明した。さらに炎症性腸疾患を発症したマウスの大腸組織において検出されるマスト細胞にclone1F11は反応することを確認した。
clone1F11による免疫沈降物を用いた質量分析により、clone 1F11は細胞外ATP受容体の一つであるP2X7を認識していることが判明した。骨髄由来マスト細胞を用いたin vitroの解析から、ATPをマスト細胞に添加した際に炎症性サイトカイン(TNF、IL-6)や脂質メディエーター(ロイコトリエンB4、C4)の産生が確認されたが、これらの炎症性物質の産生は培養系にclone 1F11を添加することにより抑制された。更に P2X7欠損マスト細胞においても同様にATPによる活性化が起こらないことが判明した。
またin vivoにおけるマスト細胞とP2X7の関与を検討する目的で、マスト細胞欠損マウスに野生型もしくはP2X7欠損マスト細胞を再構築した。これらのマウスにトリニトロベンゼンスルホン酸誘導性の炎症性腸疾患モデルを適用したところ、野生型マスト細胞で再構築した群では腸炎の増悪化が観察されたのに対し、P2X7欠損マスト細胞で再構築した群においては腸炎の発症が有意に抑制されていた。さらに、P2X7欠損マスト細胞再構築群において、マスト細胞の活性化率が低下していることも確認した。P2X7はマスト細胞以外にも樹状細胞やT細胞にも発現しているが、今回の結果からマスト細胞を介したATP-P2X7依存的な活性化が炎症性腸疾患の発症における重要な経路であることが示された。
これらの知見をもとに炎症性腸疾患患者の大腸組織でのマスト細胞上のP2X7の発現を確認したところ、クローン病患者の大腸においてマスト細胞のP2X7の発現が増強していた。一方、もう一つの代表的炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎においては、健常人と同様、マスト細胞上にP2X7の発現が認められなかった。このことは少なくともクローン病の発症においてP2X7が関与していること、またマスト細胞上のP2X7の発現を指標にした診断が可能であることを示唆する結果であると考える。マウスのマスト細胞においては、恒常的なP2X7の発現が見られるのに対し、ヒトにおいてはP2X7を発現しないのがデフォルトとなっている。今後、マウスとヒトにおける発現機序の違いを認識しながら、発現制御メカニズムを解明することで、炎症性腸疾患に対する新たな治療戦略が提唱できるものと期待される。
結論
樹立したマスト細胞特異的抗体ライブラリから炎症性腸疾患に有効なclone 1F11抗体を見いだし、その認識抗原として細胞外ATP受容体の一つであるPx2X7を同定した。clone 1F11抗体を用いた検証から、腸管マスト細胞に強く発現するP2X7が炎症性腸疾患の発症に深く関わっていること、またヒトクローン病においても、マスト細胞でのP2X7の発現が認められたことから、マスト細胞上のP2X7の発現がクローン病における診断や治療標的として有効である可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2013-09-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201212016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本事業で樹立したマスト細胞特異的抗体ライブラリを用いることで、炎症性腸疾患におけるマスト細胞の核酸を介した活性化、さらにはレチノイン酸誘導性の皮膚炎のメカニズムの解明を行った。これらは今までアレルギーの悪玉細胞としてのみ注目されていたマスト細胞の新たな一面を示す学術的重要性の高い知見であると言える。
臨床的観点からの成果
今回マウスを用いた基礎検討から明らかとなった細胞外核酸(ATP)受容体であるP2X7を介したマスト細胞の活性化と炎症性腸疾患との関連が、ヒトの炎症性腸疾患の一つであるクローン病の患者においても認められたこと、さらには臨床的にも問題となっているレチノイン酸誘導皮膚炎のメカニズムを解明出来たことから、今回得られた基礎的知見は臨床的にも関連する現象と言える。
ガイドライン等の開発
今のところ、今回得られた知見をもとにしたガイドラインの開発はされていないが、今後研究を進めていくことで、核酸、マスト細胞、ビタミン、炎症という観点からのガイドライン開発につながる重要な情報になると考えられる。
その他行政的観点からの成果
今回得られた知見はまだ審議会等で参考にされたことはないが、今後、研究を進めていくことで、炎症性疾患などに関するガイドラインの作成において、核酸、マスト細胞、ビタミン、炎症という観点から重要な情報になると考えられる。
その他のインパクト
本事業の内容の一部は、Nature姉妹紙であるNature CommunicationsならびにCell姉妹紙のImmunityに掲載され、Nature-AsiaやNature Medicine、Webマスコミを始めとする各種マスコミ等で取り上げられ、一般にも広く注目されている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Y. Kurashima, T. Amiya, T. Nochi, et al
ATP mediates mast cell–dependent intestinal inflammation through P2X7 purinoceptors
Nat Commun , 3 , 1034-  (2012)
原著論文2
M. Kinoshita, H. Kayama, T. Kusu, et al
Dietary folic acid promotes survival of Foxp3+ regulatory T cells in the colon
J Immunol , 189 , 2869-2878  (2012)
原著論文3
J. Kunisawa, E. Hashimoto, I. Ishikawa, et al
A pivotal role of vitamin B9 in the maintenance of regulatory T cells in vitro and in vivo
PLoS One , 7 , 32094-  (2012)
原著論文4
D. Y., Kim, A. Sato, S. Fukuyama, etal,
The airway antigen sampling system: respiratory M cells as an alternative gateway for inhaled antigens
J Immunol , 186 , 4253-4262  (2011)
原著論文5
1 Y. Kurashima, T. Amiya, K. Fujisawa, et al
The enzyme Cyp26b1 mediates inhibition of mast cell activation by fibroblasts to maintain skin-barrier homeostasis
Immunity , 40 , 530-541  (2014)
10.1016/j.immuni.2014.01.014

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2017-06-20

収支報告書

文献番号
201212016Z