細胞特異的・高効率なsiRNA送達法の開発と難治性肝疾患治療への展開

文献情報

文献番号
201212004A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞特異的・高効率なsiRNA送達法の開発と難治性肝疾患治療への展開
課題番号
H22-低侵襲-若手-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
川上 茂(京都大学 大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
核酸の高効率なin vivo送達は、小動物を用いて原発臓器・細胞を対象とした遺伝子機能解析並びに病態モデル動物作成による創薬標的遺伝子/タンパク質および治療薬探索や直接作用を発揮させる遺伝子治療を通じて、創薬のためのライフサイエンス研究の進展に貢献する。その実現のためには、標的細胞に核酸医薬を送達する技術の開発が不可欠であり、現在、世界中でベクター開発が活発に行われている。とりわけ近年、siRNAを用いた標的指向DDS送達による治療効果に関する報告がなされ、今後の医療展開が期待されている。
本研究の目的は、糖修飾リポソームによる細胞特異的・高効率なsiRNA送達法を開発し、難治性肝疾患治療への応用を目指すことである。本年度は、昨年度開発したマンノース6リン酸(M6P)修飾リポソーム/siRNA (gp46) 複合体を用い、マウス肝線維症モデルでの体内動態特性、薬理効果の評価を行った。
研究方法
siRNA (gp46) を搭載させたM6P修飾リポソームあるいはバブルリポソーム製剤設計の最適化を行い、ζ電位、平均粒子径などの物理化学的性質を評価した。次に、四塩化炭素誘発性肝硬変モデルマウスを作成し、M6P修飾リポソーム/siRNA (gp46) 複合体の体内動態、肝細胞分布、遺伝子およびタンパク質(gp46)発現の定量的評価を行った。最後に、四塩化炭素誘発性肝硬変モデルマウスに対して、M6P修飾リポソーム/siRNA(gp46)複合体を投与し、肝硬変に対する治療効果を評価した。また、核酸、カチオン性高分子、アニオン性リポソームを様々な比率で混合し、三元複合体であるアニオン性ナノバブルリポポリプレックスを調製した。
結果と考察
gp46はコラーゲン産生に関与するシャペロンタンパク(ヒトにおいてはHSP47)であり、肝硬変病態時において発現誘導されることが報告されており、当該遺伝子の抑制によりコラーゲン産生が抑制され、肝硬変進行の抑制並びに治療が達成されると考えられる。そこで、gp46に対するsiRNAを設計し、肝星(伊東)細胞へ送達後のgp46遺伝子ノックダウン効果と肝硬変に関連する各種マーカー遺伝子の発現変動の評価を行った。物理化学的性質は、昨年度の報告とほぼ同程度であることを確認した。肝星(伊東)細胞は、コラゲナーゼ灌流法において、肝臓非実質細胞区分に回収されると考えられる。そこで肝硬変モデルマウスにおいて、M6P修飾リポソーム/siRNA (gp46)複合体をマウス尾静脈内投与し、肝臓をコラゲナーゼ還流法を用いて分離したところ、肝臓非実質細胞への選択的な集積が認められた。gp46の有意なノックダウン効果が認められた。さら肝硬変マーカーとして肝臓内のgp46,alfa-平滑筋アクチン (alfa-smooth muscle actin;alfa-SMA), procollagen-1ならびに組織メタロプロテアーゼ阻害物質-1 (Tissue Inhibitor of Metalloproteinase-1; TIMP-1) mRNAの有意な抑制効果が認められた。また、2010年度に開発した肝臓類洞血管内皮細胞への高効率なsiRNA導入を達成することができる超音波応答性マンノース修飾バブルリポソームは、正電荷を有しているため負電荷を有する赤血球と相互作用することが問題であった。そこでこの問題を解決するため、新たにアニオン性ナノバブルリポポリプレックスの調製法の開発を行い、マウス赤血球と相互作用は無いことが確認され、安全な核酸デリバリーが可能であることが示された。今後、本研究で得られた知見をもとに、アニオン性の物理化学的性質を有する糖修飾ナノバブルリポポリプレックスの開発を行っていく予定である。
結論
肝硬変モデルマウスにおいて、M6P修飾リポソーム/siRNA複合体が肝硬変治療へ応用できる可能性が示された。また、高効率な核酸送達を可能とする超音波応答性のアニオン性ナノバブルリポポリプレックスの新規調製法の開発に成功した。

公開日・更新日

公開日
2017-06-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201212004B
報告書区分
総合
研究課題名
細胞特異的・高効率なsiRNA送達法の開発と難治性肝疾患治療への展開
課題番号
H22-低侵襲-若手-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
川上 茂(京都大学 大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
核酸の高効率なin vivo送達は、小動物を用いて原発臓器・細胞を対象とした遺伝子機能解析並びに病態モデル動物作成による創薬標的遺伝子/タンパク質および治療薬探索や直接作用を発揮させる遺伝子治療を通じて、創薬のためのライフサイエンス研究の進展に貢献する。その実現のためには、標的細胞に核酸医薬を送達する技術の開発が不可欠であり、現在、世界中でベクター開発が活発に行われている。とりわけ近年、siRNAを用いた標的指向DDS送達による治療効果に関する報告がなされ、今後の医療展開が期待されている。
本研究は3年計画であり、1年目は、肝類洞血管内皮、2年目は肝星(伊東)細胞を標的とした高効率DDSキャリア構築、3年目は、肝硬変モデルマウスを用いてsiRNA DDSによる新規治療法開発が目標である。
研究方法
肝類洞血管内皮細胞、肝星(伊東)細胞指向性キャリアとしてそれぞれマンノース修飾リポソーム、マンノース6リン酸(M6P)修飾リポソームを調製した。また、マンノース修飾リポソームに関して体外からの超音波に応答し、標的細胞内へ核酸を高効率に送達させるため、超音波造影ガスであるパーフルオロプロパンガスをリポソームへ封入したバブルリポソーム製剤の調製をおこなった。さらに、アニオン性バブル製剤を開発するため、核酸、カチオン性高分子、アニオン性リポソームを様々な比率で混合し、三元複合体であるアニオン性ナノバブルリポポリプレックスを調製した。各種リポソームの物理化学的性質は、ゼータ電位と粒子径を指標に評価した。病態モデル動物としては、四塩化炭素投与や肝虚血再還流による急性肝炎モデルマウスおよび四塩化炭素の連続投与による肝硬変モデルマウスを用いて薬理効果を評価した。また、尾静脈内投与後の複合体の体内動態の評価をおこなった。さらに、M6P修飾リポソームの機能を評価するため、M6Pレセプターを高発現するB16BL6細胞、Colon26細胞等を用いた評価をおこなった。
結果と考察
超音波応答性マンノース修飾バブルリポソーム/siRNA(ICAM-1)複合体を調製した。本複合体の物理化学的性質として、粒子径とゼータ電位を評価したところ、それぞれ約550nm、50mVであった。本複合体をマウス尾静脈内投与し、肝臓上の対外から超音波照射を行うことで、マンノースレセプターが高発現する肝類洞血管内皮細胞内へsiRNAを高効率に送達できることが明らかとなった。また、マンノース修飾バブルリポソーム/siRNA(ICAM-1)複合体を投与し、体外から超音波照射したマウスに対して、四塩化炭素投与や肝虚血再還流による急性肝炎惹起をおこなったところ、投与群においては顕著な肝炎惹起の抑制効果を示した。次に、M6P修飾リポソーム/siRNA(gp46)複合体を調製した。本複合体の物理化学的性質として、粒子径を評価したところ、それぞれ約100nmであり、ゼータ電位はM6P修飾リポソームに占めるM6Pコレステロール誘導体の割合を2.5~40molと増加させていったところ約-2.3~-22.5mVとなり、修飾量の増大とともに負電荷が強くなった。これは、M6P中のリン酸基由来しているものと考えられる。培養細胞を用いて評価を行ったところ、M6Pレセプターを高発現している細胞において高い取り込みを示し、また、M6P修飾リポソームの糖密度の増加と共にその細胞取り込みは増大した。肝硬変モデルマウスへM6P修飾リポソーム/siRNA(gp46)複合体を投与したところ、肝星(伊東)細胞がある肝臓非実質細胞への高い取り込みを示し、また、gp46や各種肝硬変マーカー遺伝子の有意なノックダウン効果を示した。また、2010年度に開発した肝臓類洞血管内皮細胞への高効率なsiRNA導入を達成することができる超音波応答性マンノース修飾バブルリポソームは、正電荷を有しているため負電荷を有する赤血球と相互作用することが問題であった。そこでこの問題を解決するため、新たにアニオン性ナノバブルリポポリプレックスの調製法の開発を行い、マウス赤血球と相互作用は無いことが確認され、安全な核酸デリバリーが可能であることが示された。今後、本研究で得られた知見をもとに、アニオン性の物理化学的性質を有する糖修飾ナノバブルリポポリプレックスの開発を行っていく予定である。
結論
肝類洞血管内皮細胞、肝星(伊東)細胞への細胞選択的かつ高効率なsiRNA送達システムの開発に成功し、本キャリアシステムを用いたsiRNA送達による難治性肝疾患治療の可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2017-06-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201212004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
遺伝子・核酸の高効率なin vivo送達は、小動物を用いた遺伝子機能解析、病態モデル動物作成による創薬標的分子・治療薬探索、あるいは、遺伝子・核酸治療を通じて、創薬のためのライフサイエンス研究の進展に貢献します。本研究では、糖鎖による生体分子の特異的認識に基づくin vivo誘導あるいは超音波による細胞穿孔を組み合わせた高効率な標的指向DDSキャリアの開発とオリゴ核酸であるsiRNAへの適用に成功しました。
臨床的観点からの成果
siRNAを医薬品として応用する為には、標的細胞への高効率な標的指向DDS技術の開発が必要不可欠です。本研究では、肝類洞血管内皮並びに肝星(伊東)細胞を標的としたsiRNAの高効率送達法を開発し、マウス難治性肝炎や肝硬変モデルでの治療へと応用できる可能性が示されました。siRNAは多彩な標的分子に対する遺伝子ノックダウンが可能である為、今回開発した高効率な標的指向DDSは、難治性肝疾患に対する新しい治療法の開発に繋がるものと考えています。
ガイドライン等の開発
リポソーム製剤のガイドラインとしては、米国や欧米において、ドキソルビシン含有血中滞留性のポリエチレングリコール修飾リポソームが作成されていま。本研究では、リポソームに標的指向性を付与する為、糖鎖認識機構を利用することで細胞選択的送達を可能とする2種類の糖修飾リポソームあるいは超音波造影ガス封入バブルリポソーム製剤の開発を行った。本知見は、今後の発展が期待されている標的指向型あるいは超音波応答型リポソーム製剤のガイドライン作成に向けて有益な基礎的知見となると考えています。
その他行政的観点からの成果
DDSは、有効性、安全性、利便性の向上を通じて、侵襲性の軽減、コンプライアンス向上あるいは入院期間の短縮、外来処方化並びに併用薬の軽減を可能とし、費用対効果が期待できます。日本は急速な高齢化社会を迎えており、医薬品に対するニーズと期待は今後も益々大きくなることが予想され、難治性疾患に対する革新的な新薬の開発が求められています。本研究成果において、高効率な標的細胞へのsiRNA送達が可能になったことから、難治性疾患への治療への展開を通じて保健医療に貢献することが期待できる。
その他のインパクト
本研究の応用に密接に関連する学術集会である第17回遺伝子治療学会年会、第28回日本DDS学会学術集会年会のシンポジウムにおいて発表しました。学術的な評価としては、研究代表者が2012年度日本薬剤学会奨励賞を受賞し、また、薬事日報の研究戦略YAKU学―研究現場から臨床へ―No.71(2014年6月2日第11430号)において本研究成果が取り上げられました。さらに、研究成果での産学連携を目的として、京都大学 新技術説明会 材料・バイオ・装置やBioJapan2012において成果の一部を発表しました。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

特許の名称
アニオン性を有する新規ナノバブルポリ-リポ・プレックスの製造方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2012-181409
発明者名: 黑﨑友亮、川上 茂、橋田 充
権利者名: 京都大学
出願年月日: 20120820
国内外の別: 国内
特許の名称
単糖-6-リン酸修飾コレステロール誘導体含有製剤
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2012/072651
発明者名: 運 敬太、橋田 充、川上 茂、木曽 真、植木章晴、安藤弘宗
権利者名: 京都大学
出願年月日: 20120905
国内外の別: 国外

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
K. Un, S. Kawakami, R. Suzuki, et al.
Development of an ultrasound-responsive and mannose-modified gene carrier for DNA vaccine therapy
Biomaterials , 31 (30) , 7813-7826  (2010)
10.1016/j.biomaterials.2010.06.058
原著論文2
K. Un, S. Kawakami, R. Suzuki, et al.
Suppression of melanoma growth and metastasis by DNA vaccination using an ultrasound-responsive and mannose-modified gene carrier
Molecular Pharmaceutics , 8 (2) , 543-554  (2011)
10.1021/mp100369n
原著論文3
K. Un, S. Kawakami, M. Yoshida, et al.
The elucidation of gene transferring mechanism by ultrasound-responsive unmodified and mannose-modified lipoplexes
Biomaterials , 32 (2) , 4659-4669  (2011)
10.1016/j.biomaterials.2011.03.013
原著論文4
K. Un, S. Kawakami, M. Yoshida, et al.
Efficient suppression of ICAM-1 using ultrasound-responsive and mannose-modified lipoplexes inhibits acute hepatic inflammation
Hepatology , 56 (1) , 259-269  (2012)
10.1002/hep.25607
原著論文5
川上茂
外部刺激を利用したin vivo核酸デリバリー法の開発と評価
薬剤学 , 73 (3) , 153-160  (2013)
原著論文6
T. Kurosaki, S. Kawakami, Y. Higuchi, R. Suzuki, K. Maruyama, H. Sasaki, F. Yamashita, M. Hashida
Development of anionic bubble lipopolyplexes for efficient and safe gene transfection with ultrasound exposure in mice
Journal of Controlled Release , 176 , 24-34  (2014)
10.1016/j.jconrel.2013.12.023

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2015-06-18

収支報告書

文献番号
201212004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,500,000円
(2)補助金確定額
6,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,963,420円
人件費・謝金 0円
旅費 33,580円
その他 3,000円
間接経費 1,500,000円
合計 6,500,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-