漢方薬スクリーニングによる新規パーキンソン病治療成分の同定・その作用機序解明

文献情報

文献番号
201208008A
報告書区分
総括
研究課題名
漢方薬スクリーニングによる新規パーキンソン病治療成分の同定・その作用機序解明
課題番号
H22-創薬総合-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
服部 信孝(順天堂大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 斉木臣二(順天堂大学 医学部)
  • 舩山 学(順天堂大学 医学部)
  • 井本正哉(慶應義塾大学 理工学部)
  • 田代 悦(慶應義塾大学 理工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
漢方薬スクリーニングにてヒットした大黄甘草湯・調胃承気湯の構成生薬である甘草に含まれる有効活性成分を構造解析を用いて同定すること、さらに甘草から抽出した有効活性成分のPDモデル細胞への細胞死抑制効果を確認すること、並びに一昨年に確認した大黄甘草湯投与マウスの脳切片を病理学的に評価し、薬効の作用機序を解明することを目的とする。
研究方法
1.ヒット漢方薬の有効候補成分同定・構造解析
 ヒット漢方薬①-③について、それらのアセトン抽出物を調整し、アセトン抽出物がI-IIIのそれぞれのスクリーニング系で活性が見られた場合、そのアセトン抽出物を各種カラムクロマトグラフィーにて分離し、活性を指標に有効活性成分を単一化合物にまで単離精製する。得られた活性化合物は各種スペクトル解析によりその化学構造を決定する。
2.有効活性成分の細胞死抑制効果の確認・並びに細胞死抑制の分子機構の解明
 PC12D細胞にMPP+ 0.3mMを添加し、24時間後に様々な濃度の有効活性成分を添加し、さらに24時間後に細胞死抑制効果を評価した。
3.大黄甘草湯0.5g/kgを投与したマウスの生化学的検討
 初年度にマウスへの調胃承気湯・大黄甘草湯の経口投与を行い、薬効が確認された0.5g/kg投与群とコントロール群との脳切片を生化学的に検討した。抗体としては抗TH抗体を用いた。
(倫理面への配慮)
動物実験は全て、動物愛護法・日本学術会議による「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」、「順天堂大学医学部動物実験に関する指針」にのっとり行った。
結果と考察
結果1: NMRにより抗PD作用を持つ2種の化合物を同定した。
結果2: 結果1で同定された有効活性成分を単離し、MPP+添加型PDモデル細胞に投与したところ、濃度依存的に細胞死を抑制した。有効活性成分の投与により、オートファジーの指標となり得るp62およびLC3-II/actin比をウェスタンブロッティングにて検討したところ、p62の低下、LC3-II/actin比の増大を認めたため、同活性成分はオートファジーを誘導すると推測された。
結果3: MPTP投与型パーキンソン病モデルマウスに大黄甘草湯0.5g/kgを投与したマウスは、明らかな症状改善効果を呈したことから、生化学な検討を行った。全脳サンプルのウェスタンブロッティングでは、明らかなTH発現レベルの回復を認めなかった。
結論
甘草中に含まれる有効活性成分2種は、パーキンソン病モデル細胞での細胞死を抑制する。同化合物は、オートファジーを亢進させることにより薬理作用を発揮する。

公開日・更新日

公開日
2013-09-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201208008B
報告書区分
総合
研究課題名
漢方薬スクリーニングによる新規パーキンソン病治療成分の同定・その作用機序解明
課題番号
H22-創薬総合-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
服部 信孝(順天堂大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 斉木臣二(順天堂大学 医学部)
  • 舩山 学(順天堂大学 医学部)
  • 井本正哉(慶應義塾大学 理工学部)
  • 田代 悦(慶應義塾大学 理工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では3年間の研究期間で、複数のPDモデル細胞を用いた漢方薬スクリーニングにより、オートファジー調節・ミトコンドリア機能保護による神経細胞保護効果を持つ漢方薬成分を同定し、薬効成分の結合蛋白の同定・構造解析、更にin vivoモデルでの薬効を証明することを目的とする。
研究方法
I. PC12D(MPP+添加)細胞を用いたスクリーニング: PC12D細胞・SH-SY5Y細胞に神経毒MPP+またはロテノンを作用させることにより細胞内に斑点形成が生じ、斑点形成率と細胞死に強い相関があり、上記斑点が蛋白凝集体であることを確認しており、有用なPD細胞モデル系として確立している。本PDモデル細胞に㈱ツムラから提供された128種類の漢方薬ライブラリーを作用させ、MPP+により誘導される蛋白凝集体・細胞死両者を抑制するヒット漢方薬を同定する。
II. ヒット漢方薬の有効候補成分同定・構造解析: ヒット漢方薬アセトン抽出物がスクリーニング系で活性が見られた場合、そのアセトン抽出物を各種カラムクロマトグラフィーにて分離し、活性を指標に有効活性成分を単一化合物にまで単離精製する。得られた活性化合物は各種スペクトル解析によりその化学構造を決定する。
III. PDマウスモデルでの薬効確認: PDマウスモデルに投与し、病理学的・生化学的・行動学的な評価を行う。具体的にはマウス腹腔内にMPTPを投与することによりPDモデルマウスを作製する。同モデルは自発運動機能低下を認め、黒質神経細胞の選択的脱落が見られることを確認しており、ヒット投与により同現象の改善を評価する。
1.漢方薬添加のプロトコール: C57BL/6JマウスをそれぞれH2O-生食群、H2O-MPTP群、DK-生食群、DK-MPTP群、CK-生食群、CK-MPTP群に分け、薬剤またはH2Oを7日間投与し、第8日目にMPTPまたは生食を腹腔内投与した。漢方薬の使用濃度は1g/kg、MPTP投与量は20 mg/kg。
2.有効活性成分の薬効評価プロトコール: 1同様にC57BL/6Jマウスに対して同様の4群を作製し、有効活性成分またはH2Oを7日間腹腔内投与し、第8日目にMPTPまたは生殖を腹腔内投与した。本実験は2013年6月現在進行中である。
3.自発運動検査: 第9, 10, 11, 15日目にケージ内自発運動検査(赤外線モニターを用い、15分間の運動数を自動カウント)にて自発運動量を測定した。
結果と考察
I. 漢方薬ライブラリーより、ロテノン添加によるPC12D細胞の細胞死を80%以上回復させる化合物のスクリーニングを行った結果、大黄、甘草が共通生薬として含まれている調胃承気湯および大黄甘草湯に細胞保護効果があることを見出した。次に調胃承気湯、大黄甘草湯の細胞保護効果の検討を行った。
(1)トリパンブルー細胞外排出試験法による細胞死評価: 分化させたPC12D 細胞にMPP+ 0.3 mM と調胃承気湯もしくは大黄甘草湯を同時添加して48 時間後の細胞死をトリパンブルー細胞外排出試験法により評価した。その結果、両漢方薬はどちらも濃度依存的にMPP+によって誘導される細胞死を回復させた。
(2)PI 染色による細胞死評価: アポトーシスの指標であるsub G1 期の割合が調胃承気湯および大黄甘草湯の濃度依存的に減少させた。
(3) JC-1 染色によるミトコンドリア膜電位測定: MPP+により誘導された膜電位の低下は調胃承気湯および大黄甘草湯の濃度依存的に抑制された。
II. 調胃承気湯と大黄甘草湯に共通して大黄と甘草が2:1の割合で含まれていることに着目し、活性成分が大黄と甘草のどちらに含まれているか検討した。その結果、甘草により活性の強い化合物が含まれていることがわかったため甘草から活性成分の抽出を試みた。glycyrurol、lycopiranocoumarinも抽出した。両化合物の化学構造は種々の核磁気共鳴スペクトル、質量分析スペクトルを詳細に検討することにより決定した。
III. 結果1:大黄甘草湯の薬効について。予想に反して、DKの投与によりMPTPの毒性が増強され、自発運動が有意に低下した。通常第15日目にはMPTP添加による自発運動機能の低下は回復するが大黄甘草湯投与により回復しなかった。
結論
当初の目的通り、抗パーキンソン病作用を持つ漢方薬有効成分を2種類同定することが出来た。現在in vivoでの薬理作用を検討しており、有効である場合は、臨床開発に向け研究を進められると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-09-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201208008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
パーキンソン病治療薬は現在使用できるものはすべて対症的に症状改善を図るもののみであり、根本的治療薬はない。本研究によって同定された甘草含有成分2種は、すでに広く臨床応用された甘草に含まれるため毒性が低いと考えられるため臨床応用される可能性を秘め、さらにオートファジーを誘導し、ミトコンドリア機能を保つ機序が期待されるなど、パーキンソン病進行予防薬としての作用が期待できる。
臨床的観点からの成果
本研究成果の臨床的観点からの意義は、すでに我が国の臨床現場で広く使用されている漢方薬の中で、抗パーキンソン病作用を持つ2種の漢方薬(大黄甘草湯・調胃承気湯)を見出し、さらに有効活性成分を同定できたことから、臨床応用への可能性が高いことである。
ガイドライン等の開発
なし。
その他行政的観点からの成果
新たな作用機序を持つ本化合物2種は、パーキンソン病症状の進行を抑制できる可能性があることから、医療費軽減・介護負担軽減につながる可能性がある。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
38件
すべて査読有。
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
3件
すべて査読有。
学会発表(国内学会)
29件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
パーキンソン病予防治療剤
詳細情報
分類:
特許番号: 2013-091903
発明者名: 服部信孝、斉木臣二、井本正哉、藤巻貴宏
権利者名: 服部信孝、斉木臣二、井本正哉、藤巻貴宏
出願年月日: 20130425
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Imaizumi Y, Okada Y, Akamatsu W, et al.
Mitochondrial dysfunction associated with increased oxidative stress and alpha-synuclein accumulation in PARK2 iPSC-derived neurons and postmortem brain tissue.
Mol Brain , 5 , 35-  (2013)
10.1186/1756-6606-5-35.
原著論文2
Saiki S, Sato S, Hattori N.
Molecular pathogenesis of Parkinson disease: update.
J Neurol Neurosurg Psychiat , 83 , 430-436  (2012)
原著論文3
Matsuda N, Sato S, Shiba K, et al.
PINK1 stabilized by mitochondrial depolarization recruits Parkin to damaged mitochondria and activates latent Parkin for mitophagy.
J Cell Biol , 189 , 211-221  (2010)
原著論文4
Fujimaki T, Saiki S, Tashiro E,
Identification of licopyranocoumarin and glycyrurol from herbal medicines as neuroprotective compounds for Parkinson's disease.
PLOS ONE , 9 , e100395-  (2014)

公開日・更新日

公開日
2017-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201208008Z