効率的・効果的な乳幼児腎疾患スクリーニングに関する研究

文献情報

文献番号
201205032A
報告書区分
総括
研究課題名
効率的・効果的な乳幼児腎疾患スクリーニングに関する研究
課題番号
H24-特別・指定-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
本田 雅敬(東京都立小児総合医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 柳原 剛(日本医科大学武蔵小杉病院 小児科)
  • 上村 治(あいち小児保健医療総合センター 腎臓科)
  • 松山 健(公立福生病院)
  • 高橋 昌里(日本大学医学部小児科学系小児科学分野 駿河台日本大学病院)
  • 石倉 健司(東京都立小児総合医療センター 腎臓内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本小児腎臓病学会の3歳児検尿の全国調査では(2012年日児誌)、統一された方式はなく、検尿、精密検査の流れも一定していなかった。疫学的には、小児期腎不全の原因の約60%を占める先天性腎尿路奇形(congenital anomaly of the kidney and urinary tract, CAKUT)の早期発見をすべきだが、十分に寄与できていなかった。学校検尿では、検尿のシステムが確立され、判定基準も確立されている。3歳児検尿も、全国一律のスクリーニングシステムを確立すると共に、かかりつけ医、専門医紹介基準を明らかにする必要がある。CAKUTは成長の過程で腎機能低下が進行し、腎不全の要因となり、早期に診断・対応することは重要である。そのため他のCAKUTのスクリーニングの検討も行った。
研究方法
1.3歳児検尿に関する文献及び既存データのレビュー:3歳児検尿の報告及び全国調査の結果を分析し、尿異常(蛋白、潜血、白血球など)の測定の有無、陽性者の割合を調べ、各報告の中央値を求める。それぞれの尿異常からどの疾患が発見されたかも明らかにし、適切なスクリーニング方法を検討する。2.CAKUTのスクリーニング:①腎不全になるCAKUTの頻度を全国疫学調査、欧米の報告から検討する。②CAKUTによる腎機能障害患者の尿蛋白定性、β2ミクログロブリン・クレアチニン比(BM/C)、蛋白・クレアチニン比(P/C)の陽性率を疫学データなどから解析し、感度を明らかにする。③3歳におけるBM/C、P/Cの正常値を5つの市町村の検体を用い検討する。P/C、アルブミン・クレアチニン比は試験紙を有するため、その有用性も検討する。④CAKUT発見における超音波検査の有用性についてレビューし、陽性率、検査時期、方法、異常値の扱いも検討する。⑤タンデムマス法でのろ紙血によるクレアチニンスクリーニングの可能性を検討する。
結果と考察
今回の検討ではCAKUTによる腎機能障害の患者の3歳以降発見者はのうち3歳検尿での発見は12%であった。
CAKUTの尿蛋白定性、P/C、BM/Cの陽性率は腎機能障害が中等度の場合、尿蛋白+以上で1/3程度で、±で半数程度、P/C比で3/4、BM/C比はほぼ全例であった。CAKUTは希釈尿が多く、蛋白定性では見逃されやすく、±以上をカットオフとする。3歳児も希釈尿が多く、±でも疑陽性が多くなることは無かった。
尿蛋白定性はCAKUTだけでなく、腎炎も発見される事も多い。また全ての市町村で行われている。±をカットオフとした場合、陽性率は1次1.2%から2次0.05%と決して多くなかった。蛋白定性は現状では有用であった。
白血球尿(試験紙)は高率に膀胱尿管逆流(VUR)を発見できるが、陽性者すべてに超音波検査を行った場合で、全国に適しているかは課題がある。一次では陽性者が10%程度と高く、全国の16%の市町村でしか行われていない事から推奨にとどめる。
P/C比は蛋白定性よりすぐれており、カットオフ値を0.15として有用に使用できる。試験紙も可能だが希釈尿の判定に適さず、実際に定量をする方が良い。全員に行うには検査委託が必要になり、方法が課題である。
BM/CはCAKUTの感度、特異度ともに優れていた。全症例へ導入が望ましいが、P/Cと同様に検査委託が必要で、全市町村で導入するには方法が課題である。
尿中アルブミン/クレアチニン比は成人と同様の基準値で使用できる。CAKUTの発見に役立つかは今後の検討が必要である。
超音波検査はCAKUTの発見に有用である。全員に行う場合は3-4ヶ月健診が良く、手術が必要な閉塞性の腎疾患やVURを早期に見出せる。3歳検尿の精査陽性者には専門施設で行う事は推奨される。3歳の異常値はSFU3度以上、腎サイズ長径57mm未満、左右差11mm以上で、腎の輝度、尿管、膀胱異常も確認する。全員に行うには技術面や費用面で課題がある。CAKUTは100人に1人程度発見され、手術を要する患者も1000人に1-2人発見されるが、不要な手術や造影検査などへの対策も必要である。
結論
3歳検尿でBM/C、P/Cは蛋白定性よりもCAKUTの検出にすぐれていた。3歳検尿で蛋白定性を用いるなら±をカットオフとし、2回検尿するのが勧められ、異常な場合は精密検査でBM/C、P/C、血清クレアチニン検査を行い、専門医で超音波検査などの精査を実施するのが望ましい。可能なら3歳検尿初回からBM/C、P/C を用い、スクリーニングを行う事は有用であり、3-4ヶ月検診で全員の超音波検査も有用である。しかし、これらは全国で行うには技術面や費用などの検討が必要であり、可能な地域で始めるべきである。

公開日・更新日

公開日
2015-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201205032C

成果

専門的・学術的観点からの成果
腎機能障害を有する先天性腎尿路奇形(CAKUT)の3歳以降発見者のうち3歳検尿での発見は少ない事、またCAKUTでは尿蛋白定性より、β2ミクログロブリン・クレアチニン比(BM/C)、蛋白・クレアチニン比(P/C)の感度が高いこと、特にBM/C比はほぼ全例で異常を示した。また3歳におけるBM/C、P/Cの正常値を明らかにした。同時に尿中アルブミン/クレアチニン比の基準値も作成した。有用とされる超音波検査の腎のサイズなどの基準値も明らかにした。
臨床的観点からの成果
3歳児検尿のスクリーニング方法と基準を明確にした。具体的には全国で行うには蛋白定性で+/-をカットオフとし、2回検尿する事を勧め、異常な場合のかかりつけ医、専門医での精密検査方法、基準値を明確にした。この方法で今まで発見される率が極端に低かったCAKUTの60%以上が発見可能である。より精度を上げるには3歳検尿初回からBM/C、P/C を用いるスクリーニングや、3-4ヶ月検診で全員の超音波検査を行うべきであるが、全国で行うには課題があり、可能な地域で始めるべきとした。
ガイドライン等の開発
今回の検討結果からモデル地区を選定しマニュアルを作成、運用する。将来的には全国の市町村、保健師やかかりつけ医が使用できるマニュアルを作成する。
その他行政的観点からの成果
日本小児腎臓病学会の3歳児検尿の全国調査では(2012年日児誌)、統一された方式はなく、検尿、精査の流れも一定していなかった。小児腎不全の約60%を占めるCAKUTの早期発見をすべきだが、寄与できていなかった。2012年6月1日に「3歳の尿検査「見直しを」、腎臓奇形発見できず」と全国紙で報道された。システムの確立を行えば、現在20%以下の発見率である腎機能障害を持つCAKUTの発見を60%程度に上げることは可能で、全国の3歳児検尿のシステムの確立は重要である。まずモデル的な運用が必要である。
その他のインパクト
平成25年3月16日に厚生労働省主催「慢性腎臓病(CKD)シンポジウム」(市民公開)の「子どもの腎臓病について」でCAKUT発見の重要性、乳幼児尿スクリーニングのあり方について講演した

発表件数

原著論文(和文)
9件
原著論文(英文等)
24件
その他論文(和文)
28件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
29件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishikura K, Uemura O, Honda M, etal
Pre-dialysis chronic kidney disease in children: results of a nationwide survey in Japan
Nephrol Dial Transplant , 28 , 2345-2355  (2013)
原著論文2
Yanagihara T, Hamada R, Honda M et al
Urinary screening and urinary abnormalities in 3-year-old children in Japan
Pediatr Int  (2015)
10.1111/ped.12653
原著論文3
松村千恵子, 倉山英昭, 安齋未知子
千葉市3歳児検尿・腎エコーの先天性腎尿路異常発見における有用性
日児腎誌 , 26 , 18-27  (2013)
原著論文4
本田雅敬
3歳児検尿の新しいシステムの構築
小児保健研究 , 74 (1) , 6-11  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-06-05
更新日
2015-06-29

収支報告書

文献番号
201205032Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,920,000円
(2)補助金確定額
7,920,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,281,299円
人件費・謝金 2,830,200円
旅費 379,900円
その他 1,708,601円
間接経費 720,315円
合計 7,920,315円

備考

備考
銀行の振込手数料を当初ATMでの払込を予定していたが、窓口での払込となったため、手数料に不足を生じたため。

公開日・更新日

公開日
2015-06-05
更新日
-