日本・シンガポール・台湾のDV防止と被害母子支援に関する比較法研究

文献情報

文献番号
201201025A
報告書区分
総括
研究課題名
日本・シンガポール・台湾のDV防止と被害母子支援に関する比較法研究
課題番号
H23-政策-若手-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
清末 愛砂(国立大学法人室蘭工業大学 大学院工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 福嶋 由里子(公益財団法人世界人権問題研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、DV被害者支援に関する官民の連携体制や外国籍被害者への支援体制について、日本におけるDV被害者支援体制の課題を多角的に分析するための有益な情報を集めることにある。また、台湾とシンガポールに関する調査結果と日本での調査結果を比較検討し、日本のDV被害者保護政策の改善に向けた提言を作成することにある。
研究方法
 日本におけるDV被害者支援体制の課題や外国籍被害者が直面している問題を明らかにするために、DV被害者支援策が進んでいるといわれている北海道、および都道府県や市長村レベルにおいて配偶者暴力相談支援センター機能の拡充が図られた京都と大阪に注目し、関連諸機関で聞き取り調査を実施した。また、前年度の台湾とシンガポールに関する調査結果と日本での調査結果を比較分析し、日本のDV被害者保護政策の改善に向けた提言を作成した。
結果と考察
 北海道では、配偶者暴力相談支援センターよりも民間支援団体に対する相談数の方が多い。外国籍住民が少ない北海道では、外国籍配偶者のDVケースも少ないが、被害者がいないわけではない。しかし、道は外国籍被害者のための通訳者の事前確保および通訳者のための予算化をしておらず、多言語によるカードやリーフレットも作成していない。内閣府作成の多言語のカードやリーフレットの配布も現在は行っていない。今後は多言語による支援への取り組みが必要である。一方、札幌入国管理局は「女性相談援助関係機関等連絡会議」の構成メンバーになったり、新規採用者対象の研修でDV問題を取り上げるなど、外国籍被害者に対する意識の向上がみられる。
 北海道では広大な面積ゆえに行政が各地に点在する被害者をカバーすることは難しい。したがって、行政にとってみると自らのスタッフを増員するよりも、各地域の実績ある民間支援団体に業務委託した方が財政的にコストを削減でき、迅速な被害者の保護や支援にも結びつく。そのために行政による民間への業務委託が進んできた。しかし、被害者の自立支援に係る経費を民間支援団体が負担している現状があり、行政は今後、自立支援に関しても、民間支援団体への委託あるいは財政支援を行うことが求められている。
 京都では2010年4月に設置された京都府家庭支援総合センターが、DVを含む家庭内における問題に対するワンストップセンターとして包括的な支援を展開している。京都市では、2011年10月に市内のDV相談機能と自立支援体制の拡充のために京都市ドメスティック・バイオレンス相談支援センターが設置された。その運営は、民間の母子生活支援施設に委託されている。外国籍被害者からの相談については、これらの行政機関と外国籍住民のための多言語電話相談を提供している民間支援団体が連携して対応している。
 2009年度以降、大阪府女性センターでは専門職所長の配置や担当ケースワーカー制度等の導入により被害者支援体制の拡充が図られている。大阪市は、2011年8月に大阪市配偶者暴力相談支援センターを設置し、DVに関する専門相談、一時保護に関する調整、保護命令に係る支援、自立支援、啓発・研修事業を行なっている。また、外国籍被害者への対応策として、府および市とも相談者・通訳者・支援提供者の三者をつなぐ「トリオホン」を活用している。
 大阪と京都の調査では、一時保護所を退所した被害者が中長期的に滞在できる保護施設が不足していること、就労の機会や職種の選択肢が限定される傾向にあること等の問題がみえた。外国籍被害者の支援については、通訳費や翻訳費に関する財源が限られているため継続的な支援が困難であること、DVに理解のある通訳者が限られているため二次被害が発生しやすいこと等の問題がある。一方、2008年の法務省通達以降、入国管理局での在留審査の際に、DVの被害状況に配慮した措置が行われる等、「DV事案に係る措置要領」が外国籍被害者の救済に一定の効果を上げていることが明らかになった。
結論
 国内調査後に、台湾とシンガポールに関する調査結果と国内の調査結果を比較分析し、日本におけるDV被害者保護政策の改善に向けた提言を作成した。台湾では、外国籍被害者への支援が台湾人男性と結婚した外国人配偶者のための包括的な生活支援策の一部として位置づけられており、DVの予防啓発から相談、保護、就労といった支援の段階に応じて、各行政を有機的につなぎ、多角的な支援を提供することが可能となっている。シンガポールでは下級裁判所に通訳部門が設置されており、DV等のファミリー・バイオレンスに対する保護命令についての多言語のパンフレットが裁判所や民間支援団体の事務所等の各所で配布されるなど、多言語という意味での施策が進んでいる。これらの施策は日本における、特に外国籍被害者の保護政策の改善に向けて参考となる。

公開日・更新日

公開日
2013-10-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201201025B
報告書区分
総合
研究課題名
日本・シンガポール・台湾のDV防止と被害母子支援に関する比較法研究
課題番号
H23-政策-若手-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
清末 愛砂(国立大学法人室蘭工業大学 大学院工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 福嶋 由里子(公益財団法人世界人権問題研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、日本に先駆けDV被害者支援に取り組んできたシンガポールと台湾の政策を比較しながら、日本のDV被害者支援対策における外国籍女性とその子どもに対する法的保護のあり方を検討し、今後の課題に関する政策提言を行うことにある。
研究方法
 平成23年度は、日本でシンガポールと台湾のDV対策や外国籍母子への支援に関する文献資料を収集し、先行研究を再検討した。また、国連経済社会局女性の地位向上部発行の“Handbook for Legislation on Violence Against Women”の翻訳作業にかかわった。その後、台湾とシンガポールでの聞き取り調査を実施した。
 平成24年度は前年度の調査で得たデータを整理し、京都、大阪、北海道で聞き取り調査を実施した。また、前年の調査結果を所属学会等で報告したほか、関連論文を執筆した。最終的には市民向けの研究成果報告会を大阪で開催したほか、日本、シンガポール、台湾の政策等の比較分析に基づき、日本のDV被害者保護政策の拡充に向けての提言を含む研究成果報告書を作成した。
結果と考察
 本研究の対象地域は、少子高齢化の進行に伴い国際結婚件数が増加し、外国籍女性がDV被害者となるケースも増加しているという点で類似している。
 シンガポールでは、外国籍配偶者が「女性憲章」に基づくDV被害からの救済手段を利用できるが、言語問題を抱えている女性たちにはその存在が十分に知られていない。家庭裁判所内の「家族の変革と保護部門」がDVを含むファミリー・バイオレンスの被害者保護のためのワンストップセンターとなっており、下級裁判所のなかには通訳部門が設置されている。それでも、国際結婚斡旋業者経由でシンガポール人男性と結婚した外国籍女性が、ビザの更新問題、言語問題、DV被害に対する救済手段に関する情報へのアクセス問題等を抱えている。2014年4月以降、就労を許可されていない短期訪問許可や長期訪問許可で同国に滞在していた外国籍配偶者が、就労を可能とする「長期訪問許可・プラス」に条件付きで申請できるようになった。外国籍配偶者の法的地位を安定させ得る制度として、今後の運用状況や効果を注視する必要がある。
 台湾では、「台湾家庭暴力防治法」に基づく法的救済が外国籍配偶者にも適用される。外国籍配偶者の支援については、「外籍及大陸配偶者照顧輔導措施」(2003年施行)により設置された、外籍配偶家庭服務中心が主に担っている。また、2007年12月改正の「入出国及移民法入管法」により、在留資格失効の原因とDVとの関連性を証明することができれば、在留期間の延長が可能となった。
 日本では、2008年の法務省通達の効果により、DVの被害事実がある場合には在留審査の際に資格の変更等が認められる傾向にある。特に過去に配偶者暴力相談支援センターや民間支援団体へ相談した、あるいは保護された事実がある場合、資格の変更や更新が比較的認められやすい。しかし、多言語での情報提供や相談を提供している配偶者暴力相談支援センターや民間支援団体は限られており、適切な支援情報が届かず、退去強制を恐れて相談を躊躇する外国籍被害者も一定数存在すると考えられる。
 また、母子自立支援施設等においても、外国籍被害者の特性に配慮した支援が提供されていない場合もあり、相談、保護、自立支援といった支援の各段階における外国籍被害者への支援の充実が求められている。
結論
 シンガポールと台湾は、日本に先駆けてDV被害者支援に着手している。特に台湾では、在留資格の変更等にかかる特別措置や多言語による支援体制の整備等、日本における課題の解決に向けて参考となる施策を実施している。また、外国籍被害者支援事業を実績のある民間支援団体に委託することにより、地域に根ざした支援の充実化が図られている。
 日本の外国籍被害者支援は、多言語での情報提供や相談が限られているため、被害が潜在化する傾向にある。特に、斡旋業者を通じて日本人男性と結婚した外国籍女性は農村部等に散在していることが多く、支援が行き届きにくい。また、地域の公的機関に配偶者の親族関係者が関与している場合があり、被害者が相談を躊躇した結果、被害が深刻化する場合もある。斡旋業者を通じて国際結婚した男性やその親族の一部は、高額の手数料を払い家業を手伝う嫁を購入したという意識を強く有しており、国際結婚が人身取引に類似した側面があることが浮き彫りになった。日本における外国籍女性のDV被害の潜在化や深刻化を抑えるためには、外国籍被害者のニーズに即した支援の拡充が急務である。
 2年間の研究に基づき、日本のDV被害者保護政策の充実化に向けて取り組みが必要と考えられる点を政策提言としてまとめ、独自に発行した研究成果報告書のなかに盛り込んだ。

公開日・更新日

公開日
2013-10-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201201025C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、日本におけるDV被害者保護政策の改善に向けて、日本よりも早期に同政策に着手した台湾とシンガポールの施策を比較対象として文献調査と現地調査に基づいて分析したという点において斬新なものであった。3地域におけるこれまでのDV被害者、特に外国籍被害者がおかれている状況や施策を比較検討した結果、これらにおける共通点や相違点ならびに今後の日本の政策上で参考にすべき点を専門的観点から見出すことができた。
臨床的観点からの成果
本研究は臨床的観点に基づくものではないため、この点に関する成果はない。
ガイドライン等の開発
2年間の研究成果に基づき、今後の日本のDV被害者保護政策を拡充させるために必要であると考えられる政策提言を具体的に作成した。同政策提言は独自に発行した「研究成果報告書 日本・シンガポール・台湾のDV防止と被害母子支援に関する比較法研究」(2013年3月発行)のなかに盛り込んだ。同報告書の発行以降、DV問題に携わっている関係者や研究者等への配布を徐々に行っている。今後も引き続き、関係者等への配布を続けたい。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果を2013年3月に発行した「研究成果報告書 日本・シンガポール・台湾のDV防止と被害母子支援に関する比較法研究」としてまとめ、そのなかで日本のDV被害者保護政策の改善のために必要とされる点を政策提言として盛り込んだ。同提言の多くはすでにDV被害者支援の分野において実績のある民間支援団体や研究者等によって指摘されてきたものと重複しているが、本調査の結果、これらの点が実際の政策のなかで改善されていないことが明らかとなったため、そのことを再度強調する意味を込めて、政策提言とした。
その他のインパクト
2013年2月22日に大阪府立男女共同参画・青少年センターで、研究成果を市民に還元するための「日本・シンガポール・台湾のDV防止と被害母子支援に関する比較法研究」報告セミナー(後援:複合差別研究会、「女性・戦争・人権」学会)を開催した。報告会では、複合差別に詳しい二人の専門家にコメンテーターを務めていただき、今後の研究の発展のために必要となる有益な意見をいただくことができた。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
DVを含むファミリー・バイオレンス関連条項を含むシンガポールの包括的な家族法「女性憲章」についての論文。
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
研究代表者・研究分担者による共同の発表(1回)、および研究分担者による発表(1回)。
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
政策提言を含む研究成果報告書を独自で発行した。
その他成果(普及・啓発活動)
1件
市民向けの研究成果報告会を大阪で開催した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
清末愛砂
シンガポールにおけるファミリー・バイオレンスに関する法制度の改革と今後の課題
亜細亜女性法学 ,  (15) , 93-123  (2012)

公開日・更新日

公開日
2018-06-15
更新日
-

収支報告書

文献番号
201201025Z