包括的支払方式における看護業務量測定に関する研究

文献情報

文献番号
199800026A
報告書区分
総括
研究課題名
包括的支払方式における看護業務量測定に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
井形 昭弘(あいち健康の森健康科学総合センター)
研究分担者(所属機関)
  • 筒井孝子(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、医療を取り巻く環境は急激に変化しており、これらの変化に合わせて医療システムそのものも変革が求められているところである。特に、マネジドケアという新しい潮流のなかで、医療ニーズに合わせて効率的に医療を提供するシステムの構築が求められている。そして、医療システム改革を行っていく上で、医療資源の適切な配分等を含めた多様な観点からの医療システムの評価研究が必要であるという認識も、高まりつつあるといえる。
このような状況をうけ、看護の領域でもクリティカル・パス法を含む様々な品質管理手法が医療分野にも導入されるべきであるとの意見も多く見られるようになっている。こういった状況は、医療や看護という専門的なサービスを客観化し、評価する手法を開発するということが求められている。
医療サービスの評価としては、アメリカ合衆国等で採用されているDRG/PPS(診断群別包括支払方式)やRUG方式(資源消費グループ別支払方式)などを始めとする老人等の病態に応じた医療や介護サービスの費用支払いが行われ、これらのサービス提供内容、量を客観的に評価するための手法の開発とそのバージョンアップが進められているところである。しかし、看護サービスについては、DRGシステムの開発においても看護密度(nursing intensity)を測定する指標が最後に残された課題の一つとされ、未だに十分とは言えない状況のようである。
本研究では、平成8年度より、患者1人当たりの1入院当たりの「直接経費」を検討する資料として、「個々の患者の疾患や病態の違い」による看護サービスの量(時間)について測定する方法を明らかにし、人件費を算定する際の資料なるような必要量の算定ができうるシステムの開発を行うことを目的として行ってきたが、平成10年度の研究報告書である本報告書においては、以下の内容について明らかにすることを目的とした。
収集された業務量データと患者の属性との関係を統計的に解析することによって、第一に、業務内容と患者の属性との関係を明らかにする。第二に、業務時間の多少と患者の属性がどのような関係にあるかを検討する。
次に以上の解析の結果から明らかになった内容を基本に、患者に提供すべき看護時間を推定するために必要な調査項目を抽出し、包括的支払方式における「看護必要度」を推定する指標となる項目と推定看護時間による区分を検討する。
研究方法
平成10年度は、これらの看護業務コードと患者の状況に関する調査項目を用いて、3病院6病棟の入院患者の専門職による面接調査ならびに看護業務を提供している職員に対する1分間タイムスタディ調査、看護職員の属性に関する調査を実施した。
なお、これらの調査を行う病院の選定に当たっては、『看護の質が高い』病院を選定するために病院機能評価機構が示している「病院機能評価」等を参考とし、評価項目51項目、並びに患者側の満足度を評価する21項目について調査を行った。調査は、病院選定委員会のメンバーであるエキスパートナースらによって都内2病院と北海道の1病院の看護部長を調査対象として、ヒアリング調査、並びに訪問調査を実施した後に選定した。
選定された病院の特徴としては、「日勤・準夜勤・深夜勤」の三交代制を採用している聖路加国際病院、武蔵野日赤病院、渓仁会定稲病院の3病院6病棟を対象とした。なお病院の選定条件として、包括的支払方式を指向した場合に利用できるよう、疾病コードと看護業務量との関係を検討するために、ICD9による疾病コードの入力を行っている病院という条件を付加した。
調査方法は、(1)業務量調査(他計式の1分間タイムスタディ法)を採用した。調査者は、調査精度を上げるという目的のために、以下の2つを必要条件とした。第一は、「看護婦が今、患者に何を行っているのか」を正確に記述することができるという資質をもっていること。第二は、「誰に対して、看護行為を行った」かを記述することが可能なように同病院の看護婦で患者の名前をすでに認知していることを条件とした。
(2)患者の状況に関する調査については、調査対象となった病棟に入院している患者全員である258名に調査を行った。この調査票は、当日の業務内容や業務時間との関係をみるため、すべての業務量調査の当日(13:00)までに記入するものとした。血圧や心拍数などの生理的な指標については、午前中に記入するように、また、容態が急変した場合には、急変時の内容について調査票に記入するように依頼した。
(3)調査票回収時の確認に関しては、記録された看護内容と看護業務コードとのコーディングについては、調査を行った病院において、調査者が記入するという第一段階と各病棟の調査管理者による第二段階を経た調査データを国立医療・病院管理研究所内で1か月にわたって臨床の看護に携わっている看護婦を雇い入れ、整合性に関するチェックを行った。その際に各病院によって特別な意味を持つ看護上の用語や内容については、すべてFAXによる問い合わせを行った。
また、今回用いた看護業務分類コードは、昨年度に開発された身の回りの世話178コード、投薬 治療・処置71コード、機能訓練69コード、行事、連絡、報告、会議、研修など28コード、在宅ケア関連16コードの合計362コードである。
結果と考察
看護業務量を推定するための患者の属性については、樹形回帰モデルを用い、中分類別看護業務時間を目的変数として分析を行なった。この結果、看護業務コードの中分類別業務時間と関連した患者の属性は、130項目が示された。
出現頻度が高い属性としては、入院時期、世帯形成、他科へのリファーの有無、入浴方法、退院先、安静度といった属性の出現頻度が高かった。しかし、実際に樹形モデルを詳細に分析すると、移乗の自立の程度や咳そう反射の低下といったリスクに関する情報によって、各看護時間は影響を受けていたようにみうけられた。
これまでナーシングケアにおいては、測定方法がないために価値判断の基準となる標準的なケアの体系化が困難であったが、今回の看護必要度の開発によって、急性期医療に携わる看護職が「標準的なケア内容と量とは」という問いに対して、量的記述を用いて答えられることを可能にできる可能性が示されたといえよう。
ナーシングケアの測定方法に関してのひとつの方法論として、今回の研究成果を利用するためには、今後、患者のoutocomeデータの指標について研究する必要があると考えられる。
看護援助における効果については、例えば、1988年にNational Comission on Nursing Inplementation Project(国家看護実施企画委員会)はケアの質及び経費に関する指標について、次のように述べている。
『ケアの質を評価する為には、各医療施設は先ず、それ自体を明確にし、ケアの質の概念を認識しなければならない。第二に、この質の達成に影響する全ての経費に関する要因を確認しなければならない。これらの概念が明確にされ確認されたら、施設の日々の運営要素に組み入れなければならない。適用されるケアの質の指標例として、看護ケア基準の達成レベル、看護行動に起因する入院期間の変動、感染率、看護行動に起因する患者の発病率がある。』と示され、outcomeの評価は明確になされるように留意されていることがわかる。
また、たとえば看護に関するoutcomeについて、Sharp-Health Careでは、擦過傷、出血等36の指標を定めている。また、表2のように、HCFAでは、ケアの質については、『Indicator of Inadequate Qualify of Care』を設定している。この指標で特徴的なのは、なるべく量的基準を明確に示そうとしている点であると考えられる。さらに、outcome目標の下位項目として、ALOS標準や感染症、合併症発生率水準、死亡率、事故率、過誤率水準、再入院・再手術率水準などがあげられ、数値による水準が示されているのである。
以上のように看護必要度が、ナーシングケアを評価するひとつの指標となるためには、看護必要度に応じたナーシングケアの総時間が提供されることが担保されなければならない。しかし、常に患者に提供される業務時間を常に調査するというシステムを構築することは現実的ではない。
したがって、わが国で今回の調査結果を利用したシステムを運用するためには、必要と考えられる時間が提供されているという前提を担保するためのoutcome指標を開発すること、またこの指標を用いた外部監査システムが機能する事が必須の条件であると考えられる。
結論
本研究が目的としてきた看護の提供時間を予測する指標が何であるかについて、今回の解析によって、ある程度めやすが示されたことは、患者の病態別のケア提供時間を患者の病態データを用いて推定するという方法を確立していく上で大変、重要である。
このシステムでは患者の状態をチェックすることによって、看護時間を予測するため、状況の変化が激しい急性期病棟では、毎日、行われる事が望ましい。したがって患者に関するデータの項目はなるべく少ないことが望まれよう。今回の結果を基に、患者アセスメント項目については、以下に示したように再度、修正をし、調査を行なう必要がある。
また、今回の解析データとなった病棟数は、6病棟と少なく、今後さらにデータを収集していく必要があると考えられる。

公開日・更新日

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