文献情報
文献番号
199800001A
報告書区分
総括
研究課題名
出生率と初婚率予測モデルの精緻化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
稲葉 寿(東京大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
人口予測において出生率の将来動向をどのように仮定するのかという問題は、将来予測一般が持つ課題を必然的に内包している。すなわち、今後将来人々が取る行動の多くは、必然的に将来の社会・経済的諸条件によって多くが規定され、現在の段階で予測可能な将来の動向は、過去の経験から導かれた一定の経験法則や定式化された一定の挙動範囲から推定されるものである。本研究においては、現在の出生率予測技術が到達している水準の評価から、その予測精度改善の可能性を探ることにある。平成9年度研究においては主として数理人口学的観点からその理論研究を主として行った。本年度の研究は、実際的に精度改善のための人口学的分析に主眼をおいた。とくに、出生率と初婚率予測モデルの精緻化に関しては、基礎データ問題が存在する。本研究では、まず、第一に予測モデル手法とデータとの関係を検討する。そして、第二に既存データの改訂作業を行う。とくに出生率予測の前提となる初婚データは、実際の結婚の開始と届け出での間にタイム・ラグが存在し、それが時として初婚率や生涯未婚率の過小・過大推定の原因となり、出生率予測を大きく狂わす要因となる。
研究方法
研究の方法は、過去に蓄積された出生、死亡、ならびに婚姻に関する人口動態統計ならびに国勢調査データを人口学的な統計手法によって数値モデル化を行い、1)統計の分母となる戦後の人口の推定モデルの構築と推定、2)婚姻統計の分析に基づく届け出遅れのモデル化、3)戦後の年齢別初婚数の推定、4)人口学的モデルによる出生年次別コーホート初婚率の推定、さらに、5)一般化対数ガンマ分布モデルによるコ-ホート初婚率の将来予測を行った。これらのための基礎数値データ・ベース構築ならびに数値計算によるシュミレーションが研究の基本的方法である。
結果と考察
結婚生活に入ってから婚姻届けが出されるまでの期間別割合は、届け出総数のうち、同一年内中に結婚生活に入ったものの割合が、1950年にはほぼ半数であった。その後急速に改善され、1970年には8割を超え、近年にはほぼ9割に達している。また、それを反映し、結婚生活に入った翌年に届け出るものは、1950年の40%程度から近年の6%まで減少してきている。ちなみに、2年以上のものは、1950年には13%であったが1997年には僅か3%となってきており、これは婚姻届け出の励行が着実に進行してきたことによるものである。とはいえ、年齢別の婚姻統計は、同一年内中に結婚生活に入ったものみのの集計結果であり、近年における結婚の分析で最も重要な晩婚化指標の基礎データである年齢別婚姻数として十分なものとはいえない。出生率に直接的に影響を及ぼすのは、女子の初婚数である。初婚の妻の年内届け出状況の変遷をみると、全婚姻の場合とほぼ同様な傾向を示すが、その水準は約3ポイントほど高率に位置しており、近年では92~93%の水準で比較的安定している。つぎに、そのような届け出状況について、年齢別にみることにする。ただし、年齢別の婚姻統計は発生時の年齢について集計されるため、年内届け出のみしか統計がない。本研究では、上記分析を踏まえ、現在までに得られる最新のデータを用いて改訂を行う。特に、出生率の決定要因である初婚率について、より精緻な検討を行い、改訂した。さらに、従来の分析では行われてこなかった初婚率発生母数である分母人口についての検討も行い、より正確な指標を作成するとともに、コーホート初婚率について、より精緻な分析を行った。『人口動態統計』による婚姻統計の調査客体は、日本において発生した日本人である。なお、日本人の外国におけるもの及び外国人の日本におけるものは「参考」として掲載してる。そのため、一般的に分析に用いられる動態統
計は、日本人についてのものである。また、動態発生の期間は、1月から12月までの暦年を1年間としてまとめられ、発表されている。そのため、その発生母数である分母人口は、日本における日本人人口である。また、静態統計の場合には時点による観測であるため、動態(分子)の期間と人口(分母)の時点との時間的整合性がとれていなくてはならない。しかし、『国勢調査』の実施月が10月1日現在であるため、各年の人口も精緻なものは10月1日現在のものが総務庁より推計され発表されている。従来の人口動態率の算定では、動態期間がその年の1月から12月であるにもかかわらず、代表人口として10月1日現在人口を分母人口として用いてきた。 本来、動態率算定に際し、動態発生期間の1月から12月に対応する分母人口は、その期間の延べ人口を用いなくてはならない。しかし、延べ人口の計算は、人口総数のみであれば比較的簡易に計算が可能であるが、人口の基本属性である男女および年齢別人口の計算は、膨大なものとなってしまう。そこで、通常、生命表の計算等で用いられている方法では、その期間の中央時点の人口をその期間の代表人口とみなして処理している。分母人口が動態率に及ぼす影響について、1990年における女子の年齢別初婚率を計算して、その差異をみた。なお、ここで用いた女子の初婚数は、年内、すなわち1990年内に結婚生活を開始し、かつ1990年の内に届け出たもののみの件数である。その結果、23歳から25歳の年齢層で率は大きな差が生じ、それ以外の年齢ではほぼ同じ率となった。この大きな差となった23歳から25歳の年齢は、1965~67年に出生した集団(コーホート)で、1966年はヒノエウマの年である。すなわち、1966年の出生数は、その前後の年次に比べ極端に少ない。そのため、その1966年生まれのコーホートはその前後のコーホートよりも小集団であり、観測時点が3か月異なることによる影響は大きい。とくに、そのコーホート規模とその前後のコーホート規模との差が大きければ顕著に表れる。その結果、初婚率にも影響を及ぼすことになる。そのため、従来のように各年の代表時点に10月1日現在人口による動態率を用いて、コーホート分析を行うと、このような特定のコーホートは、常に実際の率よりも高率あるいは低率となり、正確な分析ができなくなってしまうことになる。女子の年齢別初婚数の推計を行うためには、『人口動態統計』により公表されている年内に届け出された年齢別初婚数を基に、それ以降の年次に届け出た、あるいは届け出るであろう件数を推計し、追加する事により行う。1975年以降について、初婚の妻の年齢別に、年内届け出に対して1年後~3年後までに届け出たものの率を検討した結果、概ね年齢別の遅れのパターンは規則的に変化してきていることがわかる。すなわち、20歳代前半までは比較的安定的な率を示すが、届け出状況の改善に伴い高年齢になるに従い、徐々に低率になってきている。そこで、現在の状況を示し、かつ最も多くのデータを有する1975~77年に結婚したものについて、その後(遅れて)届け出たものを累積した結果、図8のようになった。実績値は、40歳以下の年齢では比較的スムーズな傾向を示すものの、それ以上の高年齢にはデータが少数であることから多少ブレが生じている。そこで、20歳以上についてスムーズにしたものを、届け出遅れの基本的なパターンとし、図3でみられたように、1970年後半以降ほとんど届け出遅れの状況に変化がないことから、1975年以降の年内届け出年齢別件数にこの係数を乗ずることにより、今後起こり得るであろう、年齢別届け出件数を推計した。しかし、1974年以前については年齢別の届け出状況を検討する統計はなく、届け出状況も1975年以降とは異なり、同率のパターンによる推計はできない。そこで、1947年から74年については、年内届け出件数とそれ以前に結婚して届け出た件数との比(遅れ率)を検討し、年齢パターン修正係数を用いて推計した。1974年以前の年齢パターン修正係数は、発生年次別届け出遅れ率(年内届け出に対するそれ以降に届け出る率)の1975年との比によって求め、その比に
より、1975~77年に結婚したものの基本的なパターンを修正することによって、各年別に求めた。従来、人口動態率算出の分母人口に10月1日現在人口を用いてきていたが、それを年央人口に置き換えて改算を行った。しかし、それは必ずしもコーホートの動態率とは一致しない。そのため、レキシス図法によって人口動態統計による婚姻統計では、生年別婚姻数の集計がされていないため、年齢別婚姻数を基に推計を行う必要がある。また、コーホート率算定の分母人口は、その発生範囲内の延べ人口を用いるべきであり、別途推計を行う必要がある。算定モデルを開発し、7月1日の分母人口を推定した。改算した出生コーホートの初婚率の結果をみると、1932年生まれ以降41年生まれまで徐々に低下し、その後1944年まで僅かに上昇した。しかし、1945年生まれは極端に低くなり、1947年生まれはそれ以前の水準を上回る高率を示し、それ以降低下傾向が続いてきている。また、25歳時における累積初婚率をみると1936年生まれから1944年生まれまで概ね横這いで推移しているが、それ以下の年齢では低下傾向がみられ、25歳以上では逆に上昇している。このことは、初婚率の高年齢化すなわち晩婚化を示すものであり、1947年以前のコーホートにおいて既に晩婚化が生じていたことを示すものである。さらに、1947年以降生まれのコーホートにおいて25歳時の累積率は低下してきている。本研究の目的は、算定した「改算出生コーホート別初婚率」に基づいて、いまだ50歳に達していない女子コーホートについて将来の年齢別初婚率を推定することである。それによって、将来の初婚発生に関して経験的なモデルを当てはめ、将来の年齢別初婚率や生涯未婚の発生頻度を予測することができる。将来の初婚率の推定手法は次の通りである。一般的に年齢別初婚率のように年齢分布が存在する関数は、各種の数理分布モデルの適用が可能である。本研究では平成9年1月の国立社会保障・人口問題研究所推計に用いられた、一般化対数ガンマ分布モデルを用いて、年齢別初婚率を推定する。一般化対数ガンマ分布モデルでは、年齢別初婚率を推定するために、①生涯未婚率を表すパラメター、②平均初婚年齢を表すパラメター、③初婚率の分散形状を表すパラメタ-を過去のすでに初婚が完了したコーホートデータに基づいて推定する。そして、第二に、コホートパラメターの時系列的な挙動を推定する。この手続きにより、いまだ完了していないコーホートの各パラメターを推定する。そして、再度一般化対数ガンマ分布モデルによって、将来の年齢別初婚率を推定する。推定された年齢別初婚率に基づくコーホート平均初婚年齢は、1935年出生コーホートの24.1歳から僅かずつ徐々に上昇し、1951年出生コーホートで24.5歳に達した。その後、平均初婚年齢は上昇のテンポが早まり、1955年出生コーホート25.0歳、1961年出生コーホート26.0歳、1970年出生コーホート27.0歳と急速な平均初婚年齢の上昇が観察された。そして1970年以降ややその上昇の勢いは弱まってきているが、1980年出生コーホートで27.4歳の状態にある。このコーホート平均初婚年齢の変化には、世代による違いがみられる。すなわち、1935年から1952年頃に出生した世代は平均初婚年齢でみて極めて安定的に推移した時代で、それらの世代は、1950年代後半から1970年代後半にかけて結婚した人々である。いいかえれば高度経済成長期に結婚した人々の安定的婚姻パターンの時代に相当する。一方、1953年から1970年までに出生した世代は、1970年代後半から1990年代半ばにかけて結婚した世代で、高度経済成長期後の低成長時代の時期に相当する。そして、この世代が1970年代以降におけるわが国結婚変動の主体となった人々である。これらの世代的な特徴としてはポスト団塊の世代で、また親は戦前生まれという世代である。平均初婚年齢変化の次の節目は1970年代以降に生まれた世代の平均初婚年齢の変化で、それ以前の世代と比較し結婚の遅れが減速した世代である。この世代の特徴は親が戦後生まれ世代であるという点に特徴がある。以上のように推定された平均初婚年齢の変化
には世代的な特徴があり、世代の特徴を持ちながら結婚変動、つまり結婚のタイミング変化を引き起こしていることが観察される。次に、結婚のプレバランスである生涯未婚の量的変化についてみると、出生コーホート別の生涯未婚率も、平均初婚年齢でみたられたと同様の世代区分が成り立つ。すなわち、1960年以前に生まれた世代は、戦前から戦後の一時的振幅を除いて、比較的に安定していた世代である。この世代の一時的な振幅は、結婚相手となる男性人口との不均衡によってもたらされている可能性が大きい。たとえば、1945年生まれの世代は結婚相手となる2~3歳年上の出生規模が小さく、生涯未婚発生の確率が高い世代である。しかしながら、これらの世代は出生規模の変動が著しく、今回の初婚率改訂によっても除去されない統計的問題を含んでいる可能性がある。これらの問題については別に検討する必要性がある。いずれにせよ出生コーホート別生涯未婚率は安定的で、94%の人々が結婚するという世代的特徴を持っていた。1960年以降、この出生コーホート別生涯未婚率は上昇し、1970年出生コーホートまで急速に上昇する。平均初婚年齢の動向とも照らし合わせれば、1960年代から1970年代生まれの人々では、晩婚化と非婚化減少が同時に引き起こされたことを示している。他方、1970年代前半以降に生まれた世代では非婚化現象はそれほど大きく進まず。戦後の大結婚変動期が収束過程に入っていることを伺わせている。
計は、日本人についてのものである。また、動態発生の期間は、1月から12月までの暦年を1年間としてまとめられ、発表されている。そのため、その発生母数である分母人口は、日本における日本人人口である。また、静態統計の場合には時点による観測であるため、動態(分子)の期間と人口(分母)の時点との時間的整合性がとれていなくてはならない。しかし、『国勢調査』の実施月が10月1日現在であるため、各年の人口も精緻なものは10月1日現在のものが総務庁より推計され発表されている。従来の人口動態率の算定では、動態期間がその年の1月から12月であるにもかかわらず、代表人口として10月1日現在人口を分母人口として用いてきた。 本来、動態率算定に際し、動態発生期間の1月から12月に対応する分母人口は、その期間の延べ人口を用いなくてはならない。しかし、延べ人口の計算は、人口総数のみであれば比較的簡易に計算が可能であるが、人口の基本属性である男女および年齢別人口の計算は、膨大なものとなってしまう。そこで、通常、生命表の計算等で用いられている方法では、その期間の中央時点の人口をその期間の代表人口とみなして処理している。分母人口が動態率に及ぼす影響について、1990年における女子の年齢別初婚率を計算して、その差異をみた。なお、ここで用いた女子の初婚数は、年内、すなわち1990年内に結婚生活を開始し、かつ1990年の内に届け出たもののみの件数である。その結果、23歳から25歳の年齢層で率は大きな差が生じ、それ以外の年齢ではほぼ同じ率となった。この大きな差となった23歳から25歳の年齢は、1965~67年に出生した集団(コーホート)で、1966年はヒノエウマの年である。すなわち、1966年の出生数は、その前後の年次に比べ極端に少ない。そのため、その1966年生まれのコーホートはその前後のコーホートよりも小集団であり、観測時点が3か月異なることによる影響は大きい。とくに、そのコーホート規模とその前後のコーホート規模との差が大きければ顕著に表れる。その結果、初婚率にも影響を及ぼすことになる。そのため、従来のように各年の代表時点に10月1日現在人口による動態率を用いて、コーホート分析を行うと、このような特定のコーホートは、常に実際の率よりも高率あるいは低率となり、正確な分析ができなくなってしまうことになる。女子の年齢別初婚数の推計を行うためには、『人口動態統計』により公表されている年内に届け出された年齢別初婚数を基に、それ以降の年次に届け出た、あるいは届け出るであろう件数を推計し、追加する事により行う。1975年以降について、初婚の妻の年齢別に、年内届け出に対して1年後~3年後までに届け出たものの率を検討した結果、概ね年齢別の遅れのパターンは規則的に変化してきていることがわかる。すなわち、20歳代前半までは比較的安定的な率を示すが、届け出状況の改善に伴い高年齢になるに従い、徐々に低率になってきている。そこで、現在の状況を示し、かつ最も多くのデータを有する1975~77年に結婚したものについて、その後(遅れて)届け出たものを累積した結果、図8のようになった。実績値は、40歳以下の年齢では比較的スムーズな傾向を示すものの、それ以上の高年齢にはデータが少数であることから多少ブレが生じている。そこで、20歳以上についてスムーズにしたものを、届け出遅れの基本的なパターンとし、図3でみられたように、1970年後半以降ほとんど届け出遅れの状況に変化がないことから、1975年以降の年内届け出年齢別件数にこの係数を乗ずることにより、今後起こり得るであろう、年齢別届け出件数を推計した。しかし、1974年以前については年齢別の届け出状況を検討する統計はなく、届け出状況も1975年以降とは異なり、同率のパターンによる推計はできない。そこで、1947年から74年については、年内届け出件数とそれ以前に結婚して届け出た件数との比(遅れ率)を検討し、年齢パターン修正係数を用いて推計した。1974年以前の年齢パターン修正係数は、発生年次別届け出遅れ率(年内届け出に対するそれ以降に届け出る率)の1975年との比によって求め、その比に
より、1975~77年に結婚したものの基本的なパターンを修正することによって、各年別に求めた。従来、人口動態率算出の分母人口に10月1日現在人口を用いてきていたが、それを年央人口に置き換えて改算を行った。しかし、それは必ずしもコーホートの動態率とは一致しない。そのため、レキシス図法によって人口動態統計による婚姻統計では、生年別婚姻数の集計がされていないため、年齢別婚姻数を基に推計を行う必要がある。また、コーホート率算定の分母人口は、その発生範囲内の延べ人口を用いるべきであり、別途推計を行う必要がある。算定モデルを開発し、7月1日の分母人口を推定した。改算した出生コーホートの初婚率の結果をみると、1932年生まれ以降41年生まれまで徐々に低下し、その後1944年まで僅かに上昇した。しかし、1945年生まれは極端に低くなり、1947年生まれはそれ以前の水準を上回る高率を示し、それ以降低下傾向が続いてきている。また、25歳時における累積初婚率をみると1936年生まれから1944年生まれまで概ね横這いで推移しているが、それ以下の年齢では低下傾向がみられ、25歳以上では逆に上昇している。このことは、初婚率の高年齢化すなわち晩婚化を示すものであり、1947年以前のコーホートにおいて既に晩婚化が生じていたことを示すものである。さらに、1947年以降生まれのコーホートにおいて25歳時の累積率は低下してきている。本研究の目的は、算定した「改算出生コーホート別初婚率」に基づいて、いまだ50歳に達していない女子コーホートについて将来の年齢別初婚率を推定することである。それによって、将来の初婚発生に関して経験的なモデルを当てはめ、将来の年齢別初婚率や生涯未婚の発生頻度を予測することができる。将来の初婚率の推定手法は次の通りである。一般的に年齢別初婚率のように年齢分布が存在する関数は、各種の数理分布モデルの適用が可能である。本研究では平成9年1月の国立社会保障・人口問題研究所推計に用いられた、一般化対数ガンマ分布モデルを用いて、年齢別初婚率を推定する。一般化対数ガンマ分布モデルでは、年齢別初婚率を推定するために、①生涯未婚率を表すパラメター、②平均初婚年齢を表すパラメター、③初婚率の分散形状を表すパラメタ-を過去のすでに初婚が完了したコーホートデータに基づいて推定する。そして、第二に、コホートパラメターの時系列的な挙動を推定する。この手続きにより、いまだ完了していないコーホートの各パラメターを推定する。そして、再度一般化対数ガンマ分布モデルによって、将来の年齢別初婚率を推定する。推定された年齢別初婚率に基づくコーホート平均初婚年齢は、1935年出生コーホートの24.1歳から僅かずつ徐々に上昇し、1951年出生コーホートで24.5歳に達した。その後、平均初婚年齢は上昇のテンポが早まり、1955年出生コーホート25.0歳、1961年出生コーホート26.0歳、1970年出生コーホート27.0歳と急速な平均初婚年齢の上昇が観察された。そして1970年以降ややその上昇の勢いは弱まってきているが、1980年出生コーホートで27.4歳の状態にある。このコーホート平均初婚年齢の変化には、世代による違いがみられる。すなわち、1935年から1952年頃に出生した世代は平均初婚年齢でみて極めて安定的に推移した時代で、それらの世代は、1950年代後半から1970年代後半にかけて結婚した人々である。いいかえれば高度経済成長期に結婚した人々の安定的婚姻パターンの時代に相当する。一方、1953年から1970年までに出生した世代は、1970年代後半から1990年代半ばにかけて結婚した世代で、高度経済成長期後の低成長時代の時期に相当する。そして、この世代が1970年代以降におけるわが国結婚変動の主体となった人々である。これらの世代的な特徴としてはポスト団塊の世代で、また親は戦前生まれという世代である。平均初婚年齢変化の次の節目は1970年代以降に生まれた世代の平均初婚年齢の変化で、それ以前の世代と比較し結婚の遅れが減速した世代である。この世代の特徴は親が戦後生まれ世代であるという点に特徴がある。以上のように推定された平均初婚年齢の変化
には世代的な特徴があり、世代の特徴を持ちながら結婚変動、つまり結婚のタイミング変化を引き起こしていることが観察される。次に、結婚のプレバランスである生涯未婚の量的変化についてみると、出生コーホート別の生涯未婚率も、平均初婚年齢でみたられたと同様の世代区分が成り立つ。すなわち、1960年以前に生まれた世代は、戦前から戦後の一時的振幅を除いて、比較的に安定していた世代である。この世代の一時的な振幅は、結婚相手となる男性人口との不均衡によってもたらされている可能性が大きい。たとえば、1945年生まれの世代は結婚相手となる2~3歳年上の出生規模が小さく、生涯未婚発生の確率が高い世代である。しかしながら、これらの世代は出生規模の変動が著しく、今回の初婚率改訂によっても除去されない統計的問題を含んでいる可能性がある。これらの問題については別に検討する必要性がある。いずれにせよ出生コーホート別生涯未婚率は安定的で、94%の人々が結婚するという世代的特徴を持っていた。1960年以降、この出生コーホート別生涯未婚率は上昇し、1970年出生コーホートまで急速に上昇する。平均初婚年齢の動向とも照らし合わせれば、1960年代から1970年代生まれの人々では、晩婚化と非婚化減少が同時に引き起こされたことを示している。他方、1970年代前半以降に生まれた世代では非婚化現象はそれほど大きく進まず。戦後の大結婚変動期が収束過程に入っていることを伺わせている。
結論
現在わが国の人口予測の際に用いられている手法を前提として、そこで用いられている基礎データの再検証を行い、精度改善の可能性を検討した。本研究から明らかにされた点は、通常予測などに用いられている基礎デ-タにはデータ整合性の上で問題となる、いいかえれば精度を悪くする問題が内包されていることを明らかにした。それらは、第1にコーホートによって人口予測するためのコーホート・データが十分に整備されていないという問題である。これに関しては2つの問題が存在する。通常、わが国の人口動態統計では10月1日の年齢別人口を基礎の算定がなされている。そして、この基礎人口を用いて年齢別初婚率や年齢別出生率が算定されているが、これらの率を単純にコーホート・データへの組み替えを行うと、結果的に誤差を大きくしてしまうとう問題を生じていた。そのため、本研究においては、まず基礎となる年間人口を推定する作業を行い、理論的に統計上整合性のある日本人人口(7月1日)を推定した。そして、コーホート計算のために、コーホート人口に組み替えて初婚率改算に用いた。第2の問題として、初婚発生と届け出遅れ問題の検討である。戦後データについて、結婚の発生と届け出状況を分析し、そこから経験モデルを作成し、人口動態統計に表象されている年次別年齢別初婚数の改訂作業を行った。これらによって、本研究では戦後の初婚率の改算を行い、人口統計学的に整合性のある女子の出生年別年齢別初婚率を算定した。さらに本研究では、上記改算初婚率をもとに将来の年齢別初婚率の推定を行い、わが国出生率変動の最大要因となっている結婚変動の構造を検証した。これらの研究により、出生率を予測する際の基礎となる出生コーホート女子の年齢別初婚率の精度が改善された。そして、次の段階の研究として、今回推定された年齢別初婚率を基礎として、わが国の将来出生率の予測を試み、平成9年1月に社会保障・人口問題研究所が行った出生率仮定値の改善を試みることが課題である。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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