ゲノムインプリンティング異常症5疾患の実態把握に関する全国多施設共同研究

文献情報

文献番号
201128122A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノムインプリンティング異常症5疾患の実態把握に関する全国多施設共同研究
課題番号
H22-難治・一般-162
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
有馬 隆博(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 松原 洋一(東北大学 大学院医学系研究科 )
  • 八重樫 伸生(東北大学 大学院医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
インプリント病(TNDM、BWS、AS、PWS、SRS)は、いずれも数万人に1人で非常に稀な疾患である。発症機序として、責任領域の片親性欠失、変異、重複、メチル化異常が確認されているが原因不明の症例も少なくない。また、生殖補助医療(ART) の普及率向上により、インプリント異常症の報告が世界中で増加している。本研究の目的は、1)収集した患者情報と患者検体を用い、遺伝子型と臨床型の関連を明らかにする。特に、DNAメチル化に着目し、異常の頻度、程度、影響を受けやすい遺伝子領域を同定する。2)ART 治療法やメチル化異常との関連について実態を把握し、リスク要因について評価する。
研究方法
先天性ゲノムインプリンティング病5疾患に関する全国調査では、全国病院の小児科および産婦人科を対象として、大学病院/一般病院の別、病院の病床数で層別化した層化無作為抽出による抽出調査を実施した。遺伝子診断では、インプリント22領域の網羅的インプリント領域情報をもとに、DNA多型を含むようにPCRプライマーを設計し正確な解析を行った。
結果と考察
1376施設(3153調査対象施設総数)から有効回答があった(有効回答率43.6%)患者総数は1818人。ARTと関連する患者の割合はBWS 8.6%(6/70)SRS 9.5%(4/42)で頻度が高いことが判明した。SRSの場合、ART治療を受けた患者では、6例中5例において、複数のインプリント領域で異常を認めた。これらの症例は全例、精子型と卵子型DMRの両方に異常を認めた。また、同一症例で、高メチル化と低メチル化を示し、またその程度は、完全型ではなく、モザイク型を示す事が特徴にみられた。BWSは1例しかART後の症例は解析出来なかったが、SRSの場合と同様の傾向が見られた。一方、非ART群においては、SRSでは10例中3例、BWSでは6例中わずか1例に複数領域にメチル化異常を示すことが判明した。また、臨床症状に大きな違いはないものの、特徴的な異常も確認された。
結論
ARTにより発症したインプリント異常症の場合は、受精以降のメチル化の維持に原因があると推測される。また、非インプリント遺伝子では、全く影響を受けていない。このことから、ゲノム全体では影響を受けず、インプリント遺伝子特有の現象で、インプリント遺伝子領域は影響を受けやすい事が示唆された。今後、検証する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-03-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-02-04
更新日
-

文献情報

文献番号
201128122B
報告書区分
総合
研究課題名
ゲノムインプリンティング異常症5疾患の実態把握に関する全国多施設共同研究
課題番号
H22-難治・一般-162
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
有馬 隆博(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 松原 洋一(東北大学 大学院医学系研究科 )
  • 八重樫 伸生(東北大学 大学院医学系研究科 )
  • 栗山 進一(東北大学 大学院医学系研究科 )
  • 加藤 聖子(順天堂大学医学部)
  • 秦 健一郎(国立成育医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性ゲノムインプリンティング (GI) 異常症:Beckwith-Wiedermann症候群(BWS)、Angelman症候群(AS)、Prader-Willi症候群(PWS)、Silver-Russell症候群(SRS)、新生児一過性糖尿病(TNDM)は、数万人に1人の稀な疾患で、根本的な治療法はない。疾患の発症機序、つまり影響を受ける遺伝子効果により、その病態や重症度は異なる。生殖補助医療(ART)の普及により、これら疾患の発生頻度の増加が世界中で注目されている。本研究では、我が国の疾患の実態と、ARTとの関連を明らかにする事を目的とした。
研究方法
療育センターや重症心身障害者施設を含む全国3153施設の協力下、疫学調査(臨床像、治療内容、治療経過、合併症、ART内容等)に加え、遺伝子診断(22領域のメチル化解析)を行った。その結果を基に、発症機序と病態、治療実態について疾患毎にART 治療内容との関連について評価した。
結果と考察
1376施設から有効回答があった(有効回答率43.6%)。そのうちBWS、SRSの疾患は、それぞれ8.6%、9.5%が不妊治療を受け、平成17年度のIVF+ICSIの出生児が全出生児の0.86%であるため、約10倍リスクが高い事が判明した。また75%以上の症例は体外受精あるいは顕微授精によるものであった。責任領域のメチル化異常の頻度が、BWS 60%、SRS 43%と高率であった。また、ART出生児では、(1)同一症例で、複数のインプリント領域の異常(2)同一症例で、精子型と卵子型DMRの両方に異常(3)同一症例で、高メチル化と低メチル化を示す(4)メチル化異常の程度は、モザイク型の特徴を示した。メチル化異常が複雑なパターンを示すことから、受精以降の異常であることが推測された。
結論
今回の解析では、ARTとの関連が深い疾患はBWSとSRSで、いずれもエピ変異の異常を示す症例が多く、メチル化異常が関わる事が判明した。また、複数領域のメチル化の解析から、複雑なメチル化異常のパターンが認められ、これらの異常は、配偶子形成過程の異常より、むしろ受精以降に異常が示唆された。つまり、受精卵培養や培養液、胚操作にリスク要因があると予想されるが、少人数のART患児と非ART患児の比較であり、今後、さらに症例を増やし、ARTによる疾患発症リスクについて評価し、結論付けたい。

公開日・更新日

公開日
2013-03-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128122C

成果

専門的・学術的観点からの成果
インプリント病(TNDM、BWS、AS、PWS、SRS)の我が国での発症頻度を明らかにした。また、ARTとインプリント異常症との関連を明らかにした。さらに、メチル化インプリント領域を明確にし、ARTによる患児の特徴を示した。つまり、多彩なインプリント異常が、生殖細胞形成過程で起こるのではなく、受精以降の安定性維持に関わることを明らかにした。また、ARTの場合遺伝子効果による影響で、症状が多彩であることが判明した。これらの成果は、国内だけでなく、国際学会や国際的な雑誌に掲載された。
臨床的観点からの成果
インプリント異常症のうち、ART患者と非ART患者との臨床症状について比較した。その結果、非ART患者に比べ、ART患者の場合、症状が多彩であった。重症度に違いは見られなかった。ARTにより発症した患者の場合、新たな診断基準、治療法を設ける必要があると考えられる。ARTに関しては、現時点でリスク要因を特定する事はできない。しかし、受精卵培養や培養液、胚操作について、再考察すべきである。
ガイドライン等の開発
ARTの治療内容のガイドライン(培養液、培養法、など)について、産婦人科専門学会に提案した。同時に、これらの成果は、国内の専門学会でも公表した。
各疾患における診断基準に関して、ARTと関連する場合は、網羅的なメチル化領域の解析を行い、異常のパターン解析が必要である。申請者らは、診断に用いるハイスループット系新規メチル化解析法も開発した。今後、大規模な研究が必要である。
その他行政的観点からの成果
ART と疾患との関連性、それに基づくリスク要因の特定は、今後のART 技術の向上に繋がり、比較的高額な不妊治療に加え、児の健康問題に不安を抱える患者に高度な医療を提供し、行政への意義は大きい。これらの資料を早急に集め、行政の資料として提示する。一部は、厚生省に報告している。日本生殖再生医療学会や日本不妊カウンセリング学会においても公開した。SRS患者団体からも、資料の提示、相談を受けた。
その他のインパクト
体外受精児の問題点として、インタビューを受け、新聞掲載された(2011,12,24)。公開シンポジウムは、国内(第28回日本医学会総会(シンポジスト)、第11回学術集会日本不妊カウンセリング学会(特別講演)、日本生殖再生医学会・第7回学術集会(指定講演))また、非公開のセミナーとして、2回講演依頼され、発表した。国際学会にもシンポジストとして講演した。また、知的財産として、PCR-Luminex法による新規メチル化解析システムとしてPCT出願を行った。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hitoshi Hiura, Hiroaki Okae, Naoko Miyauchi et al.
Characterization of DNA methylation errors in patients with imprinting disorders conceived by assisted reproduction technologies.
Human Reproduction , 27 (8) , 2541-2548  (2012)
10.1093/humrep/des197

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-29

収支報告書

文献番号
201128122Z