Wolfram症候群の実態調査に基づく早期診断法の確立と診療指針作成のための研究

文献情報

文献番号
201128063A
報告書区分
総括
研究課題名
Wolfram症候群の実態調査に基づく早期診断法の確立と診療指針作成のための研究
課題番号
H22-難治・一般-102
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
谷澤 幸生(山口大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡 芳知(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 山田 祐一郎(秋田大学 大学院医学系研究科)
  • 和田 安彦(高知県立大学 健康栄養学部)
  • 雨宮 伸(埼玉医科大学 医学部)
  • 杉原 茂孝(東京女子医科大学 東医療センター)
  • 片桐 秀樹(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 中尾 雄三(近畿大学医学部 堺病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本でのWolfram症候群(WFS)の実態を明らかにし、診断法を確立する。さらに診療指針を提案し、患者の福祉向上に資する。同時に、基礎的、臨床的研究によりWFSの病態を明らかにする。
研究方法
WFS患者の同意を得て遺伝子診断を行った。WFS1遺伝子変異を持つ姉妹例について、詳細な眼科的検査を行った。Wfs1ノックアウトマウスを用いて基礎研究を行った。
結果と考察
同意が得られた33症例について詳細な臨床情報の聴取とWFS1遺伝子検査を施行した。22名(66.7%)においてWFS1遺伝子変異(ホモ接合体11例、複合ヘテロ接合体9例)が同定された。WFS1遺伝子を有する患者で有しない患者で糖尿病平均発症年齢はそれぞれ7.2歳、および11.5歳、視神経萎縮平均発症年齢はそれぞれ14.7歳および17.1歳であった。del193Kを有する3症例(del193Kホモ接合体、del193K / del650fs/ter710複合ヘテロ接合体を有する兄弟例)では、他の変異を有する症例に比し糖尿病と視神経委縮の発症が有意に遅れていた。変異が一方のアレルにのみ同定された2例では、MLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法にて検討したが、欠失やrearrangementを示唆する所見は得られなかった。
姉妹例の眼科的検査では、OCTを用いて生体で網膜全層および網膜神経線維層が全体にわたって薄いことを観察した。網膜神経線維層の薄化は視神経萎縮の網膜への退行変性を生体でとらえたものとして貴重である。視神経はMRIのSTIR法で眼球後方から視交叉前まで全長が著しい視神経萎縮としてとらえられた。眼科的診断にOCTやMRI(STIR法)が有用である。
基礎研究では、WFS1蛋白が小胞体に加えて膵ベータ細胞ではインスリン分泌顆粒に存在し、顆粒内の低pHの維持に重要であることを発見している。ノックアウトマウスによる詳細な検討では、WFS1蛋白質はブドウ糖刺激による、早期の脱分極に対するインスリン分泌応答に係わることが示唆された。WFS1蛋白質はβ細胞の分泌機能調節にも重要な役割を持つ。GLP-1受容体作動薬は、WFS1蛋白欠失によるインスリン分泌障害を部分的に回復させた。
結論
日本でのWFSの遺伝疫学が明らかになった。また、これまで詳細に検討されたことがない、眼科的検討から貴重な知見が得られている。マウスモデルを用いた基礎研究は、治療法の確立に示唆を与えつつある。

公開日・更新日

公開日
2013-03-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201128063B
報告書区分
総合
研究課題名
Wolfram症候群の実態調査に基づく早期診断法の確立と診療指針作成のための研究
課題番号
H22-難治・一般-102
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
谷澤 幸生(山口大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡 芳知(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 山田 祐一郎(秋田大学 大学院医学系研究科)
  • 和田 安彦(高知県立大学 健康栄養学部)
  • 雨宮 伸(埼玉医科大学 医学部)
  • 杉原 茂孝(東京女子医科大学 東医療センター)
  • 片桐 秀樹(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 中尾 雄三(近畿大学医学部 堺病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本でのWolfram症候群(WFS)の実態を明らかにし、診断法を確立する。さらに診療指針を提案し、患者の福祉向上に資する。同時に、基礎的、臨床的研究によりWFSの病態を明らかにする。
研究方法
糖尿病学会専門医等に対するアンケート調査を本に日本人WFS患者の実態調査を行い、患者の同意を得て遺伝子診断を実施する。協力の得られた患者に対して、詳細な臨床像の検討と治療に関する予備的な臨床研究を実施する。Wfs1ノックアウトマウスを用いて病態解明、治療法開発のための基礎研究を行う。
結果と考察
日本でのWFSの頻度は約100万人に1名と推定された。同意が得られ、遺伝子診断を行った33症例の解析からは、WFS1遺伝子変異によるものが66.7% (22名)であった。WFS1遺伝子変異による患者はそれ以外の患者に比べて糖尿病、視神経萎縮の発症年齢が低い傾向がある。患者により変異の種類が異なるためにgenotype-phenotype関連は明瞭でないが、del193Kを有する3症例では、糖尿病と視神経委縮の発症が有意に遅れていた。
眼科的検査としては、OCTやMRIのSTIR法が有用で、WFS1変異による姉妹例ではOCTで網膜全層および網膜神経線維層が全体にわたって菲薄化していた。視神経萎縮の網膜への退行変性を生体でとらえたものとして貴重である。MRI(STIR法)で視神経はで眼球後方から視交叉前まで全長が著しい視神経萎縮としてとらえられた。
WFS1蛋白は小胞体に加えて膵ベータ細胞ではインスリン分泌顆粒に存在する。膵潅流実験などから、細胞膜脱分極後の早期のインスリン分泌に重要な役割を果たすことが示唆された。また、GLP-1受容体作動薬は、WFS1蛋白欠失によるインスリン分泌障害を部分的に回復させた。このことは、患者に対して、GLP-1受容体作動薬が部分的に有効である結果に呼応している。4週投与ではβ細胞量に変化は見られなかったが、長期の効果確認が必要である。
結論
臨床研究から日本でのWFSの遺伝疫学と、特に視神経萎縮のOCTやMRI所見が明らかになった。動物実験からはWFS1蛋白の機能とWFSの病態解明が進んでいる。治療開発に示唆が得られた。

公開日・更新日

公開日
2013-03-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-02-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128063C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Wolfram症候群の日本での実態を初めて明らかにした。100万人に1名程度の頻度と推測される。現在知られている主要な遺伝子はWFS1であるが、この変異によるものが62.1%で、heterogeneityがある。症状(重症度)に違いがあるかは今後の課題である。マウスモデルを用いた病態解明では、小胞体ストレス応答に係わる役割の他、WFS1蛋白はインスリン分泌顆粒に存在し、ブドウ糖刺激によるインスリン分泌調節に係わることを発見した。病因や治療の開発に役立つ患者由来のiPS細胞が樹立された。
臨床的観点からの成果
Wolfram症候群はまれな疾患であり、認知度が低い。従って、正しい診断が遅れがちである。今回の研究成果を多くの学会等で発表し、Wolfram症候群の認知度が上がった。OCTなど先進技術を用いて、視神経萎縮の所見等が明らかとなり、早期診断に役立つ。Preliminaryな段階であるが、pioglitazoneが動物モデルで糖尿病の発症を顕著に抑制し、また、GLP-1受容体作動薬がインスリン分泌を改善することが動物モデル、患者の双方で示され、今後の治療開発に繋がる可能性がある。
ガイドライン等の開発
日本人患者での経過・所見をもとに診断基準(案)を作成しHPで公表した。1)通常、インスリン依存状態に至る糖尿病と2)視神経萎縮の2者を従来通り必須項目とし、感音性難聴、中枢性尿崩症、尿路異常(水腎症、尿管拡大、無力性膀胱など)、神経症状(脳幹・小脳失調、ミオクローヌスなど)、精神症状(うつ、情動障害など)を参考項目として、必須項目2者の合併で診断し、しばしば参考項目を合併する、とした。2013年5月パリでの国際ワークショップに参画し、診断基準、患者ガイドの作成が進んでいる。
その他行政的観点からの成果
Wolfram症候群は、糖尿病に加えて、失明、難聴、神経・精神症状を合併し、患者の生活の質を著しく損ね、寿命も平均40から50年と短い。この疾患に対する認知度が上昇しつつあることは、症状が完成する前に早期に診断し、予後を見据えたケアを提供するために重要である。医療関係者のみでなく、患者にも情報提供を行うため、盲ろう協会が発行する機関誌「コミュニカ」への寄稿等も行ってきた。
その他のインパクト
希少疾患であるが故に、新規治療法の開発等のためには国際協力の上での患者登録等が必要となる。米国、欧州で患者登録が進みつつあり、当研究班はその日本での役割を果たすべく活動してきた。パリ、セントルイスで毎年開催されたシンポジウムに主要メンバーとして参加し、欧米の研究者と交流し、情報交換を行っている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
98件
学会発表(国際学会等)
21件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
ホームページ開設、ろうあ協会誌への寄稿

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hatanaka M, Tanabe K, Yanai A et al.
Wolfram syndrome 1 gene (WFS1) product localizes to secretory granules and determines granule acidification in pancreatic ß-cells.
Hum Mol Genet. , 20 (7) , 1274-1284  (2011)
原著論文2
Kawasaki Y, Harashima S, Sasaki M et al.
Exendin-4 Protects Pancreatic Beta Cells from the Cytotoxic Effect of Rapamycin by Inhibiting JNK and p38 Phosphorylation.
Horm Metab Res , 42 (5) , 311-317  (2011)
原著論文3
Ogawa E, Hosokawa M, Harada N et al.
The effect of gastric inhibitory polypeptide on intestinal glucose absorption and intestinal motility in mice.
Biochem Biophys Res Commun , 404 (1) , 115-120  (2011)
原著論文4
Suzuki T, Imai J, Yamada T et al.
Interleukin-6 enhances glucose-stimulated insulin secretion from pancreatic β-cells: potential involvement of the PLC-IP3 dependent pathway.
Diabetes , 60 (2) , 537-547  (2011)
原著論文5
Sugita S, Kamei Y, Akaike F et al.
Increased systemic glucose tolerance with increased muscle glucose uptake in transgenic mice overexpressing RXRγ in skeletal muscle.
PLoS One , 6 (5) , 20467-  (2011)
原著論文6
Gao J, Ishigaki Y, Yamada T et al.
Involvement of Endoplasmic Stress Protein C/EBP Homologous Protein in Arteriosclerosis Acceleration With Augmented Biological Stress Responses.
Circulation , 124 (7) , 830-839  (2011)
原著論文7
Narita T, Yokoyama H, Yamashita R et al.
Comparisons of the effects of 12-week administration of miglitol and voglibose on the responses of plasma incretins after a mixed meal in Japanese type 2 diabetic patients.
Diabetes Obes Metab , 14 (3) , 283-287  (2011)
原著論文8
Nakabayashi H, Ohta Y, Yamamoto M et al.
Clock-controlled output gene Dbp is a regulator of Arnt/Hif-1β gene expression in pancreatic islet β-cells.
Biochem Biophys Res Commun. , 434 (2) , 370-375  (2013)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-07-19

収支報告書

文献番号
201128063Z