高グリシン血症の実態把握と治療法開発に関する研究

文献情報

文献番号
201128052A
報告書区分
総括
研究課題名
高グリシン血症の実態把握と治療法開発に関する研究
課題番号
H22-難治・一般-091
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
呉 繁夫(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 山口清次(島根大学 医学部)
  • 遠藤 文夫(熊本大学 医学部)
  • 大浦 敏博(東北大学 大学院医学系研究科 )
  • 松原 洋一(東北大学 大学院医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高グリシン血症は、筋緊張低下、無呼吸、けいれん、などの重篤な中枢神経症状を特徴とする神経難病で、遺伝子変異によりグリシン開裂酵素(GCS)の活性が低下し、アミノ酸の一つであるグリシンが体液中に蓄積する先天性アミノ酸代謝異常症の一つである。本症の多くは新生児期に新生児脳症様の症状で発症し、水頭症や脳梁欠損などの脳形成異常を高率に合併する。現在の課題は、実態把握が十分でない点と有効な治療法が確立されていない点にあるため、本研究ではこの2点の解明を研究目的とする。
研究方法
実態把握として、患者数の推定を行った。タンデムマス試験よる新生児スクリーニングにおける血中グリシン濃度解析を解析し、グリシン濃度の平均、標準偏差、ヒストグラムを明らかにする。
変異のホモ接合体を作成し、GCS残存酵素活性を測定した。脳、肝臓におけるグリシン含量をホモジェネートの遠心上清をアミノ酸分析機にて測定した。作成したホモ接合体をモデルマウスとして、治療実験を行なった。治療の指標には、このマウスで高率に認められる脳形成異常を用いた。治療実験には葉酸やその代謝産物を妊娠マウスへ投与し、産仔における脱脳症の有無を検討した。
結果と考察
タンデムマス試験による新生児スクリーニングで血中グリシン濃度データを収集した。血中グリシン濃度は、かなり広範囲に分布し、本症に罹患していなくても1,000 μMを超す値を示す新生児が少数ながら存在することが判明した。
GCS活性を全く欠くノックアウト・マウスを作製した。ホモ接合体KOマウスのGCS酵素活性の残存活性は測定感度以下であった。GCSの完全欠損マウスは、血中や脳に多量のグリシンの蓄積を認め、脱脳症を87%に認めた。GCSノックアウト・マウスは、新生児発症に高率に認められる脳形成異常を示すことから、本症のモデル動物として類似性が高いと考えられる。このKOマウスを疾患モデルマウスとし、脱脳症の出現頻度を指標として、治療実験を実施した。産仔の脱脳症出現頻度を観察すると、メチオニンを投与した場合に、脱脳症の出現頻度が有意に低下し、その有用性が示唆された。
結論
新生児血中グリシン濃度データを収集し、その濃度分布を明らかにした。更に、高グリシン血症モデルマウスの作成及び薬剤治療実験を行った。メチオニンを投与するとホモ接合体KOマウスにおける脱脳症の発生が有意に低下することを見出し、本症治療における有効性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-03-28
更新日
-

文献情報

文献番号
201128052B
報告書区分
総合
研究課題名
高グリシン血症の実態把握と治療法開発に関する研究
課題番号
H22-難治・一般-091
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
呉 繁夫(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 山口 清次(島根大学 医学部)
  • 遠藤 文夫(熊本大学 医学部)
  • 大浦 敏博(東北大学 大学院医学系研究科 )
  • 松原 洋一(東北大学 大学院医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高グリシン血症は、筋緊張低下、無呼吸、けいれん、などの重篤な中枢神経症状を特徴とする。グリシン開裂酵素(GCS)の活性が遺伝的に低下し、アミノ酸の一つであるグリシンが体液中に蓄積する先天性アミノ酸代謝異常症の一つである。本症の多くは新生児脳症様の症状で発症し、水頭症や脳梁欠損などの脳形成異常を高率に合併する。現在の課題は、実態把握が十分でない点と有効な治療法が確立されていない点にあるため、本研究ではこの2点の解明を研究目的とする。
研究方法
実態把握として、患者数の推定を行った。タンデムマス試験よる新生児スクリーニングにおける血中グリシン濃度解析を解析し、グリシン濃度の平均、標準偏差、ヒストグラムを作成した。
GCSノックアウトマウスを作製し、GCS残存酵素活性測定、及び脳、肝臓におけるグリシン含量をアミノ酸分析機にて測定した。作成したホモ接合体マウスを用いて治療実験を行なった。治療の指標には、このマウスで高率に認められる脳形成異常を用いた。治療実験には葉酸やその代謝産物を妊娠マウスへ投与し、産仔における脱脳症の有無を検討した。
結果と考察
タンデムマス試験による新生児スクリーニングで血中グリシン濃度を計96,822名分を収集した。平均グリシン濃度は387.8 μM、標準偏差(SD)は126.7 μMであった。血中グリシン濃度分布は、かなり広く、本症に罹患していなくても1,000 μMを超す値を示す新生児が少数ながら存在することが判明した。
GCSノックアウトのホモ接合体マウスのGCS酵素の残存活性は測定感度以下であり、血中や脳に多量のグリシンの蓄積を認めた。また、表現型を観察すると、87%に脱脳症などの神経管欠損症を認めた。このマウスは、グリシン蓄積を示し、本症に高率に認められる脳形成異常を示すことから、本症のモデル動物として有用性が高いこと考えられる。このKOマウスの脱脳症の出現頻度を指標として、治療実験を実施すると、メチオニンを投与した場合に、産仔の脱脳症出現頻度が頻度が有意に低下し、その治療効果が示唆された。
結論
新生児血中グリシン濃度データの検索を収集し、その濃度分布を明らかにした。更に、高グリシン血症モデルマウスの作成し、そのマウスを用いて薬剤治療実験を行った。妊娠マウスにメチオニンを投与するとホモ接合体KOマウスにおける脱脳症の発生が有意に低下することを見出し、本症治療における有効性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-03-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128052C

成果

専門的・学術的観点からの成果
タンデムマス試験による新生児スクリーニングにおいて、新生児の血中グリシン濃度を多数計測し、平均値、標準偏差、分布を明らかにした。グリシン開裂酵素活性を全く欠くノックアウト・マウスを作製し、中枢神経系にグリシンが大量に蓄積している事を明らかにした。また、そのマウスの表現型を観察し、神経管欠損症を含む脳形成異常を高率に呈する事を見出した。グリシン開裂酵素は葉酸代謝に関係し、このマウスは葉酸代謝酵素のノックアウトマウスのなかで、神経管欠損症を示す初めてのマウスである。
臨床的観点からの成果
高グリシン血症には有効な治療法が確立していない。作成したグリシン開裂酵素のノックアウト・マウスをこうグリシン血症のモデル動物として使用し、葉酸代謝産物などの薬剤による治療実験を行った。その結果、妊娠マウスに葉酸代謝産物の一つであるメチオニンを投与すると神経管欠損症の発生頻度が有意に低下する事が判明した。この結果は、高グリシン血症に伴う脳形成異常の予防にメチオニンが有効であることを示唆しており、臨床応用に期待できる。
ガイドライン等の開発
従来の診断に使われていた臨床症状と血中及び髄液グリシン濃度に基ずく診断基準では診断に苦慮する症例が存在するため、遺伝子診断と安定同位元素13Cグリシン呼気試験を加えた新診断基準を作成した。GLDC, AMT, GCSHの各遺伝子変異検索に加え、13Cグリシン呼気試験を加えた。本法はグリシン開裂酵素の残存酵素活性を非侵襲的に評価する事が可能になる。この診断基準は、小児慢性特定疾患の診断ガイドラインにも取り入れられた。
その他行政的観点からの成果
高グリシン血症は、稀少な先天代謝異常症の一つであり、治療法は未確立で、予後は極めて悪い小児の稀少難病の典型である。これまでその稀少性から、その実態や病態を研究する研究者が少なく、研究が進んでいなかった。今回、難治性疾患克服研究事業として、平成21-23年継続して研究を実施する事が出来、疾患モデル動物を確立し、更に新規治療薬の候補薬剤を見出すことが出来たなどの研究が進展した。
 
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Narisawa A, Komatsuzaki S, Kikuchi A, et al.
Mutations in genes encoding the glycine cleavage system predispose to neural tube defects in mice and humans
Hum Mol Genet , 21 (7) , 1496-1503  (2012)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-05-26

収支報告書

文献番号
201128052Z