日本におけるハイブリッド型人工内耳の適応基準の提唱および蝸牛を保護する電極・術式・薬剤の開発

文献情報

文献番号
201122089A
報告書区分
総括
研究課題名
日本におけるハイブリッド型人工内耳の適応基準の提唱および蝸牛を保護する電極・術式・薬剤の開発
課題番号
H23-感覚・一般-002
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
山岨 達也(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 土井 勝美(近畿大学大学院医学系研究科)
  • 熊川 孝三(虎の門病院)
  • 坂田 英明(目白大学保健医療学部)
  • 伊藤 健(帝京大学医学部附属病院)
  • 安達 のどか(埼玉県立小児医療センター)
  • 柿木 章伸(東京大学医学部附属病院)
  • 鈴木 光也(東邦大学医療センター佐倉病院)
  • 近藤 健二(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
低音域に残聴をもつ両側高音急墜型感音難聴症例に対する、補聴器と人工内耳の機能を併せ持つハイブリッド型人工内耳(EAS)の適応基準を設定する事を主たる目的とする。また手術での聴力温存率に影響する因子を明らかにすること、蝸牛を保護する人工内耳の電極開発や術式の改良を臨床応用することも目的とする。
研究方法
低音域に残聴をもつ高度難聴症例の補聴器装用下の聴取能の評価、高音急墜型難聴を再現するフィルタによる日本語と英語の聴取成績の比較、以前に人工内耳手術を受けた症例の中で、術側の残存聴力を確認できた症例を対象とした聴力残存率の後方視的解析、ヒト蝸牛モデルによる基底板振動シミュレーション、MPC ポリマーコーティングによる聴力温存を意図した電極の作成を行った。
結果と考察
1)高音急墜型感音難聴における日本語語音の判別では、1000Hzが保たれていれば母音の判別は良好であり、子音も半数程度判別可能であった。2)フィルタによる日本語と英語の聴取成績では、日本語聴取の方が英語聴取に比べて全被験者での正答率が有意に高い結果であった。 3)人工内耳術後聴力温存率は、東大27例では21例で10dB以上の聴力低下を認め、阪学68例では聴力残存率は約50%であった。4)ヒト蝸牛モデルシミュレーションでは、内耳に挿入する電極長を短くし容積を小さくすると500Hz以下における残存聴力を利用しやすく、電極の位置が鼓室階中心に近い方が良い効果が得られた。5)人工内耳電極にMPCポリマーをコーティングした電極を作成し、その特性について明らかな変化は見られなかった。本研究結果から高音急墜型感音難聴における急墜する周波数別の日本語語音の判別成績がEASの適応基準の決定に有用であり、また海外の基準ではなく、本邦独自のEAS適応基準決定の必要性が示唆された。
結論
高音急墜型感音難聴における語音判別では急墜する周波数により差が出ること、1000Hzが保たれていれば母音の判別は良好で子音も半数程度は判別可能であること、日本語の方が英語より聴取成績が良いことが判明した。従って本邦にEAS型人工内耳を導入する際の適応基準では、低音域残存聴力レベルは海外の基準より閾値が高くても良い可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122089C

成果

専門的・学術的観点からの成果
高音急墜型感音難聴における日本語語音の判別では、1kHzが保たれていれば母音判別は良好で子音も半数程度は判別可能であった。このような詳細な解析は本邦では過去にわずかのみである。フィルター処理した日本語と英語の聴取成績の差の検討は初めての試みである。基底板振動シミュレーションは有限要素法を用いてコンピューター解析する独自の手法であり、臨床経験とは異なる理論的アプローチとして価値がある。聴力温存を意図した電極の開発は炎症反応の抑制と薬剤の徐放が可能になる新素材という点で注目される。
臨床的観点からの成果
本邦にハイブリッド型人工内耳(EAS)を導入する際には、適応基準において,低音域の残存聴力レベルは海外の基準より閾値が高くても良い可能性が示される。ヒト蝸牛モデルによる基底板振動シミュレーション研究の結果は,蝸牛窓振動を保つような手術のアプローチの重要性を示唆しており、術式の改良に応用できる。聴力温存を意図した電極としてMPCポリマーをコーティングした電極を作成したが、これは術後聴力成績の向上に寄与することが期待される。
ガイドライン等の開発
高音急墜型感音難聴に対するハイブリッド型人工内耳(EAS)の適応基準は海外では設定されているが、本邦ではない。このため本研究では適応基準の設定とガイドラインの作成を目指している。研究途中であるが、海外の基準にあてはまる場合でも日本語の場合は補聴器装用でかなり聴取能が良いことが判明しており、より厳格な適応基準設定が必要と考える。また聴力温存を意図した電極の開発は現在使用されている人工内耳の会社とも共同して研究しているものであり、特許申請に向けて準備している。
その他行政的観点からの成果
高音急墜型感音難聴における急墜する周波数別の日本語語音の判別成績はハイブリッド型人工内耳(EAS)の適応基準の決定に大いに有用である。またフィルター処理した日本語と英語を正常聴力者に呈示して高音急墜型感音難聴を模した聴取検査で、二つの言語の聴取成績に明らかな差が見られたことも、海外の基準ではなく、本邦独自のEAS適応基準決定の必要性を示唆している。この適応決定により、不必要な手術を回避でき、医療費の抑制が期待される。
その他のインパクト
人工内耳の原理、適応、補聴器との相違などに関して、一般向け講演会を開催した。

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
13件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kashio A et al.
Topical application of anti-apoptotic TAT-FNK protein prevents aminoglycoside- induced ototoxicity
Gene Therapy  (2011)
原著論文2
Lin Y et al.
Hydrogen in drinking water attenuates noise-induced hearing loss in guinea pigs. Neurosci Lett
Neurosci Lett , 487 , 12-16  (2011)
原著論文3
山岨達也
乳幼児難聴の聴覚医学的問題点「治療における問題点」
Audiology Japan , 54 , 649-664  (2011)
原著論文4
山岨達也
ミトコンドリア遺伝子異常と内耳障害
耳鼻咽喉科臨床 , 104 , 533-540  (2011)
原著論文5
岩崎聡、熊川孝三、他
Usher症候群の臨床的タイプ分類の問題点と課題
日本耳鼻咽喉科学会会報  (2011)
原著論文6
射場恵、熊川孝三、他
語音聴取評価検査「CI-2004(試案)」を用いた人工内耳装用者の聴取能
Audiology Japan , 54 , 277-284  (2011)
原著論文7
加藤央、熊川孝三、他
神経線維腫症第2型における人工内耳と聴性脳幹インプラント治療の比較
Otol Japan , 21 , 244-249  (2011)
原著論文8
熊川孝三、武田英彦
高音急墜型難聴フィルタを介した日本語と英語文の聴取成績の比較
耳鼻臨床 , 132  (2012)

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
201122089Z