社会保障給付の人的側面と社会保障財政の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
201101023A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障給付の人的側面と社会保障財政の在り方に関する研究
課題番号
H22-政策・一般-018
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
金子 能宏(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 西村 周三(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 稲垣 誠一(一橋大学 経済研究所)
  • 岩木 秀夫(日本女子大学 人間社会学部)
  • 岩本 康志(東京大学 大学院経済学研究科)
  • 西山 裕(長崎国際大学 人間社会学部)
  • 音山 若穂(群馬大学 大学院教育学研究科)
  • 森口 千晶(一橋大学 経済研究所)
  • 八塩 裕之(京都産業大学 経済学部)
  • 湯田 道生(中京大学 経済学部)
  • 松本 勝明(北海道大学 公共政策大学院)
  • 東 修司(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
  • 山本 克也(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部 )
  • 暮石 渉(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部 )
  • 佐藤 格(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部 )
  • 酒井 正(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
6,169,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療介護福祉等の給付の提供に関わる人々(福祉マンパワー)の確保・定着に関連して、近年、地域別・分野別の人手不足や介護分野での離職問題などが明らかになり、対策が採られ始めている。しかし、高齢者の増加で医療介護に対するニーズが増え、これに応えるサービスを提供する医療介護従事者の不足が見られる一方、若年者の就職難など労働市場のミスマッチや待遇改善の課題が残されている。そのため、福祉マンパワーの確保定着には、働くインセンティブ(誘因)と適切な人材配置等を可能にする諸条件を、マンパワーの費用を支える社会保障財政とバランスを保ちながら整備・拡充していく制度横断的な取組みが必要である。特に、専門職に就く人々の社会的背景には多様な要素が関係するため、経済学、教育社会学、心理学、制度分析などを用いて多角的に分析する必要がある。従って、本研究では、福祉マンパワーの実態と動向に関するデータに基づく実証分析と福祉マンパワーの課題に関する制度分析・国際比較を行い、今後の社会保障政策に資するエビデンスを提供することを目的に研究を行う。
研究方法
社会保障給付の人的側面と社会保障財政に関する分析には、ニーズに対応する福祉マンパワーの実証分析(推計を含む)と福祉マンパワーになりうる若年者の就労と人材の専門性に関する制度分析が必要である。また、専門職に就く人々の社会的背景や誘因には多様な要素が関係するため、研究動向を把握する有識者からのヒアリングを行うと共に、経済学、教育社会学、心理学、国際比較などにより多角的に分析する。社会保障給付の人的側面については、若年者就労に関わる教育の雇用・労働インフラ再構築との関係、地域の支え合いと社会福祉士の専門性、介護・福祉給付と家族の関係、NPO・企業等の活用による介護・福祉の展開に関する分析を行い、医療従事者については勤務医の就業環境と意識に関するアンケート調査を行う。人的側面と社会保障財政との関係については、国保財政の費用効率性に関する実証分析、後期高齢者支援金の加算・減算等に関する制度分析、社会保障給付の未受給要因の分析を行う。国際比較については、ドイツの財源区分の検討に基づく社会保障財源見直し及び韓国老人長期療養保険(介護保険)に関する制度分析を行う。
結果と考察
社会保障給付の人的側面について、若者の教育と就労を繋ぐ現場養成方式には、都市の若者の農山漁村定住の増加を通じて人口の都鄙間再配置による限界集落化の防止と農山漁村・中山間部の雇用・労働インフラ再構築に繋がる可能性がある。地域の支え合いでは社会福祉士の役割は重要であるが、その専門性は福祉現場のノウハウだけでなく社会的企業や公共経営等の地域の資源(ソーシャルキャピタル)に関わる専門的知見も必要である。人的側面を介護・福祉給付と家族の関係から経済学的にみると、子供などに対する援助の予想によって自助の誘因が異なること、及び相手が協力する限り自分も協力し相手が非協力になると自分もそうする行動(トリガー戦略)では家族の協力が持続する(均衡となりうる)ことがわかった。社会保障財政の在り方については、加入者の高齢化という構造的要因と地方自治体の財政補助や保険料収納率の低下など配分的要因が国保財政の費用効率性を低下させていることがわかった。欧米では社会保険受給資格があるにも拘わらず受給していない者の増加が問題となり、社会的相互作用の受給行動に与える影響が注目されている。日本でも受給行動が周囲の人の受給実態から影響を受けているのならば受給者数は相乗的に増加(もしくは減少)する可能性があり、この問題を検討することが必要である。後期高齢者支援金の加算・減算は特定健康診査等の実施主体の医療保険者に誘因を与える仕組と位置づけられているが、加算幅と減算幅のいずれに着目して全体を設計するのか・加算幅をどの程度にするのか・医療保険者毎の状況を如何に調整するのかなどの課題が残されている。ドイツでは、社会保険給付等のうち税財源により賄うべきものと保険料財源により賄うべきものとの区分が提示され、これに基づいて財源の社会保険料から税へのシフトが進められた。給付の財源区分を提示して社会保障財源の安定化を図るドイツの例は、日本の一体改革の進め方に示唆を与える。
結論
社会保障給付の人的側面は、マンパワーの面と専門職性の両面から分析する必要がある。社会保障給付の人的側面を支える社会保障財政については、負担軽減のため給付を効率的にする条件とニーズに基づく給付を可能にする条件など、多角的な研究が必要である。本研究の成果は、社会保障税・一体改革大綱で示された改革項目(若年者雇用対策、社会保険適用拡大、国保財政運営の都道府県単位化など)と社会保障の安定財源確保に関連する成果を含み、今後の社会保障改革の検討に資する基礎的資料となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201101023Z