性同一性障害(性別不合)に対するホルモン剤の使用実態及び臨床評価手法に関する研究

文献情報

文献番号
202524030A
報告書区分
総括
研究課題名
性同一性障害(性別不合)に対するホルモン剤の使用実態及び臨床評価手法に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KC2011
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
中塚 幹也(岡山大学 学術研究院保健学域)
研究分担者(所属機関)
  • 舛森 直哉(札幌医科大学医学部)
  • 石原 理(女子栄養大学 臨床医学)
  • 中島 彰俊(富山大学 学術研究部医学系)
  • 北島 道夫(国際医療福祉大学 医学部医学科)
  • 松尾 かずな(名古屋大学 医学部附属病院)
  • 長谷川 高誠(岡山大学  学術研究院 医療開発領域 小児科)
  • 佐々木 春明(学校法人昭和大学 医学部泌尿器科学)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
1,160,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では,日本における性同一性障害(性別不合)のホルモン療法における薬剤の使用実態を明らかにし,臨床評価や副作用の指標の考え方等を明らかにするために調査を実施した.
研究方法
研究分担者・協力者の施設において,性別不合当事者におけるホルモン療法の実態調査(後方視調査)を実施した.
結果と考察
トランス男性73名におけるアンドロゲン療法では,ヘモグロビン(Hb)やヘマトクリット(Hct)は3か月後から有意に上昇し,12か月にわたって徐々に男性の正常範囲へ上昇し,生物学的女性としては多血症となっていた.D-ダイマー(D-dimer)は有意な変化は見られず,臨床的に血栓形成を疑う例は見られなかった.HDL-コレステロール(HDL Chol)は,アンドロゲン療法の開始後3か月時点で,多くは正常範囲内であったものの有意な低下が見られた.月経は,アンドロゲン療法開始後3か月では約7割が月経は停止,約2割が不順となっており,12か月後には98.2%が停止していた.ひげや体毛は,開始後3か月で約5割, 12か月には7~8割が増加していた.声の低音化に関しては,開始後3か月では79.4%,12か月後には89.5%が見られていた.体形の男性化も見られていたが,乳房については大きな変化は見られていなかった.皮膚の状態の悪化・ニキビなどは,開始後3か月で62.5%が悪化していた.頭頂部の頭髪は軽度の脱毛が見られていた.
トランス女性25名におけるエストロゲン療法では,Hb,Hctは,生物学的男性の正常範囲の値から生物学的女性の正常範囲の値へと低下していた.D-ダイマーの有意な上昇は見られず,臨床的に血栓形成を疑う例は見られなかった.脂質や糖に関しては,有意な変化は見られなった.筋肉・筋力は日常生活に支障が出る範囲ではなかったが,やや低下していた.
性別不合を診療するジェンダークリニックにおけるホルモン療法の実態が明らかになった.副作用に関する検査は比較的多く実施されていたが,不十分な状況があること,また,臨床的な効果に関しては,診療録上の記載があまり行われていないことが明らかになった.さらには.ホルモン療法の担当医が精神科医ではないこともあり,心理面の評価や社会的効果についての記述はほとんど見られなかった.
精神科医との連携も必要ではあるが,性別不合診療に関する専門的な知識や経験を持つ精神科医が全国的に不足している状況を考慮すると,ホルモン療法の担当医が,各種の評価を行う必要があると考えられる.
結論
今回の研究で明らかになった血液検査上の変化,身体上の変化,心理面での変化,さらには,想定される社会的な変化について,精神科医などの心理の専門家ではなくとも,評価が可能なようなツールの選定が必要である.

公開日・更新日

公開日
2026-07-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-07-15
更新日
-

文献情報

文献番号
202524030B
報告書区分
総合
研究課題名
性同一性障害(性別不合)に対するホルモン剤の使用実態及び臨床評価手法に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KC2011
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
中塚 幹也(岡山大学 学術研究院保健学域)
研究分担者(所属機関)
  • 舛森 直哉(札幌医科大学医学部)
  • 石原 理(女子栄養大学 臨床医学)
  • 中島 彰俊(富山大学 学術研究部医学系)
  • 北島 道夫(国際医療福祉大学 医学部医学科)
  • 松尾 かずな(名古屋大学 医学部附属病院)
  • 長谷川 高誠(岡山大学  学術研究院 医療開発領域 小児科)
  • 佐々木 春明(学校法人昭和大学 医学部泌尿器科学)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では,日本における性同一性障害(性別不合)のホルモン療法における薬剤の使用実態を明らかにするとともに,臨床評価や副作用の指標を検討する.
研究方法
専門施設一次調査
日本GI(性別不合)学会,日本性機能学会の会員(医師会員)が所属し,性別不合当事者のホルモン療法を実施していた112施設を解析対象とした調査を実施した.
一次調査(一般施設)
日本産科婦人科学会,および,日本泌尿器科学会の会員を対象にオンラインでの自己記入式質問紙調査を実施した.
日本GI(性別不合)学会の会員の性別不合当事者への調査
日本GI(性別不合)学会研究大会に参加した性別不合当事者72人に無記名の質問紙調査を実施した.
性別不合当事者におけるホルモン療法の実態調査(二次調査・後方視調査)
専門施設においてホルモン療法を実施された例を登録し,後方視的に解析した.
結果と考察
一次調査(専門施設)
トランス女性へは,プロギノンデポー筋注が55.2%,エストラーナテープ貼付が39.7%,プレマリン内服が32.8%の施設で実施されていた.トランス男性に対して,エナルモンデポー筋注が約76%で,約9割の施設が注射剤を使用していた.条件によって,保険適用でホルモン療法を実施している施設は約5割であった.
トランス女性では,肝機能,CBC,脂質,D-dimer,血糖値などの測定が実施されていたのは4~5割であり,トランス男性では,肝機能,CBCが約7割と高率であったが,その他は同様であった.トランス女性,トランス男性ともに,血圧,体重,性別違和感などは2~3割,QOL,BMI,うつや不安なども2割強で評価されていたが,十分とは言えなかった
トランス女性へのホルモン療法の効果指標としては,「ひげや体毛」24.1%,「体型の女性化」43.1%などと低率であり,適当な指標がないことが明らかになった.また,「性別違和感の軽減」39.7%,「うつや不安の軽減」22.4%なども低率であった.
一次調査(一般施設)
回答した医師の4割強が,性別不合当事者の受診を経験していた.専門施設への一次調査と異なり,一般の産婦人科医・泌尿器科医はトランス女性にプレマリン内服(0.625mg)が65.7%と高率,エストラーナテープも72.3%と高率に使用していた.
トランス女性へのホルモン療法の副作用の発見や健康管理のための評価法としては,産婦人科医は,泌尿器科医に比較してD-dimerの測定が高率であった.
ホルモン療法の副作用の発見や健康管理のための評価法として,血圧,体重,BMIなどを測定していたのは半数に満たない状況であった.また,性別違和感,QOL,うつや不安などの評価は20~30%にとどまっていた.
性別不合当事者におけるホルモン療法の実態調査(二次調査・後方視調査)
トランス男性におけるアンドロゲン療法の実態
エナルモンデポー製剤125mg/2週ごと,または,250mg/2週ごとの筋注を実施していたトランス男性73名への調査では.血圧は,アンドロゲン療法の開始後3か月で有意な血圧上昇が見られたが,正常血圧範囲内であった.ヘモグロビン(Hb)やヘマトクリット(Hct)は3か月後から有意に上昇していた.
月経は,アンドロゲン療法開始後3か月では約7割が月経は停止,12か月後には98.2%が停止していた.ひげや体毛は,開始後12か月には7~8割が増加していた.声の低音化に関しては,開始後3か月では79.4%に見られていた.体形の男性化も見られていたが,乳房については大きな変化は見られていなかった.皮膚の状態の悪化・ニキビなどは,開始後3か月で62.5%が悪化していた.心理状態に関する記載はほとんど見られなかった.
トランス女性におけるエストロゲン療法の実態
エストラーナテープ0.72mg1枚/隔日張替え,または,0.72mg 2枚/隔日張替えの経皮製剤を実施していたトランス女性25名への調査では,血圧,体重等には,エストロゲン療法による有意な変化は見られなかった.Hb,Hctは,生物学的男性の正常範囲の値から生物学的女性の正常範囲の値へと低下していた.テストステロン値は,エストロゲン療法開始後6か月には有意な低下が見られていた.筋肉・筋力は日常生活に支障が出る範囲ではなかったが,やや低下していた.
心理状態に関しては,診療録への記載例が少なかったため,少数例での観察ではあるが,エストロゲン療法の開始前には,うつ症状や不安症状のある例のうち,開始後12か月には改善例も見られていた.
結論
今回の研究で明らかになった血液検査上の変化,身体上の変化,心理面での変化,さらには,想定される社会的な変化について,精神科医などの心理の専門家ではなくとも,評価が可能なよういなツールの選定が必要である.

公開日・更新日

公開日
2026-07-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-07-15
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202524030C

成果

専門的・学術的観点からの成果
日本における,性別不合に対するホルモン療法の実態が明らかになった.これにより,性別不合へのホルモン療法における治療効果や副作用の評価についての基準を作成した.また,身体の変化に伴い,社会的に性別の転換が行われ,それによる心理状態,QOLへの影響に関する評価の基準についての提案をした.さらに,性別不合へのホルモン製剤の適切な用法用量についての情報提供を行った.
臨床的観点からの成果
性別不合へのホルモン療法に関するガイドライン等を作成,医学雑誌等でも紹介したことで,性別不合当事者の診療に参画する医師を増やすことにもつながると考えられる.今回,性別不合当事者やその団体への調査,製薬企業へのヒアリング等により,ホルモン製剤の供給についての申し入れを行った.また,個人輸入でホルモン療法を行っている性別不合当事者の存在も明らかになり,安全なホルモン療法に向けての啓発を行った.
ガイドライン等の開発
本研究で得られた知見をもとに,日本精神神経学会/日本GI(性別不合)学会合同の性別不合診療ガイドライン第5版の中で,性別不合のホルモン療法について解説し,付表として各薬剤の用法用量を記述した.産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2026(日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会編集・監修)のCQ431「性別不合のホルモン療法の取り扱いは?」で,また,日本女性医学会のホルモン補充療法(HRT)ガイドライン(2025)のCQ215「性別不合にホルモン療法は推奨されるか?」でも取り上げた.
その他行政的観点からの成果
現在,ホルモン療法が保険適用ではないため,混合診療を避けるために保険適用で実施可能な性別適合手術が保険適用にはならないという状況が発生しており,問題となっている.性別不合に対するホルモン療法における使用薬剤の用法用量の実態を明らかにし,後方視調査により,その有効性と安全性を検討した.また,診療ガイドラインに用法用量を記述した.これらのデータは,保険適用に向けての基礎資料となる.
その他のインパクト
日本GI(性別不合)学会エキスパートの研修会,日本女性医学会の女性ヘルスケア専門医研修会等において,講演することにより,全国の性別不合当事者のホルモン療法を実施する医師への啓発を行った.また,心血管への影響などをまとめたReviewは,ホルモン療法に伴う心血管系への影響について,循環器内科医での情報提供となっている.Masumori N, Nakatsuka M. Circulation Reports 5 (4):105-113,2023.

発表件数

原著論文(和文)
17件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
23件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
41件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
ガイドライン作成3件
その他成果(普及・啓発活動)
104件
講演104件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2026-07-15
更新日
-

収支報告書

文献番号
202524030Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,400,000円
(2)補助金確定額
1,400,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 94,700円
人件費・謝金 781,310円
旅費 0円
その他 283,990円
間接経費 240,000円
合計 1,400,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2026-07-15
更新日
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