ホルモン受容機構異常に関する調査研究

文献情報

文献番号
201024007A
報告書区分
総括
研究課題名
ホルモン受容機構異常に関する調査研究
課題番号
H20-難治・一般-007
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
松本 俊夫(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 茂明(東京大学分子細胞生物学研究所)
  • 森 昌朋(群馬大学医学部 第一内科)
  • 中村 浩淑(浜松医科大学第二内科)
  • 赤水 尚史(和歌山県立医科大学第1内科講座)
  • 村田 善晴(名古屋大学環境医学研究所 生体適応・防御研究部門、発生・遺伝分野)
  • 大薗 惠一(大阪大学大学院医学系研究科生体統合医学小児発達医学)
  • 杉本 利嗣(島根大学医学部内科学講座 内科学第一)
  • 岡崎 亮(帝京大学ちば総合医療センター 第三内科)
  • 福本 誠二(東京大学医学部附属病院腎臓 内分泌内科)
  • 皆川 真規(千葉大学大学院医学研究院小児病態学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
32,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、副甲状腺関連疾患として偽性および特発性副甲状腺機能低下症、ビタミンD抵抗性くる病とその類縁疾患、甲状腺関連疾患として甲状腺ホルモン不応症、TSH受容体異常症、TSH受容体抗体病(バセドウ病)などのホルモン受容機構異常に起因する難病とその関連疾患について、患者実態を把握するとともに基礎・臨床の両面からの研究を発展・融合させることにより原因・病態の解明、診断基準の作成、治療法の確立を行う。
研究方法
PT副甲状腺ホルモン(PTH)、活性型VD、甲状腺ホルモン、TSHなどのホルモン受容機構異常症の遺伝子解析やホルモン測定等の診断法の確立、診断基準の策定と全国実態調査、治療指針の策定等を行う。同時にホルモンの情報伝達系の解析、遺伝子改変動物等の疾患モデルの解析に基づき、病態解明や新規治療法の開発への基盤を築く。
結果と考察
全国一次調査においてFGF23関連低リン血症性疾患の年間発症症例数は117例(95%CI 75-160)と算出された。二次調査の結果、前回作製した診断指針の妥当性が確認できた。我が国において、ビタミンD不足症が高頻度に見られ、その骨脆弱性発症機序についても明らかにした。MBD4ノックアウトマウスでは皮質骨の骨量および骨密度が有意に減少していた。甲状腺クリーゼの推計患者数が5年間で1283±105人(95%信頼区間:1077-1489人)と算出された。致死率は、確実例と疑い例それぞれ11.0%と9.5%と高率であった。粘液水腫性昏睡の診断基準案を策定し、バセドウ病悪性眼球突出症の診断・治療指針および甲状腺結節取り扱いガイドラインの作成を進めた。RTHの未診断例が多数存在することを示した。
結論
FGF23関連低リン血症性疾患の疫学調査により実態解明が進み、診断・治療法の開発が加速するものと期待される。VD不足症の基準値の設定により25(OH)D測定の保険適用に向けた検討が加速するものと思われる。甲状腺クリーゼの疫学調査の結果、病態把握がすすみ、治療方針の確立も進むものと期待される。重症例も多い粘液水腫性昏睡の診断基準案、難治性のバセドウ病悪性眼球突出症の診断・治療指針、頻度の高い甲状腺結節の取り扱いガイドライン等の策定は、健康増進への社会的影響も大きく積極的な推進が必要である。

公開日・更新日

公開日
2011-12-27
更新日
-

文献情報

文献番号
201024007B
報告書区分
総合
研究課題名
ホルモン受容機構異常に関する調査研究
課題番号
H20-難治・一般-007
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
松本 俊夫(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 茂明(東京大学分子細胞生物学研究所)
  • 森 昌朋(群馬大学医学部 第一内科)
  • 中村 浩淑(浜松医科大学第二内科)
  • 赤水 尚史(和歌山県立医科大学第1内科講座)
  • 大薗 惠一(大阪大学大学院小児科学)
  • 村田 善晴(名古屋大学環境医学研究所 生体適応・防御研究部門、発生・遺伝分野)
  • 杉本 利嗣(島根大学医学部内科学講座 内科学第一)
  • 福本 誠二(東京大学医学部附属病院 腎臓内分泌内科)
  • 皆川 真規(千葉大学大学院医学研究院 小児病態学 )
  • 岡崎 亮(帝京大学ちば総合医療センター・第三内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、偽性および特発性副甲状腺機能低下症、ビタミンD抵抗性くる病とその類縁疾患、甲状腺ホルモン不応症、TSH受容体異常症、TSH受容体抗体病などのホルモン受容機構異常に起因する難病とその関連疾患について、患者実態を把握するとともに基礎・臨床の両面からの研究を発展・融合させることにより原因・病態の解明、診断基準の作成、治療法の確立を行うことを目的とした。
研究方法
PTH、活性型ビタミンD、甲状腺ホルモン、TSHなどのホルモン作用による細胞内情報伝達系のin vitro解析およびこれらの受容機構異常症のモデル動物の解析に基づき、疾患病態の理解や新規治療法の開発への基盤を築くとともに、これらの情報に立脚して臨床症例の病態解析、遺伝子異常の診断方法やホルモン血中濃度測定系の確立のみならず、診断基準、診断指針の策定を行った。
結果と考察
低カルシウム血症を呈する疾患の鑑別指針を策定した。カルシウム感知受容体(CaSR)遺伝子の活性化変異による副甲状腺機能低下症に対しCaSR拮抗薬が有効であることを示した。偽性副甲状腺機能低下症1b 型の分子診断法をメチル化特異的 PCR 法により確立した。FGF23関連低リン血症の全国調査からわが国における本症の疫学実態が明らかとなった。日本人成人男女におけるビタミンD不足を血清25(OH)D濃度28ng/ml以下と策定した。1α水酸化酵素遺伝子の脱メチル化に必須のMBD4 遺伝子を同定し、ホルモン依存的DNA メチル化・脱メチル化による可逆的転写調節機構の存在を示した。甲状腺クリーゼ診断基準を作成した。TSH受容体(TSHR)異常症の病態をそのモデルマウスを用いて解析した。粘液水腫昏睡の診断基準を策定し、バセドウ病悪性眼球突出症の診断指針と治療指針および甲状腺結節取り扱い診療ガイドラインガイドラインの作成を進めた。基礎的検討結果は、国際的にも高い評価を受けている。また、策定した診断指針、診断ガイドラインなどは何れも病態解明や早期診断、治療による予後の改善に大きく寄与するものと期待される。
結論
ホルモン受容機構異常に起因する難病について、基礎的、臨床的検討を行った。これらは、国民の健康の維持・増進に多大な貢献ができるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2011-12-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201024007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Ca感知受容体(CaSR)変異による副甲状腺機能低下症に対しCaSR拮抗薬の有効性を示した。1α水酸化酵素遺伝子のDNAメチル化・脱メチル化による可逆的転写調節機構を見出した。更に脱メチル化に必須の因子MBD4を同定し、その欠損マウスでは皮質骨量が減少することを示した。TSH受容体(TSHR)遺伝子ヘテロ変異でもdominant negative 効果により甲状腺機能低下症が発症し、褐色脂肪組織の機能低下により熱産生障害を呈することを示した。これらの基礎的検討は海外でも高い評価を得ている。
臨床的観点からの成果
低Ca血症の鑑別診断指針は広く臨床の場で利用されつつある。ビタミンD不足を規定する血清25(OH)D 濃度基準値を28 ng/mlに設定した。全国疫学調査を行い、FGF23関連低リン血症性疾患、甲状腺クリーゼのわが国での実態を明らかにした。甲状腺クリーゼの診断基準は、死亡率の高い病態の早期診断に大きな威力を発揮している。甲状腺ホルモン不応症(RTH)を「T3 作用機構上の何らかの異常により組織の甲状腺ホルモンに対する反応性が減弱し、不適切TSH 分泌症候群(SITSH)を示す症候群」と定義した。
ガイドライン等の開発
FGF23関連低リン血症性疾患、甲状腺クリーゼ、粘液水腫昏睡およびくる病・骨軟化症の診断指針を策定した。バセドウ病悪性眼球突出症の診断指針と治療指針の作成委員会において検討を進め、MRI診断を組み込んだ診断指針試案を作成し、日本甲状腺学会、日本内分泌学会、AOTA, ITCで発表した。甲状腺結節は、良性腺腫と一部の悪性腫瘍との鑑別が問題となる。甲状腺結節取り扱い診療ガイドラインの骨子として、甲状腺結節の種類と疫学、診断手順、診断の進め方、治療方針の立て方に重点を置き検討を行っている。
その他行政的観点からの成果
FGF23関連低リン血症性疾患の疫学調査により本症の診断・治療法の開発が加速すると期待される。ビタミンD不足症の基準値設定により25(OH)D測定の保険適用に向けた検討を加速できる。甲状腺クリーゼ診断指針、粘液水腫性昏睡診断基準案、バセドウ病悪性眼球突出症診断・治療指針、甲状腺結節取り扱いガイドライン等の策定は、健康増進に貢献すると期待される。副甲状腺機能亢進症、偽性副甲状腺機能低下症、ビタミンD抵抗性くる病/骨軟化症、ビタミンD依存性くる病/骨軟化症が新たに指定難病に決定した。
その他のインパクト
FGF23関連低リン血症性疾患の原因遺伝子として新たにectonucleotide pyrophosphatase/phosphodiesterase 1 (ENPP1)遺伝子異常を同定した。また、甲状腺ホルモン不応症の原因として甲状腺ホルモン受容体遺伝子のR243Q, R438P変異をわが国で初めて見出した。さらに、FGF23関連低リン血症性疾患の全国調査結果および甲状腺結節取り扱い診療ガイドライン作成に関する検討結果を第84回日本内分泌学会学術総会の招聘演題として発表した。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Endo, I. Fukumoto, S. Matsumoto T et al.
Nationwide survey of fibroblast growth factor 23 (FGF23)-related hypophosphatemic diseases in Japan: prevalence, biochemical data and treatment.
Endocr J  (2015)
原著論文2
Okazaki, R. Sugimoto, T. Kaji, H. Fujii, Y. et al.
Vitamin D Insufficiency Defined by Serum 25-Hydroxyvitamin D and Parathyroid Hormone Before and After Oral Vitamin D3 Load in Japanese Subjects.
J Bone Miner Metab , 29 (1) , 103-110  (2011)
原著論文3
Kido, S. Kuriwaka-Kido, R. Umino-Miyatani, Y. Endo, I. et al.
Mechanical Stress Activates Smad Pathway through PKCδ to Enhance Interleukin-11 Gene Transcription in Osteoblasts.
PLoS ONE 5:e13090  (2011)
原著論文4
Kumamoto K, Nakamura T, Suzuki T, Gorai I. et al.
Validation of the Japanese Osteoporosis Quality of Life Questionnaire.
J Bone Miner Metab , 28 , 1-7  (2010)
原著論文5
Matsumoto T, Takano T, Yamakido S, Takahashi F, et al.
Comparison of the effects of eldecalcitol and alfacalcidol on bone and calcium metabolism.
J Steroid Biochem Mol Biol , 121 , 261-264  (2010)
原著論文6
Mihara M, Aihara K, Ikeda Y, Yoshida S. et al.
Inhibition of thrombin action ameliorates insulin resistance in type 2 diabetic db/db mice.
Endocrinology , 151 , 513-519  (2010)
原著論文7
Matsumoto, T. Hagino, H. Shiraki, M. Fukunaga, M. et al.
Effect of daily oral minodronate on vertebral fractures in Japanese postmenopausal women with established osteoporosis: a randomized
Osteoporos Int , 20 , 1429-1437  (2010)
原著論文8
Bilezikian, J. P. Matsumoto, T. Bellido, T. Khosla, S. et al.
Targeting Bone Remodeling for the Treatment of Osteoporosis: Summary of the Proceedings of an ASBMR Workshop
J Bone Miner Res , 24 (3) , 373-385  (2009)
原著論文9
Hagino, H. Nishizawa, Y. Sone, T. Morii, H.
A Double-Blinded Head-to-Head Trial of Minodronate and Alendronate in Women with Postmenopausal Osteoporosis
Bone , 44 , 1078-1084  (2009)
原著論文10
Fukumoto, S. Namba, N. Ozono, K. Yamauchi, M. et al.
Causes and differential diagnosis of hypocalcemia -Recommendation proposed by expert panel supported by Ministry of Health, Labour and Welfare, Japan -
Endocr JJ Bone Miner Metab , 55 (5) , 787-794  (2008)
原著論文11
Miyauchi, A. Matsumoto, T. Shigeta, H. Tsujimoto, M.
Effect of Teriparatide on Bone Mineral Density and Biochemical Markers in Japanese Women with Postmenopausal Osteoporosis: a 6-month Dose-response Study
J Bone Miner Metab , 26 (6) , 624-634  (2008)
原著論文12
Endo, I. Fukumoto, S. Ozono, K. Namba, N.
Clinical usefulness of measurement of fibroblast growth factor 23 (FGF23) in hypophosphatemic patients Proposal of diagnostic criteria using FGF23 measurement.
Bone , 42 (6) , 1235-1239  (2008)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2015-06-10

収支報告書

文献番号
201024007Z