食餌性脂質を中心とした生理活性脂質による粘膜免疫制御ならびにアレルギー疾患との関連解明

文献情報

文献番号
201023043A
報告書区分
総括
研究課題名
食餌性脂質を中心とした生理活性脂質による粘膜免疫制御ならびにアレルギー疾患との関連解明
課題番号
H20-免疫・若手-025
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
國澤 純(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
8,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食の欧米化に伴いアレルギー疾患の患者数が増加していることから、食餌性成分、特に食餌性脂質を介した免疫制御がアレルギー発症に関与していると考えられている。本研究においてはこれまでの研究代表者の研究結果を基盤に、従来提唱されてきたリノール酸やリノレン酸とは異なる食餌性脂肪酸にも腸管免疫制御活性があるという仮説をたて、アレルギー発症との関連も含めた実証を行うことを目的とする。
研究方法
通常のマウス用エサに用いられる大豆油の代わりに、パルミチン酸をパーム油と同量になるように加えた油を重量比で4%含む特殊飼料(パルミチン酸餌)を作製した。これらの餌で6週齢のBalb/cマウスを2ヶ月間飼育した。これらのマウスの腸管組織におけるパルミチン酸の定量を行うと共に、食物アレルギーモデルを適用しその発症を評価した。
結果と考察
パルミチン酸を多く含む餌で飼育したマウスの腸管組織におけるパルミチン酸を定量したところ、腸管組織においては優位にパルミチン酸量が増加していた。またこれらのマウスに食物アレルギーモデルを適応したところ、食物アレルギーの増悪化が観察された。これらのマウスにおいてはIgEの産生においては大きな変化は観察されないものの、エフェクター細胞であるマスト細胞の増加が認められた。
最近、肥満モデルを用いた解析からパルミチン酸がTLRやNLRP3-ASC inflammasomeといった自然免疫受容体を介して炎症シグナルを伝えることが報告されていることから、本研究で観察された腸管免疫の活性化におけるこれら自然免疫受容体の関与は今後の重要な検討課題であると考える。またパルミチン酸はそのものが直接作用するだけではなく、代謝されその他の生理活性脂質への変換された後、免疫学的作用を示す経路も考えられることから、今後は代謝経路も踏まえた検討も同じく重要な課題であると考える。
結論
本研究から、日常的に摂取している食用油の一つであるパーム油に多く含まれるパルミチン酸が腸管免疫の活性化を引き起こす責任脂肪酸であることを見いだした。また餌のパルミチン酸含量が腸管組織のパルミチン酸量を決定することも示された。またパルミチン酸によるIgA促進作用のメカニズムの一つとして、腸管組織において増加しているパルミチン酸がIgA産生形質細胞に直接作用していることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2011-09-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201023043B
報告書区分
総合
研究課題名
食餌性脂質を中心とした生理活性脂質による粘膜免疫制御ならびにアレルギー疾患との関連解明
課題番号
H20-免疫・若手-025
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
國澤 純(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腸管を始めとする粘膜組織には多くの免疫システムが配置されており、粘膜組織を介し感染・発症する病原体に対する生体防御と食餌性成分や腸内細菌に対する恒常性維持を行っている。本事業においては、今まで未解明であった食餌性脂質を中心とする脂質を介した腸管免疫の制御機構とその破綻により引き起こされるアレルギーや炎症性疾患の詳細を明らかにすることを目的とする。
研究方法
脂質メディエーターであるスフィンゴシン1リン酸(S1P)の機能を阻害するためにFTY720を、ビタミンB6の機能を抑制するために4' deoxypyridoxine(DOP)を投与した。また、脂肪酸組成の異なる食用油を用いた飼料を作製し、6週齢のBalb/cマウスに2ヶ月間与えた。これらのマウスの定常状態、もしくは食物アレルギーモデルを適用した際の免疫学的機能変化を各種免疫学的手法を用い検討した。
結果と考察
ビタミンB6を対象とした実験においては、ビタミンB6の機能阻害により食物アレルギーの発症が抑制できること、その主要な作用機序がマスト細胞の大腸への浸潤抑制であることが確認された。また、パイエル板依存的腸管IgA産生と腹腔B細胞を由来とする腸管IgA産生の両経路において、S1Pが重要な役割を担っていること、また後者の経路においては腹腔のストローマ細胞のNFkappaB-inducing kinaseを介した刺激と協調的に働くことで、B細胞の腸管への遊走が制御されていることを見いだした。食餌性脂質に関しては、我々が日常摂取している食用油であってもその脂肪酸組成の違いにより腸管免疫の活性化状態が大きく変化することが示された。特に近年使用量が増えているパーム油は腸管免疫の活性化を引き起こし、腸管IgA抗体の産生増強と同時に、食物アレルギーの増悪化を誘導する。さらにパーム油に多く含まれる主要食餌性脂肪酸の一つであるパルミチン酸がその活性化の一端を担っていることを明らかにした。パルミチン酸によるIgAの産生促進に関しては、パルミチン酸はIgA産生形質細胞に直接作用しIgA産生を促進することが示された。
結論
本結果より、食餌性脂肪酸やS1Pを中心とする脂質ネットワークが多様な経路を介し腸管免疫を介したアレルギー疾患の発症に密接に関与していることが示された。

公開日・更新日

公開日
2011-09-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201023043C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本事業から得られた成果は、パルミチン酸を始めとする食餌性脂肪酸やスフィンゴシン1リン酸といった脂質関連分子やその代謝に関わるビタミンB6を介した腸管免疫ネットワークに関する免疫学的基礎情報とアレルギー疾患との関連について新規学術情報を提供するものであり、食品免疫学の新潮流を形成する先駆的研究と位置づけられる。
臨床的観点からの成果
本事業により腸管免疫の活性化を行うことを見いだしたパーム油は飲食関連業界で使用されるようになってきており、またその脂肪酸組成は牛脂に類似している。一方、抑制型食用油である亜麻仁油の脂肪酸は魚油に類似している。今回得られた知見は、食の欧米化に伴いパーム油や牛脂の摂取量が増加したことがアレルギー疾患増加の一因である可能性、ならびに肉と魚をバランス良く摂取することが生体の免疫バランス制御において重要であるという知見に関する一つの分子機序を提唱するものであると考えられる。
ガイドライン等の開発
本事業から得られた結果が審議会等で参考にされたことはないが、今回の知見は食餌性脂質と腸管免疫の観点からアレルギー疾患について新規情報を提供するものであることから、今後、アレルギーと食との関連に関するガイドラインの開発につながると期待される。
その他行政的観点からの成果
本事業から得られた結果が審議会等で参考にされたことはないが、今回の知見は食餌性脂質と腸管免疫について新規情報を提供するものであることから、アレルギ-だけではなく、炎症性腸疾患などの炎症性疾患とも関連すると予想され、今後、食と免疫疾患という広い観点から食の安全性に関する情報提供につながり、厚生労働行政に貢献できると考えられる。
その他のインパクト
本事業で得られた知見は国内外において高い評価を得ており、日本免疫学会、日本生化学会、日本分子生物学会、日本食品免疫学会などの国内の主要学会だけではなく、国際免疫学会や米国免疫学会、国際粘膜免疫学会など免疫に関する国際的な学会においてもシンポジウムとして講演を行った。また本事業に関連した成果から、日本免疫学会と腸内細菌学会から奨励賞をいただいた。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
16件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
20件
日本免疫学会、ならびに腸内細菌学会から奨励賞をいただいた。
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
J. Kunisawa, M. Gohda, Y. Kurashima, et al
Sphingosine 1-phosphate dependent trafficking of peritoneal B cells requires functional NFB-inducing kinase in stromal cells
Blood , 111 (10) , 4646-4652  (2008)
原著論文2
M. Gohda, J. Kunisawa, F. Miura, et al
Sphingosine 1-phosphate regulates the egress of IgA plasmablasts from Peyer’s patches for intestinal IgA responses
J Immunol , 180 (2) , 5335-5343  (2008)
原著論文3
T. Nagatake, S. Fukuyama, D. Y. Kim, et al
Id2-, RORt-, and LTR-independent initiation of lymphoid organogenesis in ocular immunity
J Exp Med , 206 (11) , 2351-2364  (2009)
原著論文4
D. Kim, S. H. Kim, E. J. Park, et al
Suppression of allergic diarrhea in murine ovalbumin-induced allergic diarrhea model by PG102, a water-soluble extract prepared from Arcinidia arguta
Int Arch Allergy Immunol , 150 (2) , 164-171  (2009)
原著論文5
T. Obata, Y. Goto, J. Kunisawa, et al
Indigenous opportunistic bacteria inhabit mammalian gut-associated lymphoid tissues and share a mucosal antibody-mediated symbiosis
Proc Natl Acad Sci USA , 107 (16) , 7419-7424  (2010)
原著論文6
D. Y., Kim, A. Sato, S. Fukuyama, et al
The airway antigen sampling system: respiratory M cells as an alternative gateway for inhaled antigens
J Immunol , 186 (7) , 4253-4262  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201023043Z