アレルギー疾患の層別化解析、生活環境が与える影響の解明に向けた疫学研究

文献情報

文献番号
202512009A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー疾患の層別化解析、生活環境が与える影響の解明に向けた疫学研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23FE2001
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 靖典(地方独立行政法人長野県立病院機構 長野県立こども病院 小児アレルギーセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 徳永 舞(長野県立こども病院 総合小児科・アレルギー科)
  • 吉田 幸一(東京都立小児総合医療センター アレルギー科)
  • 高橋 雅和(山口大学 大学院技術経営研究科)
  • 高橋 亨平(独立行政法人国立病院機構相模原病院 小児科)
  • 松原 優里(獨協医科大学 公衆衛生学講座)
  • 田中 暁生(広島大学大学院 医系科学研究科 皮膚科学)
  • 福家 辰樹(国立研究開発法人国立成育医療研究センター アレルギーセンター 総合アレルギー科)
  • 木村 孔一(北海道大学 大学病院)
  • 野上 和剛(札幌医科大学 医学部小児科学講座)
  • 桑原 優(独立行政法人国立病院機構三重病院 小児科)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
7,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アレルギー疾患対策基本法に基づき、我が国におけるアレルギー疾患対策を総合的に推進するためには、アレルギー疾患の現状を定期的に把握する疫学調査が極めて重要である.
令和2ー4年度「アレルギー疾患の多様性、生活実態を把握するための疫学研究」において都道府県アレルギー疾患医療拠点病院(以下、拠点病院)を活用し、拠点病院の職員およびその家族を対象としたアレルギー疾患有病率調査を実施した.その結果、我が国において初めて、全年齢層および多様なアレルギー疾患を対象とした網羅的な有病率調査手法が確立された.
令和5年度研究では、拠点病院調査で用いた質問票を別の母集団(インターネットアンケートモニター)に適用し、概ね同等の有病率が得られることを確認した.さらに令和6年度研究では、拠点病院質問票と既存のアレルギー疾患質問票(気管支喘息:ATS-DLD、アトピー性皮膚炎:UK Working Party)を用いたクロスオーバー試験を実施し、一定の一致は認められるものの、質問票の違いにより有病率に差が生じることを明らかにした.
これらの結果から、同一対象に対して同一手法および同一質問票を用いることで、アレルギー疾患有病率の経年的変化を評価できると判断した.
令和7年度は、令和4年度に実施した調査と同一の対象および手法を用いて再度調査を実施し、我が国におけるアレルギー疾患有病率の経年的変化を評価することを目的とした.
さらに、令和5年度研究にて計画したクルミアレルギー関する感作の有無と生活環境との関連について研究を解析、検討することを目的とした.
研究方法
対象病院には、メール、パンフレットなどで各職員に周知していただき、2025年12月~2026年1月にかけてウェブアンケートを実施した.
クルミアレルギーに関する調査については令和6年2月よりアンケートを開始し協力医療機関において該当患者の養育者にクルミの摂取状況、生活環境状況についてのウェブアンケートを依頼した.令和7年5月に予定人数に達成ししたため調査を終了した.
結果と考察
47都道府県79病院が対象となり、家族を含めた解析対象者は26167名であった.何らかのアレルギー疾患を有するのは65%であり、令和4年度調査とほぼ同様であった.2015年日本基本人口モデルを用いて年齢調整した人口10万人あたりのアレルギー疾患の既往有症数(医師に診断されている、もしくは診断されていないがそう思うと回答した割合)は気管支喘息14720人、アトピー性皮膚炎13939人、食物アレルギー15349人、通年性アレルギー性鼻炎28244人、花粉症40947人、アレルギー性結膜炎21599人、動物アレルギー10482人、金属アレルギー2936人、薬剤アレルギー5050人、アナフィラキシー1927人であった。前回調査と比較して花粉症やアレルギー性結膜炎、食物アレルギーの既往有症率の増加傾向が見られた.また、期間有症率(1年以内の症状もしくは治療)について、特に気管支喘息では32.3%の上昇が認められた(5403人⇢7152人).
クルミアレルギーの調査は総計595名(クルミ群168名、⾮クルミ群303名、コントロール群124名)が対象となった.クルミ群とコントロール群を比較した多変量解析では、乳幼児期のアトピー素因が独⽴した危険因⼦であった.クルミ感作群と非感作食物アレルギー群のマッチング解析(144組)では、妊娠中の⺟親のクルミ摂取や家庭内での定期的な摂取がクルミ感作群と有意に関連していた.
結論
同一手法による全国規模の調査を実施し、対象者数および背景因子の分布は前回調査と概ね同等であった.花粉症やアレルギー性結膜炎、食物アレルギーの有病率の増加がみられ、気管支喘息は症状を有する者の増加が見られた.我が国におけるアレルギー疾患の有病率は高水準にあり、地球温暖化やコロナ禍後の生活様式の変化、感染症の増加など、環境要因の変化が影響している可能性がある.今回新規に調査した動物アレルギーは、他の主要アレルギー疾患と同程度の有病率が確認され、重要な健康課題であることが明らかとなった.
クルミアレルギーに関する調査においては、乳幼児期のアトピー素因に加え、妊娠期および家庭内でのクルミ摂取といった生活環境因子が感作と関連する可能性が示された.これらの知見は、遺伝的素因と環境因子の相互作用に基づくアレルギー発症機序の理解を深めるとともに、発症予防戦略の構築に資する重要な基礎的データである.
以上より、本研究で構築・検証された疫学調査基盤は、我が国におけるアレルギー疾患の動向把握に有用であり、今後の継続的調査により、環境変化や社会的要因を反映した疾患動向の把握および政策立案に資する科学的根拠の提供が期待される.

公開日・更新日

公開日
2026-08-27
更新日
-

文献情報

文献番号
202512009B
報告書区分
総合
研究課題名
アレルギー疾患の層別化解析、生活環境が与える影響の解明に向けた疫学研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23FE2001
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 靖典(地方独立行政法人長野県立病院機構 長野県立こども病院 小児アレルギーセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 徳永 舞(地方独立行政法人長野県立病院機構 長野県立こども病院 総合小児科・アレルギー科)
  • 吉田 幸一(東京都立小児総合医療センター アレルギー科)
  • 高橋 雅和(山口大学 大学院技術経営研究科)
  • 高橋 亨平(独立行政法人国立病院機構相模原病院 小児科)
  • 松原 優里(獨協医科大学 公衆衛生学講座)
  • 田中 暁生(広島大学大学院 医系科学研究科 皮膚科学)
  • 福家 辰樹(国立研究開発法人国立成育医療研究センター アレルギーセンター 総合アレルギー科)
  • 木村 孔一(北海道大学 大学病院)
  • 野上 和剛(札幌医科大学 医学部小児科学講座)
  • 桑原 優(独立行政法人国立病院機構三重病院 小児科)
  • 小池 由美(独立行政法人長野県立病院機構 長野県立こども病院 アレルギー科)
  • 加藤 泰輔(富山大学医学部附属病院 小児科)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アレルギー疾患対策基本法に基づき、我が国におけるアレルギー疾患対策の総合的な推進を図るためには疫学研究による疾患動向の把握が必要である.
令和2ー4年度に実施された先行研究において、都道府県アレルギー疾患医療拠点病院の職員とその家族を対象とした全国疫学調査が実施され、全年齢層を対象とした各種アレルギー疾患の網羅的な有病率調査手法が確立された.しかしながら、母集団の選択バイアスの影響や、研究班独自に作成された質問票の妥当性についての検証が課題として残されていた.
また、アレルギー疾患の発症および増悪には、遺伝的要因に加えて生活環境因子が深く関与している.特に近年、我が国において増加が報告されているクルミアレルギーは新たに特定原材料に追加されるなど社会的関心が高まっており、その発症に関与する環境要因の解明が求められている.
さらに、スギ花粉症は我が国において有病率が高く、国民生活に大きな影響を及ぼす疾患であるが、実際の受診状況や治療内容、免疫療法に対する認知度、ならびに患者が抱える未充足の医療ニーズについては、十分な実態把握がなされていない.
以上を踏まえ、本研究では以下の3点を主たる目的とした.
1.都道府県アレルギー疾患医療拠点病院を基盤とした有病率調査手法の外的妥当性の検証および同一手法による全国疫学調査を通じた有病率の経年的変化の評価
2.アレルギー疾患の発症および増悪に関連する生活環境因子の解明(クルミアレルギーに関する生活環境因子の解析)
3.スギ花粉症における実態とアンメットメディカルニーズの把握
研究方法
1-1.拠点病院調査票を用いたインターネット調査による有病率の検討(令和5年度)
都道府県アレルギー疾患医療拠点病院調査で用いた質問票を用いて、インターネットアンケートモニターを対象に横断調査を実施した.
1-2.質問票の違いが有病率に与える影響の検討(令和6年度)
インターネットアンケートモニターを対象として、拠点病院調査票と既存の標準的質問票〔ATS-DLD(気管支喘息)、UK-Working Party(アトピー性皮膚炎)〕との比較を目的に、無作為化クロスオーバー試験を実施した.
1-3.都道府県アレルギー疾患医療拠点病院における有病率調査(令和7年度)
全国の都道府県アレルギー疾患医療拠点病院および関連施設に勤務する職員およびその家族を対象として、令和4年度調査と同一の質問票を用いた横断調査を実施した.
2.クルミアレルギーに関する生活環境因子の検討(令和5〜7年度)
食物アレルギー児を対象として、多施設共同による症例対照研究を実施した.
3.スギ花粉症に関する実態およびアンメットメディカルニーズの調査(令和5〜6年度)
インターネットアンケートモニターを対象として、スギ花粉症に関する横断調査を実施した.
結果と考察
1-1. 拠点病院質問票を用いてインターネット調査モニターを対象とした大規模調査を実施した結果、年齢調整後の各アレルギー疾患の有病率は両集団間で概ね一致しており、本調査手法が一定の外的妥当性を有することが示された.
1-2.拠点病院調査票とATS-DLD質問票(気管支喘息)およびUK-Working Party質問票(アトピー性皮膚炎)との比較を無作為化クロスオーバー試験により実施した結果、症状に基づく定義と医師診断に基づく定義との間で有病率に系統的な差異が認められ、質問票の構成が疫学指標に影響を及ぼすことが明らかとなった.
1-3.令和7年度に同一手法による都道府県アレルギー疾患医療拠点病院の職員とその家族を対象とした継続調査を実施した.花粉症、アレルギー性結膜炎、食物アレルギーの既往有病率は増加傾向を示し、気管支喘息は期間有症率の上昇が認められた.
2. クルミアレルギーの調査ではアトピー性皮膚炎の既往がリスク因子であり、更に妊娠期や家庭内におけるクルミ摂取といった曝露要因がクルミ感作と関連する可能性が示唆された.
3.スギ花粉症の実態把握および治療に関する調査では、症状を自覚しながらも医療機関で診断を受けていない者が一定割合存在すること、ならびに舌下免疫療法に関する認知度が十分でないことが明らかとなった.
結論
本研究で構築・検証された疫学調査基盤は、我が国におけるアレルギー疾患の動向把握に有用であり、今後も継続的に実施することで、環境変化や社会的要因を反映した疾患動向の評価および政策立案への科学的根拠の提供に寄与することが期待される.また、クルミ感作の知見はアレルギー疾患の発症機序の理解を深めるとともに、今後の一次予防戦略の検討に資するものである.スギ花粉における現状については今後の花粉症対策の推進および政策評価において重要な基礎資料となる.

公開日・更新日

公開日
2026-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-08-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202512009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
・拠点病院を活用したアレルギー疾患有病率調査の妥当性を示すことができた.今後、経年的に実施することで我が国におけるアレルギー疾患の有病率の推移を明らかにすることが期待される.クルミアレルギーの発症増加に資する生活環境の因子を明らかにすることができた.
臨床的観点からの成果
花粉症、食物アレルギーが増加傾向にあることが明らかとなり、今後更に患者数が増加する可能性が示唆される.また、クルミアレルギーの発症についての知見を得たため、今後発症予防対策に寄与する可能性がある.
ガイドライン等の開発
アレルギー疾患に関するガイドラインの疫学に関するデータに寄与した.
その他行政的観点からの成果
アレルギー疾患の全国疫学調査を実施し、患者数、危険因子、予後因子などを明らかにした.これらの成果は2026年のアレルギー疾患対策協議会の資料としても活用され、総合的なアレルギー対策の推進に貢献した.
その他のインパクト
アレルギーポータルに調査結果を公開し、一般の方への情報提供を行った.

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
協議会での議論1件、アレルギーポータルへの調査結果の公開2件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ito Y, Kato T, Yoshida K, et al.
Prevalence of allergic diseases across all ages in Japan: A nationwide cross-sectional study employing designated allergic disease medical hospital network
JMA Journal , 6 (2) , 165-172  (2023)
10.31662/jmaj.2022-0218
原著論文2
Ito Y, Kato T, Yoshida K, et al.
Cross-sectional Survey of Allergic Diseases in Staff and Their Families at Designated Allergic Disease Medical Hospitals in Japan: Calculation of Age-adjusted Prevalence.
Annals of Clinical Epidemiology , 7 (2) , 39-45  (2025)
10.37737/ace.25005
原著論文3
加藤泰輔、伊藤靖典、足立雄一
全国アレルギー疾患疫学調査からみえたアレルギーマーチの「いま」
日本小児アレルギー学会誌 , 38 (1) , 51-57  (2024)
10.3388/jspaci.38.51
原著論文4
桑原優、細矢慶、松原優里、他
全国スギ花粉症患者の実態に関するインターネット調査
アレルギー , 74 (3) , 124-132  (2025)
10.15036/arerugi.74.124

公開日・更新日

公開日
2026-08-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
202512009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,600,000円
(2)補助金確定額
9,600,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,971,088円
人件費・謝金 141,000円
旅費 957,687円
その他 3,530,225円
間接経費 2,000,000円
合計 9,600,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2026-08-27
更新日
-