曝露・炎症マーカー等を組み合わせた加熱式たばこによる受動喫煙の健康影響を評価するための研究

文献情報

文献番号
202508002A
報告書区分
総括
研究課題名
曝露・炎症マーカー等を組み合わせた加熱式たばこによる受動喫煙の健康影響を評価するための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23FA1002
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
稲葉 洋平(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 牛山 明(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 大澤 絵里(国立保健医療科学院 公衆衛生政策研究部)
  • 纐纈 朋弥(岐阜大学 医学部看護学科)
  • 戸塚 ゆ加里(星薬科大学 衛生化学)
  • 松尾 洋孝(防衛医科大学校 分子生体制御学講座)
  • 中山 昌喜(防衛医科大学校 分子生体制御学講座)
  • 溝上 哲也(国立健康危機管理研究機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
加熱式たばこは近年急速に普及しており、「紙巻たばこより害が少ない」という認識が広く浸透しているが、強い依存性物質であるニコチンへの曝露実態や受動喫煙による健康影響は十分に解明されていない。本研究は、非侵襲的に採取可能な生体試料(尿、口腔内細胞など)を用いたバイオマーカー分析手法を開発し、質問票調査やDNA損傷評価系を組み合わせることで、加熱式たばこによる能動喫煙および受動喫煙の健康影響を科学的かつ客観的に予測・評価することを目的とした
研究方法
1. ニコチン代謝物を指標とした曝露評価(重点項目) 事業所の健康診断受診者892名の尿試料を対象に、LC/MS/MSを用いてNicotine、Cotinineなど7成分を定量した。代謝の個体差の影響を抑えるため、これら7成分の合計値を「総ニコチン代謝物(TNM)」として算出し、クレアチニン補正値を用いて群間比較を実施した。また、自己申告の不正確さを補正するため、実測値に基づく客観的なカットオフ値を設定し、対象者を再分類した上で解析を行った。
2. 質問票調査と調査体制の構築 3歳児健診を活用し、対象児とその家族に対し受動喫煙状況や加熱式たばこへの認識に関するWebアンケートを実施し、尿中バイオマーカー測定結果との関連を調査した。また、職域健診受診者を対象とし、紙巻・加熱式たばこを区別した揮発性有機化合物(VOC)代謝物等の分析に向けた調査体制と臨床情報収集の枠組みを構築した。
3. DNA損傷評価系の確立 口腔内細胞等の生体試料への応用を視野に、ヒト胎児腎細胞やマウス肝正常細胞を用いて化学物質(EMS、B[a]P)曝露によるDNA損傷を評価した。蛍光免疫染色によるγ-H2AX fociの定量と、ウェスタンブロッティングによるPhospho-ATR/Chk1発現解析を実施した。
結果と考察
1. 尿中ニコチン代謝物による曝露評価 自己申告に基づく分類では、非喫煙者や受動喫煙者の中に喫煙者レベルの高いニコチン曝露を示す例が多数確認され、客観的再分類の必要性が示された。カットオフ値を用いて再分類した結果、紙巻たばこ喫煙者と加熱式たばこ喫煙者の間で、TNM(中央値:紙巻2,380、加熱式2,333 ng/mg creatinine)およびCotinine濃度のいずれにも統計学的に有意な差は認められなかった。これは、加熱式たばこでも紙巻たばこと同程度のニコチン曝露が生じており、ニコチン依存を形成するリスクが同等であることを強く示唆している。デバイス別では、主流煙のニコチン含有量が低いIQOSがgloやPloomに比べTNMも有意に低い結果となった。また、受動喫煙者間においても、紙巻たばこと加熱式たばこによるTNMに有意差はなく、加熱式たばこによる受動喫煙の影響は看過できない現状が明らかとなった。
2. 受動喫煙の実態と認識の乖離 3歳児健診を活用した調査では、加熱式たばこ使用者の7割以上が「紙巻たばこに比べ害が少ない」と製品に対して誤認していた。この認識の甘さが、不十分な家庭内・車内での喫煙ルールに繋がり、非喫煙家族や小児への受動喫煙を助長している実態が確認された。また、自記式アンケートで「現在喫煙していない」と回答した親からも、現在の喫煙レベルや高濃度の受動喫煙レベルのニコチン曝露が検出され、自己申告による調査の限界が改めて証明された。
3. DNA損傷・遺伝毒性評価 DNA損傷評価系の検証において、EMS曝露によりγ-H2AXによるDNA二重鎖切断の可視化とfociの有意な増加が確認され、Phospho-ATR/Chk1を指標とする細胞内シグナル伝達の活性化も認められた。これにより、本手法が遺伝毒性を迅速かつ定量的にスクリーニングする基盤技術として有用であることが実証された。
総合考察 これらの結果から、加熱式たばこはニコチン依存形成リスクを下げないにもかかわらず、「害が少ない」という認識が広く浸透しており、結果として受動喫煙防止対策が不十分になっていることが問題である。自己申告に依存した調査には限界があるため、TNM等のバイオマーカー測定を標準化することが不可欠である。
結論
加熱式たばこは、能動喫煙・受動喫煙のいずれにおいても紙巻たばこと同レベルのニコチン曝露をもたらし、依存リスクや健康影響を低減するものではない。また、真の曝露実態の把握には、質問紙調査による自己申告ではなく、尿中総ニコチン代謝物(TNM)等の客観的バイオマーカー測定による評価が必須である。今後は、本研究で開発されたDNA損傷評価系や客観的分類手法を活用し、科学的エビデンスに基づく正しい知識の啓発や、実態に応じた受動喫煙防止対策の立案へ還元していくことが強く求められる。

公開日・更新日

公開日
2026-10-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-10-06
更新日
-

文献情報

文献番号
202508002B
報告書区分
総合
研究課題名
曝露・炎症マーカー等を組み合わせた加熱式たばこによる受動喫煙の健康影響を評価するための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23FA1002
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
稲葉 洋平(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 牛山 明(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 大澤 絵里(国立保健医療科学院 公衆衛生政策研究部)
  • 纐纈 朋弥(岐阜大学 医学部看護学科)
  • 松尾 洋孝(防衛医科大学校 分子生体制御学講座)
  • 中山 昌喜(防衛医科大学校 分子生体制御学講座)
  • 溝上 哲也(国立国際医療センター研究所 国際臨床研究センター 国際保健医療研究部)
  • 戸塚 ゆ加里(星薬科大学 衛生化学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、加熱式たばこが急速に普及し、一般社会において「紙巻たばこより害が少ない」という認識が浸透している。しかし、強い依存性物質であるニコチンへの曝露実態や、受動喫煙による健康影響は十分に解明されていない。本研究は、これまでの成分分析の知見を発展させ、疾患が認められていない日本人喫煙者および受動喫煙者を対象に、非侵襲的に採取可能な生体試料(尿など)を用いて、「曝露・炎症・影響・臨床」の4項目からなる包括的な健康影響評価法を開発することを目的とした。さらに、それらのバイオマーカー測定値と、健康診断結果や環境要因(地域性、住環境、たばこに対する認識等)に関する質問票調査とを組み合わせることで、加熱式たばこによる能動・受動喫煙の実態と健康影響を科学的かつ客観的に評価することを目的とした。
研究方法
本研究は以下の4つのアプローチで実施された。
バイオマーカー一斉分析法の開発および曝露評価:尿中の揮発性有機化合物(VOC)代謝物19成分、多環芳香族炭化水素(PAH)代謝物15成分、および酸化・メチル化に伴うDNA/RNA損傷体10成分の一斉分析法を新たに確立・最適化した。また、事業所健診受診者892名を対象に尿中ニコチン代謝物7成分の合計値(総ニコチン代謝物:TNM)を分析し、実測値に基づくカットオフ値を設定して自己申告の不正確さを補正した上で、紙巻・加熱式たばこ間の曝露量比較を行った。
生体試料を用いたDNA損傷・遺伝毒性評価系の開発:口腔内細胞等への応用を見据え、マウス正常肝臓由来細胞等を用いた小核試験法を確立した。さらに、γ-H2AX蛍光免疫染色によるDNA二重鎖切断の定量化と、Phospho-ATR/Chk1を指標とする細胞内シグナル伝達活性化の解析を組み合わせた評価系を構築した。
3歳児健診を活用した家族の受動喫煙調査:地域特性の異なる自治体の3歳児健診を活用し、幼児をもつ父母を対象に、喫煙場所、製品への認識、住環境、車内喫煙ルール等のWebアンケートを実施した。一部の対象者からは父・母・児の尿試料を回収し、尿中ニコチン代謝物を測定して自己申告と実測値の関連性を検討した。
大規模な職域調査体制の確立:紙巻たばこと加熱式たばこの影響を比較するため、健康診断受検者を対象とした約2,000検体規模の生体試料収集と、臨床情報(喫煙行動・依存度等)を統合解析する基盤を整備した。
結果と考察
バイオマーカーによる客観的曝露評価:TNMを指標とした評価により、加熱式たばこ喫煙者と紙巻たばこ喫煙者の間でニコチン曝露量に統計学的な有意差は認められなかった。これは、加熱式たばこを使用しても紙巻たばこと同等のニコチン曝露が生じており、依存形成リスクが全く低減されていないことを強く示唆している。また、受動喫煙者間においても両製品によるニコチン曝露量に有意差は認められなかった。
受動喫煙の実態と認識の乖離:3歳児健診の調査において、加熱式たばこ使用者の7割以上が「紙巻たばこより害が少ない」と誤認していた。この安全認識の甘さが、換気扇の下での喫煙や「加熱式なら車内喫煙可」といった不十分なルールにつながり、結果として非喫煙家族や小児へのニコチン曝露を助長している実態が判明した。さらに、アンケートで「現在喫煙していない」と回答した親からも、喫煙者レベルや高濃度受動喫煙レベルのニコチン曝露が検出され、自己申告による調査の限界が浮き彫りとなった。
DNA損傷・遺伝毒性評価系の有効性:構築した評価系において、化学物質曝露によりγ-H2AX fociの有意な増加やPhospho-Chk1の濃度依存的な増強が確認され、疾患発症前の初期の遺伝毒性を迅速かつ定量的にスクリーニングする手法としての有用性が実証された。
結論
加熱式たばこは、能動喫煙および受動喫煙のいずれにおいても紙巻たばこと同レベルのニコチン曝露をもたらしており、依存リスクや健康影響を低減するものではない。質問紙調査等の自己申告には限界があり、真の曝露実態を把握するためには尿中TNM等のバイオマーカー測定による客観的な評価が必須である。本研究で開発された「曝露・炎症・影響・臨床」の多角的なマーカーを用いた非侵襲的評価法やDNA損傷応答評価系は、たばこによる生体影響を迅速かつ定量的に判定するための信頼性の高い技術である。本研究で得られた客観的データや評価手法を、自治体の禁煙支援事業や保健指導の場へ還元し、科学的エビデンスに基づく正しい知識の啓発および実効性のある受動喫煙防止対策へつなげることが強く期待される。

公開日・更新日

公開日
2026-10-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-10-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202508002C

収支報告書

文献番号
202508002Z