文献情報
文献番号
202503001A
報告書区分
総括
研究課題名
クラウド上の医療AI利用促進のためのネットワークセキュリティ構成類型化と実証及び施策の提言
研究課題名(英字)
-
課題番号
23AC1001
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 浩司(国立研究開発法人国立成育医療研究センター システム発生研究部 組織工学研究室)
研究分担者(所属機関)
- 宇賀神 敦(医療 AI プラットフォーム技術研究組合 理事会)
- 藤井 進(東北大学 災害科学国際研究所災害医療情報学分野)
- 金子 誠暁(医療AIプラットフォーム技術研究組合 システムWG)
- 尾﨑 勝彦(徳洲会インフォメーションシステム株式会社)
- 松井 俊大(国立成育医療研究センター 感染症科)
- 中村 直毅(東北大学 病院メディカルITセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
25,415,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
生成AIとAIエージェントの急速な進展により、医療AIはもはや画像診断支援にとどまらず、診療記録の自動要約、意思決定支援、創薬、患者対応など医療のあらゆる場面に浸透しつつある。その有用性は広く認識され、医療の質向上や医療従事者の負担軽減への期待はかつてなく高まっている。一方で、個人情報保護への配慮が一層強く求められるなか、ランサムウェアをはじめとするサイバー攻撃の脅威も増大しており、安全な利用基盤の整備が喫緊の課題となっている。国立成育医療研究センター(NCCHD)は、内閣府SIP AIホスピタルにおける医療AIサービス開発を牽引し、複数の小児医療機関での実証を通じて利用上の課題を先行して把握してきた。2021年4月に設立された医療AIプラットフォーム技術研究組合(HAIP)は、医療機関が医療AIサービスを安全・安心かつリーズナブルな費用で利用できる実行環境の研究開発を推進しており、NCCHD等から提供される医療データを活用しながら、秘密分散、多要素認証、暗号化アルゴリズム、閉域網などを組み合わせたクラウド上のAIプラットフォームの検証を継続している。医療AIサービスの開発・評価から実装までを一気通貫で提供するプラットフォームを通じ、安全で費用対効果の高いネットワーク環境と、安全性を担保するためのルール整備は、普及促進に向けた不可欠な前提条件である。本研究は、医療機関の類型化に基づいた最適なネットワークセキュリティ構成およびシステム監査のルールを明示することにより、全国の医療機関が安全・安心かつリーズナブルな費用で医療AIサービスを利用できる環境の実現に向けた具体的な提言を行うことを目的とする。
研究方法
国内26医療機関への対面ヒアリング、および宮城県内1,753医療施設へのウェブアンケート調査により医療現場の実態を把握するとともに、医療機器ベンダへのヒアリングも実施した。東北大学病院では仮想ブラウザとデコイシステムを地域医療連携ネットワーク上で共同利用する構成を実証し、ランサムウェア被害事例を詳細に分析した。医療AIモデルの開発においては、AIコーディングエージェント活用の有効性を検証した。調査提言グループではネットワーク統制レベルの類型化とセキュリティアセスメントツールの開発を行い、70を超える医療機関でのトライアルを実施した。システム監査グループでは計11病院においてシステムセキュリティ監査を実施し、標準化に向けた改善を継続的に行った。
結果と考察
病院100床あたりシステム要員わずか1名、この衝撃的な現実が、全国26医療機関への詳細調査によって改めて数字として裏付けられた。人材不足は慢性化しており、セキュリティ対策を十分に実施できない医療機関が大多数を占める実態が明確となった。こうした構造的制約のなかで浮かび上がったのが、地域医療連携を活用した共同監視・共同利用・共同訓練への強い現場ニーズである。ランサムウェア攻撃の分析からは侵入の早期検知が決定的に重要であることが示され、多層防御アーキテクチャがその現実的な解として有効であることを実証した。IT-BCPを復旧手順書ではなく縮退運転の設計図として位置づけ、地域医療連携ネットワークを情報共有基盤から地域の見張り番へと再定義した共同運用モデルは、持続可能なセキュリティ対策の好事例として高く評価された。医療機器ベンダへのヒアリングでは、3省2ガイドラインの解釈差やリスクベース運用の必要性、セキュリティ意識の底上げが急務であることも明らかとなった。システム監査においては、グループ外病院での実施を通じて、病院幹部のセキュリティへの理解と関与がセキュリティレベルに最も強く影響することが示され、内部監査と外部監査を組み合わせた継続的サイクルの有効性が確認された。
結論
地域医療連携ネットワークを共通基盤とした多層防御アーキテクチャ、IT-BCPの縮退運転設計、システム監査の標準化、クラウド型医療AIの安全な実装基盤が体系的に整理された。しかし本研究が示した最も重要な知見は、技術的な構成論にとどまらない。AIコーディングエージェントの活用により未経験者が高度な開発を独力で完遂できるようになったという事実、そしてAIネイティブなセキュリティツールが脆弱性の検出から修正までを自律的に担い始めているという現実は、医療機関が長年抱えてきた人材不足という構造的問題に対して、初めて本質的な解が見えてきたことを意味する。セキュリティ対策の民主化、開発の民主化、そして医療の民主化、これら3つが同時に射程に入ってきた今、医療・情報・セキュリティの専門家がAIを取り込んだ新たな形で連携し、患者と市民の参画を促しながら、人を中心に据えた医療の実現へと歩みを進める条件が整いつつある状況にも気づく必要がある。
公開日・更新日
公開日
2026-08-05
更新日
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