文献情報
文献番号
202425015A
報告書区分
総括
研究課題名
有機フッ素化合物の発がん性評価と評価スキームの確立に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24KD1002
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
魏 民(大阪公立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 鈴木 周五(大阪公立大学大学院医学研究科)
- 戸塚 ゆ加里(星薬科大学 衛生化学)
- 松本 真理子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
- 藤岡 正喜(公立大学法人大阪 大阪公立大学 大学院医学研究科 分子病理学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和8(2026)年度
研究費
15,963,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
有機フッ素化合物は幅広い用途で使用され、環境中での難分解性及び生体内蓄積性が問題となっている。近年、国内複数地域の浄水施設の水道水から基準値を超える濃度のパーフルオロオクタン酸(PFOA)とパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)が検出され、ばく露による有害性、特に発がんの健康影響が懸念される。特にPFOAやPFOSは国際がん研究機関(IARC)によりグループ1と2Bに分類され、実験的にラットの肝臓を主体に発がん性報告があり、有機フッ素化合物の発がん性検証は喫緊の課題である。一方、有機フッ素化合物は1万種類以上存在し、これら全てを発がん性試験で検討することは莫大な費用や時間等を必要とし極めて困難である。従って有機フッ素化合物の発がん性を短期間、高精度かつ効率的に評価できる試験スキームの確立が求められる。
我々はこれまで既知発がん物質の大半が肝臓を標的にすることに着目し、遺伝毒性及び非遺伝毒性肝発がん物質を短期かつ高精度に検出できるスキームを確立した。本研究ではそのスキームを活用し、有機フッ素化合物の発がん性検証とともに、新たに有機フッ素化合物特異的な評価スキーム開発を行う。また、遺伝子発現やDNA付加体の網羅的解析、変異シグネチャー解析により発がん機序を解明し、有機フッ素化合物の構造類似性や各特性の検証から、発がん性が予測可能なin silico評価システムの確立を目指す。
我々はこれまで既知発がん物質の大半が肝臓を標的にすることに着目し、遺伝毒性及び非遺伝毒性肝発がん物質を短期かつ高精度に検出できるスキームを確立した。本研究ではそのスキームを活用し、有機フッ素化合物の発がん性検証とともに、新たに有機フッ素化合物特異的な評価スキーム開発を行う。また、遺伝子発現やDNA付加体の網羅的解析、変異シグネチャー解析により発がん機序を解明し、有機フッ素化合物の構造類似性や各特性の検証から、発がん性が予測可能なin silico評価システムの確立を目指す。
研究方法
ToxCast Chemical Inventoryに登録された430種類のPFASを対象とし、OECDのQSAR Toolboxを用いてOrganic Functional Groupによりクラスタリングや構造アラート検索に基づき、グループ化及び発がんメカニズムに基づくアラート分類を行った。また、発がん性及びその閾値などの既知情報の収集を行った。
19種類のPFASについて、1日単回経口投与試験を実施し、遺伝毒性肝発がん物質超短期検出法を用いた判定を行った。ラット肝臓からRNAを抽出し、RT-qPCRで10遺伝子マーカー発現を取得、SVMで構築したモデルで判定した。LD50が既知の5物質はLD50の1/3用量を、急性経口毒性情報がない14物質は、OECD TG423に従い急性毒性試験を実施し、得られた1日単回経口投与試験の最大耐量を投与した。また、陽性と判定されたPFOA及びDFEMSについては、陽性時の用量を高用量とし公比3で除した中及び低用量を設定し確認試験を実施した。動物の体重及び肝腎脾重量の測定と病理組織学的解析を行った。肝臓からDNAを採取しDNA付加体の網羅的解析を進めた。
非遺伝毒性肝発がん物質短期検出法を用いた検討では、6種類のPFAS(PFOA、GenX、HxFGC、DFEMS、PFHxA及びPFHEP)について28日間反復投与試験を実施した。ラット肝臓からRNAを抽出し、マイクロアレイで遺伝子発現を取得、SVMで構築したモデルで判定した。また、動物の体重及び肝腎脾重量の測定とともに、全臓器を採取し病理組織学的解析を行った。
DNAのアルキル化を介して変異原性を誘発する可能性があるPFOA及びPFPMSについて、アルキル化DNAの修復酵素欠損株(YG7108)を用いたAmes試験を実施した。
19種類のPFASについて、1日単回経口投与試験を実施し、遺伝毒性肝発がん物質超短期検出法を用いた判定を行った。ラット肝臓からRNAを抽出し、RT-qPCRで10遺伝子マーカー発現を取得、SVMで構築したモデルで判定した。LD50が既知の5物質はLD50の1/3用量を、急性経口毒性情報がない14物質は、OECD TG423に従い急性毒性試験を実施し、得られた1日単回経口投与試験の最大耐量を投与した。また、陽性と判定されたPFOA及びDFEMSについては、陽性時の用量を高用量とし公比3で除した中及び低用量を設定し確認試験を実施した。動物の体重及び肝腎脾重量の測定と病理組織学的解析を行った。肝臓からDNAを採取しDNA付加体の網羅的解析を進めた。
非遺伝毒性肝発がん物質短期検出法を用いた検討では、6種類のPFAS(PFOA、GenX、HxFGC、DFEMS、PFHxA及びPFHEP)について28日間反復投与試験を実施した。ラット肝臓からRNAを抽出し、マイクロアレイで遺伝子発現を取得、SVMで構築したモデルで判定した。また、動物の体重及び肝腎脾重量の測定とともに、全臓器を採取し病理組織学的解析を行った。
DNAのアルキル化を介して変異原性を誘発する可能性があるPFOA及びPFPMSについて、アルキル化DNAの修復酵素欠損株(YG7108)を用いたAmes試験を実施した。
結果と考察
OECDのQSAR Toolboxを用いて、構造に基づくグループ化及び発がんメカニズムに基づくアラート分類を行った。いくつかのPFAS化合物については、構造毎の毒性傾向をつかむことが出来た。
遺伝毒性肝発がん物質超短期検出法を用いた検討では、19物質中3物質(PFOA、DFEMS、2,5-BDF)が陽性(遺伝毒性肝発がん物質)と判定された。陽性2物質において、遺伝毒性肝発がん性に用量相関性が確認された。また、PFASによる毒性の主たる標的臓器が肝臓及び腎臓であることが確認された。急性経口毒性に関する情報のない14物質は、いずれもGHS区分4または5に該当した。
非遺伝毒性肝発がん物質短期検出法を用いた検討では、6種類中2物質(PFOA、GenX)が陽性と判定された。また、陽性2物質ともに酵素誘導やPPARαを介した発がん機序が推察された。全臓器について病理組織学的解析を行った結果、PFASによる毒性は肝臓が主体ながら一部は腎臓にも存在することが確認された。
アルキル化DNAの修復酵素欠損株(YG7108)を用いたAmes試験の結果、PFOAは陰性、DPEMSは陽性と判定された。
遺伝毒性肝発がん物質超短期検出法を用いた検討では、19物質中3物質(PFOA、DFEMS、2,5-BDF)が陽性(遺伝毒性肝発がん物質)と判定された。陽性2物質において、遺伝毒性肝発がん性に用量相関性が確認された。また、PFASによる毒性の主たる標的臓器が肝臓及び腎臓であることが確認された。急性経口毒性に関する情報のない14物質は、いずれもGHS区分4または5に該当した。
非遺伝毒性肝発がん物質短期検出法を用いた検討では、6種類中2物質(PFOA、GenX)が陽性と判定された。また、陽性2物質ともに酵素誘導やPPARαを介した発がん機序が推察された。全臓器について病理組織学的解析を行った結果、PFASによる毒性は肝臓が主体ながら一部は腎臓にも存在することが確認された。
アルキル化DNAの修復酵素欠損株(YG7108)を用いたAmes試験の結果、PFOAは陰性、DPEMSは陽性と判定された。
結論
19種類のFPASにおける急性毒性、遺伝毒性・肝発がん性及びQSAR予測との相関性に関するデータが得られた。これらの成果は、有機フッ素化合物の発がん性を評価するスキームの構築に有用であると考えられる。
公開日・更新日
公開日
2025-06-02
更新日
2025-06-12