ナノマテリアルの有害性評価を迅速化・高度化する短期経気管肺内噴霧暴露評価系およびin vitro予測手法の開発

文献情報

文献番号
202425012A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの有害性評価を迅速化・高度化する短期経気管肺内噴霧暴露評価系およびin vitro予測手法の開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KD1002
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
内木 綾(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院医学研究科 実験病態病理学)
研究分担者(所属機関)
  • 戸塚 ゆ加里(星薬科大学 衛生化学)
  • 梯 アンナ(大阪公立大学 大学院医学研究科)
  • 津田 洋幸(公立大学法人 名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
17,424,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質のナノサイズ化により、機能や特性が飛躍的に向上することから、ナノマテリアル(NM)の新素材としての使用や生産が増大する一方で、吸入暴露による毒性影響が懸念される。カーボンナノチューブ(CNT)のような不溶性繊維状NMは、長期間体内に蓄積され持続的な炎症を誘発する。従ってNMの吸入暴露による実用的な健康影響評価手法の開発は極めて重要である。申請者らはこれまでに、大規模施設と高額費用を要する吸入暴露試験を代替しうるNMの有害性試験法として、簡便な経気管肺内噴霧投与(TIPS)法を用いた試験デザインを開発し、吸入暴露試験で発がん性が見出された多層CNT(MWCNT)-7を含めた4種のMWCNTについて、肺・胸膜中皮における障害性と発がん性を明らかにした。さらに発がん性陽性MWCNTsでは、活性化マクロファージ(Mφ)によるケモカイン、活性酸素種(ROS)の産生と、肺胞上皮の増殖活性・酸化的DNA損傷の促進を投与後早期に検出した。これらの毒性所見は、CNT毒性のAdverse Outcome Pathway (AOP)のKey Eventと捉えられる。
本研究の目的は、TIPS試験法で得たCNTのAOPを高精度化し、NMに広く対応するAOPを把握することにより、OECD TGに提案できる短期in vivo健康影響評価手法を開発する事にある。さらには、AOPを構成するKey Eventを利用し、迅速で信頼性の高いin vitro試験を提案することにある。
研究方法
In vivoでは、F344ラットにMWCNT-7、MWCNT-NとSWCNTを0.1あるいは0.5mgの用量でTIPS投与し、肺腫瘍性病変と増殖、酸化的DNA損傷について、亜急性 (4週)、亜慢性 (13週)、慢性(52週)、発がん(104週)期のサンプルを解析する。亜急性期の遺伝子変化と発がん性の関連について、RNAシーケンシング (RNA-seq)で解析する。未知であるCNTによる体細胞変異のパターン(変異シグネチャー)を明らかにするために、MWCNTまたはSWCNT暴露のラット中皮腫/肺腫瘍15サンプルからゲノムDNAを抽出し、NGS解析によるWGS解析を行う。In vitro系では、マウスMφ細胞(RAW264.7)にCNTsを投与し、in vivo試験においてCNTs投与により発現高値を認めたCcl種のmRNA発現レベルを定量RT-PCRにより解析した。
結果と考察
MWCNTsにより投与4週後から肺胞上皮の増殖(Ki67)、DNA損傷(γH2AX)、酸化的DNA損傷(8-OHdG)、炎症関連DNA損傷(8-NG)マーカー、Ccl種mRNA発現が有意に増加し、SWCNTではKi67、8-NG、Ccl種mRNA発現の上昇を見た。肺胞上皮腺癌の発生頻度は、MWCNT-N、SWCNT高用量群で有意に上昇した。胸膜中皮腫の発生頻度は、MWCNTs高用量群で有意に上昇したが、SWCNTによる発生は認めなかった。RNA-seqによるGO解析では、CNTsに共通してMφ由来ケモカイン、サイトカイン関連パスウェイが抽出され、それらのうちSpp1、Ccl7、Mmp12の10-100倍程度の大幅な発現上昇が確認された。一方、SWCNTのみで好中球関連パスウェイおよび遺伝子の発現上昇が観察された。WGS解析で、C:G to T:A/A:T変異に特徴があるSBS_AシグネチャーとT:A to G:C変異に特徴があるSBS_Bシグネチャーが抽出され、SBS_Aは SWCNT由来、SBS_BはMWCNT-N/B由来であると推測できた。Rat_SBS_Bは新規のシグネチャーで、Rat_SBS_AはSBS3, SBS5, SBS40と類似していた。SWCNT暴露群ではDBSが観察されたが、MWCNT-N/B暴露群では殆ど観察されなかった。また、ID解析の結果では、1塩基の欠失/挿入変異が優位である3種のIDシグネチャーが抽出され、このうち、 T/Aの連続6base以上の箇所で1塩基欠失/挿入変異が優位であるID_AシグネチャーはSWCNT由来、T/Aの連続6base以上の箇所で1塩基欠失/変異が優位であるID_BはMWCNT-M/B由来であることが推測された。このうち、ID_BはCOSMICデータのID2と類似していた。
結論
増殖活性、炎症関連遺伝子発現など発がん性陽性MWCNTsとSWCNTで類似した毒性所見はCNTのAOPのKey Eventと考えられ、in vivo短期試験やin vitro試験の有害性予測指標への応用の可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
202425012Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
22,650,000円
(2)補助金確定額
22,632,000円
差引額 [(1)-(2)]
18,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 9,435,187円
人件費・謝金 2,093,895円
旅費 260,516円
その他 5,616,952円
間接経費 5,226,000円
合計 22,632,550円

備考

備考
未使用額17450円
千円未満の端数切り捨てのため返還額18000円

公開日・更新日

公開日
2025-05-28
更新日
-