新規融合型がん遺伝子を標的とした肺がんの分子診断法および治療法の開発

文献情報

文献番号
201007003A
報告書区分
総括
研究課題名
新規融合型がん遺伝子を標的とした肺がんの分子診断法および治療法の開発
課題番号
H20-ゲノム・一般-003
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
間野 博行(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 杉山 幸比古(自治医科大学 医学部)
  • 遠藤 俊輔(自治医科大学 医学部)
  • 鯉沼 代造(東京大学 大学院)
  • 竹内 賢吾(癌研究会癌研究所)
  • 鍋谷 彰(京都大学 大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肺がんは欧米先進諸国のがん死の最大の原因である。我々は肺がんの新規がん遺伝子EML4-ALKを発見することに成功したが、本研究計画ではEML4-ALKの肺がん原因遺伝子としての役割を証明すると共に、EML4-ALKを標的とした分子診断法および分子標的治療法の開発を目指す。
研究方法
またALK阻害剤(crizotinib)を使用したEML4-ALK陽性患者においてその初回診断時と再発後の検体を次世代シークエンサーで解析し、EML4-ALKにおける二次変異の有無を探索した。
結果と考察
Crizotinib治療症例の初回診断時および再発時試料からALK cDNAを増幅回収しイルミナ社ゲノムアナライザーによって解析した結果、再発時にのみ新たな2種類の付加変異がALKキナーゼドメイン内に生じている事が明らかになった。これら変異はそれぞれCys1156をチロシンへ(C1156Y)、Leu1196をメチオニンへ(L1196M)置換した。EML4-ALK陽性細胞株にcrizotinibを投与すると細胞死が誘導されるが、発現するEML4-ALKがC1156Y変異を有しているとcrizotinibに対して約10倍の耐性が生じ、L1196M変異の場合はさらに高濃度のcrizotinibが必要になった。すなわち両変異共にcrizotinib耐性原因であると考えられた。しかもこれら変異を有するEML4-ALKは、患者治療に用いなかったALK阻害剤に対しても耐性となる事から、我々が発見した二次変異は、広くALK阻害剤の耐性原因となると考えられた。
結論
広く臨床で用いられているキナーゼ阻害剤のうち、imatinib治療に耐性となる変異としてBCR-ABLのT315Iが知られ、またgefitinib耐性原因としてEGFRのT790M変異が知られる。興味深いことに我々が発見した耐性変異部位の一つL1196は、タンパクの構造上、上記ABL(T315)やEGFR(T790)と全く同じ場所に位置していた。すなわち全く異なるキナーゼに対する阻害剤であるにもかかわらず、キナーゼ側が阻害剤耐性を獲得する部位は共通なのである。我々の発見は直接「第二世代のALK阻害剤」開発の基盤情報となるものである。

公開日・更新日

公開日
2011-05-25
更新日
-

文献情報

文献番号
201007003B
報告書区分
総合
研究課題名
新規融合型がん遺伝子を標的とした肺がんの分子診断法および治療法の開発
課題番号
H20-ゲノム・一般-003
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
間野 博行(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 杉山 幸比古(自治医科大学 医学部)
  • 遠藤 俊輔(自治医科大学 医学部)
  • 鯉沼 代造(東京大学 大学院)
  • 竹内 賢吾(癌研究会癌研究所)
  • 鍋谷 彰(京都大学 大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肺がんは欧米先進諸国のがん死の最大の原因である。我々は肺がんの新規がん遺伝子EML4-ALKを発見することに成功したが、本研究計画ではEML4-ALKの発がんメカニズムの解析を行うと共に、その下流シグナルの同定、さらにEML4-ALKを標的とした分子診断法および分子標的治療法の開発を目指した。
研究方法
EML4上に複数のセンスプライマーを設置したマルチプレックスRT-PCR法を開発した。またSPC遺伝子プロモーターの下流にEML4-ALK cDNAを挿入した発現ユニットを作製し、これらを用いたトランスジェニックマウスを作成した。さらに次世代シークエンサー解析によりALK阻害剤耐性原因の解明を行った。
結果と考察
ALKのエキソン20にin-frameで融合する全てのEML4-ALKバリアントを検出可能にするため、センスプライマーをEML4のエクソン1、3、13、20上にそれぞれ設計し、ALKのエクソン20上に設置したアンチセンスプライマーとで行うマルチプレックスRT-PCR法による診断プロトコールを開発した。SPCプロモーターによるトランスジェニックマウスを作成したところ、全てのマウスは生後速やかに肺腺がんを多発発症し、しかもALK阻害剤を投与するとこれら肺がんは速やかに消失した。またALK阻害剤(crizotinib)による治療中に再発した症例の初回診断時および再発時の各試料からALK cDNAを回収し、次世代シークエンサーによって解析した結果、再発時にのみALKキナーゼドメイン領域に新たな2種類の付加変異が生じている事を発見し、どちらも薬剤耐性原因である事を確認した。
結論
我々の解析により喀痰・胸水・気管支洗浄液・凍結生標本などRNAを抽出可能な試料からmultiplex RT-PCR法によりEML4-ALKを検出可能なことが前向きスタディで証明された。また疾患モデル動物を作成したことで、EML4-ALK陽性肺がんに対してALK阻害剤が極めて有効な分子標的治療法となる事を証明した。また世界に先駆けてALK阻害剤耐性原因を明らかにすることも成功した。

公開日・更新日

公開日
2011-05-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2012-01-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201007003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
我々の業績は固形腫瘍においても染色体転座が重要な発がんメカニズムであることを世界に先駆けて明らかにしたものであり、がん研究に大きなインパクトを与えた(EML4-ALKの発見論文は既に300報もの論文で引用されている)。我々はEML4-ALKが同遺伝子陽性肺がんの中心的な発がんメカニズムであることを明らかにしただけでなく、阻害剤耐性獲得メカニズムを第一相臨床試験の半ばで解明するなど、同遺伝子の診断・治療において我々が一貫して世界をリードしてきた。
臨床的観点からの成果
我々が発見したEML4-ALK陽性肺がんに対するALK阻害剤の臨床試験の成果は既に一部で公開され、「正しく診断した症例の約9割が奏功する」という目覚ましい治療効果が報告された。世界中でEML4-ALKよる死亡者数は毎年5万人に上ると予想され、ALKに対する特異的阻害剤の臨床普及によってこれらの患者の生命予後が直接大きく改善すると期待される。本業績は我が国の科学研究が短期間で直接がん患者の救命に至った目覚ましい成果といえる。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
EML4-ALK発現トランスジェニックマウスの治療実験成功について2008年11月に朝日新聞等計5誌に、またALK阻害剤耐性変異の発見については2010年10月に朝日新聞等計7誌に掲載された。さらに本業績は2011年1月8日にNHK教育テレビ「TVシンポジウム」にて放映されるとともに、2010年6月6日にNew York Times誌で特集記事が作られた。さらにEML4-ALK診断法についても2011年2月2日にNHK総合テレビ「ためしてガッテン」で取材放映された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
68件
その他論文(和文)
50件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
50件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
EML4-ALK陽性肺がんをボランティアで診断する検出ネットワーク「ALK肺がん研究会」活動を行った。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamashita Y, Yuan J, Suetake I, et al.
Array-based genomic resequencing of human leukemia
Oncogene , 29 (25) , 3723-3731  (2010)
原著論文2
Choi YL, Soda M, Yamashita Y, et al.
EML4-ALK mutations in lung cancer that confer resistance to ALK inhibitors
N Engl J Med , 363 (18) , 1734-1739  (2010)
原著論文3
Hatanaka H, Tsukui M, Takada S, et al.
Identification of transforming activity of free fatty acid receptor 2 by retroviral expression screening
Cancer Sci , 101 (1) , 54-59  (2010)
原著論文4
Hatanaka H, Takada S, Tsukui M, et al.
Identification of the transforming activity of Indian hedgehog by retroviral expression screening
Cancer Sci , 101 (1) , 60-64  (2010)
原著論文5
Takeuchi K, Choi YL, Togashi Y, et al.
KIF5B-ALK, a novel fusion oncokinase identified by an immunohistochemistry-based diagnostic system for ALK-positive lung cancer
Clin Cancer Res , 15 (9) , 3143-3149  (2009)
原著論文6
Takeuchi K, Choi YL, Soda M, et al.
Multiplex reverse transcription-PCR screening for EML4-ALK fusion transcripts
Clin Cancer Res , 14 (20) , 6618-6624  (2008)
原著論文7
Soda M, Takada S, Takeuchi K, et al.
A mouse model for EML4-ALK-positive lung cancer
Proc Natl Acad Sci U S A , 105 (50) , 19893-19897  (2008)
原著論文8
Choi YL, Takeuchi K, Soda M, et al.
Identification of novel isoforms of the EML4-ALK transforming gene in non-small cell lung cancer
Cancer Res , 68 (13) , 4971-4976  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201007003Z