関節リウマチをモデルとした病型・病態進行予測ツールおよび遺伝子検査システムの開発

文献情報

文献番号
201007002A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチをモデルとした病型・病態進行予測ツールおよび遺伝子検査システムの開発
課題番号
H20-ゲノム・一般-002
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
猪子 英俊(東海大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 井ノ上 逸朗(国立遺伝学研究所)
  • 田中 正史(東海大学 医学部)
  • 岡 晃(東海大学 医学部)
  • 光永 滋樹(東海大学 医学部)
  • 木下 健司(武庫川女子大学 薬学部)
  • 太田 正穂(信州大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
49,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は関節リウマチ(RA)感受性遺伝子の多型と、病型および抗CCP抗体等の診療情報との関連解析に基づくアルゴリズム開発により発症初期に病態進行を予測し、それによる適切な投薬・治療での患者QOLの向上を目指すとともに、それらの診断に用いるための感受性遺伝子のSNP、HLAの迅速・簡便な検査法を開発することにより、“ベンチワークからベッドサイドへ”の医療の実現を目的としている。
研究方法
メタアナリシスにより抽出したRA感受性遺伝子の37SNPを、患者1,288検体、健常者1,505検体でタイピングを行った。タイピング結果と病型との関連解析を行うとともに、予測モデルの妥当性を受動者動作特性曲線解析によるAUC値により評価した。RA症例622例、RAの家族歴がなく抗CCP抗体陰性、rheumatoid factor (RF) 陰性の対象群966例でHLA6座のタイピングを行い、RAおよび病型との関連解析を行った。さらに等温増幅を用いたHLAタイピング法、SNPタイピング法の開発を行った。
結果と考察
HLA-DRB1および日本人集団でRAと関連が観察された14 SNPs で作成した予測モデルに抗CCP抗体およびRFの検査結果を加えることにより、罹患性予測モデルの識別能は、AUC=71%、となりsub-optimalな水準となった。遺伝子スクリーニングとして有用な予測の正確度(AUC=0.80)に到達するには、multiple rare variants (MRV)仮説に基づき、オッズ比が3.0でアレル頻度0.01を仮定すると、さらに20座位が必要と予測された。
HLAとの関連解析では、DPB1がDRB1とは独立してRA感受性あるいは抵抗性を付与する可能性が示唆された。さらにDPB1*02:01は関節破壊が重篤な病型との関連が示唆された。またクラスIII領域に存在するRA感受性遺伝子の多型も含めたハプロタイプを考慮する必要性が考えられた。
16種類のプローブを96ウエル・プレートの1つのウエル底面に固定し、ウエル中で等温増幅反応を行うことによりDRB1アリルの low resolution でのタイピングが可能となった。SNPのタイピングも等温増幅の有無によりタイピング可能であった。
結論
関節リウマチの診療情報と関節リウマチ感受性遺伝子の多型情報(HLAおよびSNP)を基に構築する病型・病態進行を予測するツール(数理モデル)、および予測ツールを実用化していく上で必要な多型解析システムのプロトタイプが開発できた。

公開日・更新日

公開日
2011-08-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201007002B
報告書区分
総合
研究課題名
関節リウマチをモデルとした病型・病態進行予測ツールおよび遺伝子検査システムの開発
課題番号
H20-ゲノム・一般-002
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
猪子 英俊(東海大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 井ノ上 逸朗(国立遺伝学研究所)
  • 田中 正史 (東海大学 医学部)
  • 岡 晃(東海大学 医学部)
  • 光永 滋樹(東海大学 医学部)
  • 木下 健司(武庫川女子大学 薬学部)
  • 太田 正穂(信州大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は関節リウマチ(RA)感受性遺伝子の多型と、病型および抗CCP抗体等の診療情報との関連解析に基づくアルゴリズム開発により発症初期に病態進行を予測し、それによる適切な投薬・治療での患者QOLの向上を目指すとともに、それらの診断に用いるための感受性遺伝子のSNP、HLAの迅速・簡便な検査法を開発することにより、“ベンチワークからベッドサイドへ”の医療の実現を目的としている。
研究方法
報告されているRA感受性遺伝子近傍の詳細なSNPタイピングとメタアナリシスで抽出したRA感受性SNP、HLAにより罹患予測モデルを作成した。SNP、HLAと、RAとの関連解析を行った。等温増幅法による多型検出システムを開発した。
結果と考察
HLA-DRB1、日本人集団でRAと関連が観察された14 SNPs 、および自己抗体の検査結果で作成した罹患性予測モデルの識別能は、AUC=71%、となりsub-optimalな水準となった。
病型を少関節炎型、多関節炎型、ムチランス型に分けた場合、少関節炎型ではHLA-ClassII領域におけるrs9277386、MRPL48 (rs3817514)、ムチランス型ではCD244 (rs3573389)、FTO (rs2665272)で有意な関連が検出された。
 RA感受性のHLA-DRB1アリルは、DRB1*04:05, *04:01, *10:01であり、RA抵抗性のDRB1アリルは, DRB1*13:02, *14:05 , *08:02 であった。DPB1*02:01とDPB1*04:01はこれらのDRB1アリルとは独立して、それぞれRA感受性とRA抵抗性を付与した。また、HLAハプロタイプの重要性が示唆された。
96ウエル・プレートの1ウエルの底面に16種類のプローブを固定し、ウエル中で等温増幅反応を行うことにより、low resolution でのHLA-DRB1タイピングが可能となった。プローブの反応性の有無の判定は肉眼的に可能であった。
結論
関節リウマチの病型・病態進行予測ツールとそれに多型情報を提供するための簡便な多型検査システムのプロトタイプが完成した。今後、高精度の予測を可能にしていくためには、性別や喫煙習慣等の臨床情報の採り込み、rare variant のような感受性遺伝子の探索とその結果のモデルへの採り込みが必要である。検査システムについてはSNPタイピングのmultiplex化、非特異反応を低減するために熱伝導率が良いプラスチックプレートの作成が必要である。

公開日・更新日

公開日
2011-08-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201007002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1) 研究目的の成果
 関節リウマチ(RA)感受性遺伝子のSNPとHLAの多型情報から罹患予測モデルを構築し、AUCが0.71のものを得た。病型との関連を示すSNPを検出した。等温増幅法による簡便な多型検出法を創出した。
 (2) 研究成果の学術的・国際的・社会的意義
 欧米人でRAと強い関連を示すDRB1*04:01は日本人でも関連を示すが、それと同一ハプロタイプ上に存在するHLAクラスIの方がより低いp値、高いオッズ比を示した。これが民族の違いに起因するのか今後欧米人での検証が必要である。
臨床的観点からの成果
(1) 研究目的の成果
 関節リウマチをムチランス型、多関節進行型、少関節型に分けた場合、ムチランス型と少関節型では病型特異的に関連を示すSNPが検出された。別の集団での検証が必要であるが、これは発症初期に病型の予測を可能にするものである。抗CCP抗体陽性は関節破壊が重篤な病型と関連していた。この知見も発症の初期において治療法の選択に寄与すると考えられる。
 (2) 研究成果の学術的・国際的・社会的意義
 多型によるものは集団による違いが大きいので、別の集団、民族での検証が必要である。
ガイドライン等の開発
ガイドライン等の開発、審議会等での参考にはつながっていない。
その他行政的観点からの成果
関節リウマチの危険因子は遺伝要因が6割であり、その1/3がHLAといわれている。しかし、抗CCP抗体陽性の関節リウマチはHLAとの関連があるが、抗CCP抗体陰性の関節リウマチはHLAとの関連が無いことを明らかにした。また、病型に関連しているSNPを検出した。これらは今後、治療方法の選択の指針の一助となる可能性がある。さらに抗CCP抗体陰性の関節リウマチに関連している遺伝要因を明らかにしていくことが、治療効果の改善や患者QOLの向上につながると考えられる。
その他のインパクト
研究成果については、今後ホームページで順次公開予定である。
URL:http://inoko.med.u-tokai.ac.jp/

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
129件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
61件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
研究成果については、今後ホームページで順次公開予定である。 URL:http://inoko.med.u-tokai.ac.jp/

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mitsunaga S, Okudaira Y, Kunii N,et al.
Exact break point of a 50 kb deletion 8 kb centromeric of the HLA-A locus with HLA-A*24:02: the same deletion observed in other A*24 alleles and A*23:01 allele
Immunogenetics (in press) , 63 (8) , 467-474  (2011)
10.1007/s00251-011-0521-0
原著論文2
Mitsunaga S, Homma Y, Narita A, et al.
Particular HLA alleles are associated with biochemical traits in the Japanese population
Hum Immunol (in press) , 72 (7) , 566-574  (2011)
10.1016/j.humimm.2011.03.011
原著論文3
Onizuka M, Kunii N, Toyosaki M, et al.
Cytochrome P450 genetic polymorphisms influence the serum concentration of calcineurin inhibitors in allogeneic hematopoietic SCT recipients
Bone Marrow Transplant (in press) , 46 (8) , 1113-1117  (2011)
10.1038/bmt.2010.273
原著論文4
Sato M, Kawagoe T, Meguro A, et al.
Toll-like receptor 2 (TLR2) gene polymorphisms are not associated with sarcoidosis in the Japanese population
Mol Vis , 17 , 731-736  (2011)
原著論文5
Mizuki N, Meguro A, Ota M, et al.
Genome-wide association studies identify IL23R-IL12RB2 and IL10 as Behçet's disease susceptibility loci
Nat Genet , 42 (8) , 703-706  (2010)
10.1038/ng.624
原著論文6
Writing Committee for the Normal Tension Glaucoma Genetic Study Group of Japan Glaucoma Society
Genome-wide association study of normal tension glaucoma: common variants in SRBD1 and ELOVL5 contribute to disease susceptibility
Ophthalmology , 117 (7) , 1331-1338  (2010)
10.1016/j.ophtha.2009.12.001
原著論文7
Suzuki M, Meguro A, Ota M, et al.
Genotyping HLA-DRB1 and HLA-DQB1 alleles in Japanese patients with normal tension glaucoma
Mol Vis , 16 , 1874-1879  (2010)
原著論文8
Meguro A, Inoko H, Ota M, et al.
Genetics of Behcet's disease inside and outside the MHC
Ann Rheum Dis , 69 (4) , 747-757  (2010)
10.1136/ard.2009.108571
原著論文9
Meguro A, Ota M, Katsuyama Y, et al.
Association of the toll-like receptor 4 gene polymorphisms with Behcet's disease
Ann Rheum Dis , 67 (5) , 725-727  (2008)
10.1136/ard.2007.079871
原著論文10
Mitsunaga S, Suzuki Y, Kuwana M, et al.
Associations between six classical HLA loci and rheumatoid arthritis: a comprehensive analysis.
Tissue Antigens , 80 (1) , 16-25  (2012)
10.1111/j.1399-0039
原著論文11
Mitsunaga S, Hosomichi K, Okudaira Y, et al.
Exome sequencing identifies novel rheumatoid arthritis-susceptible variants in the BTNL2.
J Hum Genet. , 58 (4) , 210-215  (2013)
10.1038/jhg.2013.2
原著論文12
Mitsunaga S, Shimizu S, Okudaira Y, et al.
Improved loop-mediated isothermal amplification for HLA-DRB1 genotyping using RecA and a restriction enzyme for enhanced amplification specificity.
Immunogenetics , 65 (6) , 405-415  (2013)
10.1007/s00251-013-0690-0

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201007002Z