高感受性集団に於ける化学物質の有害性発現メカニズムの解明及び評価手法開発にかかる総合研究

文献情報

文献番号
200941002A
報告書区分
総括
研究課題名
高感受性集団に於ける化学物質の有害性発現メカニズムの解明及び評価手法開発にかかる総合研究
課題番号
H19-化学・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
小野 宏(財団法人食品薬品安全センター 秦野研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 鈴木 勉(星薬科大学 薬学部 薬品毒性学教室)
  • 宮川 宗之(独立行政法人 労働安全衛生総合研究所 産業医学総合研究所 健康障害予防研究グループ)
  • 今井 清(財団法人 食品農医薬品安全性評価センター 技術総括部)
  • 林 良夫(徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 口腔分子病態学分野)
  • 武吉 正博(財団法人 化学物質評価研究機構 安全性評価技術研究所)
  • 長尾 哲二(近畿大学 理工学部 生命科学科 発生生物学研究室)
  • 太田 亮(財団法人 食品薬品安全センター秦野研究所 毒性部 遺伝学研究室)
  • 松島 裕子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 高木 篤也(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 藤本 成明(広島大学 原爆放射線医科学研究所 放射線再生医学研究部門 組織再生制御研究分野)
  • 五十嵐 勝秀(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 藤井 義明(東京大学分子細胞生物学研究所 核内情報研究分野)
  • 西川 淳一(武庫川女子大学 薬学部 衛生化学研究室)
  • 井上 達(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
  • 小野 敦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 総合評価研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
53,510,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
内分泌かく乱化学物質(EDCs)としての生体障害性に対する検出感度の高い確定試験法を開発する。
研究方法
4部門を設置した。1)取纏め部門。2)神経・行動、免疫及び生殖器について個体の受精、発生-老化に亘る齧歯類一生涯を標的とした有害性評価試験系を開発する。3)支援基礎研究としての分子毒性メカニズム研究。4)OECD/WHO関連の国際動向調査研究を行う。
結果と考察
齧歯類一生涯試験法への可能性を明らかにするため、マウス周産期低用量EDCs暴露による出生児の免疫機能異常への影響を確認。
神経・行動:マウス周産期BPA投与による海馬神経新生の低下及び異所性オリゴデンドロサイトの生成、陽性対照物質propylthiouracil投与によるスケジュール制御オペラント学習行動試験成績の低下、ラット周産期低用量DES投与により性周期異常を示した動物におけるERαの視床下部前腹側室周囲核での減少傾向及び性的二型核での増加を確認。
免疫:自己免疫疾患モデルマウスへのTCDD投与による胸腺T細胞の分化異常、末梢T細胞のサイトカイン分泌亢進及び唾液腺炎誘発を確認。Local lymph node assayを用いたマウス経胎盤・経母乳BPA投与による雄性児の初期免疫応答能亢進の確認。
生殖器:マウス胎生期EDCs暴露による胎児期精巣下降の責任遺伝子及び精巣生殖細胞のDNAメチル化状態のかく乱を同定、周産期マウスのDES及びラットBPA暴露による性周期異常の誘発を確認。
有害性発現分子メカニズムの解明研究: ES細胞及び胚様体のBPA影響遺伝子を同定、マウス新生児期前立腺のアンドロゲン応答性遺伝子PSP94の転写プロモーター機構を明らかにし、ERαの発現が転写活性に関与していることを確認。マウス胎児神経幹細胞の成熟においてDNAメチル化変化を受ける領域を確定。AhR活性化によるβ-カテニンのユビキチン化分解による腸がん抑制作用を確認、免疫系活性化によるCYP遺伝子発現の変動を確認。調査研究:リスクアセスメントに関する最新の国際動向調査。
以上、神経・免疫・内分泌の高感受性期の生体反応の実態が示された。


結論
EDCsの低用量影響が、幾つかのエンドポイントに対して確認され、広範に実施可能な試験プロトコールとして一般化し、ガイドライン化することが可能であると結論される。

公開日・更新日

公開日
2010-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-04-07
更新日
-

文献情報

文献番号
200941002B
報告書区分
総合
研究課題名
高感受性集団に於ける化学物質の有害性発現メカニズムの解明及び評価手法開発にかかる総合研究
課題番号
H19-化学・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
小野 宏(財団法人食品薬品安全センター 秦野研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 鈴木 勉(星薬科大学 薬学部 薬品毒性学教室)
  • 宮川 宗之(独立行政法人 労働安全衛生総合研究所 産業医学総合研究所 健康障害予防研究グループ)
  • 今井 清(財団法人 食品農医薬品安全性評価センター 技術総括部)
  • 林 良夫(徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 口腔分子病態学分野)
  • 武吉 正博(財団法人 化学物質評価研究機構 安全性評価技術研究所)
  • 長尾 哲二(近畿大学 理工学部 生命科学科 発生生物学研究室)
  • 太田 亮(財団法人 食品薬品安全センター 秦野研究所 毒性部 遺伝学研究室)
  • 松島 裕子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 高木 篤也(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 藤本 成明(広島大学 原爆放射線医科学研究所 放射線再生医学研究部門 組織再生制御研究分野)
  • 五十嵐 勝秀(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 藤井 義明(東京大学分子細胞生物学研究所 核内情報研究分野)
  • 西川 淳一(武庫川女子大学 薬学部 衛生化学研究室)
  • 井上 達(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
  • 小野 敦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 総合評価研究室)
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 総合評価研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
内分泌かく乱化学物質(EDCs)としての生体障害性に対する検出感度の高い確定試験法を開発する。
研究方法
4部門を設置した。1)取纏め部門。2)神経・行動、免疫及び生殖器について個体の受精、発生-老化に亘る齧歯類一生涯を標的とした有害性評価試験系を開発する。3)支援基礎研究としての分子毒性メカニズム研究。4)OECD/WHO関連の国際動向調査研究を行う。
結果と考察
齧歯類一生涯試験法への取り組みの可能性を明らかにするため、齧歯類周産期低用量EDCs暴露による性周期異常の誘発を確認。
神経・行動:マウス周産期BPA投与による海馬におけるエピジェネティクス変化を伴った細胞新生制御機構の異常を確認。陽性対照物質propylthiouracil投与によるスケジュール制御オペラント学習行動試験成績の低下、ラット周産期低用量DES投与により性周期異常を示した動物における視床下部前腹側室周囲核及び性的二型核でのERα変動を確認。
免疫:妊娠後期あるいは卵巣摘出シェーグレン症候群疾患モデルNFS/sldマウスのTCDD投与によりT細胞の分化異常及びサイトカイン分泌異常に起因した唾液腺の炎症性病変の誘発を確認。In vitroで感作性物質のマーカー候補タンパク質を同定、Local lymph node assay法でマウス経胎盤・経母乳BPA投与による雄性児の初期免疫応答能亢進を確認。
生殖器:マウス胎生期EDCs暴露による胎児期精巣下降の責任遺伝子及び精巣生殖細胞のDNAメチル化状態のかく乱を同定、ラット及びマウス新生児DES投与による性周期異常の誘発及び抗体産能低下を確認。ラットBPA暴露による性周期異常の誘発を確認。
有害性発現分子メカニズムの解明研究: ES細胞及び胚様体のBPA影響遺伝子を同定、マウス新生児testosteronpropionate暴露により前立腺のアンドロゲン応答性遺伝子発現の増加とその転写活性にERαの関与を確認。マウス胎児神経幹細胞の成熟においてDNAメチル化変化を受ける領域を確定。AhRの抗炎症作用及び腸がん抑制作用を確認、免疫系活性化によるCYP遺伝子発現の変動を確認。調査研究:リスクアセスメントに関する最新の国際動向調査。

結論
EDCsの低用量影響が、幾つかのエンドポイントに対して確認され、広範に実施可能な試験プロトコールとして一般化し、ガイドライン化することが可能であると結論される。

公開日・更新日

公開日
2010-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-04-07
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200941002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
内分泌かく乱化学物質の影響が受容体を介する毒性であることを裏付ける結果を確認し、その影響が胎児期、新生児期の発生の早期の曝露に始り、遅発性に発現することを確認した。発生・発達期の曝露による内分泌機能への影響のほかに、神経・行動、免疫等の高次調節系への影響も現われることを動物実験によって明らかにした。このように、内分泌攪乱化学物質の作用様態の解明に迫ることが出来た。
臨床的観点からの成果
特になし。
ガイドライン等の開発
OECDガイドラインにはすでにin vitroの「ヒトエストロゲン受容体組込み細胞アッセイ」(TG455)、in vivoのエストロゲン作用検出のための「子宮肥大試験」(TG440)、アンドロゲン作用に関する「Hershberger試験」(TG441)が採択されている。現在、確定試験法に近い「拡大一世代生殖毒性試験」が協議されている。われわれは、「囓歯類一生涯試験」を考案し、ジエチルスチルベストロール等を用いて予備的に試験を実施し、有用性のあることを確認した。
その他行政的観点からの成果
厚生労働省の内分泌攪乱物質試験スキーム策定に資するために厚生労働省医薬食品局によって開催された「第20回内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会」(平成20年3月)において本研究班の成果に基づき展望を述べた.
また、この研究の結果、ビスフェノールAに、胎児期曝露を行った動物の成熟後、性周期の早期老化が起こることを確認したので、この結果について平成20年4月厚生労働省に対し「健康危険情報通報」を行った。

その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
16件
原著論文(英文等)
144件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
165件
学会発表(国際学会等)
35件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
1)化学物質のアレルギー性強度推定法、特許公開2005-95080 2)Non-RI LLNA法の感度上昇法、特許公開2006-42702
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kazuya Miyagawa, Minoru Narita, Tsutomu Suzuki, et al
Memory impairment associated with a dysfunction of the hippocampal cholinergic system induced by prenatal and neonatal exposures to bisphenol A.
Neuroscience Letters , 418 , 236-241  (2007)
原著論文2
Minoru Narita, Kazuya Miyagawa, Tsutomu Suzuki, et al
Changes in central dopaminergic systems and morphine reward by prenatal and neonatal exposure to bisphenol-A in mice: evidence for the importance of exposure period.
Addiction Biology , 12 , 167-172  (2007)
原著論文3
Katsuyuki Iida, Junsei Mimura, Yoshiaki Fjii-Kuriyama, et al
Suppression of AhR signaling pathway is associated with the down-regulation of UDP-glucuronosyltransferases during BBN-dinuced urinary bladder carcinogenesis in mice.
J. Biochem , 147 (3) , 353-360  (2010)
原著論文4
Motohiko Oshima, Yoshiaki Fujii-Kuriyama, et al
SUMO modification regulates the transcriptional repressor function of aryl hydrocarbon receptor repressor.
Journal of Biological Chemistry , 284 (17) , 11017-11026  (2009)
原著論文5
Tomonori Hosoya, Yoshiaki Fujii-Kuriyama
Inducibility of cytochrome P450 1A1 and chemical carcinogenesis by benzo(a)pyrene in AhR repressor-deficient mice.
Biochemical and Biophysical Research Communications , 365 , 562-567  (2008)
原著論文6
Yasushi Kawasaki, Tohru Inoue
Benzene-induced hematopoietic neoplasms including myeloid leukemia in Trp53-deficient C57BL/6 and C3H/He mice
Toxicological Sciences , 110 (2) , 293-306  (2009)
原著論文7
Tsuyoshi Nakanishi, Jun-ichi Nishikawa
Molecular targets of organotin compounds in endocrine disruption: Do organotin compounds function as aromatase inhibitors in mammals?
Environmental Sciences , 13 (2) , 89-100  (2006)
原著論文8
太田 亮、宮原 敬、小野 宏
内分泌攪乱性確定試験としてのラット一生涯試験の試み
秦野研究所年報 , 30 , 17-24  (2007)
原著論文9
Ryo Ohta, Hiroshi Ono
Effects of transmaternal exposure to genistein in hatano high- and low avoidance rats
Exp. Anim. , 58 (5) , 471-479  (2009)
原著論文10
Kaname Kawajiri, Yoshiaki Fujii-Kuriyama, et al
Aryl hydrocarbon receptor suppresses intestinal carcinogenesis in APC min/+ mice with natural ligands
PNAS , 106 (32) , 13481-13486  (2009)
原著論文11
Hiroki Sekine, Jun Kanno, Katsuhide Igarashi,et al
Hypersensitivity of aryl hydrocarbon receptor-deficient mice to lipopolysaccharide-induced septic shock
Molecular and Cellular Biology , 29 (24) , 6391-6400  (2009)
原著論文12
Motohiko Oshima, Yoshiaki Fujii-Kuriyama, et al
Molecular mechanism of transcriptional repression of AhR repressor involving ANKRA2, HDAC4,and HDAC5
Biochemical and Biophysical Research Communications , 364 , 276-282  (2007)
原著論文13
Mariko Shirota, Hiroshi Ono
Screening of toxicological properties of 4-methylbenzoic acid by oral administration to rat
J Toxiclogical Sciences , 33 (4) , 431-445  (2008)
原著論文14
菅野 純、五十嵐勝秀、高木 篤也
環境化学物質の作用メカニズムを解き明かす;トキシコゲノミックスの新展開 Percellomeプロジェクトによる2,3,7,8-TCDE-2,3,7,8-TCDF比較
細胞工学 , 26 , 1391-1396  (2007)
原著論文15
Naozumi Ishimaru, Jun Kanno, Yoshio Hayashi, et al
Neonatal exposure to low-dose 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin causes autoimmunity due to the disruption to T cell tolerance
J. Immunology , 186 , 6576-6586  (2009)
原著論文16
N Kinouchi,Y Hayashi
Atelocollagen-mediated local and systemic applications of myostatin-targeting siRNA increase skeletal muscle mass
Gene Therapy , 1-5  (2008)
原著論文17
Nariaki Fujimoto
In vivo function of the 5'flanking region of mouse estrogen receptor beta gene
Steroid Biochemistry & Molecular Biology , 105 , 57-62  (2007)
原著論文18
Kikumi Horiguchi, Jun-ichi Nishikawa
AIB1 promotes DNA replication by JNK repression and AKT activation during cellular stress
J Biochem , 140 , 409-419  (2006)
原著論文19
Nariaki Fujimoto, Shigeru Ohta
Identification of prostatic-secreted proteins in mice by mass spectrometric analysis and evaluation of lobe-specific and androgen-dependent mRNA expression
Journal of Endocrinology , 190 , 793-803  (2006)
原著論文20
Tsuyoshi Nakanishi, Jun-Ichi Nishikawa
Organotin compounds enhance 17beta-hydroxysteroid dehydrogenase type 1 activity in human choriocarcinoma JAr cells: Potential promotion of 17beta-estradiol biosynthesis in human placenta
Biochemical Pharmacology , 71 , 1349-1357  (2006)

公開日・更新日

公開日
2016-06-21
更新日
-