メタボローム解析およびバイオマーカーを用いた化学物質の有害性評価手法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200941001A
報告書区分
総括
研究課題名
メタボローム解析およびバイオマーカーを用いた化学物質の有害性評価手法の開発に関する研究
課題番号
H19-化学・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
曽我 朋義(慶應義塾大学 環境情報学部 および 先端生命科学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
28,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、低分子バイオマーカーを用いて化学物質およびその代謝物の毒性を評価するもので世界でも初めての試みである。平成21年度は、動物を用いて、これまでの親水性化合物だけでなく脂溶性化学物質あるいはその代謝物が親電子性毒性を示すことを迅速に探索する評価システムの開発に取り組んだ。また、動物試験に替わるin vitro試験系として、ヒト肝培養細胞を用いた薬剤の評価系を構築し、メタボローム解析を適用させた新たな薬剤毒性評価バイオマーカー探索を行った。

研究方法
1)化学物質をマウスに投与し、γ-Gluペプチドバイオマーカーの濃度の増減から、投与した化学物質あるいは代謝で生じた物質が親電子物質であるか予測する方法を検討する。経口投与する化学物質の量、経口投与後に肝臓から代謝物を抽出する時間を検討し、γ-Gluペプチドバイオマーカーによる脂溶性化学物質の親電子毒性測定法の開発を行った。
2)ヒト肝培養細胞に反応性代謝物による肝毒性が知られる化合物を曝露し細胞毒性評価試験を行った。続いて毒性評価バイオマーカーを探索するため、キャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)によるメタボローム解析を行った。
結果と考察
平成21年度は、親水性および脂溶性化学物質をマウスに経口投与し、肝臓中のγ-Gluペプチド類が有意に増加すれば、投与した化学物質が親電子性毒性であることを示すシステムの基盤技術を確立することができた。
また、ヒト肝培養細胞を用いた薬剤の評価系を構築し、メタボローム解析を適用した新たな薬剤毒性評価バイオマーカー探索を行った結果、既存の毒性マーカーであるグルタチオンも含め、IMP(Inosinic acid)やKynurenineなどのこれまでに報告の無い新規の毒性評価マーカーになりうる代謝物の同定に成功した。同定された毒性評価マーカーを利用することで、潜在的に毒性を有する化合物による酸化ストレスを予測することができると考えられる。
結論
本研究で開発した肝臓内のグルタチオンが枯渇したことを示すγ-Glu-Xペプチド類バイオマーカーを用いた評価法は化学物質のみならず生体内で生じた代謝物が親電子物質であることを評価する有望な方法である。またヒト肝培養細胞と毒性マーカーを組み合わせた手法も動物試験に替わる新たな化合物毒性評価法として有効であり実用化が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2010-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200941001B
報告書区分
総合
研究課題名
メタボローム解析およびバイオマーカーを用いた化学物質の有害性評価手法の開発に関する研究
課題番号
H19-化学・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
曽我 朋義(慶應義塾大学 環境情報学部 および 先端生命科学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医薬品も含め体内に取り込まれた化学物質の多くは肝臓で解毒的に代謝され、易溶性の代謝物となって排泄される。しかしながら化学物質自体あるいは代謝で生じた物質が親電子物質である場合は生体に酸化活性毒性を示す。このような代謝物の毒性を確認できる評価手法は未だ確立されておらず、そのリスク評価システムの早急な構築が望まれている。本研究では、メタボローム測定法を用いた化学物質の酸化活性毒性評価のための新規バイオマーカー探索や、新たな毒性予測システムの開発・構築を行った。
研究方法
1)化学物質をマウスに投与し、メタボローム測定にて肝臓内のγ-Gluペプチドバイオマーカー濃度の増減から、投与した化学物質あるいは代謝で生じた物質が親電子物質であるか予測する方法を確立する。
2)肝毒性が知られる化合物をヒト肝培養細胞に曝露し、細胞毒性評価試験を行う。続いてキャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)によるメタボローム解析から毒性評価バイオマーカーの探索を行う。
結果と考察
本研究では、マウスに酸化活性毒性を示す化学物質(親電子物質)を投与後、肝臓内の代謝物質を網羅的に測定し、肝毒性を示すバイオマーカーの探索を行った。その結果、親電子物質(酸化活性毒性)を解毒する際に肝臓のグルタチオンが枯渇したことを示す14個のγ-Glu-Xジペプチド、γ-Glu-X-Glyトリペプチド類を発見した。これらのγ-Gluペプチド類は、化学物質の投与によって生体内に生じた親電子物質を抱合・解毒するためにグルタチオンが消費された際にγ-グルタミルシステインシンテターゼが活性化され、各種のアミノ酸を基質として生合成されていることも解明した。
また、ヒト肝培養細胞を用いた薬剤の評価系を構築し、メタボローム解析を適用させた新たな薬剤毒性評価バイオマーカー探索を行った結果、既存の毒性マーカーであるグルタチオンも含め、IMP(Inosinic acid)やKynurenineなどのこれまでに報告の無い新規の毒性評価マーカーになりうる代謝物の同定に成功した。同定された毒性評価マーカーを利用することで、潜在的に毒性を有する化合物による酸化ストレスを予測することができると考えられる。
結論
本研究で開発した肝臓内のグルタチオンが枯渇したことを示すγ-Glu-Xペプチド類バイオマーカーを用いた毒性評価法や、ヒト肝培養細胞を用いた化合物毒性評価法は、化学物質のみならず生体内で生じたその代謝物が親電子物質であることを探索する有望な方法論である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200941001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Q-SAR手法など化学物質そのものの毒性を評価する方法はこれまでにもあった。しかし、化学物質は生体内で代謝され、その代謝物が毒性を発揮するものも多い。本研究では、肝毒性を示す血液中の低分子バイオマーカーを発見し、マウスや肝臓細胞に化学物質を投与して、肝毒性マーカーの変動を測定知ることによって投与した化学物質の代謝物までをひっくるめての毒性を評価する方法論を確立した。
臨床的観点からの成果
化学物質や薬物を大量に摂取することによって劇症肝炎を発症し病院に運ばれてくる患者も多い。この場合、原因を瞬時に診断することは極めて困難であり、処置できず死に至る場合も多い。本研究で発見したマーカーは血液を測定するだけで、瞬時に薬物による肝毒性と診断することが可能である。したがって、化学物質や薬物の大量摂取の副作用によって発症し肝炎の迅速な診断と処置を可能にし、人命を救いだすことを可能にする。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
発見したバイオマーカー(グルタチオンアナログ)を高感度に測定する方法を開発し、ペプチド分析の手法の発展に貢献した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
11件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
36件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計8件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Soga, T.,* Igarashi, K., Itoh, C., et al.
Metabolomic Profiling of Anionic Metabolites by Capillary Electrophoresis Mass Spectrometry
Anal. Chem. , 81 , 6165-6174  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
2016-06-21