文献情報
文献番号
202403004A
報告書区分
総括
研究課題名
クラウド上の医療AI利用促進のためのネットワークセキュリティ構成類型化と実証及び施策の提言
研究課題名(英字)
-
課題番号
23AC1001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 浩司(国立研究開発法人国立成育医療研究センター システム発生・再生医学研究部 組織工学研究室)
研究分担者(所属機関)
- 宇賀神 敦(医療 AI プラットフォーム技術研究組合 理事会)
- 藤井 進(東北大学 災害科学国際研究所災害医療情報学分野)
- 金子 誠暁(医療AIプラットフォーム技術研究組合 システムWG)
- 尾﨑 勝彦(徳洲会インフォメーションシステム株式会社)
- 松井 俊大(国立成育医療研究センター 感染症科)
- 中村 直毅(東北大学 病院メディカルITセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
25,435,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
高度で質の高い医療の提供を目指し、さまざまな医療AIサービスが開発され、クラウドの利用も進んでいる。しかしながら幅広い医療機関で利用されているとは言い難く、本研究では、医療機関が安全かつ経済的にクラウド上の医療AIサービスを利用できる環境の整備を目指した活動を行なっている。医療AIは医療従事者の働き方改革や医療の均霑化に重要な役割を果たすが、個人情報保護やサイバー攻撃対策が大きな課題である。そのため、医療機関の特性に応じた適切なネットワーク構成やセキュリティ監査方法の確立が必要である。
研究方法
本研究では、複数のアプローチを組み合わせた包括的な調査・検証を実施した。まず、ネットワークアーキテクチャの検討として、地域医療ネットワークシステム「MMWIN」を活用し、宮城県内の330医療施設を対象とした大規模なアンケート調査を実施した。この調査では、医療機関のAI活用への意向や、セキュリティに関する現状の課題を明らかにすることを目指した。技術検証では、23の医療機関に対して詳細なヒアリング調査を行い、JASO TP-15002を活用してネットワークの類型化を行った。これにより、各医療機関の特性に応じた脅威・リスクの整理と、それに対応するクラウドセキュリティ対策の検討を実施した。さらに、より詳細な実態把握のため、26医療機関(24病院、2診療所)を対象に、事前アンケートと対面ヒアリングの2段階による詳細調査を実施した。この調査では、技術検証グループの同行により技術的な深掘りを行うとともに、一部の医療機関ではサーバ室の実地見学も行った。システム監査に関しては、徳洲会グループの病院をモデルケースとして、厚生労働省の最新ガイドラインに準拠した監査手法の開発と実証を行った。特に、グループ外の病院への展開を視野に入れ、標準化された監査手法の確立を目指した。医療AI開発においては、グラム染色画像からの感染症起因菌同定支援システムやファブリー病スクリーニングシステムの開発を進め、また生成AIを利用した遺伝カウンセリングの検討も行なっている。これらのシステムのサーバレスアーキテクチャへの移行検討も併せて実施した。
結果と考察
ネットワークアーキテクチャの検討から、医療機関における重要な知見が得られた。アンケート調査の結果、半数以上の医療機関がAI活用に前向きな姿勢を示す一方で、セキュリティ対策に関する人材不足が深刻な課題として浮かび上がった。特に、100床あたり1名程度というシステム要員の不足は、新技術導入の大きな障壁となっていることが明らかになった。技術的な実証実験では、仮想ブラウザとランサムウェア対策デコイの有効性が確認された。仮想ブラウザは、電子カルテ端末内でのトラストゾーンとゼロトラストゾーンの両立を可能にし、端末の動作に影響を与えることなく、クラウド上のAIサービスの安全な利用を実現できることが示された。医療機関の実態調査からは、ベンダーへの依存度の高さや、新しい知識習得のための時間確保が困難である状況が明らかになった。これらの課題に対応するため、医療機関のネットワーク構成を4段階に類型化し、それぞれの段階に応じた適切なセキュリティ対策を整理した。システム監査の標準化に向けた取り組みでは、徳洲会グループでの実証を通じて、監査項目や提出資料の見直しを行い、より実効性の高い監査手法の確立に向けた基盤を構築することができた。AI開発面では、複数の培養条件に対応する高精度な菌種判別モデルの構築や、マルベリー小体自動検出技術の実現など具体的な成果が得られた。さらに、これらのサービスのサーバレスアーキテクチャへの移行検討を通じて、コスト最適化と運用効率化の可能性が示された。
結論
本研究により、医療機関におけるクラウド上の医療AIサービス利用に向けた具体的な課題と解決策が明らかになった。特に、仮想ブラウザやランサムウェア対策デコイなどの技術的解決策の有効性が確認され、地域医療ネットワークシステムでの展開可能性が示された。一方で、医療機関のシステム要員不足やセキュリティ対策の課題が浮き彫りとなり、これらへの対応が今後の重要課題である。標準化されたシステム監査手法の確立と、セキュリティ対策の実装により、医療AIの安全な利用環境整備に向けた基盤が構築された。今後は、さらなる実証実験を通じて実用的なセキュリティ対策を確立し、医療AIサービスの普及促進を目指す。
公開日・更新日
公開日
2025-07-23
更新日
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