中年期からの孤立・困窮予防プログラムの実装化に向けた研究

文献情報

文献番号
202401002A
報告書区分
総括
研究課題名
中年期からの孤立・困窮予防プログラムの実装化に向けた研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23AA1002
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
小林 江里香(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム)
研究分担者(所属機関)
  • 村山 陽(東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム)
  • 山崎 幸子(文京学院大学 人間学部 心理学科)
  • 長谷部 雅美(聖学院大学 心理福祉学部心理福祉学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
6,313,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中年期からの孤立・困窮予防プログラムの実装化に向け、課題1:単身者の孤立・困窮予防のための啓発プログラムの開発、課題2:中高年者の効果的な情報提供のあり方の検討、課題3:孤立・困窮対策における公的相談機関の役割の明確化を行う。課題1は、40~60代を対象としたライフスタイルチェックリストと、孤立・困窮の高リスク者向けの参加型プログラムを含む。
研究方法
1)40~60代の中年者(プレシニア)を対象に開発したライフスタイルチェックリストを「ライフスタイル診断」としてウェブサイト(https://presenior.jp/)上で公開した。運用開始後4ヶ月半の間にライフスタイル診断を初めて利用した276人の回答データを用いて、利用者の特徴、全5領域(「病気の予防・管理」「生活習慣」「社会とのつながり」「家計・生活」「知識習得・活用」)の判定結果を得た完了率、サイト情報の入手方法、利用後の評価の分析を行った。
2)経済的脆弱性が高い中高年者における援助ニーズと精神的健康との関連を検討するため、生活資金の特例貸付の利用者を対象に2024年7月に実施したアンケートデータ(n=792)の二次解析を行った。
3)生活困窮者の自立相談支援を行う機関やNPOを通して40~60代の単身者を募集し、最終的に10名が3回の講座に参加した。各回は、講習(心の健康、食事、お金がテーマ)とファシリテーターが参加するグループワークで構成される。プロセス評価としてプログラムの満足度や学んだこと等を質問、アウトカム評価として、参加前後に将来展望や援助要請関連の意識、援助要請意図、精神的健康度を測定し、参加2~3週間後に、講習での学習内容の実践など行動・意識の変化について質問した。
4)2023年度に実施した、ハローワーク、地域若者サポートステーション(サポステ)、自立相談支援機関の調査の分析結果(有効回答796件)、および2024年度に実施した36機関(自立支援:15、サポステ:11、ハローワーク:10)の職員への半構造化面接調査の分析結果をもとに、多様な分野の研究者と実務経験者が議論を行い、これらの相談機関が孤独・孤立対策の役割を果たすための課題と対応策を整理した。
結果と考察
1)ライフスタイル診断の利用者の年齢層や独居者の割合については想定通りだったが、男性が女性の半数程度であり、国の統計に比べて健康的な行動や学習活動の実施者の割合が高い傾向があった。サイトの情報を、講座・セミナーでの紹介により得た人が多かったことが影響したと考えられる。完了率は7割だった。利用者の8割前後は自己理解・将来展望の促進、知識・情報の獲得、生活改善意欲の向上といった、開発目的とした効果を認識していた。以上より、サイト情報の周知方法など運用面でのさらなる工夫は必要だが、ライフスタイル診断の内容についての有用性は確認できた。
2)生活資金特例貸付を利用した対象者の6割近くに抑うつ症状があり、抑うつ症状がある者では、抑うつ症状がない者に比べて援助ニーズに対し「何をどうしたいいか分からない」割合も高かった。精神的健康を高めることで自らの課題の整理が促され、援助要請が促される可能性がある。経済的脆弱性が高い中高年者対象の参加型プログラムでは、精神的健康をアウトカム評価に加える必要性が示された。
3)高リスク者対象の参加型プログラムを試行した結果、プログラム参加前後で援助要請に関する意識の変化はみられなかったが、精神的健康の向上がみられた。また、プログラム参加を契機に、自身の理解を深めたり、将来の生活について考えるようになったことが示された。
4-1) 自立相談支援機関とサポステにおけるチェックリストと参加型プログラムの利用可能性について検討し、使用マニュアルの整備や、参加型プログラムにおいてグループワークを導入するための研修体制の必要性が示唆された。
4-2) 4つの政策提言をまとめた:①地域のハローワーク、自立相談支援機関、サポステ間で顔が見える関係づくりを強化する、②地域における孤独・孤立対策の核となる機関を定めるとともに、地域の多様な資源と連携し、利用者と地域をつなぐ取り組みを強化する、③3機関が実施する孤独・孤立対策の好事例を収集し紹介する、④自治体ごとに孤独・孤立の課題解決にむけた実践を計画し、その成果を評価する評価方法を設ける。
結論
40~60代のプレシニアを対象とした「ライフスタイル診断」(チェックリスト)の有用性と運用上の課題を明らかにした。孤立・困窮の高リスク者を対象に、参加者のリクルートからプログラムの実施・評価までのパイロット研究を行い、参加前後で精神的健康の向上を確認した。生活困窮者や就労支援のための相談窓口が、孤独・孤立対策において有効に機能するための4つの提言をまとめた。

公開日・更新日

公開日
2025-06-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-06-27
更新日
-

文献情報

文献番号
202401002B
報告書区分
総合
研究課題名
中年期からの孤立・困窮予防プログラムの実装化に向けた研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23AA1002
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
小林 江里香(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム)
研究分担者(所属機関)
  • 村山 陽(東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム)
  • 山崎 幸子(文京学院大学 人間学部 心理学科)
  • 長谷部 雅美(聖学院大学 心理福祉学部心理福祉学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中年期からの孤立・困窮予防プログラムの実装化に向け、課題1)単身者の孤立・困窮予防のための啓発プログラムの開発、課題2)中高年者の効果的な情報提供のあり方の検討、課題3)孤立・困窮対策における公的相談機関の役割の明確化を行った。1)は、40~60代を対象としたライフスタイルチェックリストと、孤立・困窮の高リスク者向けの参加型プログラムを含む。
研究方法
1a) 40~60代の中年者(プレシニア)、特に独居者の課題を優先し、先行研究のレビュー、専門家へのヒアリング、予備調査に基づき、5領域(「病気の予防・管理」「生活習慣」「社会とのつながり」「家計・生活」「知識習得・活用」)22項目のチェックリストを開発した。2024年11月に「ライフスタイル診断」としてウェブサイト(https://presenior.jp/)上での運用を開始し、2024年度末までに同診断を初めて利用した276人の回答データを用いて、利用者の特徴、完了率、サイト情報の入手方法、利用後の評価の分析を行った。
1b)生活困窮者の自立相談支援を行う機関やNPOを通して40~60代の単身者を募集し、最終的に10名が3回の講座に参加した。各回は、講習(心の健康、食事、お金がテーマ)とファシリテーターが参加するグループワークで構成され、参加前後に将来展望や援助要請の心理的障壁に関する意識、精神的健康の測定を行い、参加2~3週間後に、講習での学習内容の実践などの行動・意識の変化についても調査した。
2a)単身中高年者の郵送調査データを分析し、心身の健康・経済・社会関係上の問題保有による類型別に、情報入手、馴染みの場所、公的相談機関へのアクセスにおける特徴を検討した。
2b)馴染みの場(居場所)のタイプや機能を明らかにするため、50~60代の単身者を対象にWeb調査(量的調査)と半構造化面接調査を実施した。
3) 孤独・孤立に関する支援の現状と課題を明らかにするため、全国の就労支援機関(ハローワーク、地域若者サポートステーション(サポステ))と生活困窮者自立相談支援機関を対象にオンラインのアンケート調査を実施し、796機関より回答を得た。さらに、36機関の職員への半構造化面接調査も実施した。
結果と考察
1a)利用者には、女性や、健康的な行動・学習活動の実施者が多いなどの偏りが見られた。サイト情報を、講座・セミナーでの紹介により得た人が多かったことが影響したと考えられる。サイト情報の周知方法や完了率(7割)など、運用面での課題はあるが、利用者の8割前後は自己理解・将来展望の促進、知識・情報の獲得、生活改善意欲の向上といった効果を認識しており、ライフスタイル診断の有用性は確認できた。
1b)プログラムの参加者には精神的健康の向上がみられ、参加を契機に自身の理解を深めたり、将来の生活について考えるようになっていた。
2a)問題集積群(全側面に問題)、問題中位群(身体的健康は問題ないが社会関係が乏しい)、健康問題群は、問題最小群に比べて情報が届きにくい可能性が示された。特に問題集積群は、地域情報を入手しておらず馴染みの場所等もない人が多いため、役所、ハローワーク、自立相談支援機関の窓口が、情報提供できる数少ない接点となり得る。中年者が多い問題中位群にはインターネットを活用した情報提供、問題集積群以外には飲食店を利用した情報提供も有効と考えられる。
2b)居場所としては、喫茶店・カフェや飲食店、図書館などが多かった。居場所がない人は、経済的な問題や一人行動への不安等が認められたが、図書館には通っている人もいた。単身中高年者に広く情報を届けるには、カフェ・飲食店などに加え、一人でも行動しやすく無料で利用できる図書館の活用が効果的であると考えられる。
3)孤独・孤立対策における課題を明らかにし、提言を行った:①地域のハローワーク、自立相談支援機関、サポステ間で顔が見える関係づくりを強化する、②地域における孤独・孤立対策の核となる機関を定めるとともに、地域の多様な資源と連携し、利用者と地域をつなぐ取り組みを強化する、③3機関が実施する孤独・孤立対策の好事例を収集し紹介する、④自治体ごとに孤独・孤立の課題解決にむけた実践を計画し、その成果を評価する評価方法を設ける。
結論
40~60代のプレシニア向けに開発した「ライフスタイル診断」をウェブサイト上で公開し、有用性と運用上の課題を明らかにした。孤立・困窮の高リスク者を対象に、参加者のリクルートからプログラムの実施・評価までのパイロット研究を行い、参加者の精神的健康の向上を確認した。単身中高年者への情報提供においては、カフェ・飲食店や図書館の活用が考えられる。生活困窮者や就労支援のための相談窓口が、孤独・孤立対策において有効に機能するための4つの提言をまとめた。

公開日・更新日

公開日
2025-06-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2025-06-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202401002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
2025年5月末時点で刊行された論文はないが、単身中高年者の「馴染みの場」と、生活資金の特例貸付を利用した経済的脆弱層における援助要請の抑制要因に関する論文を投稿準備中である。
臨床的観点からの成果
なし
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
本研究の成果は、内閣府にある孤独・孤立対策推進室に情報提供される。
その他のインパクト
「プレシニアのためのライフスタイルチェック」ウェイブサイト(https://presenior.jp/)を2024年11月に開設し、サイト内で運用している「ライフスタイル診断」は、2025年5月末までに約350件の利用があった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
11件
公開講座開催1件、支援者向け研修等講演3件、雑誌寄稿1件、新聞記事5件、ホームページ1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-06-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
202401002Z