既存添加物・褐色系フラボノイド色素群の化学構造の解明

文献情報

文献番号
200939053A
報告書区分
総括
研究課題名
既存添加物・褐色系フラボノイド色素群の化学構造の解明
課題番号
H20-食品・若手-022
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 裕才(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 昨年度は「タマネギ色素」に注目し黄色タマネギ乾燥外皮の水抽出液からタマネギ外皮の色素としては世界初の報告として低分子キサンチリウム色素cepaic acidを単離・構造決定し,色素が外皮中に含まれるフラボノイド・quercetinの酸化物から形成されるという仮説を示した。本年度は,本仮説を裏付けるために乾燥外皮から新規色素の単離および構造決定を試みた。
研究方法
1)黄色タマネギの乾燥外皮から黄色色素の抽出条件を検討した。
2)各種溶媒分画およびカラムクロマトグラフィー法を用いて新規色素の分画を行った。
3)得られた色素画分を逆相のHPLCによって精製し,未知色素のエステル体を単離した。
4)得られた未知色素のエステル体をNMR分析およびMS分析に供し構造解析を行った。
結果と考察
 色素の抽出条件を検討したところ、ろ過した抽出液中の色素濃度が時間とともに高くなることが観察された。これは抽出液中に色素の前駆物質が存在し,酸化によって色素へ変化したものと考えられた。そこで抽出溶媒にアスコルビン酸溶液を用いた結果,色素の生成は完全に押さえられた。抽出液を逆相LC/MSを用いて分析したところ,cepaic acid以外に3つの色素ピークを確認することができた。これらの可視光における極大吸収は,cepaic acidよりもさらに赤味を帯びた450ー480nmであり,全体として450nmに極大吸収をもつタマネギ色素の色調に貢献しているものと考えられた。そのうちで480 nmに極大吸収をもつ色素についてLC/MSで分子量解析を行ったところ,cepaic acidよりも72Da大きいことが示唆された。また酸性下におけるアルコール類との濃縮において容易にエステル化することが観察された。さらに塩酸酸性下で加熱すると容易にcepaic acidへ分解することも判明した。溶媒分画および分取HPLCを用いて本色素のエステル体を単離し,重DMSO中で一次元および二次元NMR解析を行った結果,プロトン数から本色素は2置換されたcepaic acidの類縁体であり,左右対称であったcepaic acidと違い非対称であることが判明したが,量的な問題から最終的な構造決定には到らなかった。
結論
 タマネギ乾燥外皮の黄色色素はキサンチリウム化合物の集合体であることが強く示唆され、その形成には酸化反応が必須であることが示された。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

文献情報

文献番号
200939053B
報告書区分
総合
研究課題名
既存添加物・褐色系フラボノイド色素群の化学構造の解明
課題番号
H20-食品・若手-022
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 裕才(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
フラボノイド系褐色色素として登録されている既存添加物(例:カカオ色素、タマネギ色素)は染色性の高さから使用頻度が高い。しかしながら一般的にフラボノイドには褐色の色調はなくこれら色素の化学構造は不明のままである。本研究ではその解明を目的とした。
研究方法
1)各種色素製品を紫外可視分光計および逆相のLC/MSを用いて分析した。
2)黄色タマネギの乾燥外皮から黄色色素の探索を行った。
3)得られたタマネギ由来の黄色色素の形成過程を検討した。
4)濾紙電気泳動法によって各種色素製品の差別化を検討した。
結果と考察
色素製品間に分光学的に大きな差違は認められなかった。逆相LC/MSによって分析した結果、色素は広範なブロードピークとして観測され差違が認められなかった。しかしフラボノイドの酸化分解物が幾つかの製品で確認された。黄色タマネギの乾燥外皮を水で抽出しLC/MSで分析した結果、ブロードな色素ピークの中に430nmに極大吸収を示す色素ピークを確認した。本色素を単離しNMRによって構造解析した結果、9-carboxy-1,3,6,8-tetrahydroxyxanthyliumと決定された。本物質は新規のキサンチリウム化合物でありcepaic acidと命名された。その他にも450-480nmに極大吸収を示す色素ピークを確認し、これらの1つはcepaic acidの類縁体であることが示された。cepaic acidの構造は2つのフロログルシノールがグリオキシル酸で架橋され脱水・酸化によって形成されたと推定された。実際に両物質を攪拌するとcepaic acidを含む黄色色素の合成に成功した。フロログルシノールはタマネギ鱗茎中のクエルセチンの酸化物であるため、鱗茎が乾燥し外皮となる過程で酸化によってキサンチリウム色素へと再編成されると仮定された。抽出液中には色素の前駆物質が存在し、抽出時に空気酸化によって色素形成することが観察された。褐色色素の色素本体は同様に正の電荷をもつキサンチリウム色素なのではないかと考え濾紙電気泳動を検討したところ、全ての色素は陰極へ移動したが、移動度に差違は観察されなかった。
結論
黄色タマネギ外皮から世界初となる色素の単離・構造決定に成功した。本結果からタマネギ色素はフラボノイドの酸化によって生じたキサンチリウム色素であることが強く示唆され、他の褐色色素についても同様のことが考えられた。

公開日・更新日

公開日
2010-06-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200939053C

成果

専門的・学術的観点からの成果
黄色タマネギの外皮の色素は鱗茎に含まれるクエルセチンであると長年言われてきたが、この定説が間違っていることを明らかにし、色素の正しい化学構造を示すことができた。得られた化学構造から色素がクエルセチンの酸化物から形成されることが強く示唆された。実際に酸化反応が必須であることが証明された。
臨床的観点からの成果
なし
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
タマネギ色素等の褐色色素は食品添加物公定書への収載が検討されており、本研究で判明した色素の化学構造は分析法の開発に有益な情報となるものであった。
その他のインパクト
黄色タマネギの外皮色素の構造決定として世界初の報告となった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yusai Ito, Takeshi Yamazaki, Kenichi Tanamoto et al.
Capaic acid, a novel yellow xanthylium pigment from the dried outer scales of the yellow onion Allium cepa
Tetrahedron Letters , 50 , 4084-4086  (2009)

公開日・更新日

公開日
2013-05-27
更新日
-