IoTを活用した建築物衛生管理手法の検証のための研究

文献情報

文献番号
202326011A
報告書区分
総括
研究課題名
IoTを活用した建築物衛生管理手法の検証のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22LA1010
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
金 勲(キム フン)(国立保健医療科学院 生活環境研究部  建築・施設管理研究領域)
研究分担者(所属機関)
  • 増田 貴則(国立保健医療科学院)
  • 三好 太郎(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 下ノ薗 慧(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 鍵 直樹(東京工業大学 環境・社会理工学院)
  • 海塩 渉(東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系)
  • 中野 淳太(法政大学 デザイン工学部)
  • 欅田 尚樹(産業医科大学 産業保健学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
8,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年はIoTやセンシング技術の発展により、建築物環境衛生管理の人手不足や中小規模建築物の自主管理の可能性なども視野にこのような技術を活用すべきという声も上がっている。
本研究は、自動測定によるデータの精度を検証するとともに、自動測定で得られるデータを活用することによって、現行の測定方法よりも適切な維持管理を行うことができるかどうかを検証する。加えて、自動測定が既存測定(手動測定)と同程度以上の精度であると判断できる条件(センサー精度、測定箇所、測定機器の校正の頻度等)を明確化することで、特定建築物のより適切な維持管理手法を確立することを目標とする。
研究方法
本年度は2年計画の2年目として、連続計測用小型センサーとして、温湿度・CO2濃度センサー3種類、PM2.5センサー2種類を選定し、特定建築物を対象に長期間比較評価を行った。建物10施設16室を対象に自動計測センサーの設置と法定測定法による管理基準項目6項目の立入調査を実施した。また、BEMSデータ、測定技術者による報告調書を収集して、連続計測小型センサー及び法定立入調査結果と精度の比較検討を行った。また、建築物環境衛生管理に携わっている技術者を対象に、業務上負担の実情、業務効率化のためのデジタル技術の活用に関する認識と需要を設問するアンケート調査を行った。建築物衛生管理におけるIoT技術の現状と動向把握として関連会社25社以上のヒアリング調査を行う、そのうち建築・設備・環境衛生関連12社、水管理関連の4社の内容を整理した。
本年度は、下記項目に関する研究を行いまとめた。
① 特定建築物の報告統計
② 室内環境に関する現場調査
③ 空気環境衛生管理に向けたIoTセンサー活用手法の検討
④ 空気環境管理に向けたBEMSデータ活用手法の検討
⑤ 建築物衛生管理へのデジタル技術の活用に関するアンケート調査
⑥ IoT技術を活用した建築物衛生管理技術の現状と動向
結果と考察
(1)空調設備に関してはBAS、BEMSの導入とそれに伴う設備側の管理・運用の自動化は進んでいるが空気環境の衛生に関連するデジタル化は実例が少なかった。空調機やエアコンのドレンパンの監視に関しては需要が高いことから固定カメラ+AI判読による汚れ度判定技術が開発・普及しつつある。
(2)温度・湿度・CO2は建物や設備側で連続モニタリングされることも多く、法定測定の代用の可能性がある一方、浮遊粉じん、CO、気流は連続測定には向かない認識が多かった。センサー精度の確保と校正に関しては、メンテナンスと校正が必要である認識は共通しており、CO2センサーの場合は1年に1回以上は勧められていた。
(3)冷却塔・冷却水においては、現状では薬注の自動制御が行われている他のデジタル化は難しいという評価が多かった。
(4)建築物衛生法における帳簿管理の効率化と電子化も必要とされている。スマートフォンで撮影した画像をAIで解析し、メーター検診と台帳管理を行うサービスは建築・設備・ビルメンテナンス業界からの導入依頼も多かったようで、効率化に加え、人的ミス、間違い(誤検針と誤請求)を減らしたいというニーズが強いそうである。
(5)清掃業では人手不足が深刻で清掃ロボットの導入がかなり進んでいた。ロボットは上下階移動、平面レイアウトによっては効率が低下、通行の妨げ、などが課題として挙げられた。また、新人教育や現場監視にデジタル技術を駆使した遠隔システムを活用するケースも増えている。
(6)水管理の測定項目については、必要となる検査頻度の高く、かつ連続測定技術が確立している残留塩素濃度については、連続測定装置が開発・販売されていた。販売されている連続測定装置には、定期検査項目である濁度、色度、pHに加え、電気伝導率や水温、圧力といった項目も同時測定できるものが含まれていた。原理的に連続測定が可能な項目については、適用可能な技術がすでに開発・販売されていることが明らかとなった。
一方で、味や臭いといった官能分析による評価が必要な項目に関しては、技術開発の途上であり、現段階で実用可能な技術を有しているとの回答は得られなかった。適用先に関しては、上水道関連施設、簡易水道、地下水などで、特定建築物への導入事例は少ない。校正頻度に関しては、月1回程度の校正は最低限必要となるとの回答が主流であった。
結論
昨今の人手不足に加えデジタル技術の発展により、建築物衛生法においても管理・点検・検査業務に対してデジタル技術を活用した効率化の事例が増えていることが確認された。
関連しては、報告書の自動作成など、建築物衛生分野でもIoT技術を駆使した技術が開発され、実際にサービスを提供している企業も増えており、人員削減・コスト削減の観点から自動調査・自動測定の技術の建築物衛生管理への適用が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2025-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-10-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202326011B
報告書区分
総合
研究課題名
IoTを活用した建築物衛生管理手法の検証のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22LA1010
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
金 勲(キム フン)(国立保健医療科学院 生活環境研究部  建築・施設管理研究領域)
研究分担者(所属機関)
  • 増田 貴則(国立保健医療科学院)
  • 三好 太郎(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 下ノ薗 慧(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 鍵 直樹(東京工業大学 環境・社会理工学院)
  • 海塩 渉(東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系)
  • 中野 淳太(法政大学 デザイン工学部)
  • 欅田 尚樹(産業医科大学 産業保健学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昨今の人手不足に加えデジタル技術の発展により、建築物衛生法においても管理・点検・検査業務に対してデジタル技術を活用した効率化の検討が行われている。
本研究はIoT技術を含む自動測定によるデータの精度を検証し、「現行の測定方法よりも適切な維持管理を行うことができるかどうか」、また「自動測定と既存測定(手動測定)が同程度以上の精度であると判断できる条件を明確化」することで、特定建築物のより適切な維持管理手法を確立することを目的とした。
研究方法
本研究では、下記項目に関する研究を遂行した。
①特定建築物の報告統計
②室内環境に関する現場調査
③空気環境衛生管理に向けた小型測定器の活用手法の検討
④空気環境管理に向けたBEMSデータ活用手法の検討
⑤水の衛生管理の実態調査とIoT技術活用可能性に関する検討
⑥IoT技術を活用した建築物衛生管理技術のヒアリング調査及びデジタル技術の活用に関するアンケート調査
 連続計測用小型センサーとして、温湿度・CO2濃度小型測定器3種類、PM2.5センサー2種類を対象に長期間比較評価を行った。2022年度は建物7施設(11フロア)に小型センサーを設置し、6施設9フロアに対して法定測定法による立入調査を実施した。2023年度は建物10施設16室に小型測定器を設置すると共に法定測定法による立入調査を実施した。また、BEMSデータ、測定技術者による報告調書を収集して、小型測定器及び法定立入調査結果と精度の比較検討を行った。また、建築物環境衛生管理技術者を対象に、業務上負担の実情、業務効率化のためのデジタル技術の活用に関する認識と需要を設問するアンケート調査を行った。建築物衛生管理におけるIoT技術の現状と動向把握として関連会社25社以上のヒアリング調査を行い、そのうち建築・設備・環境衛生関連12社、水管理関連の4社の内容を整理した。
結果と考察
CO2,温度,相対湿度の不適率の経年変化は,いずれも値が高く,上昇する傾向となった。2022年度はコロナの影響により12.5%,36.4%,60.2%とCO2は大幅に減少している反面、温度と相対湿度は過去最高値を更新した。
小型測定器の比較では、温度は大きな誤差なく測定ができたが、湿度は5%RH以上差が生じる測定器があるほか、経年的に測定値が上昇する機器が見られた。CO2は自動校正機能が搭載された機種間の測定値でも約1年経過後100ppm以上差が生じていた。一方、自動校正機能が有効に働く例も示されたことから、自動校正の方法やタイミングを十分に検討した上で有効に活用できることも示された。
 BEMSデータの利用に関しては、温度とCO2については活用可能性が示唆されたが、湿度には課題があり、またBEMSでは浮遊粉じんやCO、気流は通常測定されていないため限界も存在する。
水管理の残留塩素濃度、濁度、色度、pHに関しては、連続測定が可能な装置が実用化されていたが、費用と効率は課題である。一方で、味や臭いといった項目については、連続測定が可能な技術は実用化されていなかった。BEMSの活用に関しては、取得した上水流量を活用して受水槽の滞留時間を評価した。
空調設備に関してはBAS、BEMSの導入とそれに伴う設備側の管理・運用の自動化は進んでいるが空気環境の衛生に関連するデジタル化の実例は少ない。空調機やエアコンのドレンパンの監視に固定カメラ+AI判読による汚れ度判定技術が開発され、導入事例もあった。この技術はコンパクトエアハンの加湿装置やドレンパンの監視にも活用例があった。
温度・湿度・CO2は建物や設備側で連続モニタリングされることも多く、法定測定の代用の可能性があった。浮遊粉じん、CO、気流速度は連続測定に向いているセンサーがまだ開発されていない状況であった。センサー精度確保のためにはメンテナンスと校正が必要である認識は共通しており、CO2センサーの場合は1年に1回以上が勧められていた。
冷却塔・冷却水においては、現状では薬注の自動制御が行われているが他のデジタル化は難しい。
清掃業では人手不足が深刻で清掃ロボットの導入が進んでいたが、上下階移動、平面レイアウトによっては効率が低下、通行の妨げ、などが課題であった。
帳簿管理の効率化と電子化も必要とされている。メーター検診と台帳管理の効率化に加え、人的ミス、間違い(誤検針と誤請求)を減らしたいというニーズが強かった。
結論
小型測定器は温度、湿度、CO2に関しては技術の進歩もあり、導入の可能性があったが、校正と個体差は課題である。水管理では残留塩素濃度ではセンサー使用の可能性があるが、費用と効率が課題となる。
管理業務の効率化を考えると帳簿関連が最も需要が多く、他にはネズミ・衛生害虫、貯水槽の点検、冷却塔・冷却水・加湿装置の点検と空調のドレンパン点検などに需要があると判断される。

公開日・更新日

公開日
2025-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-10-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202326011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
小型連続測定器による温度・湿度・CO2の3項目は、法定測定の代用の可能性があった。BAS、BEMSデータは室内環境に代用できる施設とそうでない施設があり、活用するには精度の事前検証や補正が必要であった。空調機やエアコンのドレンパンの監視に固定カメラ+AI判読による汚れ度判定技術が開発され、導入事例もあった。冷却塔・冷却水において、現状では薬注の自動制御が行われているが他のデジタル化は難しい。技術者アンケート調査からは、帳簿管理の効率化と電子化の需要が高いことが分かった。
臨床的観点からの成果
該当無し。
ガイドライン等の開発
厚生労働省「デジタル技術を活用した建築物環境衛生管理の
あり方に関する検討会(2023年8月~2024年3月)」の中間とりまとめ(2024年6月公開)におけるエビデンス資料として活用された。
その他行政的観点からの成果
引き続き、厚生労働省が検討中の「デジタル技術を活用した建築物環境衛生管理のあり方」におけるエビデンス資料として本研究成果が活用される予定である。
その他のインパクト
厚生労働省主催の生活衛生関係技術担当者研修会(2024年2月16日)にて「建築物衛生管理手法の効率化に関する検証研究」と題して本研究成果を発表した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
厚生労働省検討会資料1件、厚生労働省技術担当者研修会発表1件。
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-06-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
202326011Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,400,000円
(2)補助金確定額
8,187,000円
差引額 [(1)-(2)]
213,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,193,313円
人件費・謝金 45,044円
旅費 809,438円
その他 139,239円
間接経費 0円
合計 8,187,034円

備考

備考
差額34円については、利息7円、自己負担27円となる。

公開日・更新日

公開日
2024-09-27
更新日
-