文献情報
文献番号
202325009A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルを含む化学物質の短期吸入曝露等による免疫毒性評価手法開発のための研究
課題番号
23KD1001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
足利 太可雄(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
- 高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部・動物管理室)
- 善本 隆之(東京医科大学 医学総合研究所 免疫制御研究部門)
- 石丸 直澄(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部(歯学系))
- 飯島 一智(横浜国立大学 大学院工学研究院機能の創生部門)
- 黒田 悦史(兵庫医科大学 医学部免疫学講座)
- 渡辺 渡(九州保健福祉大学 薬学部)
- 大野 彰子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
化学物質の吸入曝露による健康影響が懸念されており、毒性発現機構に基づいた効率的で精度の高い試験法の開発が強く望まれている。特に化学物質の呼吸器感作については、未だ行政が受け入れ可能な試験法が開発されておらず、また、ナノマテリアル(NM)については、従来のin vivo吸入曝露試験のみでは毒性評価が十分に行えない状況にある。そこで本研究班では、短期吸入曝露されたNMを含む化学物質の免疫毒性評価手法の開発と、将来OECDガイドライン化を目指すための基盤的知見の収集を目的とした。
研究方法
呼吸器感作性評価法の開発については呼吸器感作性標準物質のリスト化を行い、評価スキーム案を構築する。また気道上皮細胞株 (BEAS-2B) と単球由来細胞株(CD14-ML)の共培養系を用い、被験物質処理後に樹状細胞株(CD14-MLDC)からRNAを抽出し、定量RT-PCRでマーカーの発現量を検出する。ヒト肺胞マクロファージ細胞株の樹立については、肺胞マクロファージからCD45+CD11b+細胞をソーティングし、SV40 large T抗原およびヒトGM-CSF発現ベクターを感染させ、細胞の株化を誘導する。In vivo評価系の開発については、既設のTaquann直噴全身吸入装置Ver3.0を使用する。NMの免疫毒性評価法の開発については、酸化亜鉛ナノ粒子のh-CLAT試験を行うとともに、流体力学的直径およびz-potentialをELS-Z、溶出イオン濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析装置によりそれぞれ測定する。遺伝子発現に基づくNMの抗原提示細胞活性化能の評価については、THP-1細胞に対しNMを曝露し、RNAを抽出してPCRにより遺伝子の発現を解析する。ナノシリカ吸入曝露RSV感染実験については、国立衛研においてTaquann全身吸入曝露装置(ver.3.0)を用い、NM-202をマウスに6時間吸入させる。この実験を1日おきに3回実施し、RSV A2株を経鼻感染させ、5日後に肺胞洗浄液(BALF)を取得し、BALF中のCCL5などのケモカイン・サイトカインについてELISAにて定量解析を行う。
結果と考察
呼吸器感作性評価法の開発については以下の知見を得た。In vitro試験法開発を進めるために文献情報から標準物質を策定し、物性値など関連情報を収集した。気管支上皮細胞と抗原提示細胞の共培養系において代表的な皮膚および呼吸器感作性物質を用いてmRNA発現を比較検討したところ、OX40Lの発現増強が呼吸器感作性物質でのみ有意に高かったことから、バイオマーカーとして非常に有望と考えられた。さらにin vivo実験系の構築のため、ミスト発生装置によるTDI及びTMAのエアロゾル化を検討した。
NMの免疫毒性評価法の開発については以下の知見を得た。ICP-AESによる細胞内の亜鉛量の定量と亜鉛イオンによるTHP-1の活性化能の検討を行った結果より、酸化亜鉛ナノ粒子によるTHP-1細胞の活性化には、細胞外で溶出した亜鉛イオンだけでなく、固体粒子としての作用が関与していることが示唆された。シリカナノ粒子を曝露したTHP-1細胞において、CD54、CD86、IL-1、MMP-12, CCL-3、CCL-5の各遺伝子の発現亢進が見られた。さらにマウス骨髄由来マクロファージに各種NMを処理したところ、カーボンナノチューブであるT-CNTがMmp-12 mRNA発現を亢進させていた。したがってこうした遺伝子発現はNMによる抗原提示細胞活性化のバイオマーカーになりうると考えられらた。In vivo吸入曝露試験として、ナノシリカについてTaquann直噴全身吸入装置Ver3.0にてエアロゾル化を検討し、曝露条件を決定した。さらにナノシリカを吸入曝露させたマウスにRSVを感染させ、ウイルス感染下におけるBALFの機能解析を行った結果、感染影響下におけるNMの免疫毒性の指標としてケモカインであるCCL5およびCCL3が利用できる可能性が示された。
NMの免疫毒性評価法の開発については以下の知見を得た。ICP-AESによる細胞内の亜鉛量の定量と亜鉛イオンによるTHP-1の活性化能の検討を行った結果より、酸化亜鉛ナノ粒子によるTHP-1細胞の活性化には、細胞外で溶出した亜鉛イオンだけでなく、固体粒子としての作用が関与していることが示唆された。シリカナノ粒子を曝露したTHP-1細胞において、CD54、CD86、IL-1、MMP-12, CCL-3、CCL-5の各遺伝子の発現亢進が見られた。さらにマウス骨髄由来マクロファージに各種NMを処理したところ、カーボンナノチューブであるT-CNTがMmp-12 mRNA発現を亢進させていた。したがってこうした遺伝子発現はNMによる抗原提示細胞活性化のバイオマーカーになりうると考えられらた。In vivo吸入曝露試験として、ナノシリカについてTaquann直噴全身吸入装置Ver3.0にてエアロゾル化を検討し、曝露条件を決定した。さらにナノシリカを吸入曝露させたマウスにRSVを感染させ、ウイルス感染下におけるBALFの機能解析を行った結果、感染影響下におけるNMの免疫毒性の指標としてケモカインであるCCL5およびCCL3が利用できる可能性が示された。
結論
OX40Lを指標として呼吸器感作性を検出できるin vitro試験系を構築し、皮膚感作性物質と呼吸器感作性物質を高い精度で識別できる可能性を見出した。またin vivo呼吸器感作性試験構築を目的として条件設定を行った。NMの免疫毒性評価法の開発については、酸化亜鉛ナノ粒子によるTHP-1細胞の活性化には細胞外で溶出した亜鉛イオンだけでなく、固体粒子としての作用が関与していることが示唆された。さらにNMによる抗原提示細胞活性化のバイオマーカー候補をいくつか見出した。
公開日・更新日
公開日
2024-10-03
更新日
-