作業経験の異なる建設作業者のリスク回避の認知過程に関する特性分析とリスク回避行動促進のための支援デバイスの検討

文献情報

文献番号
202322001A
報告書区分
総括
研究課題名
作業経験の異なる建設作業者のリスク回避の認知過程に関する特性分析とリスク回避行動促進のための支援デバイスの検討
研究課題名(英字)
-
課題番号
21JA1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 明子(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 リスク管理研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 島田 行恭(独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 リスク管理研究グループ)
  • 平内 和樹(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 新技術安全研究グループ)
  • 菅間 敦(独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 リスク管理研究グループ)
  • 島崎 敢(近畿大学 生物理工学部 人間環境デザイン工学科)
  • 石垣 陽(電気通信大学 大学院情報理工学研究科情報学専攻)
  • 中嶋 良介(慶應義塾大学 理工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
5,206,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 菅間敦  労働安全衛生総合研究所    →成蹊大学理工学部(令和5年9月1日~) 研究分担者 中嶋良介  電気通信大学大学院情報理工学研究科    →慶應義塾大学理工学部(令和5年10月1日~)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,建設作業者のリスクテイキング行動による労働災害を防止するため,①労働者がなぜリスク回避行動(またはリスクテイキング行動)をとるのかという「行動前」に着目したアプローチと,②労働者のリスクテイキング行動(またはリスク回避行動)を検出し評価するという「行動後」に着目したアプローチによる研究を実施した.①については,分担研究1『建設作業者の安全行動を促進する安全教育ツールの試作』として,前年度までの知見をもとに建設作業者の安全行動を促進するための安全教育ツールを試作することを目的とした.②については,分担研究2『動画像解析を用いた脚立作業の危険検知システムの開発』として,脚立作業中の動画像から墜落・転落の危険性の高い作業を検知・警告するシステムを開発することを目的とした.また,分担研究3『メタ認知能力向上のための教材ツールの開発と評価』として,建設現場における脚立作業の安全性向上のため,作業者のメタ認知能力を高める教育手法の検証と,実践的な安全教材の開発を行った.
研究方法
分担研究1では,建設作業者を対象としたインタビュー調査(令和3年度)と質問紙調査(令和4年度)により建設作業者が「ケガ・事故後の自己・他者への影響の認識」をすることが安全行動を促進させたことから,建設作業者が労働災害に遭った時に自己や他者へどのような影響があるかについて具体的にイメージできるようにする安全教育ツールの原案を作成した.また,安全教育ツールの建設業での適用可能性やツールの内容の適切さを検討するため,ハウスメーカーA社の安全担当者にヒアリング調査を行った.
分担研究2では,脚立への立ち方と設置位置が脚立作業の安全性と効率性について調査した先行研究から,脚立作業における危険な作業の特性について検討した.また,その結果をもとに脚立作業中の動画像から墜落・転落の危険性の高い作業を検知・警告するシステムについて開発した.
分担研究3では,他者行動の観察と自己の振り返りにより作業者のメタ認知能力を高める教育手法を実験的に検証した.また,この結果を踏まえ,実践的な安全教材の開発を行い,調査により効果を検証した.
結果と考察
分担研究1では,安全教育ツールの原案として7つの手順を作成した.また,ツールの原案に関するヒアリング調査の結果,カードや実施手順のワークブックの項目,デザインに関する修正の指摘があったため,それらをもとにカードを修正し,試作版を完成させた.また,ツールの建設業での適用可能性を高めるためにツールによる訓練効果や実施の満足感の必要性や,実施方法の工夫点について意見を得ることができた.
分担研究2では,脚立作業における危険な作業の特性について検討した結果,脚立作業の作業点に対し作業者の重心が中心からずれることにより作業がやりにくくなり,作業に要する時間も長くなった.そこで,脚立作業時の作業者の重心に着目し,作業者の危険検知システムを設計・開発した.このシステムは撮影された動画像から脚立と作業者を検出し,作業者の3次元骨格データから脚立への立ち方と重心位置を推定し,先行研究をもとに予め作成された外れ値検出プログラムを用いて,入力データが正常値(安全作業)か外れ値(危険作業)かを判定するものであった.実験室内の検証実験では,作業者の危険を正しく検知することが可能であることが確認された.
分担研究3では,作業者が他者の作業動画を評価し,自身の作業を振り返ることによるメタ認知能力の向上が脚立作業の安全性に及ぼす影響を実験で検証した.その結果,自身の作業を振り返った群は,準備段階や脚立上での作業において安全性の向上傾向が見られたが,統計的有意差は認められなかった.次に,他者評価と自己振り返りのプロセスを含む動画を活用した安全教材を開発した.教材の効果に関する調査の結果,参加者の脚立使用ルールに対する知識と他者作業の評価を通じて,自身の安全性に対する自己評価が有意に低下し,メタ認知能力の向上が示唆された.
結論
本研究では,建設作業者の「行動前」と「行動後」に着目した研究を実施した.最終年度の令和5年度は,前者について,これまでの知見をもとに建設作業者の安全行動を促進する安全教育ツールの試作版を作成することができた.また,後者について,脚立作業時の作業者の重心位置に着目し,動画像から作業者の危険を検知するシステムを開発し,このシステムにより正しく検知することが可能であることを確認できた.さらに,作業者の他者評価と自己振り返りによるメタ認知能力の向上に関する実験を行った.これを踏まえ,動画を活用した教材を作成し効果を検証した結果,メタ認知能力の向上を示すことができた.

公開日・更新日

公開日
2025-01-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-01-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202322001B
報告書区分
総合
研究課題名
作業経験の異なる建設作業者のリスク回避の認知過程に関する特性分析とリスク回避行動促進のための支援デバイスの検討
研究課題名(英字)
-
課題番号
21JA1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 明子(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 リスク管理研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 島田 行恭(独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 リスク管理研究グループ)
  • 平内 和樹(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 新技術安全研究グループ)
  • 菅間 敦(独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 リスク管理研究グループ)
  • 島崎 敢(近畿大学 生物理工学部 人間環境デザイン工学科)
  • 石垣 陽(電気通信大学 大学院情報理工学研究科情報学専攻)
  • 中嶋 良介(慶應義塾大学 理工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 菅間敦  労働安全衛生総合研究所    →成蹊大学理工学部(令和5年9月1日~) 研究分担者 中嶋良介  電気通信大学大学院情報理工学研究科    →慶應義塾大学理工学部(令和5年10月1日~)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は建設作業者のリスクテイキング行動による労働災害防止のため,リスク回避行動(またはリスクテイキング行動)の要因を明らかにするアプローチと,リスクテイキング行動(またはリスク回避行動)を検出・評価しフィードバックする方法を検討するアプローチに関する4つの研究を行った.
研究方法
a. 建設作業者における安全行動の促進要因の分析と知見に基づいた安全教育ツールの試作:
作業者のリスクテイキング行動やリスク回避行動(安全行動)の促進要因について建設作業者を対象としたインタビュー調査と質問紙調査により明らかにする.結果をもとに作業者の安全行動を促進する安全教育ツールを試作する.
b. 建設現場でのデバイス活用とメタ認知能力向上のための教材ツールの開発:
作業者のメタ認知能力の向上に関する実験を行い,メタ認知能力の向上により作業者が自己の行動について妥当な評価を行い,行動を改善するかどうかを検討する.これらの知見をもとに作業者のメタ認知能力向上のための教材の開発を行う.
c. 年齢別・経験年数別の労働災害の分析と建設作業者に対する作業手順の教示方法の検討:
年齢別・経験年数別に労働災害分析を行い労働災害の発生傾向を把握した後,労働災害発生率の高い新人作業者の建設現場での効果的な教育方法や,作業手順マニュアルの形態による有効性について実験により検討する.
d. 建設現場における危険作業の防止のための支援方法の検討:
脚立作業に起因する墜落・転落などの労働災害の未然防止を目指し,脚立作業の動画像から危険な行動を検出・警告するシステムの開発を行う.
結果と考察
a.:安全行動に着目し,インタビュー調査結果をもとに質問紙調査を実施して,建設作業者の安全行動の促進要因と安全行動の関係を定量的に検討した.特徴的な結果として,作業者が「ケガ・事故後の自己・他者への影響の認識」をすることが安全行動の主要な促進要因であることがわかった.そこで,建設作業者が労働災害に遭った時の自己や他者への影響を具体的にイメージする安全教育ツールの原案を作成した.原案についてハウスメーカーの安全担当者へヒアリング調査を実施して修正し,試作版を完成させた.
b.:作業者のメタ認知能力の評価と安全行動への変容に関する被験者実験を行った.実験参加者は脚立を使った高所作業を実施した後,OpenPoseを用いて匿名化した映像を自分とは知らずに危険度や不安定さ等の観点から評価した.先行研究と異なりネタバラシ後に成績が低下した.
さらに,他者の作業動画を評価し,自身の作業を振り返ることによるメタ認知能力の向上の,脚立作業の安全性への影響を実験で検証した.自身を振り返った群は,準備段階や脚立上の作業で安全性の向上傾向が見られたが有意差は認められなかった.次に,他者評価と自己振り返りを含み,メタ認知能力と安全意識の向上を目指す動画の安全教材を開発した.教材の効果を調査した結果,安全性に対する自己評価が有意に低下し,メタ認知能力の向上が示唆された.
c.:労働災害発生率の経験年数の影響を検討するため,公表データを用いて年齢別・経験年数別の千人率を推計した.全産業および建設業では50歳以上かつ経験1年未満の労働者の千人率が最も高く,全年代において経験年数の浅い労働者が経験の長い労働者よりも千人率が高かった.
次に,建設現場でのIE手法を用いた実態調査と,新人作業者の効果的な教育方法に関する実験を行った.非定型作業を含む建設作業は作業手順マニュアル(以下,マニュアル)等を用いて適切に「教える」ことが「教えない」や「考えさせる」と比較して作業性の点で効果があり,脚立作業は脚立上での作業域等想像しづらいことの教育が必要であることも示された.また,従来の紙マニュアルの改善方法を考案するとともに,動画マニュアルを試作し有効性を実験的に検証した.改善後の動画マニュアルが作業遵守率を最も高め,作業のやりとばし,やり忘れのエラー発生率も低くなった.
d.:先行研究から脚立作業の作業点に対し作業者の重心が中心からずれると作業がやりにくくなり,所要時間も長くなることがわかった.次に,脚立作業時の作業者の重心に着目し,作業者の危険検知システムを設計・開発した.撮影した動画像から脚立と作業者を検出し,作業者の3次元骨格データから脚立への立ち方と重心位置を推定した.先行研究から作成した外れ値検出プログラムにより,入力データが正常値(安全作業)か外れ値(危険作業)かを判定し,外れ値として検出された作業に対し音や光を用いて作業者に対し危険性を警告するものであった.実験室実験により作業者の危険を正しく検知できることを確認した.
結論
本研究は4つの研究により,建設作業者のリスクテイキング行動による労働災害防止のための様々な知見を得て,安全対策の提言を行った.

公開日・更新日

公開日
2025-01-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2025-01-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202322001C

収支報告書

文献番号
202322001Z