多剤耐性HIVにおける将来的な変異・構造予測と新規抗HIV薬開発

文献情報

文献番号
200932039A
報告書区分
総括
研究課題名
多剤耐性HIVにおける将来的な変異・構造予測と新規抗HIV薬開発
課題番号
H19-エイズ・若手-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
川下 理日人(大阪大学 薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本 晃典(大阪大学 薬学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
1,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIVは変異速度がきわめて速く、阻害剤耐性株の生じやすいウイルスであるため、多剤耐性ウイルスが出現し、既存のHAARTに限界が生じると予想される。そのような状況に対処すべく、既存の抗HIV薬の改変や新しい作用機序を有する抗HIV薬の開発が急務となっている。そこで、計算科学的な手法を用いて、これらの耐性変異が生じる位置・構造変化を前もって予測することができれば、耐性ウイルス出現時にも速やかに新規阻害剤を設計することが可能となる。また、その耐性を計算科学的に速やかに評価することにより、HAARTにおける薬剤選択にも有用となる。
このような背景下、本年度は以下の項目を中心に検討を行った。
1)多次元尺度構成法(MDS)を利用したプロテアーゼ薬剤耐性出現傾向の検討およびプロテアーゼの系統解析による選択圧の抽出
2)T20耐性ウイルスにも有効な膜融合阻害剤の設計
研究方法
1)では、SIV、B型、CRF01_AE プロテアーゼの塩基配列を用いて距離マトリックスを作成後、Rで多次元尺度構成法(MDS)を行い、各株を三次元空間にプロットした。また、スタンフォード大学薬剤耐性データをそれらに対応させた。また、同様のセットを用いて選択圧を計算した。
2)では、さらなる活性向上およびT20耐性ウイルスへの適用を目指し、コンピュータによる知見に基づき、いくつかの領域を改変したペプチドをさらに10種設計した。これらと対照ペプチドT-20を用いて、8種のCRF01_AE、B、C型ウイルスおよびT20耐性ウイルス(B型)に対し、実験的な評価を行った。
結果と考察
1)では、取得した株は大きく分けて2つの領域にプロットされた。しかし、これらは薬剤耐性の強度では分かれておらず、引き続き検討が必要である。また、選択圧の抽出に関しては、正の選択が起こっているといえる組み合わせは得られなかった。
2)では、前年度にT20と同様の活性を示した2種のペプチドは、いずれもT20耐性ウイルスに活性を示さなかったが、新規に購入したペプチドのうち、5種は耐性ウイルスにも活性を示し、そのうち3種は耐性株感受性株サブタイプに関わらず、強力な活性を有することがわかった。
結論
1)では、MDSおよび系統解析の結果から、CRF01_AEの中でもこれら9株とそれ以外の株では変異傾向が異なることが考えられた。また2)では、T-20耐性ウイルスにも有効なペプチドを計算機主導のもと設計することができた。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

文献情報

文献番号
200932039B
報告書区分
総合
研究課題名
多剤耐性HIVにおける将来的な変異・構造予測と新規抗HIV薬開発
課題番号
H19-エイズ・若手-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
川下 理日人(大阪大学 薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本 晃典(大阪大学 薬学研究科)
  • 中村 昇太(大阪大学 微生物病研究所)
  • 後藤 直久(大阪大学 微生物病研究所)
  • U C デシルワ(大阪大学 微生物病研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIVは変異速度がきわめて速く、阻害剤耐性株の生じやすいウイルスである。それゆえ、既存のHAARTに限界が生ずるのは時間の問題であり、既存の抗HIV薬の改変や新しい作用機序を有する抗HIV薬の開発が急務となっている。そこで、これらの耐性変異が生じる位置・構造変化を前もって予測することができれば、耐性ウイルス出現時にも速やかに新規阻害剤が設計可能となり、HAARTにおける薬剤選択にも有用となる。
そのような背景下、本研究では以下の項目に沿って研究を行った。
1)網羅的配列解析による変異傾向の調査
2)構造活性相関を利用した薬剤耐性予測研究
3)新規膜融合阻害剤の開発研究
4)タイで流行するCRF01_AEに着目したドッキングおよびサンプル解析
5)新規標的に対するスクリーニング
研究方法
計算科学的手法を主として、一部実験的な検討も合わせて当該研究を遂行した。詳細は各年度の総括報告を参照のこと。
結果と考察
1)において、薬剤耐性株は特徴的な3つのクラスターに分類された。この結果は実験的な薬剤耐性データと組み合わせることにより、より精度の高い薬剤耐性予測に利用できるのではないかと考える。また、一部変異傾向の異なる株があることも分かった。
2)にてドッキングスタディによる薬剤耐性株の構造予測を行った結果、nelfinavirが他のものと比べて高いスコアを示した。また、構造活性相関では良好なQSAR式が得られ、これらは既知の情報を上手く説明することができた。これらを用いて、将来の薬剤耐性予測に利用できるのではないかと考えている。
3)では、計算機に基づく情報をもとにスクリーニングし、最終的にT-20耐性ウイルスにも効果のあるペプチドを開発することができた。一方、SC34の構造解析により、これらが強い活性を有することが構造面からも確認できた。
4)では、サンプリングにより薬剤抵抗性を有する変異を抽出することができ、ドッキングスタディにより構造面からも耐性発現を示唆する結果を得た。
5)では、標的部位に結合可能性を有する小分子を数種発見することができた。
結論
今回我々は、配列解析、ホモロジーモデリング、ドッキングスタディなど、計算機を用いた手法を利用して、プロテアーゼおよび膜融合阻害剤に関する情報を得、一部では阻害剤開発に直結するペプチドの設計を行った。今後、これまでの検討結果を活用して、薬剤耐性を有するウイルスの情報提供、薬剤耐性を有するウイルスに対抗できる阻害剤の開発や進化傾向を予測するプログラム開発を行い、今後もエイズ治療対策への貢献を行っていきたい。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200932039C

成果

専門的・学術的観点からの成果
計算機を利用して、膜融合阻害ペプチドのスクリーニングを行ったことは、これまでに報告例のないことであり、薬剤の開発コストを下げることを可能にした点で、学術的に重要であると考えている。
また、変異傾向の解析は、将来の進化予測、すなわち薬剤耐性発現の予測につながるため、今後専門的にも重要な研究課題であると考えている。
臨床的観点からの成果
特になし
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
抗インフルエンザ薬の薬剤耐性評価に関する研究で毎日新聞に掲載された(2009年4月7日朝刊)。現在、この研究はHIVにも展開中であり、これをもとに速やかな薬剤耐性評価が可能となれば、将来のエイズ治療へ大きく貢献できると考えている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
40件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
33件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-