文献情報
文献番号
202308039A
報告書区分
総括
研究課題名
食環境づくりの推進を通じた減塩の取組がもたらす公衆衛生学的効果及び医療経済学的効果を推定するための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23FA1012
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
池田 奈由(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 国際栄養情報センター)
研究分担者(所属機関)
- 西 信雄(聖路加国際大学 大学院公衆衛生学研究科)
- 三浦 克之(国立大学法人滋賀医科大学 社会医学講座公衆衛生学部門)
- 湊 宣明(立命館大学 大学院テクノロジー・マネジメント研究科)
- 杉山 雄大(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 研究所糖尿病情報センター)
- 樫野 いく子(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 研究連携推進室)
- 山口 美輪(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 国際栄養情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
9,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
食塩の過剰摂取は、世界の生活習慣病の主な食事要因の一つである。日本人の食塩摂取量は長期的に減少しているが、未だ高い水準にある。この栄養問題への対応として、厚生労働省の「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」では、食品関連事業者等が減塩目標を自主的に設定し、産学官で連携して推進する取組が行われている。本研究は、このような取組において科学的根拠を活用するための環境整備として、減塩の公衆衛生学的効果と医療経済学的効果をシミュレーションで推定し、事業者や自治体に具体的な方策を提供することを目的とした。
研究方法
本研究事業では二つの研究を実施する。
一つ目の研究では、海外の食品関連事業者の減塩の目標設定やそれを踏まえた取組、海外の事業者向け支援ガイドの先行事例について調査する。そして、これらの内容を踏まえて、日本の食品関連企業が自主的に減塩目標を設定できるよう支援するガイドを作成する。
二つ目の研究では、食環境づくりの推進を通じた減塩の取組が、国民や都道府県民の食塩摂取量、死亡率、障害調整生存年などに与える公衆衛生学的効果や医療経済学的効果を推定するためのシミュレーションモデルを構築する。減塩のための取組は、日本人の食事摂取基準の目標量やWHOの目標値などを参考にして、主な食品群につき数段階の量を設定でき、それぞれの量につき公衆衛生学的効果と医療経済学的効果を推定できるようにする。さらに、このシミュレーションモデルを都道府県の健康増進部局などが意思決定に活用できるようにするためのガイドを作成する。
3年計画の1年目である令和5年度は、国内事業者向け支援ガイドの作成に必要な情報を得るため、海外事業者の減塩の目標設定と取組に関する文献レビューと質問票調査、事業者向け支援ガイドの海外先行事例調査、日本高血圧学会における減塩の取組の整理を行った。 さらに、減塩の効果のシミュレーションに関する海外先行事例調査と全国版シミュレーションモデルの作成を行った。
一つ目の研究では、海外の食品関連事業者の減塩の目標設定やそれを踏まえた取組、海外の事業者向け支援ガイドの先行事例について調査する。そして、これらの内容を踏まえて、日本の食品関連企業が自主的に減塩目標を設定できるよう支援するガイドを作成する。
二つ目の研究では、食環境づくりの推進を通じた減塩の取組が、国民や都道府県民の食塩摂取量、死亡率、障害調整生存年などに与える公衆衛生学的効果や医療経済学的効果を推定するためのシミュレーションモデルを構築する。減塩のための取組は、日本人の食事摂取基準の目標量やWHOの目標値などを参考にして、主な食品群につき数段階の量を設定でき、それぞれの量につき公衆衛生学的効果と医療経済学的効果を推定できるようにする。さらに、このシミュレーションモデルを都道府県の健康増進部局などが意思決定に活用できるようにするためのガイドを作成する。
3年計画の1年目である令和5年度は、国内事業者向け支援ガイドの作成に必要な情報を得るため、海外事業者の減塩の目標設定と取組に関する文献レビューと質問票調査、事業者向け支援ガイドの海外先行事例調査、日本高血圧学会における減塩の取組の整理を行った。 さらに、減塩の効果のシミュレーションに関する海外先行事例調査と全国版シミュレーションモデルの作成を行った。
結果と考察
①海外での優れた減塩活動を行う事業者に関する文献レビューと質問票調査を実施した。目標を達成するためには、科学的根拠に基づいた実現可能な方針が重要であり、事業者向け支援ガイドには企業の実態に即した実用的な内容を盛り込む必要がある。目標設定や製品開発の工夫、政府関連機関や他企業との連携についてもガイドに記載することで、企業の減塩活動をより効果的に支援できると考えられる。
②米国、カナダ、英国、アイルランドで作成された食品事業者向けの減塩支援ガイドから共通項目を抽出し整理した。自主的な減塩の段階的に実施することを推奨し、達成目標年を2.5~5年で設定していた。市場シェアを維持しながら大きな公衆衛生学的効果を達成するため、主に食塩摂取量に寄与する食品を対象としていた。目標ナトリウム濃度の設定には、売上加重平均ナトリウムを使用する例もあった。
③日本高血圧学会が減塩・栄養委員会を中心として企業と連携し、国民の減塩を推進するために行ってきた取組を、政策面、環境整備、普及啓発の観点から整理した。
④米国、英国、豪州における食環境づくりの推進を通じた減塩の取組に関するシミュレーションの先行事例を調査した。米国疾病予防管理センターのPRISMは、システム・ダイナミクスに基づくシミュレーションモデルであり、多くの変数を組み込むことができ、グループ討議によってモデルを検討できる利点がある。今後、日本において同様のモデルやウェブサイトを開発する際には、システム・ダイナミクスが第一選択となると考えられる。
⑤全国を対象とするシミュレーションモデルを用いて、企業における減塩食品への改質と減塩食品の利用者の割合の変化による減塩の介入について、包括的な医療経済学的評価を行った。政策的に強制的な食品の改質や自発的な食品の改質を促進するシナリオにおいて、循環器疾患および慢性腎臓病に罹患する人数の減少ならびに医療費および介護費の削減が大きいことが見込まれた。
②米国、カナダ、英国、アイルランドで作成された食品事業者向けの減塩支援ガイドから共通項目を抽出し整理した。自主的な減塩の段階的に実施することを推奨し、達成目標年を2.5~5年で設定していた。市場シェアを維持しながら大きな公衆衛生学的効果を達成するため、主に食塩摂取量に寄与する食品を対象としていた。目標ナトリウム濃度の設定には、売上加重平均ナトリウムを使用する例もあった。
③日本高血圧学会が減塩・栄養委員会を中心として企業と連携し、国民の減塩を推進するために行ってきた取組を、政策面、環境整備、普及啓発の観点から整理した。
④米国、英国、豪州における食環境づくりの推進を通じた減塩の取組に関するシミュレーションの先行事例を調査した。米国疾病予防管理センターのPRISMは、システム・ダイナミクスに基づくシミュレーションモデルであり、多くの変数を組み込むことができ、グループ討議によってモデルを検討できる利点がある。今後、日本において同様のモデルやウェブサイトを開発する際には、システム・ダイナミクスが第一選択となると考えられる。
⑤全国を対象とするシミュレーションモデルを用いて、企業における減塩食品への改質と減塩食品の利用者の割合の変化による減塩の介入について、包括的な医療経済学的評価を行った。政策的に強制的な食品の改質や自発的な食品の改質を促進するシナリオにおいて、循環器疾患および慢性腎臓病に罹患する人数の減少ならびに医療費および介護費の削減が大きいことが見込まれた。
結論
本年度の研究成果は、今後、国内の食品関連企業が自主的に減塩目標を設定するための支援ガイドの構築において、その構成や指針を検討する際の貴重な参考資料となる。また、自治体レベルのシミュレーションモデルを開発し、自治体の健康増進部局などが意思決定に役立てるための活用ガイドを作成する過程において、基礎資料として活用されることが期待される。自治体管理栄養士や食品企業、関連学会との協力をより一層強化し、これらの研究を推進していきたい。
公開日・更新日
公開日
2025-01-09
更新日
-