脳卒中・循環器病のEvidence-based policy makingの推進に関する研究

文献情報

文献番号
202308019A
報告書区分
総括
研究課題名
脳卒中・循環器病のEvidence-based policy makingの推進に関する研究
課題番号
22FA1015
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
飯原 弘二(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 病院)
研究分担者(所属機関)
  • 西村 邦宏(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 予防医学・疫学情報部)
  • 尾形 宗士郎(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 予防医学・疫学情報部)
  • 清重 映里(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 予防医学・疫学情報部)
  • 堀江 信貴(広島大学 脳神経外科)
  • 松丸 祐司(虎の門病院 脳神経血管内治療科)
  • 野口 輝夫(国立研究開発法人国立循環器病研究センター病院 心臓血管内科)
  • 田宮 菜奈子(国立大学法人筑波大学 医学医療系 / ヘルスサービス開発研究センター)
  • 猪原 匡史(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 脳神経内科)
  • 平松 治彦(国立循環器病研究センター 情報統括部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
4,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
循環器病は日本の死因の24.8%を占め、今後の高齢化でさらに増加する見込みである。循環器病対策推進基本計画は、2040年までに健康寿命の延伸と年齢調整死亡率の減少を目指し、各都道府県は計画策定、実行、評価・見直しを求められている。これには、循環器病死亡の将来動向を精緻に予測し、エビデンスに基づいた対策が必要である。本研究の目的は、都道府県ごとに将来の循環器病(CVD)死亡数を高精度に予測し、最適なCVD死亡数減少のマイルストーン設計に役立てる予測モデルを開発することである。また、各都道府県の循環器病対策推進基本計画にエビデンスに基づく項目が含まれているかを調査する。更に介入方法事前検証ツールであるIMPACT NCD日本版を開発し、CVD対策案の費用対効果を施策実施前に検証するモデルを構築することを目指す。
研究方法
日本居住の30歳以上の男女を対象に、性別、都道府県別、5歳刻みの年齢別人口データを用いて、2040年までの脳卒中とCHDの死亡数を予測した。Bayesian Age-Period-Cohort (BAPC)モデルを使用し、1995年から2019年までのデータでモデルを構築、2040年までの予測を行った。年齢調整死亡率は2015年版の基準人口モデルを用い、男女及び都道府県別に算出し、全国値は都道府県の集計値から算出した。
 各都道府県の循環器病対策推進基本計画において、論文やガイドラインで確立されたエビデンス項目が含まれているかを調査した。循環器病、冠動脈疾患及び脳卒中の予防、急性期治療、慢性期、構造指標に応じ、患者予後と関連する項目を抽出した。具体的には、日本病院会のQIプロジェクト、欧州心臓病学会のposition paper、J-ASPECT studyなどのデータを基にした。
 IMPACT NCD日本版をmicro simulation modelの手法で構築している。国勢調査、人口動態統計、国民健康栄養調査、meta-analysisで報告されている高エビデンスの相対リスク比(各循環器病リスク要因が冠動脈疾患と脳卒中の発症・死亡に与える影響度)のデータを用いて構築した。日本の人口構造に類似するように、個人単位でデータを生成し、CVDリスク要因ごとの値と経時変化を基に、個人単位で冠動脈疾患と脳卒中の発症確率と死亡確率を求め、2040年までの経時変化をモデリングした。
結果と考察
脳卒中とCHDの死亡数は2040年まで緩やかに減少と予測された(男性: 脳卒中が4.6%/5年, CHDが1.7%/5年で減少; 女性: 脳卒中が1.4%/5年, CHDが3.1%/5年で減少)。しかし、高齢化による増加分を死亡率低下による減少分が僅かに上回るという予測結果であった。なお、都道府県別、年齢5歳区分、性別、2040年までの暦年毎に予測した。
 各都道府県の循環器病対策推進計画における患者予後と関連する項目の記載状況を調査した結果、予防期ではエビデンス項目が多く記載されているが、急性期、慢性期、構造化指標については記載が少ないことが判明した。記載割合は現状の達成値や目標値、達成方法、根拠文献の順に低下している。つまり学術機関は都道府県に対して、予防期に関する計画の精緻化の支援と(例:根拠文献の情報提供等)、急性期、慢性期、構造指標について有用な項目の情報提供から支援を始めるのが有効と考える。
 CVDリスク要因の分布と経時変化、冠動脈疾患と脳卒中の発症率と死亡率の経時変化について、IMPACT NCD日本版のsimulate値が日本における観測値に近似したことで、モデルの妥当性が確認された。
結論
本研究では、日本のCVD死亡数の将来予測と循環器病対策推進計画の評価を行った。都道府県別に2040年までの脳卒中とCHDの死亡数は減少すると予測し、死亡率の低下が高齢化による増加を僅かに上回ることが判明した。各都道府県の循環器病対策推進計画のエビデンス基盤を評価した結果、予防期の記載が多い一方、急性期、慢性期、構造指標の記載が不足していることが分かった。学術機関は都道府県に対し、予防期の計画精緻化と急性期、慢性期、構造指標の情報提供を支援することが有効と考えられる。IMPACT NCD日本版の開発により、CVD対策の費用対効果を検証できるツールが構築されつつあり、このモデルが生成したリスク値の分布は観測データの分布と類似した。これにより、循環器病対策の効果的な計画と持続可能な医療政策の立案に寄与することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2024-08-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-08-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202308019Z