レセプトデータ等を用いた、長寿化を踏まえた医療費の構造の変化に影響を及ぼす要因分析等のための研究(政策変更を「自然実験」とする弾力性の推計に係る実証研究)

文献情報

文献番号
202301002A
報告書区分
総括
研究課題名
レセプトデータ等を用いた、長寿化を踏まえた医療費の構造の変化に影響を及ぼす要因分析等のための研究(政策変更を「自然実験」とする弾力性の推計に係る実証研究)
課題番号
22AA1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
野口 晴子(早稲田大学 政治経済学術院)
研究分担者(所属機関)
  • 山縣 然太朗(国立大学法人 山梨大学 大学院総合研究部 医学域 社会医学講座)
  • 朝日 透(早稲田大学 理工学術院)
  • 山名 早人(早稲田大学 理工学術院)
  • 川村 顕(早稲田大学 人間科学学術院)
  • 牛 冰(ギュウ ヒョウ)(公立大学法人大阪 大阪府立大学 経済学研究科)
  • 遠山 祐太(早稲田大学 政治経済学部)
  • 富 蓉(フ ヨウ)(早稲田大学 商学部)
  • 及川 雅斗(早稲田大学 高等研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
7,583,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究では,以下の2つを研究課題として設定する.
【課題1】2022年10月における,75歳以上の後期高齢者を対象とした患者の窓口負担額の変化を「外生ショック」とし,後期高齢者の医療需要の価格弾力性の推定を行う.
【課題2】2021年11月以降における各月における都道府県別のCOVID-19の感染状況のばらつき・変動の違いを「外生ショック」とした感染症拡大による患者の受診行動の変化(受診抑制・所得弾力性)の推定を行う.
研究方法
【課題1】では,厚生労働省保健局調査課により収集・整備が行われた「後期高齢者の所得に応じた受療行動等実態調査」(2021年11月~2023年6月までの20ヶ月分)に回帰不連続デザイン(regression discontinuity design:RDD)にイベントスタディリサーチデザインを組み合わせたRDD-ESを応用し,2022年10月に実施された,後期高齢者医療制度の被保険者のうち一定以上の所得を持つ者に対する窓口負担割合の1割から2割への引き上げを準実験的環境と捉え,医療需要の価格弾力性の推定を行った.【課題2】では,「後期高齢者の所得に応じた受療行動等実態調査」(厚生労働省・保険局調査課,2021年11月審査分〜2022年11月審査分) を用い,COVID-19パンデミックの収束期における受診・受療行動パターンについて,実証的な検証を行うことを目的とする.蔓延防止措置(States of Precautionary Emergency: SoPE)の実施の有無や高齢者が居住する二次医療圏におけるCOVID-19新規感染者数を感染状況の深刻度と捉え,それらと医療サービスの利用確率と医療費との関連性に係る分析を行った.
結果と考察
【課題1】では,窓口負担割合が1割から2割に上昇する直前に,医療費額が上昇する,いわゆる,「駆け込み需要」を示唆する推定結果が得られた.また,推定から,窓口負担割合が1割から2割に上昇することにより,2022年10月以降,医療サービスの利用割合が1-3%,そして,医療費総額の月額が3-6%減少することが明らかになった.加えて,窓口負担割合の上昇が,後期高齢者の受診・受療行動に与える効果は,傷病によって異なることがわかった.【課題2】では,第1に,SoPE措置の実施と受診・受療行動との間に負の相関があり,特に外来において,後期高齢者が慎重な行動をとったことは,ウイルスへの曝露に対する懸念や緊急でない受診・受療行動を制限するためのガイドラインの遵守等が背景として考えられる.また,受診・受療確率が減少しても,外来を除いて,医療費ではそれに相当する減少が見られなかったことから,受診・受療行動の調整が,主にextensive margin(外延効果)に起因しており,intensive margin(内延効果)には,その影響が及んでいないことがわかる.第2に, COVID-19の感染状況の深刻度は,後期高齢者の受診・受療行動と密接に関連しており,SoPE措置の実施の有無が重要な調整弁の役割を果たしている.SoPE措置の実施が無ければ,感染状況が深刻化すると,それが,後期高齢者の医療サービス利用確率の低下に直結する.このことは,後期高齢者の感染への恐怖や,COVID-19患者に対する治療を最優先とする医療供給体制の逼迫に起因している可能性がある.他方で,SoPE措置が実施されると,この傾向が逆転し,受診・受療行動が促された.つまり,SoPE措置の実施により,後期高齢者の公衆衛生上の安全プロトコルへの信頼,医療供給体制の危機管理能力,もしくは,後期高齢者個々人のリスクに対する適応能力が改善・向上したのかもしれない.最後に,後期高齢者の受診・受療行動において,所得勾配は比較的小さいことが確認され,このことは,他の先進国で観察されたような顕著な所得階層に起因する医療・健康格差とは対照的である.
結論
【課題1】について,医療サービスの価格弾力性は,医療政策の決定において,重要なパラメタであり,個人の属性ごとに異なる可能性がある.様々な状況の下での価格弾力性の幅を推定し,その背後にある状況を整理することは,より効率的・効果的な政策の運営を支えるための貴重な基礎資料となるだろう.【課題2】から得られた結果からは,有事・平時にかかわらず,また,所得階層によらず,日本の後期高齢者間での医療サービスへのアクセスの公平性が担保されたことを意味しており,COVID-19をはじめとする自然災害等の有事の際に,個人間での社会経済的資源の格差による健康への影響を最小化するのに,国民皆保険制度が十分に機能することが明らかとなった.

公開日・更新日

公開日
2024-07-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-07-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202301002B
報告書区分
総合
研究課題名
レセプトデータ等を用いた、長寿化を踏まえた医療費の構造の変化に影響を及ぼす要因分析等のための研究(政策変更を「自然実験」とする弾力性の推計に係る実証研究)
課題番号
22AA1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
野口 晴子(早稲田大学 政治経済学術院)
研究分担者(所属機関)
  • 山縣 然太朗(国立大学法人 山梨大学 大学院総合研究部 医学域 社会医学講座)
  • 朝日 透(早稲田大学 理工学術院)
  • 山名 早人(早稲田大学 理工学術院)
  • 川村 顕(早稲田大学 人間科学学術院)
  • 牛 冰(ギュウ ヒョウ)(公立大学法人大阪 大阪府立大学 経済学研究科)
  • 遠山 祐太(早稲田大学 政治経済学部)
  • 富 蓉(フ ヨウ)(早稲田大学 商学部)
  • 及川 雅斗(早稲田大学 高等研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究では,以下の2つを研究課題として設定する.
【課題1】2022年10月における,75歳以上の後期高齢者を対象とした患者の窓口負担額の変化を「外生ショック」とし,後期高齢者の医療需要の価格弾力性の推定を行う.
【課題2】2021年11月以降における各月における都道府県別のCOVID-19の感染状況のばらつき・変動の違いを「外生ショック」とした感染症拡大による患者の受診行動の変化(受診抑制・所得弾力性)の推定を行う.
研究方法
【課題1】では,厚生労働省保健局調査課により収集・整備が行われた「後期高齢者の所得に応じた受療行動等実態調査」(2021年11月~2023年6月までの20ヶ月分)に回帰不連続デザイン(regression discontinuity design:RDD)にイベントスタディリサーチデザインを組み合わせたRDD-ESを応用し,2022年10月に実施された,後期高齢者医療制度の被保険者のうち一定以上の所得を持つ者に対する窓口負担割合の1割から2割への引き上げを準実験的環境と捉え,医療需要の価格弾力性の推定を行った.【課題2】では,「後期高齢者の所得に応じた受療行動等実態調査」(厚生労働省・保険局調査課,2021年11月審査分〜2022年11月審査分) を用い,COVID-19パンデミックの収束期における受診・受療行動パターンについて,実証的な検証を行うことを目的とする.蔓延防止措置(States of Precautionary Emergency: SoPE)の実施の有無や高齢者が居住する二次医療圏におけるCOVID-19新規感染者数を感染状況の深刻度と捉え,それらと医療サービスの利用確率と医療費との関連性に係る分析を行った.
結果と考察
【課題1】では,窓口負担割合が1割から2割に上昇する直前に,医療費額が上昇する,いわゆる,「駆け込み需要」を示唆する推定結果が得られた.また,推定から,窓口負担割合が1割から2割に上昇することにより,2022年10月以降,医療サービスの利用割合が1-3%,そして,医療費総額の月額が3-6%減少することが明らかになった.加えて,窓口負担割合の上昇が,後期高齢者の受診・受療行動に与える効果は,傷病によって異なることがわかった.【課題2】について,第1に,SoPE措置の実施と受診・受療行動との間に負の相関があり,特に外来において,後期高齢者が慎重な行動をとったことは,ウイルスへの曝露に対する懸念や緊急でない受診・受療行動を制限するためのガイドラインの遵守等が背景として考えられる.また,受診・受療確率が減少しても,外来を除いて,医療費ではそれに相当する減少が見られなかったことから,受診・受療行動の調整が,主にextensive margin(外延効果)に起因しており,intensive margin(内延効果)には,その影響が及んでいないことがわかる.第2に, COVID-19の感染状況の深刻度は,後期高齢者の受診・受療行動と密接に関連しており,SoPE措置の実施の有無が重要な調整弁の役割を果たしている.SoPE措置の実施が無ければ,感染状況が深刻化すると,それが,後期高齢者の医療サービス利用確率の低下に直結する.このことは,後期高齢者の感染への恐怖や,COVID-19患者に対する治療を最優先とする医療供給体制の逼迫に起因している可能性がある.他方で,SoPE措置が実施されると,この傾向が逆転し,受診・受療行動が促された.つまり,SoPE措置の実施により,後期高齢者の公衆衛生上の安全プロトコルへの信頼,医療供給体制の危機管理能力,もしくは,後期高齢者個々人のリスクに対する適応能力が改善・向上したのかもしれない.最後に,後期高齢者の受診・受療行動において,所得勾配は比較的小さいことが確認され,このことは,他の先進国で観察されたような顕著な所得階層に起因する医療・健康格差とは対照的である.
結論
【課題1】について,医療サービスの価格弾力性は,医療政策の決定において,重要なパラメタであり,個人の属性ごとに異なる可能性がある.様々な状況の下での価格弾力性の幅を推定し,その背後にある状況を整理することは,より効率的・効果的な政策の運営を支えるための貴重な基礎資料となるだろう.【課題2】から得られた結果からは,有事・平時にかかわらず,また,所得階層によらず,日本の後期高齢者間での医療サービスへのアクセスの公平性が担保されたことを意味しており,COVID-19をはじめとする自然災害等の有事の際に,個人間での社会経済的資源の格差による健康への影響を最小化するのに,国民皆保険制度が十分に機能することが明らかとなった.

公開日・更新日

公開日
2024-07-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-07-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202301002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1) 成果:「後期高齢者の所得に応じた受療行動等実態調査」(厚生労働省保健局調査課)に回帰不連続デザイン等を応用し、窓口負担割合上昇直前の駆け込み需要、上昇後の利用割合や医療費総額の減少傾向、時間経過による定常状態への回帰、コロナ禍における蔓延防止措置の役割等について実証的に明らかにした。
(2) 意義:本研究の意義は、医療レセプトと所得が突合された悉皆情報を用い、平時・有事での後期高齢者による医療の価格弾力性の推定を行った日本初の研究であり、地域別・傷病別等の異質性を明らかにした点にある。
臨床的観点からの成果
(1) 成果:窓口負担割合やパンデミック等による後期高齢者の行動変容について、(1)入院ではなく外来や調剤において発生する、(2)利用割合の減少幅(extensive margin)の方が医療費総額の減少幅(intensive margin)よりも大きく、受診を継続しつつも医療の内容を調整・変更している、(3)地域別・主傷病別の減少幅に違いがある等の可能性が示唆された。
(2) 意義:本研究は、外生ショックによる後期高齢者の行動変容を見極めつつ、診療・治療の在り方を検討するための基礎資料となる。
ガイドライン等の開発
本研究では、ガイドライン等の開発は行っていない。但し、本研究により、COVID-19の感染状況の深刻度が後期高齢者の受診・受療行動と密接に関連しており、蔓延防止措置の実施の有無が重要な医療需要の調整弁の役割を果たしていることが示唆されることから、将来のパンデミックに対する備えとなるガイドライン作成の基礎資料となる可能性は十分考えられる。
その他行政的観点からの成果
医療の価格弾力性は、医療政策の決定における重要なパラメタであり、個人の属性ごとに異なる可能性がある。様々な状況下での価格弾力性の幅を推定し、その背後にある状況を整理することは、効率的・効果的な政策の運営を支えるための貴重な基礎資料となる。有事・平時、また、所得階層によらず、後期高齢者間での医療へのアクセスの公平性が担保されたことが確認され、COVID-19等の有事の際に、個人間での社会経済的資源の格差による健康への影響を最小化するのに、国民皆保険制度が十分に機能することが明らかとなった。
その他のインパクト
本研究からの成果は、「時事評論 後期高齢者に対する窓口負担引き上げの影響」と題して、週刊社会保障,3256,p.28-29 (2024.02)にて掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
1件
European Health Economics Association (EuHEA)にて2024年7月2日報告予定。
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
本研究からの成果は、「時事評論 後期高齢者に対する窓口負担引き上げの影響」と題して、週刊社会保障,3256,p.28-29 (2024.02)にて掲載された。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-07-12
更新日
-

収支報告書

文献番号
202301002Z