食品を介したダイオキシン類等の人体への影響の把握とその治療法の開発等に関する研究

文献情報

文献番号
202224035A
報告書区分
総括
研究課題名
食品を介したダイオキシン類等の人体への影響の把握とその治療法の開発等に関する研究
課題番号
21KA2003
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
辻 学(九州大学病院 油症ダイオキシン研究診療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 中原 剛士(九州大学 大学院医学研究院 )
  • 冬野 洋子(九州大学病院 油症ダイオキシン研究診療センター)
  • 香月 進(福岡県保健環境研究所)
  • 小野塚 大介(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 申 敏哲(シン ミンチョル)(熊本保健科学大学 保健科学部 )
  • 園田 康平(九州大学 大学院医学研究院)
  • 津嶋 秀俊(九州大学病院 整形外科)
  • 鳥巣 剛弘(九州大学病院 消化管内科)
  • 太田 千穂(中村学園大学 栄養科学部)
  • 月森 清巳(福岡市立こども病院 周産期センター)
  • 辻 博(北九州若杉病院 西日本総合医学研究所)
  • 岡本 勇(九州大学 大学院医学研究院)
  • 緒方 英紀(九州大学病院 脳神経内科)
  • 石井 祐次(九州大学 大学院薬学研究院)
  • 室田 浩之(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 上松 聖典(長崎大学病院 眼科)
  • 川崎 五郎(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 戸高 尊(公益財団法人北九州生活科学センター 生活科学部食品・微生物課)
  • 前田 英史(九州大学 大学院歯学研究院)
  • 友清 淳(九州大学病院 歯内治療科)
  • 貝沼 茂三郎(富山大学 学術研究部医学系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
193,959,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 小野塚大介 京都府立医科大学医学・医療情報管理学講座 (令和4年4月1日~令和4年5月31日) →大阪大学大学院医学系研究科口腔内微生物制御学共同研究講座 (令和4年6月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
PCB類・ダイオキシン類の生体への影響、生体内動態を把握し、ダイオキシン類の毒性を緩和する治療法・対処法を見いだす。
研究方法
油症検診データベースの集積:健康実態調査、一斉検診の実施、検診結果を集積した患者データベースを更新する。患者の血中のPCDF類の実態調査を行う。死因調査として、油症患者の55年間の追跡調査の結果を解析する。検診を実施し、年次的な推移を検討する。血液検査結果は他覚的統計手法などを用いて統計学的に解析し、経年変化の傾向について調査する。油症2世3世に対して健康調査を行い、ダイオキシン類の次世代への影響を検討する。得られた知見をもとに油症患者の症状を緩和することが見込まれる漢方セミナーを実施、研究成果を患者にフィードバックする。基礎的研究では、油症患者における臓器障害、機能障害を細胞や動物を用いた実験で検証し、ダイオキシンの毒性や細胞におけるAH Rの役割を詳細に解析し明らかにする。
結果と考察
臨床的追跡調査・疫学研究
1. 漢方セミナー(漢方薬による治療について)の動画を油症ダイオキシン研究診療センターのHPに令和4年3月16日に公開した。
2. 油症認定患者の生存情報および死亡情報をアップデートし、死亡リスクの再評価を行うことを目的として、油症認定患者を対象とした55年間の追跡調査を実施した。
3. 油症2世、3世を対象とした次世代の調査対象者421人に個人票・次世代調査票・同意書を送付し290人の回答を得た。さらに検診を受診し、183人について医師による問診・血液検査を完了した。
4. 2021年度の油症検診で血液中ダイオキシン類濃度を測定した認定患者1名と未認定者92名について結果集計を行った。認定患者の2,3,4,7,8-PeCDF濃度は66 pg/g-fat となり、2,3,7,8-TeCDD毒性等価係数(WHO-2006)を用いて毒性等量(TEQ)に換算した総ダイオキシン類(Total TEQ)濃度は57 pg TEQ/g-fatであった。未認定者の2,3,4,7,8-PeCDF濃度は平均8.5 pg/g-fat、Total TEQの平均濃度は13 pg TEQ/g-fatであった。2021年度に実施した血液中PCB分析精度管理についてデータ解析を行った結果、当所を含む国内5機関の定量値は概ね一致しており、各機関で血液中PCBの定量分析が適切に実施されていることが分かった。
5. 油症患者における末梢神経障害は、パターン化した解析によって評価できる可能性が示唆された。


基礎的研究
1. ラットにベンゾピレンを投与したところ、末梢・中枢神経内でAHRが活性化され、自発運動量が低下した可能性が示唆された。
2. 抗酸化作用を有する薬剤GSK 2795039がヒト表皮角化細胞において、AHRを活性化させ、膠原病の治療薬であるヒドロキシクロロキンの効果を増強させる可能性が考えられた。
3. PCB異性体であるPCB119はラットおよびヒト肝において、比較的容易に3-OH体へと代謝されること、また、CYP2B1およびヒトCYP2B6が強く関与することが明らかになった。
4. AHRが欠損すると線維芽細胞成長因子の機能不全に伴うシグナル伝達経路の不活性化によって精巣重量が低下する可能性が示唆された。
5. がん由来細胞を用いた実験でダイオキシン誘導性Selenbp1はがん抑制的な働きを持つ可能性が考えられた。
6. 腸上皮細胞にAHRリガンドを投与し、AHRが活性酸素に対して防御的に働くことが腸管でも想定されることがわかった。
7. ヒト歯根膜細胞・ヒト歯根膜幹細胞株用いた実験でベンゾピレンは、MMP12の発現を増加させることと、Tenascin-Cの発現を抑制することで歯槽骨修復能を低下させる可能性が示唆された。
8. 油症患者ではキヌレン酸という物質が関節内の軟骨破壊を誘導する可能性が示唆された。
結論
ダイオキシン類の慢性影響、生体内動態、毒性機構、次世代への影響について、疫学・臨床医学・基礎医学の観点から多面的に明らかになりつつある。近年、九州大学病院油症ダイオキシンセンターの研究業績に基づき、AHRの働きを調節して疾患を治療するというコンセプトに基づいた新しい薬剤(治療用AHR調節薬: Therapeutic AHR-Moduating Agent, TAMA)が開発された。現在、Tapinarofという化合物の外用薬が、炎症性皮膚疾患の治療薬として臨床試験が行われ、米国で2022年5月に使用が認可された。引き続き、精力的に研究を進め、油症の症状を緩和する新しい治療薬の発見・開発につなげたいと考えている。

公開日・更新日

公開日
2023-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-06-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202224035Z