がん化学予防剤の開発に関する基礎及び臨床研究

文献情報

文献番号
200924013A
報告書区分
総括
研究課題名
がん化学予防剤の開発に関する基礎及び臨床研究
課題番号
H19-3次がん・一般-013
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
武藤 倫弘(独立行政法人国立がん研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 卓二(金沢医科大学 医学部)
  • 高橋 智(名古屋市立大学 病理学部)
  • 塚本 徹哉(藤田保健衛生大学 病理学部)
  • 今岡 達彦(放射線医学総合研究所 放射線防護研究センター 放射線発がん部)
  • 窪田 直人(東京大学 医学部)
  • 高山 哲治(徳島大学大学院 消化器病学部 )
  • 石川 秀樹(京都府立医科大学 分子標的癌予防医学大阪研究室)
  • 徳留 信寛(国立健康・栄養研究所 公衆衛生学部)
  • 河田 純男(山形大学 医学部)
  • 山本 精一郎(国立がんセンターがん対策情報センター がん情報・統計部)
  • 上村 博司(横浜私立大学付属病院 泌尿器学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
82,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がんは、我が国において死亡原因の第1位を占め、今後もさらに増え続けるものと予測される。このようながんの増加を抑制することは極めて重要である。本研究においては医薬品及び食品素材を対象として新規がん予防剤を検索、開発する基礎研究を行うとともに、発がんの高危険度群と考えられる人々を対象とした臨床研究を行うことにより、安全性の高い有効ながん予防方法を確立することを目的とする。
研究方法
近年著しく増加している大腸がん、前立腺がん等の予防を目標とし、申請者等が開発した各々の動物発がん実験モデルを用いて肥満、高脂血症、糖尿病と発がんとの関連性の検討、がん化学予防剤候補の検索、及びそのメカニズム解析を行った。臨床応用を目的に、大腸がんのハイリスクグループである家族性大腸腺腫症(FAP)及び多発性大腸腺腫症患者におけるアスピリン等の臨床介入試験を行なっている。
結果と考察
FAPのモデルマウスにおける腸ポリープ上皮には脂肪滴が蓄積しており、脂質の吸収に係る低密度リポ蛋白受容体(LDLR)が強く発現していた。LDLRを欠損させる遺伝子改変により、FAPのモデルマウス及び潰瘍性大腸炎の大腸発がんモデルにおける腸発がんは抑制された。アンジオテンシン受容体ブロッカー(ARB)は炎症関連マウス大腸発がん及び、ラット前立腺発がんを抑制した。その抑制機序として、細胞増殖抑制やアポトーシスの誘導が見い出された。前立腺全摘後の患者にARBを投与すると、腫瘍マーカーであるPSAの再上昇は緩やかになり、アンジオテンシン受容体が前立腺がん組織で発現していた症例では抑制効果が6倍に延長した。FAP患者に対する予防介入試験として、低用量アスピリン腸溶錠による試験がほぼ終了し、現在、解析中である。多発性大腸腺腫症患者に対する低用量アスピリン腸溶錠の効果を評価する臨床試験はエントリーが終了した。
結論
本研究においては、医薬品及び食品素材を対象として検索を行い、新規がん化学予防剤の候補化合物を見い出すことができた。これらの基礎的研究を行なうとともに、発がんのハイリスクグループと考えられる人々を対象とした臨床研究を行なうことにより、安全性の高い有効ながん予防方法を確立することができると考えられる。得られる成果は、がん予防対策を講ずる上に有用な研究資料になるものと確信する。

公開日・更新日

公開日
2010-06-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-01-18
更新日
-

文献情報

文献番号
200924013B
報告書区分
総合
研究課題名
がん化学予防剤の開発に関する基礎及び臨床研究
課題番号
H19-3次がん・一般-013
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
武藤 倫弘(独立行政法人国立がん研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 卓二(金沢医科大学 医学部)
  • 高橋 智(名古屋市立大学 病理学部)
  • 塚本 徹哉(藤田保健衛生大学 病理学部)
  • 今岡 達彦(放射線医学総合研究所 放射線防護研究センター 放射線発がん部)
  • 窪田 直人(東京大学 医学部)
  • 高山 哲治(徳島大学大学院 消化器病学部)
  • 石川 秀樹(京都府立医科大学 分子標的癌予防医学大阪研究室)
  • 徳留 信寛(国立健康・栄養研究所 公衆衛生学部)
  • 河田 純男(山形大学 医学部)
  • 山本 精一郎(国立がんセンターがん対策情報センター がん情報・統計部)
  • 上村 博司(横浜市立大学付属病院 泌尿器学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がんは、我が国において死亡原因の第1位を占め、今後もさらに増え続けるものと予測される。このようながんの増加を抑制することは極めて重要である。本研究においては医薬品及び食品素材を対象として新規がん予防剤を検索、開発する基礎研究を行うとともに、発がんの高危険度群と考えられる人々を対象とした臨床研究を行うことにより、安全性の高い有効ながん予防方法を確立することを目的とする。
研究方法
近年著しく増加している大腸がん、前立腺がん、又我が国に多い胃がん等の予防を目標とし、申請者等が開発した各々の動物発がん実験モデルを用いて肥満、高脂血症、糖尿病と発がんとの関連性の検討、がん化学予防剤候補の検索、及びそのメカニズム解析を行った。臨床応用を目的に、大腸がんのハイリスクグループである家族性大腸腺腫症(FAP)及び多発性大腸腺腫症患者におけるアスピリンや緑茶抽出物等の臨床介入試験を行なっている。
結果と考察
高脂血症状態を改善させる目的で、リポ蛋白リパーゼを活性化する遺伝子改変やスタチンの投与を行うと、FAPのモデルマウスや炎症関連マウス大腸発がんモデルにおける腸発がんが抑制された。脂質の吸収に係る低密度リポ蛋白受容体を欠損させると、同様なモデルマウスにおける腸発がんが抑制された。メタボリックシンドローム患者で低下しているアディポネクチンを欠損したマウスでは、大腸発がん及び非アルコール性脂肪肝炎に伴う肝発がんが亢進した。NFκB阻害剤は ヘリコバクター・ピロリ感染による胃炎と胃発がんを抑制した。アンジオテンシン受容体ブロッカーはラット前立腺発がんを抑制し、前立腺全摘後の患者においても腫瘍マーカーであるPSAの再上昇を緩やかにする効果が認められた。FAPに対する低用量アスピリン腸溶錠及び緑茶抽出物による試験をほぼ終了し、現在、解析中である。多発性大腸腺腫症患者に対する低用量アスピリン腸溶錠による試験が進行中である。
結論
本研究においては、医薬品及び食品素材を対象として検索を行い、新規がん化学予防剤の候補化合物を見い出すことができた。これらの基礎的研究を行なうとともに、発がんのハイリスクグループと考えられる人々を対象とした臨床研究を行なうことにより、安全性の高い有効ながん予防方法を確立することができると考えられる。得られる成果は、がん予防対策を講ずる上に有用な研究資料になるものと確信する。

公開日・更新日

公開日
2010-06-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-01-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200924013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
申請者等が開発した各々の動物発がん実験モデルを用いて肥満、高脂血症、糖尿病と発がんとの関連性の検討、医薬品及び食品素材を対象としたがん化学予防剤候補の検索、及びそのメカニズム解析を行った。その結果、発がんに関連する新規分子標的を見い出し、高脂血症治療薬、糖尿病治療薬及び降圧剤の中から新規がん化学予防剤の候補化合物を探し出すことができた。新規分子標的としてはリポ蛋白リパーゼ、アディポネクチン、低密度リポ蛋白受容体、アンジオテンシン受容体などが挙げられた。
臨床的観点からの成果
大腸がんのハイリスクグループと考えられる家族性大腸腺腫症及び多発性大腸腺腫症患者を対象とした臨床介入研究を行なっている。低用量アスピリン腸溶錠は心疾患において長期間投与の経験が豊富であり安全性が高く、大腸がん予防が期待される薬である。しかし、これまでにアスピリンを用いた家族性大腸腺腫症に対する発がん予防試験は報告されていない。本試験によりアスピリンによる大腸腺腫の抑制効果が認められたならば、大腸がん化学予防剤として臨床応用される可能性が高い薬剤であると考えられる。
ガイドライン等の開発
家族性大腸腺腫症に対する低用量アスピリン腸溶錠による試験をほぼ終了し、現在、解析中である。これらの結果を基に、ガイドラインの立案を計画している。
その他行政的観点からの成果
特にございません。
その他のインパクト
1. 市民公開シンポジウム「がんの原因と予防法:アスベスト、ピロリ菌、肝炎ウイルスについて考える」2007年7月13日 東京 開催者 若林敬二
2. 広島がん医療従事者研修会 「大腸がん予防の最前線」2009年3月7日 広島特別講演 石川秀樹
3. 市民公開講演会「がん撲滅に向けた新たな挑戦―これからのがん研究の若き担い手へのメセージ」及びオープンキャンパス 2010年2月27日 東京 発表・運営 武藤倫弘

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
165件
その他論文(和文)
24件
その他論文(英文等)
11件
学会発表(国内学会)
248件
学会発表(国際学会等)
84件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計4件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
ガイドラインを立案中である。
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takeuchi, Y., Takahashi, M., Sakano, K., et al
Suppression of N-nitrosobis (2-oxopropyl) amine-induced pancreatic carcinogenesis in hamsters by pioglitazone, a ligand of peroxisome proliferator-activated receptor γ.
Carcinogenesis , 28 , 1692-1696  (2007)
原著論文2
Niho, N., Mutoh, M., Komiya, M., et al.
Improvement of hyperlipidemia by indomethacin in Min mice.
Int. J. Cancer , 121 , 1665-1669  (2007)
原著論文3
Sakano, K., Takahashi, M., Mutoh, M., et al.
Carcinogenicity of N-nitrosobis(2-oxo-propyl)amine in Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty rats, a model of type 2 diabetes mellitus.
Carcinogenesis , 28 , 2193-2198  (2007)
原著論文4
Kohno, H., Suzuki, R., Yasui, Y., et al.
Ursodeoxycholic acid inhibits colitis-related colon carcinogenesis in mice: A comparative study regarding the effect of sulphasalazine. Clin.
Cancer Res , 13 , 2519-2525  (2007)
原著論文5
Tang, M., Ogawa, K., Asamoto, M., et al.
Protective effects of citrus nobiletin and auraptene in transgenic rats developing adenocarcinoma of the prostate (TRAP) and human prostate carcinoma cells.
Cancer Sci , 98 , 471-477  (2007)
原著論文6
Mutoh, M., Niho, N., Komiya, M., et al
Plasminogen activator inhibitor-1 (Pai-1) blockers suppress intestinal polyp formation in Min mice.
Carcinogenesis, , 29 , 824-829  (2008)
原著論文7
) Takahashi, M., Kitahashi, T., Ishigamori, R., et al.
Increased expression of inducible nitric oxide synthase (iNOS) in N-nitrosobis (2-oxopropyl)amine-induced hamster pancreatic carcinogenesis and prevention of cancer development by ONO-1714, an iNOS inhibitor.
Carcinogenesis , 29 , 1608-1613  (2008)
原著論文8
Fujisawa, T., Endo, H., Tomimoto, A., et al.
Adiponectin suppresses colorectal carcinogenesis under the high-fat diet condition.
Gut , 57 , 1531-1538  (2008)
原著論文9
Seeni, A., Takahashi, S., Takeshita, K., et al.
Suppression of prostate cancer growth by resveratrol in the Transgenic Rat for Adenocarcinoma of Prostate (TRAP) model.
Asian Pacific J. Cancer Prev , 9 , 7-14  (2008)
原著論文10
Teranishi, J., Ishiguro, H., Hoshino, K., et al.
Evaluation of role of angiotensin III and aminopeptidases in prostate cancer cells.
Prostate , 68 , 1666-1673  (2008)
原著論文11
Imaoka, T., Yamashita, S., Nishimura, M., et al.
Gene expression profiling distinguishes between spontaneous and radiation-induced rat mammary carcinomas.
J. Radiation Res , 49 , 349-360  (2008)
原著論文12
Iwasaki, M., Inoue, M., Otani, T., et al
Plasma isoflavone level and subsequent risk of breast cancer among Japanese women: a nested case-control study from the Japan public health center-based prospective study group.
J. Clin. Oncol , 26 , 1677-1683  (2008)
原著論文13
Mutoh, M., Komiya, M., Teraoka, N., et al
Overexpression of low-density lipoprotein receptor and lipid accumulation in intestinal polyps in min mice.
Int. J. Cancer , 125 , 2505-2510  (2009)
原著論文14
Yamaji, T., Iwasaki, M., Sasazuki, S., et al.
Visceral fat volume and the prevalence of colorectal adenoma. Am.
J. Epidemiol., , 170 , 1502-1511  (2009)
原著論文15
Tanaka, T., Yasui, Y., Tanaka, M., et al
. Melatonin suppresses AOM/DSS-induced large bowel oncogenesis in rats.
Chem. Biol. Interact., , 177 , 128-136  (2009)
原著論文16
Takahashi, H., Takayama, T., Yoneda, K., et al
Association of visceral fat accumulation and plasma adiponectin with rectal dysplastic aberrant crypt foci in a clinical population.
Cancer Sci , 100 , 29-32  (2009)
原著論文17
Takahashi, S., Takeshita, K., Seeni, A., et al.
Suppression of prostate cancer in a transgenic rat model via gamma-tocopherol activation of caspase signaling.
Prostate , 69 , 644-651  (2009)
原著論文18
Uemura, H., Hoshino, K., Sasaki, T., et al.
Usefulness of the 2005 international society of urological pathology gleason grading system in prostate biopsy and radical prostatectomy specimens.
BJU Int. , 103 , 1190-1194  (2009)
原著論文19
Imaoka, T., Nishimura, M., Iizuka, D., et al.
Radiation-induced mammary carcinogenesis in rodent models: what's different from chemical carcinogenesis?
J. Radiat. Res , 50 , 281-293  (2009)
原著論文20
Nakamura T., Ishikawa H., Takeyama I., et al.
Excessive fat restriction might promote the recurrence of colorectal tumors.
Nutr. Cancer , 62 , 154-163  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-09-30
更新日
-