血管新生とリンパ管新生の同時制御による制癌法の確立

文献情報

文献番号
200924011A
報告書区分
総括
研究課題名
血管新生とリンパ管新生の同時制御による制癌法の確立
課題番号
H19-3次がん・一般-011
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 靖史(東北大学 加齢医学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 高倉 伸幸(大阪大学 微生物病研究所)
  • 渡部 徹郎(東京大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、代表研究者が発見したVasohibin(VASH)ファミリー分子(VASH-1, VASH-2)の機能を解析すると共に、癌治療に応用することで、本邦発の新しい治療法として国民の癌医療に大きく貢献することを目的としている。
研究方法
(1)VASH1とVASH2の時間・空間的発現様式と血管新生・リンパ管新生に対する効果を検討する。
(2)がんの発育とリンパ節転移に対するVASH-1の効果を示す。
(3)VASH-1の内皮細胞機能に与える影響を明らかにする。
(4)組換えVASH1蛋白の調整法を確立する。
(5) VASH-2のがんにおける意義を明らかにする。
結果と考察
(1)VASH-1は、血管内皮に発現して血管新生を停止させるのに対し、VASH-2は逆に血管新生を促進することが判明した。また、VASH-1は種々の増殖因子によって惹起される血管新生とリンパ管新生を、広い作用スペクトルムで抑制した。
(2)高リンパ節転移性肺がん細胞を用いた実験からVASH-1は腫瘍リンパ管新生とリンパ節転移を抑制した。
(3)VASH-1は血管新生抑制だけでなく、内皮細胞のストレス耐性を増し、内皮細胞を障害から守ることが判明した。
(4)大腸菌を用いて組換えVASH1蛋白の調整法を確立した。
(5)VASH-2は癌細胞の一部にも発現しており、腫瘍血管新生を促進して腫瘍発育に寄与していることが判明した。VASH-2の作用を阻害することで顕著な制がん効果が期待される。
結論
VASH-1は、血管新生のみならずリンパ管新生に対しても広いスペクトルムで抑制してがんの進展を抑制するばかりか、VEGFシグナル遮断剤で問題となっている内皮細胞障害については、内皮細胞を障害せず、逆に内皮細胞のストレス耐性を増すという特異な性質を有しており、腫瘍血管新生と腫瘍リンパ管新生の双方を同時に、しかも安全に制御できることから制癌法へ広く応用できるものと期待される。一方、VASH-2はがん組織に発現してがんの進展を促進することが明らかちなり、VASH-2の作用を阻害することががん治療に有用であることが示された。以上より、がん治療においては、レコンビナントVASH-1蛋白の投与とVASH-2の作用阻害とを併用することが有用であろうと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

文献情報

文献番号
200924011B
報告書区分
総合
研究課題名
血管新生とリンパ管新生の同時制御による制癌法の確立
課題番号
H19-3次がん・一般-011
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 靖史(東北大学 加齢医学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 高倉 伸幸(大阪大学 微生物病研究所)
  • 渡部 徹郎(東京大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
癌の治療標的として腫瘍血管新生と腫瘍リンパ管新生が注目されている。理想としては血管新生とリンパ管新生の双方を同時に制御することが望ましいが、そのような治療法は未だ確立していない。本研究は、癌治療へのVasohibin(VASH)ファミリー分子の解析を進めることで、本邦発の新しい治療法として国民の癌医療に大きく貢献することを目的としている。
研究方法
(1) 大腸菌を用いた組換えVASH-1蛋白の調整法の条件を検討する。
(2) 精製されたVASH-1の抗腫瘍活性を、マウスモデルを用いて検証する。
(3) VASHファミリーのもう1つの分子であるVASH -2のがん組織における局在とがんにおける意義を検証する。
結果と考察
(1)大腸菌由来組換えVASH-1蛋白のリフォールディングによる分散画分調製法の改良を進め、活性を有する組換え蛋白の調整法を確立した。
(2)この組換えVASH-1蛋白を腫瘍局所に注射すると抗腫瘍効果は得られるが、血中での安定化を目的にPEG化修飾した蛋白の全身投与では、PEG化によって活性化が低下するため十分な抗腫瘍効果は得られなかった。一方、腹膜播種する卵巣癌細胞にVASH-1遺伝子を安定導入すると、コントロールでは腹腔内移植後4週間以内に全て死亡するのに対し、VASH-1遺伝子導入群では全例10週間以上生存するという顕著な効果を観察した。血管をルートとして全身投与する治療法への応用は、現時点では未だ困難である。局所療法への応用は、可能性の高い手法と考えられる。
(3) VASH-2は先進部の癌細胞に発現することが判明した。VASH-2陰性腫瘍細胞にVASH-2を導入してマウスに移植すると、腫瘍血管新生と腫瘍発育が増強するが、VASH-2陽性腫瘍細胞のVASH-2発現をノックダウンすると腫瘍血管新生と腫瘍発育は抑制された。VASH-2はがん細胞に発現し、腫瘍血管新生を増強して腫瘍発育を促進すると考えられ、VASH-2が癌治療の新たな分子標的として浮上した。
結論
組換えVASH-1蛋白の大量調整法を確立すると共に、がんにおけるVASH-2の意義が明らかにし、VASH-2が、がん治療の新たな分子標的となえう可能性を示した。がん治療においては、外因性VASH-1蛋白の投与とVASH-2の作用阻害を併用することが有用と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-01-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200924011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
VASH-1は、種々の促進因子によって惹起される血管新生とリンパ管新生を広いスペクトルムで同時に阻止し、腫瘍の発育とリンパ節転移を抑制するが、内皮細胞は障害せず、抗癌剤との併用で効果の増強が示された。一方、がん組織に発現するVASH-2は腫瘍血管新生を促進して腫瘍発育に寄与しており、VASH-2を阻害することで腫瘍の発育が顕著に抑制されたことから、VASH-2はがん治療の新たな分子標的になると考えられた。
臨床的観点からの成果
現在臨床に導入されている抗血管新生薬は、何れもがVEGFシグナルを遮断する薬剤であり、正常な内皮細胞をも障害する問題点がある。これに対してVASH-1は内皮細胞を障害しないばかりか、内皮細胞のストレス耐性を増すところが際だった相違点であり、VEGFシグナル遮断によって生じる内皮細胞障害を防止できる可能性がある。
ガイドライン等の開発
本研究は、ガイドライン等の開発とは関係しなかった。
その他行政的観点からの成果
本研究は、行政的観点からの成果を上げることはなかった。
その他のインパクト
研究期間の3年間で8つの国際学会で講演を行った。また2009年3月20日、名古屋市で開催された第7回日本臨床腫瘍学会学術集会のシンポジウムでの本研究に関する講演内容が日経BPに取り上げられた。VASH-1はさまざまな病的血管新生の制御に有用と考えられ、癌のみならず、血管新生を伴う眼科疾患への臨床応用が期待された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
50件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
3件
総説3件,著書2件
学会発表(国内学会)
25件
学会発表(国際学会等)
11件
招待講演5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計4件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Heishi T, Hosaka T, Suzuki Y, et al.
Endogenous angiogenesis inhibitor vasohibin1 exhibits a broad-spectrum anti-lymphangiogenic activity and suppresses lymph node metastasis.
Am. J. Pathol. , 176 , 1950-1958  (2010)
原著論文2
Kimura H, Miyashita H, Suzuki Y, et al.
Distinctive localization and opposed roles of vasohibin-1 and vasohibin-2 in the regulation of angiogenesis.
Blood , 113 , 4810-4818  (2009)
原著論文3
Hosaka T, Kimura H, Heishi T, et al.
Vasohibin-1 expressed in endothelium of tumor vessels regulates angiogenesis.
Am. J. Pathol. , 175 , 430-439  (2009)
原著論文4
Naito H, Kidoya H, Sato Y, et al.
Induction and expression of anti-angiogenic vasohibins in the hematopoietic stem/progenitor cell population.
J. Biochem. , 145 , 653-659  (2009)
原著論文5
Yamazaki T, Yoshimatsu Y, Morishita Y, et al.
COUP-TFII regulates the functions of Prox1 in lymphatic endothelial cells through direct interaction.
Genes to Cells , 14 , 425-434  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-09-30
更新日
-