放射線障害に基づく固形がん発生の分子機構の解明とその予防・治療への応用に関する研究

文献情報

文献番号
200924004A
報告書区分
総括
研究課題名
放射線障害に基づく固形がん発生の分子機構の解明とその予防・治療への応用に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-004
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
安井 弥(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 宮本 和明(呉医療センター・ 中国がんセンター 臨床研究部)
  • 濱谷 清裕(放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
  • 林 奉権(放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
  • 楠 洋一郎(放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
  • 西 信雄(放射線影響研究所 疫学部 )
  • 小笹 晃太郎(放射線影響研究所 疫学部 )
  • 神谷 研二(広島大学  原爆放射線医科学研究所)
  • 宮川 清(東京大学  大学院医学系研究科疾患生命工学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
放射線関連固形がんに特徴的なジェネティック・エピジェネティック異常の同定,放射線による固形がんの遺伝的発がん感受性の個体差の解析とリスク評価,放射線によるゲノム障害・修復からみた発がん機構の解明と治療感受性の解析,などにより,放射線発がん機構を解明し,それに基づいてリスク評価や診断・治療法の開発することにより、被爆者医療の向上,職業・医療被曝の管理の推進に資することを目的とした。
研究方法
被爆者胃がんおよび乳がんについてマイクロアレイでmicroRNA (miRNA)の発現解析を行なった。CAST法により新しい癌関連遺伝子の同定を試みた。被爆者成人甲状腺乳頭がん,大腸がんにおける遺伝子再配列・変異,遺伝子不安定性を解析した。EGFR遺伝子のハプロタイプと肺がんの発生,被爆線量との関連解析を行なった。主なDNA修復遺伝子の多型を解析し,GPA突然変異頻度の放射線量効果関係を検討した。放影研の追跡集団における放射線被曝の過剰相対危険度を解析した。損傷乗り越えDNA合成蛋白REV1の機能を細胞生物学的に解析した。相同染色体間の組換えに関与するSYCP3の治療感受性の分子基盤を検討した。
結果と考察
被爆者胃がんおよび乳がんにおいて、発現異常を示すmiRNA群を見いだした。CAST法により新たに胃がんに特異性の高い6遺伝子を同定した。乳がんにおいてASCL1のDNAメチル化異常を同定した。成人甲状腺乳頭がんでALK遺伝子再配列を同定し,被曝線量と相関すること見いだした。肺がんでは,EGFR 遺伝子多型によって被曝放射線量と肺がんリスク増加が異なることを認めた。高線量被曝群ではP53BP1のハプロタイプの違いによってGPA突然変異頻度に有意差がみられ,放射線による遺伝子障害感受性の個人差に関わると考えられた。放射線による固形がんの死亡リスク上昇には部位による差異が確認された。REV1は損傷乗り越えDNA合成を介した細胞死からの回避と突然変異の亢進から発がんに関与する可能性が示された。SYCP3がBRCA2と結合し,相同組換え機能を抑制することから,感受性予測マーカーともなり得るとみなされた。
結論
本成果は,放射線発がん機構の解明,放射線曝露における発がんリスクの評価と予防のみならず,一般集団に発生する固形がんの個別化診断・治療の進展にも貢献するものである。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

文献情報

文献番号
200924004B
報告書区分
総合
研究課題名
放射線障害に基づく固形がん発生の分子機構の解明とその予防・治療への応用に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-004
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
安井 弥(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 宮本 和明(呉医療センター・中国がんセンター 臨床研究部)
  • 濱谷 清裕(放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部 )
  • 林 奉権(放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
  • 楠 洋一郎(放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
  • 西 信雄(放射線影響研究所 疫学部 )
  • 小笹 晃太郎(放射線影響研究所 疫学部 )
  • 神谷 研二(広島大学  原爆放射線医科学研究所)
  • 宮川 清(東京大学  大学院医学系研究科疾患生命工学センター)
  • 中地 敬(放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
  • 江口 英孝(放射線影響研究所 放射線生物学/分子疫学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
放射線発がん機構の解明とリスク評価や診断・治療法の開発は,被爆者医療の向上,職業・医療被曝の管理に資する。放射線関連固形がんにおけるジェネティック・エピジェネティック異常,遺伝的発がん感受性の個体差の解析とリスク評価,放射線によるゲノム障害・修復からみた発がん機構の解明と治療感受性,について検討し,予防・治療に応用することを目的とした。
研究方法
被爆者に発生した胃がん,乳がん,成人甲状腺乳頭がん,大腸がんについて,網羅的遺伝子発現解析,microRNAの発現解析,メチル化解析,遺伝子変異・遺伝子再配列解析を行なった。IL-10, IL-18, EGFR遺伝子のハプロタイプと胃がん,大腸がん,肺がんリスク,被爆線量との関連解析を行なった。主なDNA修復遺伝子の多型を解析し,GPA突然変異頻度の放射線量効果関係を検討した。放影研の追跡集団における放射線被曝の過剰相対危険度を解析した。損傷乗り越えDNA合成蛋白REV1の機能の細胞生物学的解析を行なった。Mus81-Eme1, SYCP3のがんにおける機能と分子機構および治療感受性との関連を解析した。

結果と考察
胃がんにおけるversican,osteonectin,Reg IVの発現,間質マクロファージの浸潤と放射線被曝との関連が示された。被爆者胃がんおよび乳がんにおいて,発現異常を示すmicroRNA群を見いだした。成人甲状腺乳頭がんでは遺伝子再配列,大腸がんではRAS遺伝子系の異常と被曝線量との関係が明らかとなった。IL-10, IL-18, EGFR遺伝子ハプロタイプと放射線被曝・発がんリスクに強い関連が見いだされた。P53BP1遺伝子のハプロタイプとGPA突然変異頻度に有意な相関がみられ,放射線障害感受性の個人差に関わると考えられた。放射線による固形がんの死亡リスク上昇には部位による差異が確認された。REV1は損傷乗り越えDNA合成を介した細胞死からの回避と突然変異の亢進から発がんに関与する可能性が示された。Mus81-Eme1, SYCP3の発現が放射線・抗癌剤感受性と相関することを見いだし,その分子基盤を明らかにした。
結論
本研究で得られた成果は,放射線発がん機構の解明,放射線曝露における発がんリスクの評価と予防のみならず,広く固形がんの診断・治療の発展にも貢献するものである。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-01-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200924004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
被爆者胃がん、甲状腺乳頭がん、大腸がんで,それぞれ特徴的なmicroRNA発現、遺伝子再配列、遺伝子変異を見いだした。REV1が突然変異頻度を上昇させ,発がんに関与する可能性を示した。P53BP1のハプロタイプとGPA突然変異頻度が相関し,放射線による遺伝子障害感受性の個人差に関わることが示された。これらは、放射線発がん機構の解明に資するものとして、国内外から注目されている。
臨床的観点からの成果
IL-10及びL18遺伝子ハプロタイプと放射線被曝による胃がん及び結腸がんの発生リスクが、EGFR CA繰り返し多型と肺がんリスクが有意に関連することを見いだした。DNA損傷修復に関与するMus81-Eme1複合体が,シスプラチン等のDNA架橋剤系抗癌剤に対する感受性を変化させることが明らかとなった。放射線曝露における発がんリスクの評価と予防のみならず,一般集団に発生する固形がんの個別化診断・治療の進展にも貢献するものである。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
得られた成果は、放射線発がん研究の分野で世界をリードするものである。放射線による発がん機構の解明とともに、医療被ばくの防護やがん治療・予防の個別化など臨床応用につながるものである。それにより、学術的に重要で且つ広く国民の健康増進に貢献するのみならず、国際的なエネルギー政策や産業政策にも影響を与えるものであり本研究のインパクトは大きい。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
88件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
2件
著書2件
学会発表(国内学会)
121件
学会発表(国際学会等)
65件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Oue N, Sentani K, Yasui W, et al.
Characteristic gene expression in stromal cells of gastric cancer among atomic-bomb survivors
Int J Cancer , 124 , 1112-1121  (2009)
原著論文2
Yoshida K, Nakachi K, Hayashi T, et al.
Lung cancer susceptibility among atomic bomb survivors in relation to CA repeat number polymorphism of epidermal growth factor receptor gene and radiation dose
Carcinogenesis , 30 , 2037-2041  (2009)
原著論文3
Kyoizumi S, Yamaoka M, Kusunoki Y, et al.
Memory CD4 T-cell subsets discriminated by CD43 expression level in A-bomb survivors
Int J Radiat Biol , 86 , 56-62  (2010)
原著論文4
Hamasaki K, Kusunoki Y, Kodama Y, et al.
Clonally expanded T lymphocytes from atomic bomb survivors in vitro show no evidence of cytogenetic instability
Radiat Res , 172 , 234-243  (2009)
原著論文5
Masuda Y, Piao J and Kamiya K
DNA Replication-Coupled PCNA Mono-Ubiquitination and Polymerase Switching in a Human InVitro System.
J Mol Biol , 396 , 487-500  (2010)
原著論文6
Piao J, Masuda Y and Kamiya K
Specific amino acid residues are involved in substrate discrimination and template binding of human REV1 protein
Biochem Biophys Res Commun , 392 , 140-144  (2010)
原著論文7
Katsura M, Tsuruga T, Miyagawa K, et al.
The ATR-Chk1 pathway plays a role in the generation of centrosome aberrations induced by Rad51C dysfunction
Nucleic Acids Res , 37 , 3959-3968  (2009)
原著論文8
Sentani K, Oue N, Yasui W, et al.
Gene expression profiling with microarray and SAGE identifies PLUNC as a marker for hepatoid adenocarcinoma of the stomach
Modern Pathol , 21 , 464-475  (2008)
原著論文9
Ohara S, Oue N, Yasui W, et al.
Reg IV is an independent prognostic factor for relapse in patients with clinically localized prostate cancer
Cancer Sci , 99 , 1570-1577  (2008)
原著論文10
Hamatani K, Yasui W, Nakachi K, et al.
RET/PTC rearrangements preferentially occurred in papillary thyroid cancer among atomic bomb survivors exposed to high radiation dose
Cancer Res , 68 , 7176-7182  (2008)
原著論文11
Nakachi K, Hamatani K, Kusunoki Y, et al.
Sixty years of follow-up of Hiroshima and Nagasaki survivors: Current progress in molecular epidemiology studies
Mutat Res , 659 , 109-117  (2008)
原著論文12
Kusunoki Y and Hayashi T
Long-lasting alterations of the immune system by ionizing radiation exposure: Implications for disease development among atomic bomb survivors
Int J Radiat Biol , 84 , 1-14  (2008)
原著論文13
Ohishi W, Fujiwara S, Nishi N, et al.
Risk factors for hepatocellular carcinoma in a Japanese population: A nested case-control study
Cancer Epidemiol Biomarkers Prev , 17 , 846-854  (2008)
原著論文14
Uehara Y, Ikehata H, Kammiya K, et al.
Absence of Ku70 gene obliterates X-Ray-induced lacZ mutagenesis of small deletions in mouse tissues
Radiat Res , 170 , 216-223  (2008)
原著論文15
Mitani Y, Oue N, Yasui W, et al.
Reg IV is a serum biomarker for gastric cancer patients and predicts response to 5-fluorouracil-based chemotherapy
Oncogene , 26 , 4383-4393  (2007)
原著論文16
Eguchi H, Nakachi K, Hamatani K, et al.
The presence of BRAF point mutation in adult papillary thyroid carcinomas from atomic bomb survivors correlates with radiation dose
Mol Carcinogenesis , 46 , 242-248  (2007)
原著論文17
Hayashi I, Morishita Y, Nakachi K, et al.
High- throughput spectrophotometric assay of reactive oxygen species in serum
Mutat Res , 631 , 55-61  (2007)
原著論文18
Hamasaki K, Nakachi K, Kusunoki Y, et al.
Short-term culture and γH2AX flow cytometry determine the difference of individual radiosensitivities in human peripheral T lymphocytes
Environ Mol Mutagen , 48 , 38-47  (2007)
原著論文19
Hamasaki K, Nakachi K, Kusunoki Y, et al.
Radiation sensitivity and genomic instability in the hematopoietic system: Frequencies of micronucleated reticulocytes in whole-body X-irradiated BALB/c and C57BL/6 mice
Cancer Sci , 98 , 1840-1844  (2007)
原著論文20
Enomoto A, Kido N, Miyagawa K, et al.
Negative regulation of MEKK1/2 signaling by Serine-Threonine Kinase 38 (STK38)
Oncogene , 27 , 1930-1938  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-09-30
更新日
-