疾患モデル動物を用いた環境発がんの初期発生過程及び感受性要因の解明とその臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
200924003A
報告書区分
総括
研究課題名
疾患モデル動物を用いた環境発がんの初期発生過程及び感受性要因の解明とその臨床応用に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
中釜 斉(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 益谷 美都子(国立がんセンター研究所 生化学部)
  • 今井 俊夫(国立がんセンター研究所 実験動物管理室)
  • 木南 凌(新潟大学 教育研究院医歯学系)
  • 大島 正伸(金沢大学 がん研究所)
  • 杉江 茂幸(金沢医科大学 医学部)
  • 庫本 高志(京都大学大学院 医学研究科)
  • 中島 淳(横浜市立大学 付属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
66,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
発がん動物モデルを用いて、消化器がんを中心としたがんの初期発生及び進展過程における遺伝子変異、発現変化及びゲノム変化の解明、発がんに対する環境及び遺伝的修飾要因の同定、個々人の発がん感受性を規定する遺伝的要因を明らかにすることを目的とする。さらに、がんの早期診断やテーラーメードがん予防策の構築、がんの新規標的分子の同定などへの臨床応用を目指す。
研究方法
caspase3のTGラットを作成し、PhIP誘発ACF数を比較した。miRNA の中でSND1と相互作用するもの、増殖抑制的なもの、血清マーカー候補を探索した。K19-Wnt1/C2mEマウスの無菌化あるいはEP4阻害薬による効果を解析した。Bcl11bKO/+マウスの腸管における表現型やγ線照射後胸腺細胞数および腫瘍組織におけるBcl11bの変異とLOHを解析した。F344ラットを用いてDSS誘発腸炎に対する感受性を比較した。Pargヘテロ欠損マウスにおいて肺化学発がんの感受性を検討した。ハムスターにBOPを投与し、膵管由来の病変について解析した。
結果と考察
大腸発がん感受性遺伝子候補としてcaspase3を同定し、TGラットでの解析により発がん感受性に寄与することを示した。増殖抑制的あるいは血清マーカー候補miRNA群を選抜した。APCを翻訳抑制する候補miRNAを同定した。KADラットはDSS誘発大腸炎に高感受性となった。肥満関連大腸発がんへのJNK活性化の直接の関与を証明した。COX-2/PGE2経路の活性化の発がんでの重要性を示した。Bcl11bKO/+マウスの放射線照射後萎縮胸腺には、がん幹細胞類似細胞を認めた。Parg欠損は腫瘍発生に対して抑制的に作用した。ハムスター膵管初期病変に発現する遺伝子の一部はヒト膵がんに類似していた。
結論
ヒトでもcaspase3多型と発がん感受性の関連が明らかになれば高危険度群の推定に役立つものと考えられる。炎症の発がんにおける重要性が明らかになったことから、抗炎症療法による化学予防の有効性が期待される。Bcl11bはハプロ不全として寄与する可能性が示唆され、大腸がん発症のリスク因子として重要と考えられた。生活習慣病患者でJNK経路が予防の標的となるか検証していく。Pargの機能阻害が、がん化の予防法となるかもしれない。ハムスター膵管初期病変に発現する蛋白の一部は早期診断マーカーとなる可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

文献情報

文献番号
200924003B
報告書区分
総合
研究課題名
疾患モデル動物を用いた環境発がんの初期発生過程及び感受性要因の解明とその臨床応用に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
中釜 斉(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 益谷 美都子(国立がんセンター研究所 生化学部)
  • 今井 俊夫(国立がんセンター研究所 実験動物管理室)
  • 木南 凌(新潟大学 教育研究院医歯学系)
  • 大島 正伸(金沢大学 がん研究所)
  • 杉江 茂幸(金沢医科大学 医学部)
  • 庫本 高志(京都大学大学院 医学研究科)
  • 中島 淳(横浜市立大学 付属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
発がん動物モデルを用いて、主に消化器がんの発がん過程における遺伝子変異、発現変化及びゲノム変化の解明、発がんに対する環境及び遺伝的修飾要因の同定、個人の発がん感受性を規定する遺伝的要因を明らかにすることを目的とする。さらに、得られた成果をがんの早期診断やテーラーメイドな予防策の構築、診断・治療の新規分子標的の同定などへの臨床応用を目指す。
研究方法
PhIPによる大腸発がんの感受性規定候補遺伝子を同定後、TGラットを作成して効果を検証した。PhIPで誘導されるSND1やmir34の標的遺伝子および大腸がんの分子標的miRNAを探索した。コンソミックマウスやApc 変異ラットを作成し、大腸化学発がん感受性遺伝子を探索した。APCMin/+マウスで肥満や脂肪による発がん促進機構を解析した。Wnt活性化あるいはBMP抑制化のPGE2活性化胃腫瘍モデルマウスを用いてEGFR、 炎症、感染などが発がんに与える影響を検討した。コンジェニックマウスを用いて放射線誘発リンパ腫感受性遺伝子を探索し、Bcl11b遺伝子の発がん促進機構を解析した。BOP誘発ハムスター発がんモデルで膵管がん早期病変を解析した。Parp-1およびPargの発がん過程への関与を検討した。
結果と考察
PhIPによる大腸発がんに関して、caspase3の多型による感受性の修飾、SND1 と結合するmiRNA によるApc抑制、 miR-34aのSIRT 1抑制を介したp53活性化などの機構を示した。B6-2CMSMマウスとKADラットは大腸発がん高感受性だった。生活習慣病関連大腸癌の化学予防としてPPARγリガンド、metformin、JNK阻害剤などが有効だった。WntとPGE2が活性化しているマウス胃がんモデルでEGFRシグナルの活性化や炎症の重要性を明らかにした。Bcl11bはハプロ型不全のがん抑制遺伝子として胸腺や大腸がんでのApc遺伝子変異を修飾した腸管での発がんに寄与した。Parp-1の欠失はエピジェネティック異常を誘発した。ハムスターの膵管初期病変の解析からヒト膵がんの診断・治療標的候補を得た。
結論
大腸がん、胃がん、リンパ腫、膵がんの発がん動物モデルを作成、使用して遺伝的修飾要因の一部を同定し、発がんメカニズムのうち主要な経路を明らかにし、阻害剤の効果も確認した。ハイリスク群の囲い込みや化学予防などの臨床応用への期待がもたれる。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-01-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200924003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
がんの発生には少数の特定の遺伝子の変異だけでなく、多数の遺伝子の多型によるわずかなリスクの増大の累積や食事、炎症など環境因子が大きく寄与している可能性が高い。ヒトにおいて直接これらの研究を遂行することは困難なため、遺伝的背景の均一な動物モデルでの解析結果をヒトに外挿するという本研究のアプローチはメカニズムの解明と治療法の有効性の検討が同時に可能な点で有用であると考えられる。また、一貫して個体レベルでの解析となっていることから、より忠実に生体内の状況を再現していると考えられる。
臨床的観点からの成果
食事の欧米化を背景に日本でも大腸がんの罹患率が上昇を続けているが、高脂肪食および加熱肉食品中のPhIPの寄与は疑いのないところである。本研究の成果は、将来的にはヒトでの遺伝子多型に基づく大腸がんハイリスク群の囲い込み、高脂肪食による肥満患者への栄養指導の際の科学的根拠の提供、薬剤や生活習慣の改善による大腸発がん予防などの臨床応用などに道を開くものであり、今後の展開に期待がもたれる。

ガイドライン等の開発
現時点では特になし
その他行政的観点からの成果
現時点では特になし
その他のインパクト
mir34の同定を報告した論文はNature アジア版の特集記事や全国紙科学面にも取り上げられるなど大きな反響を呼んだ

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
88件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
135件
学会発表(国際学会等)
47件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tazawa H, Tsuchiya N, Izumiya M, Nakagama H
Tumor suppressive miR-34a induces senescence-like growth arrest through modulation of E2F pathway in human colon cancer cells
Proc Natl Acad Sci USA , 104 , 15472-15477  (2007)
原著論文2
Tsuchiya N, Ochiai M, Nakashima K, Nakagama H, et al.
SND1, a component of RNA-induced silencing complex, is up-regulated in human colon cancers and implicated in early stage colon carcinogenesis
Cancer Res , 67 , 9568-9576  (2007)
原著論文3
Shibata A, Maeda D, Ogino H, Masutani M, et al.
Role of Parp-1 in suppressing spontaneous deletion mutation in the liver and brain of mice at adolescence and advanced age
Mutation Research/Fundamental and Molecular Mechanisms of Mutagenesis , 664 , 20-27  (2009)
原著論文4
Kamimura K, Mishima Y, Obata M, Kominami R, et al.
Lack of Bcl11b tumor suppressor results in vulnerability to DNA replication stress and damages
Oncogene , 26 , 5840-5850  (2007)
原著論文5
Ohi H, Mishima Y, Kamimura K, Kominami R, et al.
Multi-step lymphomagenesis deduced from DNA changes in thymic lymphomas and atrophic thymuses at various times after γ-irradiation
Oncogene , 26 , 5280-5289  (2007)
原著論文6
Kamimura K, OhiH, Kubota T, Kominami R, et al.
Haploinsufficiency of Bcl11b for suppression of lymphomagenesis and thymocyte development
Biochem Biophys Res Commun , 355 , 538-542  (2007)
原著論文7
Maruyama M, Yamamoto T, Kohara Y, Kominami R, et al.
Mtf-1 lymphoma-susceptibility locus affects retention of large thymocytes with high ROS levels in mice after γ-irradiation
Biochem Biophys Res Commun , 354 , 209-215  (2007)
原著論文8
Yoshikai Y, Sato T, Morita S, Kominami R, et al.
Effect of Bcl11b genotypes and gamma-radiation on the development of mouse thymic lymphomas
Biochem Biophys Res Commun , 373 , 282-285  (2008)
原著論文9
Go R, Hirose S, Morita S, Yamamoto T, Kominami R, et al.
Bcl11b heterozygosity promotes clonal expansion and differentiation arrest of thymocytes in γ-irradiated mice
Cancer Science  (2010)
原著論文10
Piao Y-S, Du Y-C, Oshima H, Oshima M, et al.
latelet 12-lipoxigenase accelerates tumor promotion of mouse epidermal cells through enhancement of cloning efficiency
Carcinogenesis , 29 , 440-447  (2008)
原著論文11
Oguma K, Oshima H, Aoki M, Oshima M, et al.
Activated macrophages promote Wnt signaling through tumor necrosis factor-α in gastric tumor cell
EMBO J , 27 , 1671-1681  (2008)
原著論文12
Oshima H, Itadani H, Kotani H, Oshima M, et al.
Induction of prostaglandin E2 pathway promotes gastric hamartoma development with suppression of bone morphogenetic protein signaling
Cancer Res , 69 , 2729-2733  (2009)
原著論文13
Yoshimi K, Tanaka T, Takizawa A, Kuramoto T, et al.
Enhanced colitis-associated colon carcinogenesis in a novel Apc mutant rat
Cancer Sci , 100 (11) , 2022-2027  (2009)
原著論文14
Tomimoto A, Endo H, Sugiyama M, Nakajima A, et al.
Metformin suppresses intestinal polyp growth in Apc(Min/+) mice
Cancer Sci , 99 , 2136-2141  (2008)
原著論文15
Endo H, Hosono K, Fujisawa T, Nakajima A, et al.
Involvement of JNK pathway in the promotion of the early stage of colorectal carcinogenesis under high-fat dietary condition
Gut , 58 , 1637-1643  (2009)
原著論文16
Takahashi H, Takayama T, Yoneda K, Nakajima A, et al.
Association of visceral fat accumulation and plasma adiponectin with rectal dysplastic aberrant crypt foci in a clinical population
Cancer Sci , 100 , 29-32  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-09-30
更新日
-