HIV受検勧奨のための性産業従事者や事業者等に対する効果的な介入に向けた研究

文献情報

文献番号
202220005A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV受検勧奨のための性産業従事者や事業者等に対する効果的な介入に向けた研究
課題番号
20HB1005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
今村 顕史(地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立駒込病院 感染症科)
研究分担者(所属機関)
  • 塩野 徳史(大阪青山大学 健康科学部 看護学科)
  • 青山 薫(神戸大学 大学院 国際文化学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
11,892,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、梅毒の増加が続いており、特に性産業に従事する女性の増加が問題となっている。現代の性産業はSNSの普及とともに多様化してきていることで、性感染症のハイリスク層であるが、正しい知識や情報にスムーズにアクセスできる環境にない性産業の従事者への効果的な受検勧奨と予防啓発が喫緊の課題である。これらの研究によって、現代の性産業の実態を明らかにし、その多様性・複雑性に合った効果的な介入と検査機会の拡大へ向けた提言を行っていく。
研究方法
各分担研究では、女性、トランスジェンダー、外国人のSWを対象とする調査により、多様化・複雑化している性産業の実態を明らかにする。さらに、検査や予防行動に影響する就労環境の調査も行うことで、当事者にとっても利用しやすい、予防行動や受検勧奨につながる啓発方法を検討する。また分担研究「流行する性感染症に対する効果的な介入と評価」では、各分担研究で得られる情報をもとに、梅毒等の性感染症に対する効果的な啓発プログラム開発を目指す。
結果と考察
女性のセックスワーカー(SW)の研究では、ベースライン調査とフォローアップ調査で、セックスワークにおける普及啓発の状況を明らかにした。特にインターネットを活用して個人的が60.4%と2020年の44.5%に比べ増加していた。また性風俗のお仕事をはじめたきっかけではお金のためが多く、コロナ禍での経済的な事情も背景にあると考えられ、SNSの普及もあわせて考えると、インターネットを活用する方法に変化している可能性が示唆された。トランスジェンダーのSWの研究では、トランスジェンダー当事者への質問紙調査からはU=U、PrEPといった比較的新しい情報が十分に行き渡っていないことが明らかになり、勉強会ではこれらの新しい情報の普及も行った。またこれまでの資材を掲載したウエブサイトを作成、公開した。外国人SWの研究では、アウトリーチ、聞き取り、ネットワーク分析によって表れた法社会的立場がとりわけ脆弱な外国人SW層における現在目立った特徴は、聞き取り対象者の間ではSTI/HIV感染リスクの高い行動は回避され、STI予防を含む保健行動も法制度内で理性的に行われていた点に表れている。また、リスク行動回避や保健行動が良好な外国人SWの中でも、トランスジェンダー女性のSWは社会資源につながる機会がより少ない可能性も明らかになった。流行する性感染症に関する研究では、SNS を中心に広報展開し、インフルエンサーからも情報発信してもらうなど、啓発のためのネットワーク構築を進めている。また、若者向けに性感染症・梅毒啓発ページを「HIV検査・相談マップ」のサイトに、梅毒啓発動画とともに掲載している。潜在的なハイリスク層への感染拡大を防ぐためには、早期実態を把握する調査や、よりリスクの高い対象者への受検勧奨・予防啓発を行うことが、HIVを含む性感染症対策において重要な課題となる。
結論
HIV、梅毒の流行状況を踏まえ、各疾患の罹患リスクの高い対象者の多様性に合わせた受検勧奨が必要であり、女性のSWの仕事場において非店舗型が多くなっていることから、予防啓発、受検勧奨について、アクセスしやすいインターネツ卜やSNSなど現代型の広報ツールによる対応が重要となってくる。また、トランスジェンダーSWには、予防情報の浸透が不十分なため、対象となる層へ届けるためのアウトリーチの開発、予防情報の普及が不可欠であり、実施にあたっては当事者の多様性に配慮した更なる検討が必要となる。多くのトランス当事者が集まるイべントでの情報普及が必要であり、末到達な情報を広く流通させるために重要な役割を持つと思われる。これまで十分に啓発対象とされたなかった層に情報が行き届くには時間がかかることから、長く啓発がおこなわれていく体制が必要と言える。各分担研究の調査では、ハイリスク層における現代の性産業の実態を明らかにし、その多様性・複雑性に合った効果的な介入と検査機会の拡大へ向けた提言が必要である。さらに、これらの研究によって得られる情報や、現在流行しているCOVID-19流行の性産業への影響、検査受検の状況、梅毒の発生動向等を踏まえた総合的な性感染症に対する効果的な啓発プログラム開発も進めた。当事者ネットワークの構築とともに、ホームページや複数のSNSを利用して実施される新たな啓発プログラムは、評価と改善を繰り返すことで、流行する性感染症の制御へ向けて寄与していくことが期待される。

公開日・更新日

公開日
2024-03-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-03-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202220005B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV受検勧奨のための性産業従事者や事業者等に対する効果的な介入に向けた研究
課題番号
20HB1005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
今村 顕史(地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立駒込病院 感染症科)
研究分担者(所属機関)
  • 塩野 徳史(大阪青山大学 健康科学部 看護学科)
  • 青山 薫(神戸大学 大学院国際文化学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、梅毒の増加が続いており、特に性産業に従事する女性の増加が問題となっている。現代の性産業はSNSの普及とともに多様化してきていることで、性感染症のハイリスク層であるが、正しい知識や情報にスムーズにアクセスできる環境にない性産業の従事者への効果的な受検勧奨と予防啓発が喫緊の課題である。これらの研究によって、現代の性産業の実態を明らかにし、その多様性・複雑性に合った効果的な介入と検査機会の拡大へ向けた提言を行っていく。
研究方法
各分担研究では、女性、トランスジェンダー、外国人のセックスワーカー(SW)を対象とする調査により、多様化・複雑化している性産業の実態を明らかにする。さらに、検査や予防行動に影響する就労環境の調査も行うことで、当事者にとっても利用しやすい、予防行動や受検勧奨につながる啓発方法を検討する。また分担研究「流行する性感染症に対する効果的な介入と評価」では、各分担研究で得られる情報をもとに、梅毒等の性感染症に対する効果的な啓発プログラム開発を目指す。
結果と考察
女性のSWの研究では初年度と最終年度にベースライン調査とフォローアップ調査を行い、セックスワークにおける普及啓発の状況を明らかにした。調査方法は予防啓発に関わりのないA社が保有するアンケートモニター登録者を対象に、居住地と年齢で2段層化抽出を用いて、成人女性を対象にスクリーニング調査を実施し、5年以内に相手からお金をもらって性交渉をしたことがある人に本調査を実施し分析対象とした。本研究では集団の偏りや、自記式回答であることなど限界はあるものの、成人女性の4.4%から5.6%がセックスワークを経験している可能性があり、MSM集団とほぼ同程度の規模であった。また本研究の結果では初年度と比較して、コロナ禍を経て風俗形態にインターネットの活用が加わり、急速に拡大している可能性が示唆された。
トランスジェンダーのSWの研究では、質問紙調査やインタビュー調査を通じて、TG-SWの置かれている状況を把握するとともに、啓発を進めていくための協力体制を構築しながら啓発介入を実施し、その全体の動きを一つのモデルケースとして提示した。研究期間を通じ、啓発用資材(冊子とリーフレット)を製作、配布した。また、トランスジェンダー向けのイベント、勉強会を開催するとともに、同様なイベント開催に協力した。調査としては、2021年2月17日~3月11日にWEB質問紙調査を実施し、2020・2021年度はTG-SW当事者にインタビューを行った。
外国人SWの研究は、2020年度は、COVID-19流行の影響で調査研究ができなかった。2021年度は、多言語・多文化に渡る調査を可能にするため、分担研究者が現在別途実施している性取引に関する国際共同研究からも知見を得て、1)聞き取りについて基礎質問項目と「調査協力のお願い」を多言語に翻訳し、2)ネットワーク分析について当事者と雇用者等から得た人間関係情報を図式化するソシオグラム調査法を行った。また、3)アウトリーチ活動を行い、横浜の1人と大阪の1人の聞き取りに対し、解釈・分析を行った。 2022年度には、神戸と新宿におけるアウトリーチを経て、東京新宿で街頭に立つ5人の外国人SWから記録を残す聞き取りを行った。
流行する性感染症に関する研究では、性産業従事者の支援団体と協力してSW向けポータルサイトのコンテンツを作成し、セクシャルヘルスにかかる知識・情報等について、SWのインタビュー動画や記事を作成した。SNSを中心に広報展開し、インフルエンサーからも情報発信してもらうなど、啓発のためのネットワーク構築を進めている。また、若者向けに性感染症・梅毒啓発ページを作成し、「HIV検査・相談マップ」のサイトに、梅毒啓発動画とともに掲載した。
結論
HIV、梅毒の流行状況を踏まえ、各疾患の罹患リスクの高い対象者の多様性に合わせた受検勧奨が必要であり、女性のSWの仕事場が、非店舗型が多くなっていることから、予防啓発、受検勧奨について、アクセスしやすいインターネットやSNSなど現代型の広報ツールによる対応が重要となっている。また、トランスジェンダーSWには、予防情報の浸透が不十分なため、対象となる層へ届けるためのアウトリーチの開発、予防情報の普及が不可欠であり、実施にあたっては当事者の多様性に配慮した更なる検討が必要となる。多くのトランス当事者が集まるイベントでの情報普及は、必要だが末到達な情報を広く流通させるために重要な役割を持つと思われる。これまで十分に啓発対象とされなかった層に情報が行き届くには時間がかかることから、長く啓発がおこなわれていく体制が必要である。

公開日・更新日

公開日
2024-03-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-03-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202220005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
性産業従事者へのアンケート等の多角的調査によって、現在の性産業の実態を分析した。さらに、COVID-19流行や梅毒増加による性産業への影響などの調査分析も行った。性産業の形態は非店舗型が増加するなど急速に複雑化・多様化しており、一般市民の性サービスに対する意識や行動も大きく変化していた。現代の性産業の多様性や複雑性に合った、より有効な予防啓発・受検勧奨法を検討し、当事者ネットワークの構築とともに、ホームページやSNSを利用するなど、新たな啓発プログラムの開発を進めた。
臨床的観点からの成果
HIV感染症や梅毒などの性感染症においては、ハイリスク層への予防啓発や受検勧奨とともに、早期診断・早期治療を行う臨床側の受け入れ体制を整えることも重要である。より良い診断治療の体制をつくるためには、ハイリスク層が受検しやすい環境の整備も求められる。本研究において明らかになった性産業の現状、一般市民の性サービスに対する意識や行動の変化などの情報は、今後の検査体制の改善に寄与することが期待される。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
本研究は、性感染症のハイリスク層への予防啓発・受検勧奨、そして検査体制の構築へとつながるという点で、エイズ対策政策研究における重要な役割を担っている。各分担研究によって行われた現在の性産業における調査や分析、新たな啓発プログラム開発の試み等は、今後のHIV感染症や梅毒などの性感染症への対策につながることで、厚生労働行政にも貢献することが期待される。
その他のインパクト
セックスワーカー向けポータルサイトを開設し、性感染症やセクシャルヘルスの情報など、多くの動画や記事を作成した。そしてSNSを中心に広報展開し、インフルエンサーからも情報発信してもらうなど、啓発のためのネットワーク構築を進めた。また、若者向けの性感染症・梅毒啓発ページを梅毒啓発動画とともに「HIV検査・相談マップ」のサイトに掲載した。また、トランスジェンダーへ向けたリーフレットとホームページを作成し、当事者や医療者向けの勉強会も実施した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
ホームページ2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Saito R, Imamura A, Nishiura H
Assessing countermeasures during a hepatitis A virus outbreak among men who have sex with men
Theor Biol Med Model , 18 (1) , 19-19  (2021)
10.1186/s12976-021-00150-1
原著論文2
Echigoya Y, Yamaguchi T, Imamura A, Nishiura H
Estimating the syphilis incidence and diagnosis rate in Japan: a mathematical modelling study
Sex Transm Infect , 96 (7) , 516-520  (2019)
10.1136/sextrans-2019-054421
原著論文3
Shimizu K, Nishiura H, Imamura A
Investigation of the Proportion of Diagnosed People Living with HIV/AIDS among Foreign Residents in Japan
J Clin Med , 8 (6) , 804-804  (2019)
10.3390/jcm8060804
原著論文4
Nah K, Nishiura H, Tsuchiya N, Imamura A,et al
Test-and-treat approach to HIV/AIDS: a primer for mathematical modeling
Theor Biol Med Model , 14 (1) , 16-16  (2017)
10.1186/s12976-017-0062-9

公開日・更新日

公開日
2024-04-08
更新日
2024-06-13

収支報告書

文献番号
202220005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,963,000円
(2)補助金確定額
12,963,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 536,520円
人件費・謝金 1,417,538円
旅費 143,956円
その他 9,177,470円
間接経費 1,071,000円
合計 12,346,484円

備考

備考
差異616,516円につきましては全額返納金になります。

公開日・更新日

公開日
2024-03-28
更新日
-