文献情報
文献番号
202209016A
報告書区分
総括
研究課題名
国民の健康づくり運動の推進に向けたNCD対策における諸外国の公衆衛生政策の状況とその成果の分析のための研究
課題番号
20FA1022
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
中村 良太(国立大学法人一橋大学 社会科学高等研究院)
研究分担者(所属機関)
- 小塩 隆士(一橋大学経済研究所)
- 井伊 雅子(一橋大学経済学研究科)
- Thomas Rouyard(トーマス ルーヤード)(一橋大学 社会科学高等研究院)
- 森山 美知子(広島大学 大学院医系科学研究科)
- 近藤 尚己(京都大学 大学院医学研究科 社会疫学分野)
- 五十嵐 中(横浜市立大学 医学群(健康社会医学ユニット))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究全体の目的は、諸外国における非感染性疾患の予防のための政策介入の効果及び費用対効果に係る基礎資料を作成し、日本への導入可能性の課題整理・検証に貢献することである。既存エビデンスの統合だけでなく、日本のデータによる新規のエビデンス作成や、政策介入がもたらす健康の公平性への効果や、実際の政策策定プロセスの分析も行った。
研究方法
諸外国における非感染性疾患に対する介入の基礎的なエビデンス・ベースを作成するため、(1)喫煙、飲酒、食事、運動習慣に関する公的介入のインパクト評価のエビデンス統合と、(2)介入の費用対効果の登録データベースの分析を行った。(3)各国の政策担当者および有識者に対してインタビュー調査および国際会議を実施した。(4)公的な健康情報の提供に係る調査および情報提供への需要を推定した。(5)職場環境における運動習慣付けに係るエビデンスを統合した。(6)介入効果の公平性評価に係る文献調査を行った。(7)コロナ禍前後におけるアルコール消費の分析を行った。
結果と考察
(1)喫煙行動への政策に関して342件、喫煙対策政策と健康アウトカムとの関係に関して144件、アルコール政策に関して208件、飲食行動への政策に関して189件、運動習慣への政策に関して94件の文献を分析した。タバコ製品への警告の添付、課税、禁煙キャンペーンの実施が、禁煙の推進にもっとも効果的であることが示された。また、喫煙規制(屋内禁煙など)によって心血管疾患、呼吸器疾患、入院が低下することが分かった。課税によってアルコールに関連した疾患、死亡、事故および自殺率が下がることが分かった。砂糖を含む飲料水の販売の課税もしくは規制によって消費量が減少することが分かった。
(2)多面性評価に注目した予防介入の費用対効果の分析によって、企業が研究に関与する場合、費用対効果が良好である計算される傾向にあることが分かった。健康効果以外の効果(生産性損失等)を指標としても必ずしも費用対効果が優れるといった結論が導きだされないことが分かった。
(3)非感染性疾患対策を担当する政府関係者および専門家に対するインタビュー調査および国際会議では、以下の課題が得られた。1)生活環境や健康の社会決定要因に係る介入を重視すること、2)利害関係者の意見を政策意思決定に反映させる仕組みを整備すること、3)異なる省庁が連携する仕組みがあること、4)政府から独立したエビデンス評価機関があること、5)電子カルテや調査データを統合したナショナル・データベースの整備を進めること、6)プライマリ・ケアシステムを中心に据えた予防・治療等の介入を行うこと。
(4)公的機関による健康情報の提供や需要推定に関する分析では、コンジョイント分析を用いて以下を明らかにした。1)公的な健康情報提供にはおよそ月額300円の金銭的価値がある。2)地域の具体的な感染状況等の情報を加えた個別情報に対する需要が大きい。3)スマートフォンを使ったアプリでの情報提供の価値が高い(ただし高齢者では高くない)。
(5)職場における身体活動に関して、座位行動の抑制では、サイクリング・デスクの導入といった職場環境に対する介入の効果が高い。身体活動の促進では、個人レベルの介入(モバイルヘルスや自己モニタリング)が高い効果を示した。
(6)介入効果の公平性評価の文献調査では、分析対象を高所得国で2000年代以降に実施された研究に絞って、以下の結果を得た。タバコ、食事、身体活動に関して公平性が分析されている研究が多く見つかったが、アルコールに関しては公平性を評価している研究が極めて少ない。
(7)コロナ禍におけるアルコール消費の分析では、新型コロナウィルス感染症対策としての移動制限等の諸政策によってアルコール消費がどのように影響を受けたかを消費者購買データを用いて分析し、以下の結果を得た。緊急事態宣言下において消費者による家庭用のアルコール購買量がおよそ5%上昇し、その効果は緊急事態宣言解除後も持続した。とくに、普段アルコールをあまり飲まない集団でその効果が顕著であった。
(2)多面性評価に注目した予防介入の費用対効果の分析によって、企業が研究に関与する場合、費用対効果が良好である計算される傾向にあることが分かった。健康効果以外の効果(生産性損失等)を指標としても必ずしも費用対効果が優れるといった結論が導きだされないことが分かった。
(3)非感染性疾患対策を担当する政府関係者および専門家に対するインタビュー調査および国際会議では、以下の課題が得られた。1)生活環境や健康の社会決定要因に係る介入を重視すること、2)利害関係者の意見を政策意思決定に反映させる仕組みを整備すること、3)異なる省庁が連携する仕組みがあること、4)政府から独立したエビデンス評価機関があること、5)電子カルテや調査データを統合したナショナル・データベースの整備を進めること、6)プライマリ・ケアシステムを中心に据えた予防・治療等の介入を行うこと。
(4)公的機関による健康情報の提供や需要推定に関する分析では、コンジョイント分析を用いて以下を明らかにした。1)公的な健康情報提供にはおよそ月額300円の金銭的価値がある。2)地域の具体的な感染状況等の情報を加えた個別情報に対する需要が大きい。3)スマートフォンを使ったアプリでの情報提供の価値が高い(ただし高齢者では高くない)。
(5)職場における身体活動に関して、座位行動の抑制では、サイクリング・デスクの導入といった職場環境に対する介入の効果が高い。身体活動の促進では、個人レベルの介入(モバイルヘルスや自己モニタリング)が高い効果を示した。
(6)介入効果の公平性評価の文献調査では、分析対象を高所得国で2000年代以降に実施された研究に絞って、以下の結果を得た。タバコ、食事、身体活動に関して公平性が分析されている研究が多く見つかったが、アルコールに関しては公平性を評価している研究が極めて少ない。
(7)コロナ禍におけるアルコール消費の分析では、新型コロナウィルス感染症対策としての移動制限等の諸政策によってアルコール消費がどのように影響を受けたかを消費者購買データを用いて分析し、以下の結果を得た。緊急事態宣言下において消費者による家庭用のアルコール購買量がおよそ5%上昇し、その効果は緊急事態宣言解除後も持続した。とくに、普段アルコールをあまり飲まない集団でその効果が顕著であった。
結論
非感染性疾患への対応は持続可能な開発目標を達成するため日本だけでなく国際的に重要な課題である。日本における慢性疾患予防のBest Buysの策定においては、介入の効果・費用対効果だけでなく、国民の価値判断や、予防介入・医療介入の効果や費用を社会経済グループごとに把握する必要がある。日本の文脈においてどの政策介入が多面的に優れるかについて分析するには、現状ではエビデンスの質・量ともに十分ではない。また、非感染性疾患対策の多面的な価値について国民的な合意がなされているとも言い難い。
公開日・更新日
公開日
2023-07-28
更新日
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