脳卒中の急性期診療提供体制の変革に係る実態把握及び有効性等の検証のための研究

文献情報

文献番号
202209009A
報告書区分
総括
研究課題名
脳卒中の急性期診療提供体制の変革に係る実態把握及び有効性等の検証のための研究
課題番号
20FA1012
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
坂井 信幸(神戸市立医療センター中央市民病院 脳神経外科)
研究分担者(所属機関)
  • 岩間 亨(岐阜大学 脳神経外科)
  • 小笠原 邦昭(学校法人岩手医科大学 医学部 脳神経外科学講座)
  • 岡田 靖(国立病院機構九州医療センター臨床研究センター)
  • 木村 和美(日本医科大学大学院 医学研究科)
  • 黒田 敏(富山大学 大学院医学薬学研究部(医学))
  • 後藤 励(慶應義塾大学 経営管理研究科)
  • 塩川 芳昭(杏林大学医学部脳神経外科)
  • 高木 康志(徳島大学・大学院医歯薬学研究部 脳神経外科学)
  • 冨永 悌二(東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座神経外科学分野)
  • 豊田 一則(国立循環器病研究センター 脳血管内科)
  • 橋本 洋一郎(済生会熊本病院 脳卒中センター)
  • 松丸 祐司(筑波大学 医学医療系脳神経外科)
  • 宮本 享(国立大学法人京都大学 附属病院)
  • 吉村 紳一(兵庫医科大学 医学部 脳神経外科)
  • 宇野 昌明(川崎医科大学 医学部 脳神経外科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
4,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本脳卒中学会(JSS)がIV rt-PAを常時提供する一次脳卒中センター(PSC)の認定を開始したことにより、脳卒中急性期の診療実態がどう変化したかを明らかにするため、脳卒中急性期診療を担う医療機関を対象に調査を行い分析検討することが主目的である。一方、研究班発足の直前に突然拡散した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は収束せず、本年度も脳卒中急性期の診療体制と診療実績に与えた影響が甚大であったため引き続き調査した。
研究方法
1. IV rt-PAの施行実績をJSSのPSC年次報告と、PSC以外の施設の情報を直接収集した。PSC年次報告の重要なベンチマーク指標を分析検討した。
2. PSCに対しCOVID-19が脳卒中急性期の診療体制と診療実績に与えた影響を2020,2021年度に引き続き調査した。3. 機械的血栓回収療法(MT)の対象となる脳卒中救急搬送の指標を確立するため、2020年度に行った救急搬送症例の調査研究結果に基づいて観察項目と指標の試案を作成した。4. 年間新規発症患者数の推計結果を基に施設の受け入れ容量を考慮した上で、地理情報システム(GIS : Geographic Information System)を用いて最寄りの血栓回収療法が可能な施設への患者の搬送シミュレーションを兵庫県を対象として行った。
結果と考察
1. 脳卒中急性期応需医療機関に限れば93.9-95.0%の実施件数を把握することができた。PSCで実施されたIV rt-PAは2019年15,311件、2020年16,387件、2021年13,615件、全件数に占めるPSCでの実施率は、2019年97.6% (15.311/15,681)、2020年98.7% (16,378/16,591)、2021年97.9% (13,615/13,910)であった。MTのPSCにおける実施率は2019年99.3% (12,555/12,641)、2020年99.2% (15,860/15,993)、2021年98.9% (16,875/17,064)とさらに高率であった。
2. JSSのPSC は全国335の2次医療圏、250のメディカルコントロール協議会を常時カバーする体制が整った。ArcGIS Pro(ESRIジャパン社)を用いて緊急自動車で作成した60分以内にアクセス可能なカバーマップではPSCの人口カバー率は98.8%、PSC coreの人口カバー率は90.4%であった。JSS年次報告に登録された発症7日以内の脳卒中総件数は306,137(2020), 209,757(2021)であった。30日以内の死亡数、平均死亡率が6.4%(2019), 6.1%(2020), 6.4%(2021)、IVtPAおよびMTのD2N、D2P、mRS0-2、mRS6の平均値、中央値が明らかにされた。
3. 脳卒中急性期診療を担うPSCの86.1%(369)がCovid-19を受け入れており、67.8%(281)が中等症以上の重症Covid-19の診療を担っていた。PSCでは多くの医療従事者に影響が及び、Covid-19を受け入れない医療機関に比べ、中等症以上を受け入れる医療機関で顕著であった。
4. 1,147件の前向き登録研究の結果をまとめ、JSSおよび日本救急医学会が共同で、総務省消防庁に①救急隊が脳卒中患者を収容する時に「脈不整、共同偏倚、半側空間無視(指4本法)、失語(眼鏡/時計の呼称)、顔面麻痺、上肢麻痺」の6項目を観察すること、②6項目のうちの陽性数に応じて、血栓回収療法の適応となる主幹動脈閉塞(LVO)の感度、特異度、陽性適中率、陰性適中率は、2項目ではそれぞれ88.2、50.9、33.8、93.8%、3項目では77.3、73.8、45.6、92.0%であった。陰性適中率/感度を重視するなら2項目、陽性適中率/特異度を重視するなら3項目陽性の場合、MT実施施設への直接搬送の指標として活用することを提案した。
5. シミュレーションの結果、実際の患者受入の状況を概ね再現可能であり、実績値5件以下の施設を除いても、受け入れ容量を10%増やせば受け入れが可能であった。
結論
1. PSCは全国の2次医療圏、メディカルコントロールをカバーするように配置された。PSCの医療提供体制、診療実績を登録する体制が整った。
2. PSC以外の医療機関でも急性期脳卒中医療を提供しているが、エビデンスが構築されているIV rt-PA, MTの大半はPSCで実施されていた。
3. MTの搬送と医療向上に資する標準LVO Scaleをとりまとめ、総務省消防庁に提言した。
4. 脳卒中急性期医療機関の86%がCovid-19の治療を受け入れており、脳卒中医療提供体制に大きな影響を与えたことに関する重要な知見を得た。

公開日・更新日

公開日
2024-05-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202209009B
報告書区分
総合
研究課題名
脳卒中の急性期診療提供体制の変革に係る実態把握及び有効性等の検証のための研究
課題番号
20FA1012
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
坂井 信幸(神戸市立医療センター中央市民病院 脳神経外科)
研究分担者(所属機関)
  • 岩間 亨(岐阜大学 脳神経外科)
  • 小笠原 邦昭(学校法人岩手医科大学 医学部 脳神経外科学講座)
  • 岡田 靖(国立病院機構 九州医療センター 脳血管センター臨床研究部 脳血管内科)
  • 木村 和美(川崎医科大学 脳卒中医学)
  • 黒田 敏(富山大学 大学院医学薬学研究部(医学))
  • 塩川 芳昭(杏林大学医学部脳神経外科)
  • 高木 康志(京都大学医学研究科)
  • 冨永 悌二(東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座神経外科学分野)
  • 豊田 一則(国立循環器病研究センター 脳血管内科)
  • 橋本 洋一郎(熊本市立熊本市民病院 神経内科)
  • 松丸 祐司(虎の門病院 脳神経血管内治療科)
  • 宮本 享(国立大学法人京都大学 附属病院)
  • 吉村 紳一(兵庫医科大学 医学部 脳神経外科)
  • 後藤 励(慶應義塾大学 経営管理研究科)
  • 宇野 昌明(川崎医科大学 医学部 脳神経外科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本脳卒中学会(以下JSS)が組織プラスミノーゲン活性化薬静注療法(以下IV rt-PA)を常時提供する一次脳卒中センター(以下PSC)の認定を2019年に開始したことにより、脳卒中急性期の医療提供体制と診療実態がどう変化したかを明らかにすることが本研究の目的である。本研究班が活動を開始する直前の2020年2月に新型コロナ感染症(以下Covid-19)が世界中に拡散したため、脳卒中急性期診療に及ぼした影響も合わせて調査した。
研究方法
(1) 急性期脳卒中診療の実態を反映する指標として最も重要なIV rt-PAの医療機関別年間実施件数の調査を継続した。また行うべき脳卒中急性期診療として定着した機械的脳血栓回収療法(以下MT)の診療実態を合わせて調査し、PSCの本療法に対する役割を明らかにした。
(2) 都道府県推進計画に活用する重要な指標としてJSSが提案した脳卒中ロジックモデルの主な項目についてその経時的変化を分析検討した。
(3) 2019年の同月と比較して月別の医療機能の制限と三大病型(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)およびIV rt-PA、MTの診療実績を調査した。
(4) MTの対象となる大血管閉塞(LVO)の診断と搬送の指標を標準化する研究を行い、必要な観察項目と指標の試案を作成した。
結果と考察
(1) 95.0%の脳卒中急性期応需医療機関の実施件数を把握した。PSCのIV rt-PA件数は2019年15,311件、2020年16,387件、2021年13,615件で、PSCでの実施率は、97.6%-98.7%であった。MTのPSCにおける実施率は98.9-99.2%とさらに高率であった。
(2) PSC は2020年度974施設、2023年度957施設で、徐々に集約化が進んでいる。(1)の調査によればIV rt-PAの2%はPSC以外でも行われており、今後の脳卒中センター認定と年次報告に関する課題が残されている。PSCが空白の2次医療圏は、隣接する医療圏やネットワークによりカバーされていることが確認されており、全国335の2次医療圏、250のメディカルコントロール協議会を常時カバーする体制が整った。2022年のPSCの人口カバー率は99.0%、PSC coreの人口カバー率は90.4%であった。JSS年次報告に登録された発症7日以内の脳卒中総件数は306,137(2020), 209,757(2021)であった。各登録項目に関する全国データが明らかになったことは意義深い。30日以内の平均院内死亡率は6.4%(2019), 6.1%(2020), 6.4%(2021)で、IV rt-PAのD2N中央値73分、MTのD2P中央値87-88分、それぞれのmRS0-2、mRS6など脳卒中急性期医療の目標設定に活用することが期待できる。(3) 脳卒中救急受け入れとCOVID-19の波とは逆相関し、感染拡大期に脳卒中診療は減少し、安定期に増加していた。感染者が多い地域では減少し、それ以外の地域の減少は小幅に留まった。(4) 6施設から1,147件の登録を得て、7項目(脈不整、共同偏視、半側空間無視、失語、構音障害、顔面麻痺、上肢麻痺)を救急隊収容時と病院到着時に観察し、MTの対象となるLVOの有無との関係を解析した。①救急隊が脳卒中患者を収容する時に「脈不整、共同偏倚、半側空間無視(指4本法)、失語(眼鏡/時計の呼称)、顔面麻痺、上肢麻痺」の6項目を観察する、②血栓回収療法の適応となる主幹動脈閉塞の感度、特異度、陽性適中率、陰性適中率は、6項目中2項目ではそれぞれ88.2、50.9、33.8、93.8%、3項目では77.3、73.8、45.6、92.0%で、陰性適中率/感度を重視するなら2項目、陽性適中率/特異度を重視するなら3項目陽性とすることをMT実施施設への直接搬送の指標として活用する、を提案した。
結論
1. JSSのPSCは全国の2次医療圏、MC協議会をカバーするように配置された。PSCによる脳卒中急性期医療提供体制が整い、診療実績を報告するシステムが運用されている。
2. PSC以外の一部の医療機関でも急性期脳卒中医療を提供しているが、エビデンスが構築されているIV rt-PA, MTの大半はPSCで実施されていた。
3. MTの適応患者を診断し搬送するために活用するLVO Scaleの標準化案をとりまとめ、消防庁の観察項目と搬送指標として採用された。
4. 脳卒中急性期医療機関の大多数が Covid-19患者を受け入れ、脳卒中医療提供体制に大きな影響を与えた。今後の新興感染症発生時に脳卒中急性期医療と感染症医療を提供するための重要な知見を得た。

公開日・更新日

公開日
2024-05-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
総合研究報告書
総合研究報告書
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公開日・更新日

公開日
2024-05-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202209009C

収支報告書

文献番号
202209009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,980,000円
(2)補助金確定額
5,980,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,255,888円
人件費・謝金 1,733,320円
旅費 469,150円
その他 141,642円
間接経費 1,380,000円
合計 5,980,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2024-05-02
更新日
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