宿主細胞の細胞内免疫機構に基づく新規エイズ治療薬の開発

文献情報

文献番号
200908001A
報告書区分
総括
研究課題名
宿主細胞の細胞内免疫機構に基づく新規エイズ治療薬の開発
課題番号
H19-政策創薬・一般-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
山本 直樹(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 梁 明秀(横浜市立大学 医学部)
  • 澤崎 達也(愛媛大学 無細胞生命科学工学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
23,564,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
tetherinと相互作用する宿主因子の同定、HIV-1Gagに結合する宿主因子のプロテオーム解析、Vif, VprおよびVpuと結合するヒトプロテインカイネースの研究を通し、新規の抗HIV療法の開発のための基盤情報を得ることを目的とした。
研究方法
HIV感染細胞内において特異的にリン酸化されるタンパク質をGST-pull down法にて分離した。共通して感染細胞特異的にリン酸化を受けるスポット(バンド)に関しては、ゲル内消化を行ないペプチド化した試料をESI-Q-TOF-MS質量分析計にて解析を行った。さらに機能解析に無細胞タンパク質合成系とAlphaScreen手法を用いた。
結果と考察
tetherinと相互作用し、かつ協調して機能する因子としてRING型E3リガーゼの一種、BCA2/Rabring7を同定した。BCA2はtetherinによって繋留されたウイルス粒子の細胞内への取り込みと分解を促進する、抵抗性宿主因子であることが示唆された。一方、HIV-1のGagと結合する新規の宿主タンパク質として癌抑制遺伝子産物APCを見いだした。その詳細な機能解析から、APCはHIV-1の粒子産生を正に制御する重要な宿主因子であり、APCの発現またはAPCとGagの相互作用を阻害することでHIV-1複製を抑制できる可能性が示唆された。一方、HIV-1のアクセサリー蛋白質であるVif, VprおよびVpuと結合する16種類のヒトプロテインカイネースを用いて、細胞内でVifおよび Vprとの相互作用解析を行い、3種類のヒトプロテインカイネースを見出した。その一部のプロテインカイネースの過剰発現はHIV感染に対して抑制的に働くことが示された。
結論
Tetherin・BCA2による一連の阻害機構は、ウイルスを宿主細胞内で分解に導くこと、APCタンパク質はHIV-1Gagタンパク質と直接結合し、極性細胞におけるGagタンパク質の形質膜への局在とGagの多重合化に関与すること、HIV-1アクセサリータンパク質と相互作用する160種類以上の宿主プロテインカイネースの中から、細胞内での安定性や分解誘導を起こす宿主タンパク質を同定することに成功した。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200908001B
報告書区分
総合
研究課題名
宿主細胞の細胞内免疫機構に基づく新規エイズ治療薬の開発
課題番号
H19-政策創薬・一般-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
山本 直樹(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 梁 明秀(横浜市立大学 医学部)
  • 澤崎 達也(愛媛大学 無細胞生命科学工学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、無細胞タンパク質合成系やプロテオームの技術を駆使して、HIV-1複製や細胞障害性に関与する宿主因子を網羅的に明らかにすることにより、それらを標的にした全く新しいエイズ治療薬の開発を目指した研究を行った。
研究方法
GST融合リコンビナントPin1タンパク質を用いることにより、HIV感染細胞内において特異的にリン酸化されるタンパク質をGST-pull down法にて分離した。共通して感染細胞特異的にリン酸化を受けるスポット(バンド)に関しては、ゲル内消化を行ないペプチド化した試料をESI-Q-TOF-MS質量分析計にて解析を行った。さらに小麦胚芽を用いた無細胞タンパク質合成システムと化学増幅型ルミネッセンス プロキシミティー ホモジニアスアッセイであるAlphaScreen手法を用いた。また無細胞タンパク質合成システムを利用して調製した生理活性を持つ複合体を本手法で試験し、機能解析を行った。
結果と考察
独自に開発してきた無細胞タンパク質合成技術と高感度相互作用解析手法アルファスクリーンシステム、さらには高感度質量分析計を用いたプロテオーム解析の技術を駆使することで、SOCS1、APCといったHIV-1Gagに直接相互作用し、ウイルス粒子形成に重要な役割を果たすタンパク質を複数同定することに成功した。さらに別のアプローチとして、膜輸送系に関与する約60種類のタンパク質ファミリーについて免疫沈降法を行ったところ、BCA2がHIV-1をはじめ、多くのエンベロープウイルスを細胞膜に繋留することで知られている、tetherinと相互作用することが分かった。さらにVifと共発現により発現量が増加する7種類のヒトプロテインカイネース、およびVprとの共発現により積極的に分解誘導される3種類のヒトプロテインカイネースを同定した。さらに、その一部のプロテインカイネースの過剰発現はHIV感染に対して抑制的に働くことが示された。
結論
HIV-1複製や病態に関与する宿主因子を網羅的に明らかにするとともに無細胞タンパク質合成系を用いたハイスループット阻害剤スクリーニング系を構築し、宿主因子―ウイルスタンパク質間相互作用を標的とした阻害剤候補化合物を複数同定した。以上の結果は、エイズ発症機序の解明やその阻止法の開発のための有用な基盤情報になると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200908001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
3年間にわたり、班員が協力しながら様々な観点から新規エイズ治療薬の開発研究を進めた。本研究は、無細胞タンパク質合成系やプロテオームの技術を駆使して、HIV-1複製や細胞障害性に関与する宿主因子を網羅的に明らかにすることにより、それらを標的にした全く新しいエイズ治療薬の開発を目指した研究を行ったものである。本アプローチは最先端でしかもユニークなものであり、得られた研究成果は、とくに新たな作用機序をもつ、耐性を起こしにくい、抗HIV薬の開発に資することが期待されている。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
35件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
33件
学会発表(国際学会等)
21件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shimizu S, Urano E, Futahashi Y et al.
Inhibiting lentiviral replication by HEXIM1, a cellular negative regulator of the CDK9/cyclin T complex.
AIDS , 21 , 575-582  (2007)
原著論文2
Dewan MZ, Takamatsu N, Hidaka T et al.
Critical role of TSLC1 expression in the growth and organ-infiltration of adult T-cell leukemia cells in vivo.
J Virol , 82 (23) , 11958-11963  (2008)
原著論文3
Saitoh T, Fujita N, Jang MH et al.
Loss of Atg16L1, an autophagy regulator, enhances endotoxin-induced IL-1β production.
Nature , 456 (7219) , 264-268  (2008)
原著論文4
Miyake A, Dewan MZ, Ishida T et al.
Induction of apoptosis in Epstein-Barr virus-infected B-lymphocytes by the NF-kappaB inhibitor DHMEQ.
Microbes Infect , 10 (7) , 748-756  (2008)
原著論文5
Amet T, Nonaka M, Dewan MZ et al.
Statin-induced inhibition of HIV-1 release from latently infected U1 cells reveals a critical role for protein prenylation in HIV-1 replication.
Microbes Infect , 10 (5) , 471-480  (2008)
原著論文6
Takahashi Y, Tanaka R, Yamamoto N et al.
Enhancement of OX40-induced apoptosis by TNF coactivation in OX40-expressing T cell lines in vitro leading to decreased targets for HIV type 1 production.
AIDS Res Hum Retroviruses , 24 (3) , 423-435  (2008)
原著論文7
Ryo A, Tsurutani N, Ohba K et al.
SOCS1 is an inducible host factor during HIV-1 infection and regulates the intracellular trafficking and stability of HIV-1 Gag.
Proc Natl Acad Sci U S A , 105 (1) , 294-299  (2008)
原著論文8
Miyakawa K, Ryo A, Murakami T et al.
BCA2/Rabring7 promotes tetherin-dependent HIV-1 restriction.
PLoS Pathog , 5 (12)  (2009)
原著論文9
Ohba K, Ryo A, Dewan MZ et al.
Follicular dendritic cells activate HIV-1 replication in monocytes/macrophages through a juxtacrine mechanism mediated by P-selectin glycoprotein ligand 1.
J Immunol , 183 (1) , 524-532  (2009)
原著論文10
Jeong SJ, Ryo A, Yamamoto N.
The prolyl isomerase Pin1 stabilizes the human T-cell leukemia virus type 1 (HTLV-1) Tax oncoprotein and promotes malignant transformation.
Biochem Biophys Res Commun , 381 (2) , 294-299  (2009)
原著論文11
Nishi M, Ryo A, Tsurutani N et al.
Requirement for microtubule integrity in the SOCS1-mediated intracellular dynamics of HIV-1 Gag.
FEBS Lett , 583 (8) , 1243-1250  (2009)
原著論文12
Dewan MZ, Tomita M, Katano H et al.
An HIV protease inhibitor, ritonavir targets the nuclear factor-kappaB and inhibits the tumor growth and infiltration of EBV-positive lymphoblastoid B cells.
Int J Cancer , 124 (3) , 622-629  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-